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『刑法と戦争~戦時治安法制のつくり方』を読む

1-e1397901276348著者の内田博文先生は神戸学院大学教授で九州大学名誉教授。福岡市会議員荒木龍昇さんと一緒に地域に根ざした救援組織「福岡市民救援会」の共同代表を務めています。この会にはインコもマネージャーもご縁がある。先生は今話題のハンセン病関連の「菊池事件」の再審運動の中心にいる方でもある。

001177先生からは、「誘導される『国民世論』と裁判員裁判」とか「菊池事件と裁判員裁判」などのタイトルで、インコのトピックスにもご投稿をいただいていますね。

1-e1397901276348そう、この分野のキー・パーソンのお一人。先生は、今年2月28日に開催された「福岡市民救援会」第4回総会で、今国会にかかっている刑事訴訟改悪案についても講演された。

001177ますますキー・パーソンです。インコさんは内田先生からこのご本を戴いたんですって。

20160418inkoよくぞ聞いてくれた。サン・ジョルディの日にちなんでですよ。

0063118それ、なんすか

001178まね0(すぐ図に乗るから余計なことを聞くなって言ったのに)

1-e1397901276348サン・ジョルディはカタルーニャ地方の守護聖人。302年、ディオクレティアヌスローマ皇帝に棄教を迫られて4月23日に殉教。サン・ジョルディが退治したドラゴンの赤い血がバラになったという言い伝えから、カタルーニャではこの日男女が赤いバラなどを送りあう。20世紀初めから本を送る風習が加わった。4月23日は、セルバンデスの命日でシェイクスピアの誕生日で命日。本屋のプロモーションが成功した。ジョルディはキリスト教では聖ゲオルギオスと言われ、英語でジョージ、イタリア語でジョルジョ、フランス語でジョルジュ、ドイツ語でゲオルク、ハンガリー語でジェルジ、ロシア語でゲオルギー、日本で博文。

001178まね0はいはい、で、インコさんはもうその本は読みましたか。

1-e1397901276348「第一部」が戦時体制下の国民と法、「第二部」が治安法制の論理。439頁の大作だ。少し要約しながらインコの心に響いたところを紹介する。

   今、私たちが置かれている状況は、昭和3年と似ている。戦時体制の形成に向けて下準備が進められつつある。このままでは「ルビコン川」を渡るのも時間の問題といえる。戦時治安法制の制定も早晩予想される。
 しかし、昭和3年の段階ではまだ引き返す選択肢もあり得た。満州事変に直線的に進んだわけではなく軍部と政党の間で激闘が繰り広げられたことが明らかにされている。当時の「世論」は軍部に与し、引き返すという選択肢を放棄したが、私たちには「ルビコン川」を渡らないという選択肢はまだ残されている。まして現在は、日本国憲法で保障されている国民主権の時代。引き返すかどうかは主権者である私たちの選択にかかっている。

1-e1397901276348じーんとくるだろう。先生は、「歴史から学ぶ」として次のようにも書いている。

   治安維持法体制は戦後も温存され、検察官に対する強制処分権の付与も、検察官が作成した捜査段階の供述調書への証拠能力の付与も見直されていない。そのことは戦後の日本の刑事手続きが冤罪を生む構造的な要因になった。今もって見直しが予定されていないことは、戦後治安維持法の検証が十分に行われなかったためだ。治安維持法は刑罰法規であったのにその研究はもっぱら歴史学や政治学などでなされてきた。これでは過ちが繰り返されかねず、今や再び過ちを繰り返そうとしている。

1-e1397901276348裁判員制度についても、先生は次のように指摘している(第二部第13章「司法改革という名の換骨奪胎」)。

 戦後、日本国憲法と刑事訴訟法の規定の間に大きな乖離が生じたが、裁判員制度導入を契機としてこの乖離を埋めていこうというような発想は、司法制度改革審議会にも政府にも裁判所にも検察庁にもなかった。あくまでも現行刑事訴訟法の枠組みを前提としたうえで、刑事裁判に対する「国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」という以上のものではなかった。
 最高裁事務総局によって、「法曹が払ってきたエネルギーは、我が国の司法制度の歴史の中でもまれなほどに膨大なものがある」と自負される裁判制度は、平成21年5月21日の施行以来、6年余りを経過した。

