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連続講座第2回 「裁判員は国民の代表か?」

猪野亨弁護士ウェブ連続講座
「マスコミが伝えない裁判員制度の真相」第2回 

裁判員は 国民の「代表」か?

なぜ、マスコミがそのようなところにまで踏み込んでいくのかといいますと、そこはやはりすごいんです。本来、裁判員制度で選ばれるのは、有権者の中からクジで選ばれるんです。ですから、それは国家が選び出した人となるんですけれども、マスコミは「代表」という言葉を使うんですね。246410c

レジメでも「『代表』のごとく扱われる」と書きましたけれども、はっきりと「代表」という言葉を使うんです。
例えば、2010年の『朝日新聞』ですけれども、裁判員制度が始まった翌年ですね、「昨年8月以来、200件を超す判決に約1千人を超す『普通の人々』が国民の代表として関わった」と、代表という言葉を使ったんですね。これは、『朝日新聞』だけじゃないんですね。

裁判員は、私たちの「代表」でしょうか。私たちが選んで送り出した人でしょうか。制度の仕組みとして、抽選で選び、そして裁判官が裁判員として任命して、解任権も持つ。そういった立場の人たちであって、それは、私たちが送り込んだ「代表」というものとは、矛盾する立場の人たちです。それをマスコミは、「代表」と形で位置付けるんです。

そればかりじゃないんですね。
『東京新聞』の記事には、「これは、民主主義の学校である」と。果たして本当に民主主義なんでしょうか。中で多数決でやっているから民主主義なんだというようなことを言われちゃ困るわけなんでしょね。刑事裁判にそもそも多数決なんて似合いません。似合わないではなくて、矛盾するもの、相反するものです。それを、話し合いをし、いろいろな訓練をするから「民主主義の学校」というような言い方をする論調を見てみますと、あたかも私たちの代表の如く扱っているということが、マスコミの視点として良くわかると思います。

今一度、考えて欲しいのですが、なぜ、この裁判員制度が生まれたのかというところの根本に遡ります。
2001年6月に出された司法制度改革審議会の意見書、ここで裁判員制度が導入されたのかという理由付けがすごいんですよね。皆さん、今一度、振り返っていただきたいのですが、これをどのように表現しているかというと、「国民は、これまでの統治客体意識に伴う国家への過度の依存意識から脱却し、自らのうちに公共意識を助成し、公共的事柄に対する能動的姿勢を強めていくことが求められている。国民主権に基づく統治行動の一翼を担う司法の分野においても、国民が自立性と責任感を持ちつつ、広くその運用全般において、多様な形で参加されることが期待される」。335733e

これまで、国民は国家に頼りきっていたんだから、それではダメだ。
公共精神を身に付けて、統治機構の中で、責任を持って行動しなさいと。
ここにはっきり、裁判員制度の目的が書かれていた訳です。

先ほど言ったように、裁判員は国民の代表ではない。国家の一翼として、選任され活動していく、まさに、裁判員制度はその通りになっていますよね。それにも関わらず、なぜ、マスコミがこの部分をことさら無視して、「自分たちの代表だ」と、あるいは「民主主義の学校だ」というのか、まったく理解できないことです。

むしろ、『産経新聞』のこの記事の方がぴったりだと思うんですね。さすが、『産経』という感じがする記事です。

東日本大震災が起き、東京の交通が麻痺した。そのとき、次のような見出しで報じた。
「投げ出さず強い責任感。全員集まった裁判員」(笑)。すごいですよね(笑)。国家主義的な、国家のためなら馳せ参じたという形でもって、集まった裁判員を持ち上げる。いや、そりゃね、来いって言うから来ただけで、来させられたというものですよね。義務として自分が行かなければ、後からお咎めがあるんじゃないかとか、思うから集まるんであって、でも、『産経新聞』によると違うんです。「強い責任感」と。「国家のために働く尊い市民」という感じなんでしょうね。

これは『産経新聞』だけじゃないんです。他の新聞でも、「市民の義務、重さ噛み締めた3日間」。これは「カナコロ」の記事ですから、『神奈川新聞』ですね。こういう形で報道されていることを見ますと、こちらの方が、裁判員制度の目的にはぴったり合うんですね。「強い責任感」という方がね。

でも、これ自体は、裁く側に組み込んだという本質にはぴったりであって、他の記事にあるような、あたかも参加を権利であるようなところに大きな問題があるのです。

パンチインコ一言
民主主義の学校? じゃあ被告人は教材、実験材と言いたいのかマスコミは?
統治的主体の意識だけを持たせて、任務遂行の責任感を強調する。その先にあるものが透けて見える。

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投稿:2016年1月28日