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制度に込めた検察の狙い

弁護士 川村理

  年末年始、検察庁の裁判員制度に込めた狙いをよく示す二つのニュースが報じられた。0483011223

  一つは、昨年6月、裁判員裁判の死刑判決を破棄した東京高裁判決に対して上告を行った東京高検が、その判決に対する上告趣意書(検察側の上告の理由は詳しく書いた書面)を提出し、しかもその内容の要旨を異例にも報道機関に公表したというものだ(2013年12月26日朝日新聞)。

 事件は、男性一人が殺害された強盗殺人事件であり、一審の東京地裁の裁判員裁判は、2011年3月、被告人の前科を重視して死刑判決を言い渡したが、その控訴審で東京高裁は、「一審は前科を重視しすぎた」として、無期懲役に減刑していた。

 これに対し、東京高検は、昨年2月の最高裁判例を引用し、無期懲役に減刑した東京高裁は、その判例に違反すると主張しているようである。

 しかしながら、昨年2月の最高裁判例は、「事実認定がよほど不合理でない限り、裁判員裁判の判断を尊重すべきだ」として、もっぱら事実認定に関し、もとの判断の尊重を言っているのであり、量刑についてもとの判断の尊重を言っているのではないから、検察の「判例違反」の主張はかなり苦しい。検察による「異例の」上告趣意書の公表、という事態はこうした苦しさを補強するとともに、問題を大衆化させ(?)、裁判に一種のポピュリズムを持ち込み、重刑化を図る意図があると感じられる。048301122

   もう一つは、本年1月4日の報道により明らかにされた検察官による証言誘導問題である(2014年1月5日朝日新聞)。

 この問題は、2010年、宮城で3人が殺傷された事件の元少年に関する裁判で起こった。その事件の争点は、被害者のうち、2人の殺害に関し、計画性があるか否かであった。ちなみに、従来の裁判例では、2人の死者が出た事件は、死刑か無期かのボーダーライン上にあり、そこでは計画性の有無はかなり決定的な意味を持つ。つまり計画性があるとなれば、死刑判断に傾きやすい。

 こうした微妙な事件で、仙台地検は、共犯者の男性の証人尋問に先立ち、いわゆる「証人テスト」を行ったのであるが、その際、共犯者の男性は、もともと計画性はなかったと証言しようとしていたのに、検察官から「ダメだ」と言われ、供述調書のとおりの証言を誘導されたという。かつての大阪地検特捜による証拠捏造事件を想起させるとんでもない話だ。

 裁判員裁判は、連日開廷で、分刻みの超計画審理を行う実態であるから、そもそも弁護側が、個々の証人の反対尋問をじっくり尽くすことは難しい。今回の検察による証言誘導が、こうした裁判員裁判の構造を前提に、どうせばれないであろうとして敢行されたものであることは明らかだ。裁判員裁判の正当化にしばしばもちられる用語は「核心司法」であるが、検察は、制度を利用してその核心事実すら捻じ曲げようとしているのだ。

  一日も早い制度の廃止を!

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投稿:2014年1月8日