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「裁判員のあたまの中」はたいがいヘンである(前編)

インコのマネージャー

インコが1月15日のトピックス「もう提灯記事は読みたくない」で触れた『裁判員のあたまの中 14人のはじめて物語』という本、そこまで言うなら本自体を読まなければダメだろうとインコに言ったのですが・・・インコ「ぜったい絶対イヤだ。読んだら腹立つに決まっている」と。仕方がないので、私、インコのマネージャーが本を読んで取りまとめ、その取りまとめをインコが読んで突くことでお互い妥協。
という訳で今回は私の「本の取りまとめ」、次回「インコが突く」です。

編著者は短大中退後10数種の仕事を経験し、この本を出した昨年11月には不動産業者だと略歴にある(その後にまた変わっているかもしれない)。『裁判員裁判を楽しもう』など制度生き残りのお先棒担ぎ出版社「現代人文社」の本。登場する14人はどういう人たちなのか。その発言を通して彼らの人物像に迫ってみたいと思います(敬称略)。

□ 小田篤俊(東京地裁・強盗致傷・懲役8年6月)
「お金を払ってでもやってみたかった。(選任当日の出頭者は)意外と来ない人が多いと思った。やる気満々で会社もばっちり休んで準備万端だったが、選ばれない不安(ママ!)も確かにあった。被告人を初めて見たときに「あぁ悪そうな顔をしているな」と思った。初日はネクタイを着けたが2日目からは世の中クールビズなので外した(笑)。判決言渡しの時にずっとこっちを見ていた。泣いていたのは裁判員裁判でよかったという意味と受けとめた。ところが被告人は控訴上告し、再審請求までしているという。複雑だ。裁判官は3人とも魅力的で、民間企業なら売り上けを伸ばしそうな感じ(笑)。市民一人ひとりに社会の一員だという自覚が足りないと思う。この制度に参加した市民にも緊張感が生まれ、社会の利益になる」

□ 江口弘子(東京地裁・強盗致傷・強制わいせつ致傷・懲役10年)
「みんな行くものだと思って出頭した。量刑判断はデータベースで誘導された。3日間の評議期間は十分だった。達成感という言葉を使いたい気持ち。自分も家族も変わった。家族の会話に犯罪や裁判のことが加わった。量刑基準なども教育すべきだと思う。死を直視することに慣れておかないとPTSDなどおかしくなってしまう人(ママ!)がこれからも出てくる。実は事件のことがフラッシュバックになって調子が悪く、事件から2年後にサポート窓口に電話した。しかし治しようがないというので自分でどうにかする」

 A(東京地裁・殺人・懲役15年)
「国で決まったことだし、行かないと罰金をとられるし、回避は考えなかった。主人には『お国の指示だから』と言った。父の病気のことを書いたが呼び出され選ばれてしまった。裁判の途中で2人が解任された。見なくてもよいと言われたが証拠写真は全部見た。普通にご飯を作って夜は寝付けた。評議の雰囲気は常識的でよかった。70代の被告人は15年の懲役では生きて出てこられないかなと思った。終わった日に眼底出血し、医者にすごく疲れていると言われた。裁判官と裁判員が一緒にやるのはよいこと。最後に裁判員が集まったときに『私たち悪いことできないよね』と談笑した」

□ 鎌田祐司(さいたま地裁・強盗致傷・懲役5年)
「会社は欠勤扱いだったが、好奇心が勝った。リーマンショックの後で工場は暇だった。裁判所のセキュリティーが甘かった。東京地裁の方が厳格でよい。選任手続き中は携帯でゲームをしていた。法廷でも裁判員はリラックスしていた。弁護士は貧相な町弁(マチベン)風、検察官はいかにもという感じ。求刑6年は妥当と思った。和気あいあいとした評議。裁判官からは被告人が少年であることは考慮しなくてよいと言われた。ストレスの解消はパチンコだった。呼ばれたらまたやりたい、死刑事件でも無償でも(ママ!)。裁判員をやって会社との信頼関係が崩れてその後会社を辞めた」

