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夏草や 出前講義の 夢の跡

1-e1397901276348「出前講義」を覚えているだろ。

006311009なんとか覚えています。でも、忘れかけてるかな。

1-e1397901276348心細い後輩だ。

0011776月27日の「制度の墓穴を掘った出前講義‐その近況報告」を思い出しなさい。もう一つ、去年9月6日の「最高裁は出前講義『まいど!裁判所です』で何を訴える」もある。

006311009すみません、最近は「国会前抗議」の勢いが強いもんで、影が薄くなって…。

1-e1397901276348だじゃれでごまかすな。出前講義の影はもともとあるかないかわからんぐらい薄い。忘れっぽいだけの話だろうが。まぁいい、親切な先輩はもう一度説明してあげよう。

焦る(意地悪しないで、話せばいいのに。本当はしゃべりたいんでしょうが。)

1-e1397901276348前回は、全国的に見た出前講義の実施状況の話だった。言ってみればマクロ分析だ。今回はミクロ分析としゃれる。

焦る(どこがしゃれだか…。)

1-e1397901276348本論に入る前に、ちょっとだけ国語学的勉強をしておこう。それは『出前』の用語分析だ。

焦る後輩を試したりしないで、すっと話に入って下さいね。

1-e1397901276348もちろん、すっと入るさ。「語源由来辞典」によると、「出前」は、明治頃までは、「年季勤めが終わって遊里を出る前」を言う言葉だったらしい。一葉の世界の話だ。裁判員制度で言うと、お役御免になるまでは宮仕えの裁判官として否応なしにやらねばならない講義、ということになる。ここには、「あぁ早く解放してほしい」という思いが込められている。

006311000ふーん。

001177「時間的な手前」ではなく、「物理的にお客様の御前(おんまえ)」の意味ではないかという説もあるようですね。

006311000そうなんですか。

1-e1397901276348「笑える国語百科辞典」に倣って、わが裁判員制度について言うとこうなる。「裁判員裁判の出前講義とは、世界中で日本にしかない裁判制度解説のデリバリーサービス。本当は裁判所に来させて教えるのが理想なのだが、そんなことを言ったら絶対に来てくれない人々を相手に、わざわざ裁判所の外まで出かけて行って解説する。裁判所の雰囲気や裁判のリアル感がまったくないどこかの会社の会議室などで行われる。制度に反発する市民感覚を裁判官に直接体験させるという致命的なリスクがあるが、背に腹は代えられないとして実行の大号令がかかった。注文がないのに拝み倒して注文をさせるところに特異性がある。」

001178まね0あのー、そろそろ本論に入りませんか。

1-e1397901276348はい。インコは、実際に、各地の地方裁判所がどのように「出前講義」をしているのか、各地の裁判所に尋ねてみた。

001176すごい、ホントですか。

1-e1397901276348インコは、誤字脱字とうっかりミスは時々するが、4月1日以外、ウソは言わない。

焦る(胸張って言うことかしら。最近も『北日本新聞』と『北国新聞』を間違えたしね。)

1505013で、どういうことに。

1-e1397901276348東京地裁と札幌地裁と福岡地裁に、司法行政文書の開示要請をして、出張講義の実施に関する説明を求めたんだ。その説明の前に、前回紹介した今年4月末までの全地裁の実施状況のうち、この3地裁のデータをあらためて紹介しておこう。
1508301 1-e1397901276348まず、去年6月に、最高裁事務総局の刑事局第一課長と広報課長が連名で全国の高裁と地裁の事務局長宛に通知を発し、同時にボスの刑事局長が全国の地裁所長宛に通知を発した。

006311000物々しいですね。

001177そういえば、この人たちはみんな超エリートコースを走っている現職の裁判官なんですね。裁判はやらず、司法行政にしか関わらない裁判官たち。

1-e1397901276348そうだ。この通知は、全国の地高裁に送られたのだが、何と言っているかというと、まず、連名通知は、「8割を超える国民が参加に消極的で、不安を感じている。改めて広報を通じて正確な制度情報を発信したい。この機会に国民の生の声を聞き制度に対する意見や理解の程度を把握することも必要だ。別記の実施要領を参考に広報活動を実施してほしい」と、まぁこんなことだった。

001181危機感がひしひしと伝わってきます。でも「正確な制度情報を発信」すると、ますますみんなが消極になり、不安になるっていうことは考えなかったのかしら。「国民の生の声」を聞き「意見や理解の程度を把握」したら、それこそ制度はもうおしまいなるって。

1-e1397901276348刑事局長の地裁所長宛の通知は、もっと率直だ。「人的態勢が足りず広報が不活発だ。各裁判所がきちんと情報を発信し、地域住民の意識動向を把握する取り組みをしてほしい。5周年記念イベントに終わらせず、地域社会との関係を深め、裁判官・職員は地域社会の実情や住民の生活実態などから得た知識・情報を制度運営に生かしてほしい。所長はリーダーシップをとって庁全体で取り組んでほしい」

