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     竹﨑博允最高裁長官の退任挨拶を読み解く

3月31日に退官する竹﨑博允最高裁長官が3月24日に退任会見を行い、翌25日朝、マスコミ各社がいっせいに報道した。主要各紙の報道ぶりには、社風、社是を反映してかなりの差がある。取材記者のセンスもリアルに反映している。各紙の報道内容を心を込めて紹介し、すこしばかり選別のご挨拶を送ることにする。

なお、新聞各社は「竹崎博允」と記載していますが、正確には「竹﨑博允」です。

左半分【朝日新聞】右半分

竹崎最高裁長官「体力、気力とも限界に」 退官控え会見
退任の竹崎長官「全力尽くした」最高裁
定年を待たず31日付で依願退官する竹崎博允(たけさきひろのぶ)・最高裁長官(69)が24日、記者会見し、「体力的にも気力の面でも限界に達した。この職にある限りは全力を尽くすべきだと考え、退官を決意した」と心境を語った。長官が任期途中で退官するのは異例だが、「心残りはない」と約5年4カ月の在任期間を振り返った。
先月26日、最高裁が「健康上の理由」から、定年の7月を前に退官すると発表してから、竹崎氏の会見は初めて。病状や体調は「いくつも病気を抱えたまま就任し、健康面ではずっと低空飛行を続けてきた」と説明するにとどめた。
 5月で導入から5年となる裁判員制度の設計段階から中心的役割を担ってきたが、「裁判員の問題意識や感覚に応える審理や評議を実現しなくてはいけない。さらに試行錯誤を重ねる必要がある」と指摘。集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更についての見解も問われたが「裁判官は具体的な事件を離れて、憲法上の問題について見解を述べられない。回答を差し控える」と述べた。
後任には、竹崎氏の推薦に基づき、寺田逸郎・最高裁判事(66)が決まっている。寺田氏については「多彩な経験を持ち、柔軟な思考力とバランス感覚を併せ持っている」と評価した。
(青字はウェブニュースのみ。本紙ではカット)

いくつも病気を抱えたまま就任し、健康面ではずっと低空飛行を続けてきた。体力気力の限界」と。何と体調が悪いという話ばかり。無理をし過ぎたのだろう、よほど疲れたんだねぇ。だが、ひとこと聞かせてほしい。ウェブニュースでは触れている裁判員制度のことが、紙面ではまったく出てこないのはどういうしてだ? 後任の寺田逸郎新長官の評もカット。社運をかけて裁判員制度を推進してきた朝日としては、目もあてられない制度の現状を前にして、紙面には残したくなかったのだろうか。それにしてもここまでのばっさり切り捨てには驚くほかない。
それに「体力、気力とも限界に」と「全力を尽くした」の見出しも随分と受ける印象が違う。ウェブニュースを書いた記者とこれをカットした人(デスク?)は、双方共に裁判員制度の破綻をよくよく知っているに違いない。

 左半分【読売新聞】右半分

法律家はさらに技術磨くべき…退官の最高裁長官
健康上の理由から3月いっぱいで退官する竹崎博允ひろのぶ・最高裁長官(69)が24日、東京都千代田区の最高裁で記者会見し、「裁判員制度が順調に運営されており、心残りはない。晴れ晴れとした気持ちだ」と約5年4か月の在任期間を振り返った。
2009年5月に導入された裁判員制度が円滑に進んでいる理由について、竹崎長官は「国民の理解と協力が得られ、裁判官、検察官、弁護士がかつてなく協力し合った」と強調。一方で、裁判員の問題意識を反映した審理、評議が不十分な面もあると指摘し、「法律家は試行錯誤を重ね、さらに技術を磨くべきだ」と注文を付けた。
後任の寺田逸郎・最高裁判事(66)については、20年以上に及ぶ法務省の勤務経験などを評価し、「裁判官離れした行政手腕とバランス感覚を併せ持ち、就任は司法にとって大きな意義がある」と述べた。