□ 市川裕樹(千葉地裁・強盗致傷等・無期懲役)
「ぜひやりたいから絶対やりたくないまでの5段階分けをしたら4くらいのやりたい寄り。呼び出されてせっかくだから知る機会だと思った。自信過剰かも知れないが自分ならやれると。2回目の入廷から当たり前のように「ここにいる、ここ俺の席だから」みたいな感じ。眠くなったときの対処法もみんなで話し合った。被告人にした質問に納得ゆく答えは返ってこなかった。裁判の後、他人から感想を求められていない。検察官になりたい」

□ B(東京地裁・強盗殺人罪・死刑)
「殺人事件の刑罰が軽いとか裁判が市民感覚とずれているとか思っていた。裁判員裁判で私たちの感覚に近づくかと興味があった。補充裁判員だったが判決当日に解任が出て正裁判員になった。食欲がなくなった。直ちに控訴されたと聞いて、あんなに一生懸命考えたのに(控訴審の)結論が違ったらとがっくりきた。黙秘権行使は疑問。やっていないなら違うと言えばよい。上級審の結果は知りたい。執行されたら怖いが」

□ C(京都地裁・殺人罪・懲役10年)
「選ばれないと困る、体験してみたいという気持ちが強くなった。『不都合はないか』と聞かれ『ない』と答えた。選ばれてよかった(ママ!)。検察官のメモはとてもわかりやすく、弁護人の話はすごくおもしろかった。裁判員の思いが被告人に伝わったか正直疑問。裁判後誰も触れてくれず非常に孤独。母からも『あなた変わっている』と変わり者扱いされた。私たちは法律で守られている。これからは一市民としていろんなことに関わっていきたい。実は通勤電車の窓から被害者が運ばれた病院が見え、日々思い出す。もやもやした心のケアも充実してほしい」

□ 米澤敏靖(横浜地裁・殺人罪・死刑)
「やってみたいと思って行ったら選ばれた。あんたにできるのと母親に言われ、何でお前がと父親に嫉妬され(笑)、やってやろうと。初法廷は皆さんに目を向けられ気持ち良かった。求刑後の評議はみな口数が少なくなった。重圧に押しつぶされそうで家では何も考えなかった。評決時には皆黙り込んでいたが、達成感はあった。判決前の待機時間中は皆ほとんど無言だった。父からは『大変なことをしたな』と言われた。大変だったねという意味だ(笑)。友だちには『人を殺したのか』と言われ、そういうことになるのかと思った。間接的に人を殺したことになっても後悔はしない、参加してよかった」

□ 古平衣美(東京地裁・殺人未遂・懲役10年)
「どうにもならない成育環境や社会構造があり、この人だけの責任じゃないと。犯罪はある意味普通に起き得る。見るからに具合の悪そうな候補者がいて、それでも来なきゃいけないのかと思った。法壇が高いことにもすごく違和感があり、申し訳ないと思った。どうしてこんな所に坐らせられるのか。求刑10年。そんなに早く出てこられたら怖いとその時は思ったが、そう思ったことが後で恥ずかしくなった。排除するのはいけない。記者会見に出て悔やんだ。すごく帰りたかった。家族もママ友も聞いてはいけないという雰囲気。裁判員に負担を負わせるのはいかがかと思う」

□ 松尾悦子(仙台地裁・強盗殺人・懲役15年)
「やって見たかった。行かないのはもったいない。事件は刑事ドラマのようだった。(選任時)周りは逃げ方を考えている雰囲気だった。自分は選ばれて『やったぁ!』と思い、心中『フフフッ』と。裁判官は話題を振ったりギャグを言ったり裏話も聞けておもしろかった。被告人は殺人を一貫して否認、あるのは被告人と一緒にやったという主犯格共犯の供述だけ。検察は一覧表などを使って理路整然、弁護人は読みたくなくなるような資料。裁判員同士あまり打ち解けず、終わるまでの日数を数えたりして嫌々やっている感じの人が多かった。結局、強盗殺人は認めず強盗致死に。上限15年(当時)の説明に不満の質問も出た。裁判員制度はあった方がよい」【事件は検察が控訴し控訴審は差戻し判決。初のやり直し裁判員裁判で検察の主張が認められ強盗殺人で無期懲役になっている】