1-e1397901276348生は、裁判員制度導入に現れた刑事司法の大きな変化は「被告人の保釈」にあると言う。以前より保釈が認められるようになったがそれほど喜べる話ではないと。それは「公判前整理手続きにおいて公判審理が実質的に先取りされた結果」だと言うのだ。

001177裁判所が公判前整理手続きの開始を公判開始と同じように考えているから、公判開始時には被告人の処遇について結論を出してもよい状態になっているっていうことですよね。っていうことは、「裁判が始まる前に終わってる」ようなものじゃないですか。保釈が増えて当たり前でしょう。

1-e1397901276348増え方があまりにも少ないと言うべきだろう。先生は量刑もより重い方向に変わったと言い、「殺人未遂、傷害致死、強姦致傷、強制わいせつ致傷、強盗地致傷の各罪で、重い方向にシフトしている」と指摘する。
例えば、実刑判決の事件で求刑以内に収まったのは、裁判官裁判では97.9%だったが、裁判員裁判では94.2%に減った。つまり求刑越えが増えているということだ。

001177重罰化の方向はインコさんが強く訴えているところですね。

1-e1397901276348保護観察付き執行猶予の増加傾向について調べると、裁判員裁判で執行猶予付き判決に保護観察が付く割合が、裁判官裁判の35.8%から裁判員裁判の55.7%に大幅に増加していると言う。

001181執行猶予は無罪と同じだと受け止める裁判員たちの不満を抑えるための仕掛けじゃないかしら。

1-e1397901276348ただの執行猶予では納得しない裁判員たちをなだめる策に使われている可能性は高い。保護観察を「悪人常時監視方式」として喜ぶ監視カメラ歓迎傾向にも関係があるだろう。

001177裁判員裁判に対する控訴審の姿勢についてはどのようにおっしゃっていますか。

1-e1397901276348まず、控訴率を見ると、裁判官裁判では34.3%、裁判員裁判では34.5%とほとんど変わらないが、検察官の控訴申立てが大きく減り、弁護側の控訴が大きく増えているという。

001177裁判員裁判の結果に満足しているのが検察、不満なのが被告人・弁護人ということじゃないですか。満足と不満が等量ですか。何という合理性かと納得します。

20160201控訴審で取調べが行われた事件は、裁判官裁判では78.4%だったのが裁判員裁判になって63.1%に落ちたという。また、被告人質問の実施結果を含めたすべての証拠調べ実施事件も、裁判官裁判では41.0%だったのが裁判員裁判になって23.9%に減ったという。

00631100すごい減り方。控訴審は一審の結果をチェックしないようになったんですか。

1-e1397901276348先生は、上訴審は検察側に傾斜した第一審を「是正」する場ではなく、「追認」する場になっているとしている。

00631100最高裁が「裁判員裁判の判決を尊重せよ」と号令を発した結果ですかね。

1-e1397901276348そうだろう。先生は、一方、裁判員裁判によって変わらなかったものとして「日本型刑事裁判手続きのほとんど」をあげ、日本型手続きの典型は「公判における書面審理」だとされる。また、変わらなかったものとして「無罪率」を上げ、正確には微減していると言うべきだとされる。

001177インコさんも「裁判員裁判はえん罪を確実に増やす」でそのことを論じましたね。

1-e1397901276348裁判員制度に対する先生の結論は、「裁判員裁判の導入は、日本の刑事訴訟の意義に『国民の理解』を加味したものと言えるが、それが現実に果たした役割は重罰化以外には見るべきものがなかった」というものだ。

00631100あいやー。最高裁事務総局が「法曹が払ってきたエネルギーは、我が国の司法制度の歴史の中でもまれなほどに膨大だ」と言ったけど、結果は重罰化で、それだけだったと。