006311000これはもう血眼という印象ですね。

1-e1397901276348そう、キミもときどきいいことを言う。そのとおり血眼だ。

006311000の実施要領とかいうのはどういうものだったのですか。

1-e1397901276348広報はこういう風にやれという指示が中心だ。1つひとつ説明する必要もないだろう。ただ、気になったところを言えば、例えば、「制度運営が比較的順調に推移していることを理解してもらう」なんて言っていることだな。

006311000比較的順調に推移しているってウソじゃないですか。

001177ウソは最高裁の始まりって言いますから。

1-e1397901276348二課長連名の通知では使っていなかった「出前講義」という言葉が局長通知とこの要領中で堂々と使われていることも挙げておこう。この用語は江戸時代からある言葉だとしても、一種の俗用語で、公式の文書中で使うのは恥ずかしくないのかとインコなどは思うのだが、こういうのを恥も外聞もなくと言うのかな。

001177「外聞」が破滅的に悪い状況に陥っているのですから、もうその辺りは気にする問題じゃなくなってるんでしょうね。

1-e1397901276348「売り込み」を行う相手として、「商工会議所」「地元有力企業」「ロータリークラブ」を挙げている。自分たちの行動を「売り込み」という神経も大したもんだが、こういう団体が役に立つというか、役に立ってほしいと思っているところに彼らの「仲間意識」が透けてみえる。

001181最高裁判所が認定する「有力企業」に裁判員制度の延命を託していると…。

1-e1397901276348「制度実施前に行った調査の際のコンタクトポイント」も活用せよと言っている。

006311000それって、東京電力とか東芝とかの超大企業のことじゃないですか。

1-e1397901276348コンタクト先の中心がそういう会社だったことは疑いない。こういう大企業が裁判員制度の実施後に生きるか死ぬかの局面に突入してしまったのは偶然じゃないだろう。いまや「活用」なんてできる状態ではない。

001177さぁ、この通知に、各地裁はどう答えたのですか。

1-e1397901276348福岡地裁は、各出前講義に裁判員経験者各1名程度の参加を計画し、各講義の時間を1時間程度(説明20分、質疑30分) と決めた。そして、「出前講義 承ります。」というチラシを準備することにした。

1505013で、行われた出前講義の内容はどういうものだったんですか。

1-e1397901276348そこだよ、問題は。聞いてくれ給え。福岡地裁では、結局たった1件しか出前講義が行われなかったのだ。たった1件だぜ。大山鳴動出前1件。参考までにその結果報告書と参加者の声を紹介しよう。

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1-e1397901276348報告書の「講義の実施状況等」の欄には、「裁判官から裁判員制度の実施状況や裁判員に選任されるまでの流れについて説明した後、裁判員経験者から評議の雰囲気、審理の感想などを語ってもらった。座談会参加者からは活発に質問や意見が出された」とあるが、その内容はまったくわからない。「参加者の声」は一字残らず墨塗りだ。一切がわからない。10の発言があるようだが、延べ10なのか実数10なのかもわからない。

1505013これで「地域住民の意識動向を把握」できたのでしょうかね。

1-e1397901276348わからん。それにしても地域住民が何と言っていたか、まったく開示しないというのはどういうことだ。名前も住所も出ないのだから、誰が言ったかわかる訳がない。プライバシーの心配など何もない。よほど開示が不都合な話が続出したのかと推測されても致し方ないだろう。

006311000東京地裁はどうだったのですか。

1-e1397901276348東京地裁の開示文書の中には福岡地裁のそれとは別のものがあった。去年7月に最高裁事務総局の刑事局課長補佐が、各地高裁の事務局総務課長に「出前講義を実施した都度、実施翌月末日までに最高裁が指示した様式で結果報告をせよ」と事務連絡をしていたことがわかったのだ。

006311000すごい統制ですね。

1-e1397901276348最高裁は、その報告書の書き方について詳しく指示している。例えば「参加者の声」欄には、わざわざ記載例まで付けて、「発言者が何らかの背景事情(仕事が繁忙、未就学児の育児等)に基づいて発言をしている場合には、その背景事情についても、発言内容からわかる範囲で簡潔に記載する」ことを要求している。

006311000どんな記載例になっているのですか。

1-e1397901276348講義の実施状況等の欄には「座談会参加者から活発な質問や意見があった。評議の様子、審理の感想など裁判員経験者から語ってもらうことができた」とある。「参加者の声」欄は、裁判官が聞いて整理してまとめた文章になっている。例えば、「講義前は守秘義務に疑問を感じている参加者が数人いたが、講義後はその必要性を理解していただいた様子であり、否定的な意見は見られなくなった」などとある。

006311000なんだ、それって「生の声」じゃないじゃないですか。内容そのものも結論先行のようだし、二重にヘンです。こういうまとめ方をしろって指示するのはどう考えても押しつけですよね。本気で現場の声を聞く姿勢などないことを窺わせますね。

001177で、実際の報告書はどうなっているのですか。

1-e13979012763485通の報告がついている。東京地裁は7回やっているというので、このズレは不可解だが、とにかくそういうことだ。実施状況等の欄には、「具体的な体験談だったので良く理解されたと思われた(15人集まり「声」は2)」「適宜説明をした後質疑応答(150人程度で10)」「裁判官の制度説明の後多くの質問(21人で10)」「裁判員経験者と掛け合い。参加者から活発な質問(60人で20)」「活発な質疑応答(30人で9)」「熱心に聞き活発に質問意見(約50人で7)」などと書かれている。そして、「声」はこの2+10+10+20+7のすべてが墨塗りだ。

