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解任しない、します、する、するとき、すれば、せよ

1-e1397901276348インコは、半年ほど前に、辞任と解任に関して衝撃の告白をしました(「衝撃の告白 インコ実は…」)。裁判員の解任というか裁判員の身分のことがよくわかっていなかったかなぁーって。「裁判員には辞任の権利がない。裁判員を辞められるのは辞めさせられる時だけである」っていう例の話…。

0249090そのあたりのことは、拙著『やまどり反裁判員のあしびき手引き』(有羽閣刊)の中で詳しく書いたつもりだ。そう、一定の事情があるときは辞任の申立てができるという裁判員法第44条1項の規定は「辞任の権利」を言っているのではない、辞任の申立てというのは解任のきっかけに使われるだけなんだというところが掴めれば、それで合格なのだが。そのあたりはインコ君はマスターしたんだよね。

admin-ajax[1]はいはい。もう何と言いますか。わかりすぎるくらいわかりました。それに、その後、解任の問題がいろいろ話題になりました。福島地裁のストレス国賠訴訟でも解任のことがいろいろ言われました。

焦るそう、やりたくないのなら、辞任したいと言えば解任してくれる制度だってあるんだ、なんて判決の中で言ってましたね。

0249091そうだ。そのような言い方には人々を誤解させる怪しげな含意がある。本当のことを言えば、法は、辞任の申立てというのは「選任前に申し立てていれば選任を辞退できたはずの事由が選任決定後に発生し、そのために今後裁判員などの職務を行うことが難しくなった場合」しかできないとしている。それはたいへん厳しい枠といってよい。

1-e1397901276348任の申立ては簡単にはできないし、辞任の申立てがあったからと言ってそんなに簡単に解任してもくれないんですよね、本当は。でも今回の国賠訴訟では、辞めたいと言えばすぐに解任して貰えるような言い方で、辞任の申し出をしなかったAさんに問題があったような判決になっている。これで、裁判員は簡単に辞任できる制度なんだという誤解というか、理解がまた広がるでしょうね。

0249090おやおや、インコ君は本当に勉強したようだな。

むふふ いえいえ、それほどでも。それに最近の学術論文で言えば、新潟大学名誉教授の西野喜一先生が『判例時報』2727号に「裁判員の解任」というタイトルで論文を書かれているし…。

きっ (ほんとに読解できているのかしら…)

1-e1397901276348 西野先生の論文については、にゃんこ先生のご指導のもとに別の機会に発表させていただくことにして、今日は解任の現状に絞って少し報告させていただきましょうか。

0249090 さすがはわが愛弟子のインコ君、ぜひ、聞かせてくれたまえ。

001178まね0  (はらはら)

 admin-ajax[1]それでは謹んで報告させていただきます。まず、解任の状況について次の表を見て下さい。これは2009年8月から今年8月までの解任裁判員の実情を最高裁の報告に基づいて作成したものです。

楽

 001176あらまあ、これはインコさんが作ったものですか。

 1-e1397901276348全部私めが作りました。裁判員裁判が始まった2009年8月から今年8月まで、判決を言い渡された被告人と解任された裁判員の数をまとめてみたのです。補充裁判員のデータもありますが、裁判員に関する分析が重要ですので、補充裁判員についてはとりあえず割愛しました。

001181 なるほど。

 1-e1397901276348第1に言えるのは、解任件数が年々ほぼ確実に増えていることです。最初の年11年には被告人14人に1人の割合で解任が発生していたのが、今年は被告人6.7人に1人の割合で解任事件が発生した。増加率200%。解任が急増していると言ってよいでしょう。

 001178まね0うーむ。

 1-e1397901276348それから、解任の理由のほとんどが「辞任の申立て」だということです。裁判員本人が辞めさせてほしいと要請し、この要請を受けた裁判所が、この人に裁判員を続けさせると裁判がまともに進まないと判断したということですね。