001177推進派の弁護士はこれをどう聞きますかしら。

1-e1397901276348先生は、重罰化については、特に「裁判員裁判による重罰化」という項を立てて論じている。この中では、「死刑(の判決言い渡し数)も変わらなかったことの一つ」とされている。

001181制度推進派の弁護士の中には「市民は死刑判決を避けたがるだろうから、言い渡し数は減るだろう」と期待した向きがありましたけど。

0063118国民救援会も「ヘンリー・フォンダを探しています」とか言ってた。でも、始めてみたら、「悪人を裁くのは私だ」「市民の声に従え」「控訴するな」って感じの人たちが集まって来るようになったし。

1-e1397901276348先生は、「死刑判決は量的にはほとんど変化は見られない」としつつ、「『行き過ぎた』死刑判決が上訴審で是正される」例はあると指摘されている。

001177一審判決を尊重せよと言ったり、「裁判員裁判であっても先例から外れた判断をすることは認められない」と言ったり、最高裁もグダグダですから。

1-e1397901276348国連の勧告」の項では、死刑問題に対する最高裁や日本政府の姿勢を批判し、死刑判決に対する必要的上訴制度が必須だとしている。死刑判決であるにも関わらず自ら控訴を取り下げる被告人に対する次の一文を紹介したい。

「ハンセン病強制隔離政策を下支えした『無らい県運動』などが作出し助長したハンセン病差別・偏見によって家族が迫害されるのを恐れ、家族を守るために自らハンセン病療養所に入所したハンセン病患者や家族が社会から迫害されるのを恐れて自ら戦地に赴き戦死した元思想犯の姿と重なって映る。」

00631100「元裁判員の苦悩」という新聞記事では、「死刑判決を受けた被告人が控訴を取り下げたことに、元裁判員は『自分たちの判断が受け入れられた』」と喜んでた。

001178まね0「死刑判決を受けた被告人に控訴するな」と言うことは、「お前は死ね」と言うのと同じです。何の権限も持たない一般市民が公権力を行使するところに裁判員制度の怖さと本質があります。

1-e1397901276348最後は、「刑事訴訟の目的のさらなる変質」というタイトルの項だ。この中で、犯罪被害者の問題を取り上げる。「犯罪の被害者は誰かということも重要である。戦時下には個人的法益に対する罪が国家的法益に対する罪に転化する。当該犯罪の被害者も個人ではなく国家になる」と指摘している。

001177被害者遺族が登場する場合と登場しない場合で量刑が変わってくる可能性も考えなければいけませんね。家族間殺人とそれ以外の殺人の量刑差の問題もあるでしょう。

1-e1397901276348先生は、刑事手続のカウンセリング機能の問題にも触れている。カウンセリング機能というのは「取調べは証拠の収集といった観点からのみ必要とされるものではなく、犯人に真に反省悔悟を促し、可能な限り早期に被害回復を実現するためのものでもある」という考え方だ。

0063118そういう考え方が一般的なんですか。

1-e1397901276348いや、そういう見方には批判もある。先生は、戦後の日本の検察官は捜査、公訴提起、公判、上訴、矯正、更生保護に至るまで、検察官の権限がいかに巨大なものであるかを詳しく説明している。そして「戦後の日本の刑事裁判の三審制は、底流では思想犯の保護観察や予防拘禁の影響を強く受けていた。刑事手続きのカウンセリング機能の強調は古くて新しい主張だ」と結んでいる。

001177裁判員制度の問題点に関する先生のご指摘についてのガイダンス、ありがとうございました。ところで、それ以外の先生の論考のご案内は?

20160508bikuあうっ、あうっ、あうっ。

001176インコさん、ほかは読んでないっていうことじゃないですよね。

120160508biku120160508biku120160508bikuあうっ、あうっ、あうっ。

001178まね0(飛び出していっちゃった。なんと逃げ足の速い)

001177 私たち、内田博文先生の『刑法と戦争』(定価4600円+税 みすず書房)を読んでみました。刑事司法という角度から見た現在という時代がよくわかります。
00631100(わかるような気がします)

1163131ii

 

 

 

投稿:2016年5月10日