こちらは裁判員制度オンパレード。この違いは何だ。「裁判員制度は順調に運営。円滑に進んでいるのは国民の理解と協力が得られ、裁判官・検察官・弁護士がかつてなく協力し合ったから。課題は裁判員の問題意識を反映した審理、評議。法律家は試行錯誤を」と。長官は裁判員制度のことしか言わなかったように読める。でも実体がそんな美しい言葉で説明できる状況にないことは誰よりも国民自身がよく知っている。何も知らされずものを言い続ければ疲れもしよう。寺田逸郎新長官は「裁判官離れした行政手腕とバランス感覚。司法にとって意義」だと。つまり行政に唯々諾々とすり寄るリーダーってことじゃないか。

左半分【毎日新聞】右半分

最高裁「司法改革進んだ」竹崎長官が退任会見
健康上の理由により31日で退官する竹崎博允(ひろのぶ)最高裁長官(69)が24日記者会見し、在任期間の約5年4カ月を「裁判員制度開始など司法制度上で特筆すべき改革が進められた」と振り返った。7月の定年を前にした退官については「体力、気力とも限界。この職にある限り全力を尽くさないといけないと思い、決意した」と説明した。
就任半年後の2009年5月に始まった裁判員制度には、制度設計時から携わった。間もなく丸5年を迎えるのを前に「法律家が自分たちの考えを裁判員にどう伝えるかに意識が向いている。裁判員の問題意識や感覚を受け止め、それに応える審理や評議を実現しなければ」と法曹三者に注文を付けた。
後任の寺田逸郎(いつろう)最高裁判事(66)については法務行政経験の長さなどから「非常に多彩な経験を持ち、柔軟な思考力を備えている」と評価。「裁判所に提示される問題は一段と困難になっており、そうした方が長官に就くのは大きな意義がある」と述べた。

タイトルは「司法改革進んだ」。ちなみにウェブニュースのタイトルは、ずばり「裁判員制度、特筆すべき改革」。在任期間に裁判員制度など特筆すべき改革が進められたと自賛。「法曹三者は裁判員の問題意識や感覚に応える審理や評議の実現を」。で、「体力、気力とも限界。全力を尽くせなければ退官」しかない。「多彩な経験を持つ寺田新長官は柔軟な思考力の持ち主、裁判所が求められる困難な問題にうってつけ」。まるっきりわかっていない。これでは現場の裁判官たちも体力、気力が失せるだろう。それにしても「司法行政の経験が豊富な新長官はよろしい」って言ってるってことは司法の独自性なんて頭の中にないってことじゃないか。

左半分【産経新聞】右半分

「心残りはない。晴れ晴れとした気持ち」 竹崎最高裁長官が退官会見
3月末で退官する最高裁の竹崎博允(ひろのぶ)長官(69)が24日会見し、「全ての力を出し尽くしたという思いがあり、心残りはない。ようやく重い責任から解放されるという晴れ晴れとした気持ちが強い」と、約5年4カ月に及ぶ在任期間と約45年間の裁判官生活を振り返った。
今年7月の定年を前に退官する竹崎氏は「体力的にも気力の面でも限界に達した」と説明。「この職にある限りは全力を尽くさなければならないと考え、退官を決意した」と話した。
間もなく丸5年を迎える裁判員制度について「これまで比較的順調に運営できているのは、国民の理解と協力が得られているのが最大の理由」とし、「協力していただいた裁判員の方々に感謝と敬意の念を表したい」と話した。今後は「裁判員の問題意識を受け止め、これに応えていく審理、評議を実現していかねばならない」とも述べた。
後任の寺田逸郎氏(66)については、「多彩な経験を背景に柔軟な思考力、優れたバランス感覚などを併せ持ち、こうした卓越した能力を備えた人が長官職に就くことは、司法にとって極めて大きな意味を持つ」と期待を込めた。