 001181辞任の申し出を受けた解任が急増しているということは、裁判員として選任された人が、裁判が始まってから裁判員を辞めさせてほしいと言い出し、そのままやらせておく訳にはいかないと判定されるケースがどんどん増えているということになりますか。

 1-e1397901276348そのとおりです。

 0249091事態は最高裁にとって極めて深刻だ。制度実施前にはどういう場合には裁判員を辞退させてよいかという検討が部内でいろいろ検討されていた。それは原則として辞退はできないとした上で、こういう時に限って例外的に辞退を認めるという絞り込み方の研究だった。

 焦るそうでした、そうでした。

 0249091しかし、今や裁判員候補者は辞退したいと言えば、ほとんど文句なしに認められる状況になった。処罰の実行は封印され、原則とか例外とかそんな議論はどこかにすっ飛んでしまった。最高裁とすれば、苦悩の出血大サービスというところだ。

001181 ということは、昨今の出頭者は裁判員をやりたいとか、やってもよいという「いそいそ出頭派」がほとんどになってきていると…。

0249091 いやいや、そこだよ。そこら辺の分析はさらに慎重に行う必要がある。その「いそいそ派」の中からも辞任の申し出が多くあり、そのままやらせる訳にはいかず解任に進んでしまう人たちがやっぱり出てきている、しかもそれが年々増えているということだ。だから事態が最高裁にとって極めて深刻なのだ。

1-e1397901276348 逆の見方をすれば、実施以降、解任裁判員が急増していることが理由になって、辞退の段階からどんどん外すようにしているのかも知れませんね。しかしどうあれ、辞退を歓迎しても解任が減らないというのは、最高裁としてはどうにもこうにも進退窮まる話ですね。もう一つ。少ないとはいえ、「宣誓拒否・出頭義務違反・欠格事由等・進行妨害」が毎年出ていますが、最高裁はその具体的な内容を公表していません。

 001177ところで、インコさんはもう一つデータをまとめたんですって。

  1-e1397901276348そうそう、5年間の裁判員裁判で、「判決を言い渡された被告人の数」と「裁判中に解任された裁判員の数」を裁判所別(庁別)に整理してみたんです。

 0249090ほう、それは興味深いことだ。で、どういう結果だったのかね。

 こ1-e1397901276348れがそのデータです。裁判員裁判をやっている裁判所は本庁と支部を合わせて60庁。裁判員裁判の判決言渡しは、全庁計で09年は148件、10年は1530件、11年は1568件、12年は1526件、13年は1415件、14年は8月までて759件です(同じ最高裁データだが、基礎データが異なるため先の表の数字と一致しない)が、庁単位の累計がこの表です。   

                            楽しもう

 001181裁判所別に見ると、解任率にもずいぶんバラツキがありますね。

 1-e1397901276348そうそう。解任件数の横綱級は、秋田地裁の4.0人、那覇地裁の4.3人、富山地裁の5.2人、仙台地裁の5.4人、福島地裁郡山支部の5.9人というところ。この数字の意味は、例えば秋田地裁では、4人の被告人に判決を言い渡すごとに1人の裁判員が解任されていることになります。皆さんもお住まいの裁判所の解任状況をお確かめになってはいかがでしょうか。

 001177裁判員裁判でこんなにたくさんの解任が起きていることは、メディアではほとんど報道されていませんね。

 0249091これは裁判員裁判の恥部というか、国民の誰しもが裁判員制度にノーを突きつける決定的なきっかけになるような話だから、最高裁もマスコミもタブーのように触れない約束になっているのだ。でも考えて見れば、最高裁にとってはこれほど重要な資料はあまりないはずだ。彼らの立場に立ったって、どこをどう改革しなければならないかを示唆する最高の資料のはずだ。ともあれインコ君は価値ある作業をしてくれたと思うよ。

 お茶まぁ、それほどのこともありませんよ。ちょちょいのちょいってところかな。

 読書うさぎ(独り言) それを言わなきゃ可愛いいんだけど、ったく…。

投稿:2014年10月26日