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寄稿「裁判員制度の見直しをしないと言ったということは」

法務省が設けた「裁判員制度に関する検討会」は、6月下旬、審理期間を年で数えるような超長期事件が起きない限りこのまま裁判員にやらせ、大規模災害の被災者にでもならない限り裁判員はやらせる、などの方針を確認し、裁判員制度の抜本的な見直しはしないという最終報告書をまとめた。

検討会の座長は、井上正人東大教授。この御仁は、裁判員制度を政府に答申した司法制度改革審議会の元委員。その後政府・司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会の座長をつとめた。なお、検討会には弁護士会サイドから「陪審命」の四宮啓氏と前田裕司氏が参加。

今回の見直し作業なるものは裁判員法附則第9条の「この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、裁判員の参加する刑事裁判の制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるよう、所要の措置を講ずるものとする」との定めに基づく。
3年目に見直してくれと言う法律も珍しい。
こんなけったいな付則つきとなったのは訳がある。
実は、この制度に対しては、制度設計の初っぱなから各界各方面から疑問や異論が噴出していた。
政府法務省は、これをしのぐ窮余の策として「附則に施行3年後に見直すと書き込むので何とか国会は通してくれ」と各会派に頼み込んだのであった。
情けないことにこんな誤魔化しにより国会はほとんど審議らしい審議もせずに2004年5月、この法律を成立させてしまった。それでも衆参両院の法務委員会はそれぞれ次のような附帯決議を付けて政府に宿題を課した。

「守秘義務の範囲の明確化や裁判員にわかりやすい立証や説明などの工夫を」「国民の理解を十分に得て、国民が自ら進んで裁判員として参加するよう周知活動を十分に行え」(衆院法務委)。「制度の周知活動の実施を含め、施行前の準備を十分行え」「裁判に参加できるよう社会環境の整備に努めよ」(参院法務委)。

ところで、法の見直しで思い起こされるのは日本国憲法、特に「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」という例の96条だ。
96条は「このルールは簡単に見直してはいけない」と定める。
これに対し、裁判員法は「3年経ったらどうぞ見直して下さい」とわざわざ法文中に書き込んでいる。国の骨格と揺るぎない原則を定める憲法と比較するのも憚られるが、見直し付則は裁判員法のあまりのできの悪さを自認する規定と言ってもよい。

さて、準備期間5年はまたたく間に経過したが、政府が湯水のごとく金を使った宣伝にもかかわらず、国民の理解も支持も一向に高まらなかった。
それどころか世論調査をくり返すほど民意は制度から離れる一方であった。
制度実施の延期を求める声も各方面からあがり、社民党や共産党は一時実施の延期まで提起した。
それでも政府は、敢えて制度の実施に突っ込んだ。

そして、2012年5月、裁判員法は施行から3年が経過した。
実際のところ、制度推進派の立場からしても、見直しを広く議論することを通して、制度に対する国民の理解を深めたり支持を強めたりしたかったはずだ。
抜本的な見直しは何もしないと言うしかなかったということは、その機会を政府が自ら放棄したことを意味する。
何故か? 見直し論議を進めれば進めるほど制度廃止の声が高まることを彼らは誰よりもよく知っているからなのだ。法曹三者
国民の拒絶は今や強烈に功を奏し、政府法務省や最高裁などを確実に追い込んでいる。彼らにあるのは焦燥感だけである。

投稿:2013年7月10日