006311000これで実情が分るようにはとても思えません。まずまず良かったという声がほとんどのようで、これでは特に懸念する問題はないってことになりませんか。それにしては「声」の全部を開示しないのは理解不能です。裁判官がまとめてしまった声では意味がないけれど、それでも見せる訳にいかないというのはよほど具合が悪いということでしょうかね。

001177さぁ、北に行って札幌地裁はどうでしたか。

1-e1397901276348札幌地裁は最高裁のいう約1時間では無理だと考えたのか、1時間30分程度という計画を立てたようだ。
札幌地裁は、まず、裁判員経験者が所属する会社などに出向くことを計画した。その方が実現しやすいと考えたのだろう。経験者全員に声を掛けるか、協力してくれそうな人に頼むかは各担当部に任せるということにした。

006311000裁判員にそんな協力を頼むことができるんですかね。

1-e1397901276348そこがそもそも問題だ。各裁判所は、裁判官などと行う意見交換会に参加しても良いという裁判員経験者のエントリーリストを作っているようだ。札幌地裁は、このエントリーリストを使って裁判員経験者に協力を要請しようとし、「意見交換会にエントリーした人に働きかけても良いか」と最高裁に問い合わせたんだ。そしたら、刑事局第一課長補佐は「意見交換会への参加の了解を取りつけていても、出前講義に駆りだされるという前提は含まれていない」から「意見交換会へのエントリーリストを利用した募集はするな」と明確に差し止めた。

001177札幌地裁はよほど焦ったのでしょうが、それは目的外使用の典型で、当然でしょう。それにしても、最高裁が「出前講義に駆りだされる」という言葉を使ったというのは本当ですか。

1-e1397901276348本当だ。札幌高裁事務局総務課課長補佐がそのとおり電話聴取書にまとめている。

001177そうですか、やっぱり最高裁自身が「駆り出す」という意識でいるんですね。こういうやりとりが部外に漏れることがあるとは思っていないんでしょうか。それともみんな浮き足立っていて、そんなことを考えるゆとりもないのか・・・。

1-e1397901276348どうやら経験者への連絡は地高裁内部で紛糾した気配だな。しかし、結局、裁判員経験者で講義に参加すると答えた人は1人もいなかったらしい。またそれ以前の問題だが、出前をやってくれと申し入れてきた団体がそもそもなかった。それこそ話にならん状態だ。いつ作成された書面か年月日の記載がないが、「現時点で広報を希望する団体等はいない。このままでは期限までに出前講義が実施できないおそれがある。しかし実績なしという結論は好ましくない」などと、ほとんど悲鳴に近い言葉を吐いている書面がある。

001177参加を了解した裁判員経験者は1人もいなかったのですか。札幌地裁の裁判員裁判は去年の段階で150件くらいになっていますから、裁判員と補充裁判員の数は1000人を優に超えています。その中からたったの1人も出前講義に参加すると言ってくれる人が出てこなかったというのは、それはもう言葉もないほどの驚きです。

1-e1397901276348しかし、ついに出前を頼むと言う会社が1社現われた。地裁所長は失神するくらい喜んだだろうなぁ。年度末ぎりぎりの3月28日にこの会社の本社会議室に24人が集まって、出前講義になった。報告書の実施状況欄には「全般的に裁判官の講義を真剣に聞いてくれた。複数の質問が出た。笑いも混じった」とある。一番笑ったのは裁判官だったとは書いてないがね。この日、6つの質問意見があったらしい。

006311000札幌地裁はこの1件だけなのですか。

1-e1397901276348そう、この1件だけだ。

006311000そういえば、福岡地裁の1件は、今年の4月13日、それこそ実施期間終了間際、ギリギリのところでした。地裁所長はこの1件に欣喜雀躍、歓欣鼓舞、狂喜乱舞、有頂天外・・・。

1-e1397901276348オホン。とにかく、この1年、テラダ長官の大号令で、上を下への大騒ぎの出前講座だったが、本当に、大山鳴動して鼠一匹というか、七転八倒してもこれだけの結果しか出なかった。そしてそれが裁判員制度の現実だということが国民の前に示された。使った司法予算だってもちろん馬鹿にならない金額になった。

001181れにしても、忙しい中で出前講座に出席した社員の皆さんはどういう質問や意見をぶつけたんでしょうね。

1-e1397901276348からんが、福岡地裁だけでなく、東京地裁も札幌地裁もそろって「声」欄が全部墨塗りだ。どの「声」欄にも「好ましくないこと」が書かれていて、すべてについて最高裁が各地裁に真っ黒に墨を塗れを指示したと考えるしかないね。

001177そうですか、では、「裁判員制度は今や真っ暗闇」を暗示するこの「声」の頁を、東京地裁(左)と札幌地裁の分も1頁ずつ紹介しておきましょう。これが現在の裁判員裁判のありのままの姿だと思って下さい。
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admin-ajax[1]あ、どこからか「どうせこの世は真っ暗闇よ」なんて聞こえてきたような…。

