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裁判員制度はもうダメです-新長官の憲法記念会見を斬る

はーい、よい子の皆さん。私たちの憲法記念日ですよー。今日は日本国憲法を記念する以外に何がある日でしたっけ。そうです、最高裁長官が前日記念日を迎える記者会見をしたことがいっせいに報道される日です。

去年は裁判員制度を進める国の責任を追及する元裁判員が現れた直後でしたから大変でした。竹崎長官は真っ青、狼狽を隠さなかったね。個々の事件に触れない掟を破って長官は「こういう問題が起きないようにみんなで配慮を」なんて、よくわからんことを言った。この事件に関連した文章を去年8月15日のトピックス「澱の中で考える人々-最高裁アンケートのからくり」でインコは掲載しています。ぜひもう一度見てね。

さて今年は。インコは早速ですが『朝日』『読売』『毎日』『日経』『産経』『東京』の5月3日朝刊を読みました。今回も各社1名の代表記者会見だったんだろうね。出席記者の個性がにじみ出て面白いけれど、各紙を読まないと本当のところがよくわからないTPP記者会見みたいな難解さも。インコは皆さんになりかわり責任を持って全部目を通しましたよ。trl14050222090002-n1

うーむ、まず驚いたのは寺田逸郎新長官のお姿写真を掲載したのが『産経』だけだったこと。たいていは何社かが顔写真を出すでしょ。いくら嫌われている(いや間違えた、誤記です)いくら先月お披露目写真を出したばかりだと言っても、一応礼儀として掲出するもんじゃないんかね。それとも写真撮影はなるべく遠慮して下さいなんて長官が言ったのかしら。言ったとすればこれも問題だし。とりあえず、msn『産経』ニュースのお写真を掲載しておきますね。

さて内容は裁判員制度との関係で、とても衝撃的なものでした。何と言っても各紙が裁判員制度のことを憲法記念日の長官発言の中心に置いていたからです。「施行5年 裁判員制『中長期で改善』」(『読売』)、「裁判員理解へ働き掛け強化」(『日経』)と2紙は見出しまで裁判員問題。「最高裁長官が憲法記念日にしゃべる話が裁判員制度」って考えて見たらたいへんなことですよ。実施から5年経っても話題になり続ける驚異的露出度。放置できない問題が潜んでいることを記者たちが知っている証拠(裁判員制度に触れない『東京』はどうなってるんだ!)。その「潜む問題」とは?

「『審理や評議などで様々な課題が指摘され、中長期的な視点での改善が必要だ』と語った」と『読売』。「『支えてくれる市民の方々への働きかけを強める必要がある。参加意識を高めるため改めて制度の周知を強める』と述べた」と『朝日』。どちらも最高裁がこれまでの「順調論」から大変貌したことをリアルに伝えるものです。「中長期」ってことはちょっとやそっとの対策ではどうしようもないということ。「働きかけを強める」ってことはこれまでの宣伝方法ではまだ足りないってことでしょ。さすがに最高裁も問題の深刻さを覆い隠せなくなった。長官交代の機会にこれまでの取り繕い話法を変えることにしたのでしょうね。

それもそのはずです。最高裁の今年1月のアンケート調査では「参加したくない」がついに85.2%という超高水準になり、いくら何でもそのことに触れないで通り過ごすわけにはいかなくなった。長官は「重く受け止めないといけない数字」とする一方、経験者の大半がいい経験をしたと答えているので経験者と未経験者の意識のギャップを埋めるのが私たちの責任だと述べたと(『朝日』『産経』)。く、くるしい。054891

インコは早速データを調べて見ました。裁判員の嫌忌度はこの間さらに高まっている。正確に言うと、裁判員をやりたいとかやってもよいと言う人は実施初年の09年に18.5%だったのが今年の14.0%までの5年間で4.5ポイントも下がった。一方あまりやりたくないとか義務でもやりたくないと言う人が80.2%から85.2%に5.0ポイントも上がった。今年のデータを男女別に見ると、男性は79.0%がイヤ、女性はなんと91.0%がイヤ。マーケットは女性で決まると言うから、この数字が示す結論はこの制度が国民からもう完全に見放されたということ。

意識調査ではイヤだという国民が大半だというのに経験した裁判員たちの大半がアンケート調査で良い経験をしたと述べているという。どちらも裁判所の調査結果。このことから導かれる結論は、誰が考えたってどっちかが間違っているということ以外にないでしょう。で、どっちが間違っているのか。「経験者の大半がいい経験をしたと答えている」というアンケート調査のインチキについて「澱の中で考える人々-最高裁アンケートのからくり」に詳しく説明しているので、そちらでご納得いただくようもう一度お願いします。
さて、この差を「ギャップ」と断じて、これを埋めるのは裁判所の責任だという寺田長官。いったいどうやってインチキと真実の間を「埋める」つもりですか。どう「裁判所の責任を果たす」のですか。だいたい「参加意識を高めるために改めて制度の周知を強める方針を示した」って言うけれど、周知したらみんなイヤになっちゃったのがこれまでの経過でしょうが。どうするの今度は。

今回の記者会見のもう1つの衝撃は、憲法解釈をめぐる話です。きっかけは、憲法改正や集団的自衛権の動きという目下最大のテーマに関して最高裁がどのような立場をとるのかという記者たちの質問に答えてのことだったのでしょう。寺田長官が言ったのは「憲法は国の最高法規であり、各機関はそれぞれの解釈の範囲内で物事を決める。裁判所が『憲法解釈はこうあるべきだ』と言うことは全くない」(『読売』)、「裁判で判断を求められる具体的事件を離れて、憲法のありようについて申し上げることは差し控えたい」(『朝日』『毎日』『産経』『東京』)、「具体的事件を離れて言及する立場になく、国民の議論に委ねられるべきだ」(『日経』『東京』)。

おいおい寺田クン。じゃぁ裁判員制度についてはどうなんだ。だいたいキミ自身どうだったんだね。具体的事件を離れて裁判員法を合憲と言っ張った2011年11月16日の最高裁大法廷判決では、裁判所が『憲法解釈はこうあるべきだ』と敢えて言ったんじゃないか。『憲法解釈はこうあるべきだ』と言っていながらそんなことは全くないとはよくも言えたもんだ。最高裁は、弁護人から上告趣意にしないと明言されていた「国民に苦役を強いるから違憲」の主張について、あたかもその主張がされていたように装い、自ら進んで「憲法が禁じる苦役ではない」と言い切ったでしょうが。ここにはとんでもない騙し・ごまかしがあったことが明らかですよ。

それとも昨日の長官発言は、最高裁の11年大法廷判決は間違いだったと弁明する趣旨を含んでいたのかしら。具体的事件で当事者が主張していることを離れて一般的な発言はしないのが裁判所の矜恃でしたというのなら、最高裁はあのとき確実に道を外していた。キミも裁判官の一人として参加した大法廷がとんでもない間違い判断を犯していた。自身のその間違いを遅まきながら最高裁長官に就任したこの機会に国民に謝罪するという意味なのか。

今回の長官記者会見はとても衝撃的でした。そして、私たち国民の立場から見て極めて実りの多い貴重な機会でしたね。寺田クン、新任早々何ですが、もうそろそろ裁判員制度の店じまいの準備に入った方がいいと思うよ。これ以上キミ自身が恥をかかないためにね。

フレーム2「動物」

投稿:2014年5月3日