□ 山崎剛(東京地裁・強盗致傷・懲役6年6月)
「脊髄小脳変性症。初の車いす裁判員。社会とつながるために行こうと。タクシーで着いた自分を2人の職員が車いすで部屋に運んでくれた。事実はすべて認めていて情状だけの事件。施設で育った不遇の被告人。共犯者と知り合ったのも少年院だった。法律上6年以上の刑にしなければならないケースだったが、もっと早く出所をという気持ちもあった。何年で仮釈放になるのか裁判官に聞いたら、『よくわからないが満期までいる人は少ない』と言われた。証拠が十分でないのに有罪判決になっている傾向はないか。知識がないと裁判官の出来レース(ママ)に乗せられていることに気づかないかもしれない」

 D(さいたま地裁・殺人罪等・死刑)
「保険金目当てで2人殺害。公判期間30日間。県内初の死刑判決。パートで働く2児の母。生半可な気持ちではいけない、選ばれたのだから一生懸命取り組もうと思った。被告人の言い分にも弁護人の弁論にも無理があると感じた。裁判員は裁判官が入ってくると教室のようにしーんとした。裁判官から前夜星空でも翌朝雪景色なら夜中に降雪したと判断してもよいという例で、状況証拠による判断もあり得ると言われた。自分から発言する裁判員はなく、裁判官から聞き出されて言う感じだった。死刑判断の重みでみんな悩み私は夜中に目が覚めた。息子が裁判で死刑になるのを横で見ている夢を何回もみた。判決の時、被告人の奥さんが途中で泣き始め死刑判決になるのがわかったらしかった。子どもさんの父親を私たちが奪うのかと思った。あとで控訴されたと聞き、間違って執行されるのが怖いので、精査してほしいと思った。裁判員をまたやる自信は湧いてこない」

□ 金井達昌(東京地裁・保護責任者遺棄致死罪・懲役2年6月)
「否認事件。質問票に選ばれない理由を書くことに罪悪感があった。自分のことしか考えていなかった。選任されて、うそでしょう、当たっちゃったのという感じだった。宣誓手続室に誘導される手早さに感心した。思ったより緊張感がなかった。聞くことに集中した。検察官の説明がよくわかった。弁護人はちゃんと仕事しているのかと思った。裁判官は人の心を動かす力がある。裁判官からは『自分を口説いてくれ』と言われてすごく納得した。評議の場で被告人の反省の度合いについて疑問を言った。子どもがいるから刑期を短くというような考えは正しくない。被告人がしたことはものすごく悪意が多い。道徳的におかしい。申し訳ないという反省の態度がなかった。否認事件といっても無罪は不可能だ。判決公判の日、裁判長が『国の決定に胸を張ってくれ』と言われ、自分は高揚した」

□ 田口真義(東京地裁・保護責任者遺棄致死罪・懲役2年6月)
「同上事件。本編著者。選ばれて武者震いした。周りが全然見えず、とにかく起きていることをメモした。検察官はテキパキしているのに弁護人はどうしてしどろもどろなのかと裁判官に聞いたら、弁護人は検察側証人が何を言うのかわからないからと言われて、そりゃ大変だと思った。自分はほぼ全員の証人に質問した。裁判官たちの思考に衝撃を与えるような、しかし論理的な説明をせねばと思った。裁判官は自分たちの議論を聞いて『厳しいなぁ』と漏らした(ママ!)」

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「血まみれになってうれしがる人たち」026916

 

 

投稿:2014年3月19日