*8月31日追記
札幌弁護士会の猪野亨弁護士にブログ裁判所の裁判員制度に関する「出前講座」のお寒い末路で本記事をご紹介いただきました。

 

投稿:2015年8月30日

『北日本新聞』社会部記者が報じた現実

しらえび 蛍イカ ぶり etc、天然のいけすで獲れるきときと(新鮮)な魚と蜃気楼の国から、裁判員制度の晩景を描くお便りが届いた。裁判員裁判に関する情報が意外に途絶しているメディアの世界。「いいわいいわ」でひたすら走ってきたため、悲惨な現状に遭遇するとどう表現したらいいのかわからなくなる。そういう彼らの目にもようやく裁判員裁判の実相がリアルに見えてきた。今回は『北日本新聞』社会部記者の目を通してこの制度の否応ない現実をつぶさに観察してみよう。

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裁判員制度が2009年にスタートして21日で6年。県内で裁判員候補者が選任手続きのため富山地裁に出向く出席率が同年の88.4%から14年は67.1%となり、地裁の呼び出しに応じない候補者が増えていることが、最高裁のまとめで分かった。制度が社会に定着しておらず、同地裁は広報強化のほか、分かりやすい裁判に力を入れる。ただ、裁判員の負担軽減を重視するあまり、被告の処遇と更生を考える裁判本来の機能を損なう危険性を指摘する専門家もおり、課題は多い。
(社会部・高嶋昭英)

150819-1 出席率は、裁判員候補者名簿から抽出された候補者のうち、病気や仕事で事前に辞退を認められた人以外が、選任手続き日に裁判所を訪れる割合。選任手続きでは、一般的に80人前後を呼び出し、裁判長が候補者と面談などをして、裁判員を選ぶ。

 これまで県内で行われた裁判員裁判は29件と少なく、比較は難しいが、14年は呼び出された候補者の出席率は施行初年から20ポイント以上も低下した。全国も同様の傾向で、約3割の人が期日に出席を求められたにも関わらず、“無断欠席”していることになる。150819-6

 高岡法科大の西尾憲子准教授(刑事法)は「仕事や生活への影響を心配する人や、専門的なことに判断を下したくない人はまだまだ多い」と話す。日本世論調査会が3月に行った全国世論調査では、裁判員を務めたくないと考える人は7割近くに上り、「仕事への影響」「重要な判断をする自信がない」と理由を挙げる人が最も多かった。

 制度が社会に定着していない現状を踏まえ、最高裁は昨年、全国の地裁に広報強化を通知。富山地裁は昨年末からことし5月にかけ、裁判官が希望団体に出前講座を開き、概要や意義を伝えている。

 富山地裁によると、実際の裁判では難しい用語をなるべく使わないほか、裁判官は裁判員が積極的に参加しやすいよう雰囲気づくりに務める。評議の際はボードに要点を書き出したり、一般的な量刑の資料を配付したりして、判決を下す心理的なハードルを下げる工夫を凝らす。

 ただ、スケジュール管理を含む裁判員の負担軽減を重視するあまり、審理がおろそかになりかねないケースも出ており、国民参加の司法の実現は一筋縄ではいかない。

 県内で5件の裁判員裁判の弁護を担当した西山貞義弁護士(富山中央法律事務所)は「裁判官が裁判を1分でも短くしようとする傾向が強くなった。犯行の背景や被告の生い立ちなどを説明する時間が少なくなった」と話す。公判前整理手続きでは、弁護側が量刑に関わると考える主張や証拠の採用を求めても、裁判官から断られるケースが増えたという。「裁判官だけで主張や証拠の採用を判断しすぎると、裁判員裁判の意味が失われてしまう」150819-7

 また、高岡法科大の西尾准教授は「分かりやすさを求めすぎると、事件の本質が見えなくなる恐れがある」と指摘する。県内では昨年、傷害致死罪などに問われた少年の裁判員裁判が2件開かれるなど、短い日程の中で少年の心を見つめ、刑罰の意味を考え、更生を考えるという難しい判断を求められる裁判も増えた。「複雑な背景を持つ事件が単純化されてしまう危険性を意識すべき」と話している。(2015年5月21日)

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北日本新聞「記者ブログ」2015年6月14日

投稿:2015年8月19日

8月15日キネン 裁判員法施行6周年インコ壇話

「僕が20歳になるころ、裁判が変わる。いろんな犯罪を自分たちの問題だって思えるかも知れない。自分の経験と知識を裁判に活かす」

これは裁判員制度宣伝のキャッチコピーです。2009年の裁判員裁判開始に向けて全国の裁判所や役所や学校内に張られたポスターにこの言葉が踊っていました。思い出される皆さんもいるでしょ。そして皆さんは20歳になった。さぁ、いろんな犯罪が自分たちの問題だって思えるようになりましたか。自分の経験と知識を裁判に活かせそうな気分になっていますか。それにしてもどういう経験をしたのでしょうね。20歳そこそこで、裁判に活かせる過去とは・・・。

