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寄稿「誘導尋問で逆転無罪 裁判員裁判はどうなんだ!?」

満員電車内で女性の尻を触ったとして、東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた男性の控訴審判決で、逆転無罪判決(1審東京地裁・罰金40万円)が出た。逆転の理由は「1審の裁判官が被害者の供述を誘導していてあまり信用できない」からだそうだ。

7月25日付け『東京新聞』夕刊の記事は要旨次のように報道している。

  控訴審の裁判官は「満員電車内では被害者と犯人の体勢や位置が変わる可能性がある」として、捜査段階からの被害者の供述を詳細に検討した。そして、事件当日の警察に対する被害状況の供述には、①女性がつかんだ指をいったん放してバッグを持ち替えている、②再び振り向いて腕をつかんだと言うがその内容が検察調書には出てこないなどと、と指摘。「1審の裁判官は欠落部分を補う答えを暗示しながらたて続けに質問を発する典型的な誘導尋問をした」と断じ、供述の信用性を認めなかった。

誘導尋問というのは「尋問者が自分の欲する供述を暗示して、それに誘導するような尋問」(広辞苑)である。
被告人がやっていないと主張しているときに、被害者の供述内容が正しいかどうかを慎重にチェックするのが尋問だろう。検察・弁護の尋問の後に補充して聞くのが裁判官の質問だ。補充尋問と言われるのはそのため。その場で検察官を代行するような尋問をしていたんじゃ、もうそれは裁判ではない。

1審の裁判官が誘導尋問をしたということは、尋問の前に有罪の心証をしっかり持ち、誘導して得た証言を判決理由に使うためだったことは疑問の余地がない。あまりに露骨過ぎては控訴審も論及せざるを得ず、破棄せざるを得なかったのだろう。

裁判員裁判対象事件だったらどういうことになるか。
公判前整理手続きがあるので、裁判官諸公は公判開始までに有罪か無罪かの心証をほぼ得ている(ほとんどは有罪の心証を固めている)。
評議の場ではプロ3人が素人6人を相手にして自分たちの心証どおりに結論をリードしてゆくことなど造作もない。赤子の手をひねるようなものとはこのことだ。
「見えないレールが敷かれていた」などと手口を見られてしまったヘボ裁判官もいたが、たいていは「裁判官が丁寧に教えてくれたので」と謝辞を受ける形で終わる。

お客様(裁判員)に配慮して分刻みのスケジュールで行われる裁判である。証人尋問ももちろんその例外ではない。4年前の裁判員裁判第1号(東京地裁)では、「私は現場を見ていないが、窓の側にいた弟なら私よりよくわかるはずだ」という証言が飛び出したのに、その弟の尋問は行われなかった。それが裁判員裁判である。すべてのお膳立てが終わっている裁判員裁判では、そんなのはそれこそ「余計な」尋問になる。

結論を決めてひたすらゴールに向けて走ってはいけない、というのが今回の控訴審裁判だ。
じゃあ、裁判員裁判はどうなんだというのが私の言いたいこと。 裁判員裁判ほど誘導てんこ盛り、有罪推定一色、検察助け船総繰り出しの裁判はない。

まあ、ここで控訴審裁判官は裁判官としての矜恃を見せたのだろうが、一審の裁判員有罪判決をひっくり返すまでの意地はあるか。00804-450x337

 

 

 

 

投稿:2013年7月29日