「すべての力を出し尽くし」て制度がこの現状なら、もうだめだっていうことじゃないですか。「まだまだ力はあるが後に続く者たちにさらに力を出してもらおうと」とか何とか、もう少しましなことが言えないのか。言えないってところが、破綻の相を見せているってことでしようね。これで気持ち晴れ晴れになっちゃいけないんだよ。「制度は比較的順調」って言ったと。その言葉を使った全国紙は産経だけだが、これはおもしろい。比較的順調ってどういうこと? そんな言葉はそもそもあるのかしら。順風満帆ではないっていうことなんでしょうかね。定着とか順調とかいう言葉しか使ったことのなかった男がこんな物言いをすると、「ついにホンネが」とか、「人の死せんとするや…」とかそんな台詞が思い浮かばれてしまうね(イヤ失礼)。

左半分【日経新聞】右半分

竹崎最高裁長官が退任会見 「裁判員制度、長い目で評価を」
竹崎博允・最高裁長官(69)が31日の退官を前に24日、記者会見し、裁判員制度について「裁判員の問題意識を裁判官が受け止め、応えていかなければならない。成長過程の制度。長い目で評価してほしい」と述べた。
竹崎長官は2008年11月、最高裁判事を経ない異例の抜てき人事で長官に就任。裁判員制度には制度設計から関わり、長官在任中も定着に尽力した。会見では「順調な運営は国民の理解と協力があったからこそ」と謝意を述べた上で、「わが国の司法制度上、特筆すべき改革だった」との自負ものぞかせた。
後任の寺田逸郎・最高裁判事(66)について「多彩な経験と柔軟な思考、バランス感覚を備え、行政手腕も裁判官離れしている」と評価した。
退官は健康問題が理由。「いくつもの病気を抱えて就任し、何度か入院して健康面では低空飛行で続けてきた」と明かし、「ようやく重い責任から解放される」と率直な心情も吐露した。

 タイトルは「裁判員制度『長い目で』」ときた。「成長過程の制度、長い目で評価してほしい」と記事中に。退官に当たってついに順調論をやめたと見える。だが、「天下の順調論男」が漏らした「現状に問題あり論」の中身は、裁判員の問題意識を裁判官はもっと受けとめよという話らしい。かねてから市民の判断の不確かさを言いつのってきたこの男が言う「裁判員の問題意識の重視」論には、現場は戸惑い反発するばかりだろう。「いくつもの病気を抱えて就任し、何度か入院して健康面は低空飛行」。やっぱり、制度とキミの健康はクルマの両輪みたいな関係だったんだよ。そう、キミの身体もこれからは「たぶん順調」さ。

左半分【東京新聞】右半分

竹崎最高裁長官 裁判員制度「順調」退官会見
今月末に健康上の理由で退官する最高裁の竹崎博允長官(69)が24日、記者会見し、今年7月の定年まで3カ月を残しての退官に「体力、気力の面で限界に達した」と語った。竹崎長官は2008年11月、最高裁判事を経ず長官に就き、09年の裁判員制度開始を指揮した。在任期間は、歴代4位の5年4カ月に及んだ。
竹崎長官は会見で裁判員制度について「国民の理解と協力が得られ、順調に運営されていると言っていいかと思う」と評価。一方で「裁判員の問題意識や感覚に応える審理や評議を実現しなければならない」と課題を挙げた。退官理由の「健康上の理由を詳しく教えてほしい」と問われると、具体的な病状への言及は避けつつ「いくつもの病気を抱えたまま就任し、健康面でずっと低空飛行を続けてきた」と明かした。

タイトルは「竹崎最高裁長官 裁判員制度『順調』」。順調にかっこがついた。竹﨑長官は順調と言っているが、という口ぶりだ。制度を推進してきたマスコミからさえこのように見られるようになったことが制度の終焉をよく示している。記事の内容は裁判員制度のことと自身の体力のことだけ。制度については「順調に運営されていると言っていいかと思う」という、何とも中途半端な言い方。産経の「比較的順調」も、長官の奥歯に物の挟まった発言から出てきた言葉だろうが、東京は一歩進んで疑問符を突きつけたようなもの。それにしても「裁判員の問題意識や感覚に応える審理や評議を実現せよ」とは、具体的に言うと何をせよということか。現場の実情をキミは本当に知って言っているのか。知らずに言うのは不遜だし、知って言っているのなら、この国の刑事裁判を破壊するキミはA級戦犯だよ。

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投稿:2014年3月26日