話は変ります。今日は8月15日。この日を「終戦記念日」と言う人がいますが、中国侵略から太平洋戦争に至る15年戦争を始めた連中がタオルを投げた日、天皇が降参宣言を世界に発した日、つまり「敗北宣言日」です。「戦いを終えた日」なんていう言い方には大きなウソがひそんでいる。戦争は2度とやらせないと誓う人たちは決して使わない。またやるかも知れないと思う人たちは好んで使い、曖昧な言い方を好む人たちも使いがち。

そう言えば、究極のキャッチコピーは戦時国策標語(スローガン)です。インコは、戦後70周年のこの日を記念し、謹んであの時代の戦時国策標語“鳩首”をお届けします。
2013年9月にも「等質の時代背景は等質のスローガンを作る =第1篇=」及び「等質の時代背景は等質のスローガンを作る =第2篇=」で紹介させていただいた『黙って働き 笑って納税』(里中哲彦著)にまたまたご厄介になります。前回とダブってはいませんので、そちらも見てくださいね。

『権利は捨てても 義務は捨てるな』(昭和8年)
裁判員法は裁判員になるのは国民の義務と言った。けれどよく考えれば権利のようなものだから憲法が禁止する「苦役」にならないっていうのが最高裁の立場なんですよね。たいていの人はそれは屁理屈だと思う。時が違えば理屈も変り、わが国をめぐる安全環境が違えばとりわけ変る。昭和8年は「義務は捨てるな、権利は捨てろ」だった。権利になったり義務になったり、ホント支配者っていうのはカメレオンなみのご都合主義。いや、そう言ってはカメレオンに失礼。030457

『心磨けば 皇国が光る』(昭和8年)
いろんな犯罪が自分たちの問題だって思えるようになったり、自分の経験と知識を裁判に活かせるようになれば、それは心が磨かれたってことですよ。そうするとすめらみことが統べらはるこの「神の国」が光ってくるよってに。光ってどうするのって? 光って世界に冠たる国になるのよ。ほら、この国のオリンピックのなにやら偉い人って「神の国」の人でしょ。金メダルたくさんとって光輝きたくて仕方ない国威発揚のこの御方。この人、他人がこけたの笑って今度は自分がこけてる、あなおかし。

『覚悟の前に 非常時なし』(昭和10年)
武藤なんとかという議員がいましたね。いや、いたじゃなくてまだいる。「国会前で演説している学生集団の主張は、『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心の極端な考え。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のためと思うが、非常に残念」と非難したという。彼は国民に身を投げ出す「覚悟」を迫っている。覚悟の前ではすべての非常は日常になる。それがわからんのは非常に残念とね。ま、国民がみなこの精神になってくれれば裁判員制度は命長らえるんだけど、そうならんのは戦後教育のためでしょう。だから改憲なんだし、だから改憲阻止なんだね。彼は安倍首相の考えをそのまま言ってるつもりなんでしょ。ところで、この彼、「政治家が戦争に行くと国家としての意思決定ができなくなるので、僕は行かない」とも言っているんですよね。そういえば、国会議員は裁判員にならなくていいようになっている。031106

『護る軍機は 妻子も他人』(昭和13年)
 軍事機密は妻子にも秘密にせよと。戦時には天気予報も軍機になったんだって。「お父さん、明日の天気は?」「そんなこと聞いちゃダメなんだよ」ってね。見てはならぬものを見、聞いてはならぬことを聞き、知ってはならない話を知った以上は、生涯にわたって誰にも漏らしてはならない。妻子には迷惑なこっちゃ。いやいや迷惑どころか家庭の破綻にもつながりかねない。何かお父さん隠している、あれ以来顔色が悪い。黙って医者に行ってるようだけど、どこが悪いのか家族にも言わない。聞くともっと悪くなりそうで聞くに聞けない。テレビでPTSDだかになった人のニュースを見たけれど、お父さんもあれかなぁ。

『日の丸持つ手に 金(きん)持つな』(昭和14年)
アジアのリーダーは日本。おかしなことを言う奴らは成敗すべし。そして日の丸の旗を思いっきり振ろう。金(カネ)? カネなんか要らない。要らないよね君たちは。足りぬ足りぬは我慢が足りぬだ。旗を振ってりゃ腹もいっぱいになる。ま、君たちはせいぜい裁判員になって日当1万円で喜んでなさいよ。「我と来て 裁けや職の ない大人」という歌もできたでしょ。職がないのは誰の責任だって? じゃあ景気回復のため、平和のための戦争を始めますか。だから「現代の赤紙」にも応じてね。030558

『征けぬ身は せめて育児で御奉公』(昭和14年)
竹島にも尖閣諸島にもホルムズ海峡にも行かない私は、せめて裁判員になろうと心に決めました。その日の私の育児は放棄です。そしたら死刑求刑の深刻な事件。裁判長から写真は目をつぶっていてもよいとか、どうにも無理なら今の中に辞退申し出をなんて言われましたが、そんな説明だけでやめるもやめないも決めようもありません。仕方なく引き受けますと言いました。評議の時に死刑に賛成した裁判員は**人、裁判官は**人、どうしても*******と言う裁判員がいましたが、裁判長は******と言い、陪席の裁判官は****と言いました(**のところは話してはいけないところだそうですので、伏せ字にさせていただきます)。

『儲けることより奉仕の心』(昭和15年)
働いて働いて奉仕しなさい。儲けるのは忘れなさい。儲けることは君たちのような一般国民が考えなくてよいことです。それはちゃんと教養を身につけた経済の達人がしかるべき方策を駆使して儲けてくれるから、君たちは安心して粗衣粗食の生活をしていればよいのです。儲けているんじゃなくて、家族が明日食えるように稼いでいるだけですと? いやいやそこが問題なのです。その気持ちには慢心があります。ご飯を減らし、惣菜を減らしなさい。それができないのはつまり慢心、慢心。それが儲け心につながるのです。あなたは努力が足りない。何をすれば奉仕になるかとお聞きですか。手間のかかるお人だ。そりゃ裁判員ですよ、裁判員。やった人はみないい経験をしたって言っていますよ。081901

『屠(ほふ)れ米英 われらの敵だ』(昭和16年)
鬼畜米英という言葉も広く使われました。敵、鬼、畜生…。インコとしては、鳥(とり)と言われなかったのはほっとしますが、戦争とは恐ろしいものです。日本人がアメリカ人やイギリス人を鬼のように憎まなければいけないという理屈がどこで作られるのか。誰がそういう関係を作り出すのか。戦後はころり変わって「頼れ米英 われらが味方」になったりするんですからね。これもひどいご都合主義です。こういう手合いは、またまた勝手な理屈を押し立てて戦争を企てたりするだろうとインコは懸念します。制度実施前、最高検察庁の総務部長(当時)は、「殺人事件の被告人や被害者と向き合い、被告人をどう処罰するか考える。国民が、直接、事件に触れ、判断することで、子どものしつけや教育にもいきてくる」と言いました。さすが、検察官、裁判前から有罪確定を確信。今や、裁判所に出てくるのは、「屠れ被告人、われらの敵だ」というような人ばかりかと・・・。

『いつでも征(ゆ)ける 身体作れ』(昭和16年)
インコ放送局トホホニュース。政府・最高裁は、裁判員経験者がPTSDや AHDなどで精神を病む国民が増えると裁判員制度の存立が危うくなると懸念し、国民の体力向上を追求する教育機関の設立構想を発表しました。この組織は、裁判員になった国民が厳しい状況に直面しても精神的な打撃を受けないように日頃から激しい肉体的・精神的打撃を経験させ、強い抵抗力を身につけさせることを目的としています。その標語は「いつでもやれる 身体作れ」です。この機関は国政選挙に投票する資格がある人は誰でも入れますが、入りたいと希望する人が少ないことを心配する声が上がり、結局、体力試験で一定の点数以下の者は入ることが義務づけられることになりそうです。 

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投稿:2015年8月15日

インコの苦役論 裁判員制度を徴兵制に置き換えると?

1-e1397901276348難行苦行の酷暑が続く時期にふさわしく、今日は裁判員制度の苦役論を考えよう。このところなにやら「苦役」をめぐる話題が多いこともあるし。

001176(南部先生の論文に刺激されたのかしら…気合いが入っている)

1-e1397901276348「苦役」とは、何のことかキミわかるかな。

006311000「くやく」ですね。わかります。苦労して点になる牌の組み合わせを作ることでーす。

怒りアホ。今、何の話をしていると思ってるんだ。読み方から間違ってるんだからそれこそ話にならん。基本から話そう、「役」にはもともと「やく」という読み方と「えき」という読み方がある。

006311009ボク少し混乱しているかも。

1-e1397901276348大混乱していると言え。「やく」は呉音、「えき」は漢音。山立小学校で習ったろうが。

006311009習ったような習わなかったような…。

1-e1397901276348そういうのを「私の勉強はやくに立っていません」と言うのだ。「役」の意味は呉音も漢音も基本は同じで、官が人民に労働を課すことや課された労働そのものを言う。ただニュアンスが少し違うな。「やく」と言えばつとめ、職務、官職、任務というような意味合い、一般的には大事な仕事や高い地位を指して言うことが多い。

006311000なるほど、それが「えき」と言うと少し違ってくると。

1-e1397901276348そう、「えき」になると人民を徴発してこき使うというニュアンスが強くなる。つらい仕事をさせるということだ。例えば、役務、賦役、使役、服役、懲役なんていう。兵役という言葉もあるぞ。

006311009うへっ。しっかり辛くなりました。これからは何が作れても「くやく」とは申しません。

001178まね0(なに言ってるんだか) もうそろそろ本論に入りません?

1-e1397901276348うむ、キミのおかしな応対が私に道草をさせたぞ。私は早く本題に入りたかったのだが。

001178まね0(すぐ人のせいにする)

1-e1397901276348裁判員裁判に国民を強制動員するのは憲法が禁じる「苦役強制」ではないかというのが裁判員制度をめぐる大論点の一つだった。

001177このウェヴで何度も論議してきたことですね。

1-e1397901276348そのとおりだ。最高裁は2011年11月、大法廷判決の中で、裁判参加を国民に義務づける裁判員法第112条一号を説明して、「この義務は参政権に類するもの」と言っていた。

001177「裁判員の職務等は、司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであり、これを『苦役』ということは必ずしも適切ではない」と断言していたのですね。

006311000権利に類する義務」ですか。「参政権に類する」からそれは「苦役」でないという訳ですね。

1-e1397901276348そう、最判は「民主主義を国是とする国家においては、司法への国民参加は国民が自らの問題として自発的・意欲的に取り組む課題になり得る」と言った。

001178まね0わかりにくい話です。教育も勤労も納税も、「国民が自らの問題として自発的・意欲的に取り組む課題になり得る」かも知れないですが、それでも憲法上しっかり国民の義務として規定されています。誰も権利のようなものなんて言いません。

1-e1397901276348はっきり言えば、言葉の言い回しで物事の本質をごまかすなっていうことだ。

006311000わかります。義務はどう説明しても義務、権利はなんと言われても権利。権利と義務をごっちゃにするのはウソの始まりだと山立中で習いました。

1-e1397901276348そう、裁判員は権利のようなものと言ってみても所詮はアンコウのようなもの。

焦る(それはここで言う話かしら。話をわかりにくくしないほうが…)

1-e1397901276348裁判員参加が強制であることはどう取り繕っても隠しおおせない。「権利のようなもの」なら苦役じゃなくなるんだったら、苦役の抜け道はいくらでも作れる。

001177「嫌なことは無理強いされない・嫌がることを強いてはならない」というのが苦役禁止の基本の考え方なんですね。裁判員になるのはイヤだという人を無理に裁判員にさせてはいけないと。

006311000そう言えば先輩。最近、「徴兵制は憲法第18条の苦役強制禁止に抵触するのではないか」ということが日本の国会で論議されているようですね。

1-e1397901276348おお後輩よ。よくぞそのことを言ってくれた。私はその話をしたいと思っていた。

006311000と言いますと。

1-e1397901276348安全保障法の審理の中で、安倍政権の憲法解釈に立つと現憲法下で徴兵制が導入されることにもなり得るのではと追及され、安倍首相は「徴兵制は憲法第18条が禁じる苦役に該当するから徴兵制導入はまったくない」と強く反論している。

001177安倍首相は、短期間で隊員が入れ替わる徴兵制では精強な自衛隊が作れないなどとも言っていますね。

006311000その話、ボクも聞きました。徴兵制は本当に「苦役」に該当しないんですか。

1-e1397901276348安全保障法に注目する人たちのうちどれくらいが裁判員制度にも関心を持っているのかわからないが、この国の最高裁が、「裁判員になるのは権利を実現するようなものだから苦役にならない」と断言していることにもっと関心を寄せてほしいと思うね。

001177最高裁の理屈に立つと、徴兵制は「苦役」ではないという解釈論が司法上の見解として出てくる余地があるのではないかと。

1-e1397901276348そうさ。最高裁は「民主主義を国是とする国家においては、司法への国民参加は国民が自らの問題として自発的・意欲的に取り組む課題になり得る」と言うんだから、この「司法」を「安全保障」に置き換えれば、それで徴兵制は「苦役」ではなくなることが十分考えられる。

006311009ーん。

1-e1397901276348安倍首相は「徴兵制は憲法第18条が禁止する『苦役』に該当する。首相や政権が変わっても導入はあり得ない」なんて何度も言っているけれど、そんなに明確に言い切れる話じゃないだろう。

1505013うーん、うーん。

1-e1397901276348国民の司法に対する理解と信頼を強めるためと称して裁判員制度が登場した。そして裁判員になるのは「苦役」の禁止に触れないと最高裁が判決した。それなら、国民の安全保障に対する理解と信頼を強めるためと称して徴兵制が登場し、徴用されるのは「苦役」の禁止に触れないという理屈が登場してもおかしくない。

006311000短期間で隊員が入れ替わる徴兵制では精強な自衛隊が作れないっいうのはどうですかね。

1-e1397901276348いやいや、ど素人が日替わり週替わりで法壇に座って裁判官と一緒に裁判をすることが、司法への理解と信頼を厚くすると言ったのだ。「精強な裁判官」も顔色なしの判断を最高裁は平気でする。それと同じさ。ど素人でもプロの軍人たちと一緒に砲弾をぶっ放しているうちに安全保障に対する理解や信頼が厚くなる。

001181そう言えば、太平洋戦争で日本が負けたのは徴兵制のためだなんていう議論は聞きませんね。

006311009怖い話になってきました。でもそんな論議は国会でされていないような気がしますが…。

1-e1397901276348そう、そのような議論がされているという話は私も聞かないな。

001177「集団的自衛権に関する憲法解釈の変更が可能になるなら徴兵制の導入もあり得ることになる」と言う野党議員はいますが、首相には「論理の飛躍がある」とか「国際的に非常識だ」などとかわされています。

1-e1397901276348それは、私に言わせれば、最高裁の論理に飛躍があるとか、最高裁の理屈は国際的に非常識だとか言っているのと同じだな。

001177集団的自衛権の合憲性について砂川事件の最高裁判決に寄りすがる政府です。裁判員は苦役でないという最高裁判決をステップにして徴兵制導入を言い出すかも知れないっていうことでしょうか。

1-e1397901276348そのとおりだ。それは決してあり得ない話ではない。『読売』の社説を見てご覧。「徴兵制導入は飛躍した議論だ」という見出しで、「徴兵制には禁止を継続すべきだとの共通認識が存在する」なんて言っている(8月4日)。

001177おもしろい論拠ですね。それを言うなら、裁判員はやりたくないというのは今や完全に国民の共通認識です。それなのに裁判員制度が依然として実施されているのをどう説明するのでしょう、この新聞社は。

1-e1397901276348そういうことさ。裁判員「苦役」論は徴兵制をめぐる国会論議に大きな材料を提供するものであり、徴兵制をめぐる国会論議は裁判員制度の憲法上の重大問題をあらためて浮き彫りにしている。そういうことだろうね。

 

投稿:2015年8月9日

ストレス「苦役」論文を読んで

                                                                岐阜県の一弁護士

 貴欄で紹介された「裁判員のストレスと『苦役』に関する一考察」を拝読しました。著者南部さおり先生の基調は専門家としての怒りと知識の壮絶な合体です。感銘を受けました。ひとこと感想を述べさせていただきます。192754

 「障害(ASD)を負わされた裁判員経験者にとり、裁判員裁判への強制参加は憲法第18条後段が禁じる『その意に反する苦役』にほかならない」という先生の結論の素材は福島地裁のストレス国賠訴訟です。また先生は重要な判断材料として2011年11月16日最判を踏まえています。

 福島地裁は、元裁判員の原告が裁判員裁判の審理・評議・評決に参加したこととASD発症の間には相当因果関係があるとし、裁判員体験が障害を引き起こしたことを認めた上で、しかし国にはAさんの被害に関して責任はないという結論を導いたのでした。

 判決の論理は次のとおりでした。
一部の価値観を持つ者だけが裁判員に選ばれたのでは刑事裁判が国民から理解信頼されない。制度目的達成上選任強制は合理的である。精神的負担を想定して法は辞退事由を規定して辞退事由政令は精神上などの重大な不利益が生じ得る場合にも辞退を認めている(凄惨な内容の証拠資料に触れることが裁判員候補者として呼び出しを受けた者にとって心理的・精神的に重大な負担となることが予想される場合には、辞退を弾力的に認めることができるものと解される)。

 判決は次のようにも言いました。
選任後でも申立てに理由があれば解任され得る。辞退理由の事前説明や証拠厳選や簡略審理など努力の蓄積により裁判員の精神的負担は相当軽減でき、国民の負担は合理的範囲にとどまる。よって裁判員の職務は憲法第18条が禁じる『苦役』に当たらない。

 しかし、裁判員候補者に裁判所から送られてくる呼出状には「選任手続きを行うから裁判所に来るように」とか「正当な理由もなく応じないと10万円以下の過料に処せられることがある」などと書かれているだけで、辞退事由に関する記述はまったくありません。同封の「解説パンフ」を読んでも辞退が広範に認められているなどとは書かれていない。むしろ辞退は極めて限られた場合にしか認められないと読める書き方になっています。192755

 南部先生は「(原告には)恐喝を受けたも同然の脅威であったろう」とされますが、私も同感です。福島地裁判決はまず選任前の段階で現実とかけ離れた空論を展開していると言わざるを得ません。

 先生は、福島地裁判決は11年11月の最高裁大法廷判決の文言を踏襲しただけだと断じた上、次のように指摘されました。最高裁を踏襲するのなら、最判を受けた各地裁としては辞退事由政令に関する具体的な情報を裁判員候補者にきちんと提供することが必須の要件になるはずだ。しかし、福島地裁郡山支部の裁判員裁判では、裁判長は凄惨な内容の証拠資料に触れる可能性を事前に説明しなかったし、その上で辞退事由の説明を行うなどということももちろんまったくしなかった。

 最高裁の判断は、辞退事由に関しあらゆる事態を包括する「一般条項」を設けその判断のすべてを個々の事件を扱う裁判官(裁判長)の裁量に丸投げするもので、一人ひとりの裁判官に裁判員の適性を査定させることはそもそ可能なのかという点でも甚だ疑問だ。

 先生は、このような論理構成で対抗すれば福島ストレス国賠訴訟の矛盾が合理的に曝かれるのではないかと推論されました。「一般条項」に基づく丸投げで苦役論は克服されようもありません。現実性のない「打開方法」を示して苦役論を突破しようとしたこと自体が憲法が禁じる「苦役」を事実上認めたに等しいということでしょう。

 裁判員制度違憲論をメインテーマにすることの大切さも踏まえながら、このような形で最判と福島判決をなで切りにする批判があるということをあらためて感じました。なにやら評釈めいた感想文になってしまいましたが、これは「脱帽の裁判員制度論」です。

 仙台高裁では、原告(控訴人)は仮に憲法違反が認められなくても元裁判員の国家責任は認容されるべきだという主張を新たに付け加わえたそうです。7月23日に仙台高裁の審理が終結し、判決は今秋10月29日と報道されています。注目して迎えたいと思います。

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投稿:2015年8月5日