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ストレス国賠訴訟第2回口頭弁論 ―その1― 

口頭弁論傍聴記

福島地裁郡山支部で強盗殺人事件の裁判員を務めた後、「急性ストレス障害(ASD)」と診断されたAさんが慰謝料などを求めた国家賠償請求訴訟の第2回口頭弁論が12月10日、福島地裁で行われました。

 9月の第1回口頭弁論に引き続き、この第2回口頭弁論についても、私、インコのマネージャーが傍聴・記者会見参加をしましたので、全4回(その1=口頭弁論傍聴記、その2=記者レクの状況、その3=被告準備書面、その4=原告準備書面)にわたって報告させていただきます。001175

今日はその1 口頭弁論傍聴記です。

傍聴券交付

14時、福島地裁に到着。玄関には「裁判所」と書かれた腕章をつけた3人が待機している。寒いのにコートも着ずにご苦労なことです。ロビーは閑散としており、職員3~4人と傍聴希望者と思われる数人の人がいるだけ。

 14時10分、この時点での傍聴希望者は10人。それでも一列に並ばされる。「最後尾」と書かれたプラカードを持った職員に「マスコミは来ていますか」と尋ねると、「まだ来てません」という返事。別の職員が人数を数えて、10人しかいないことを確かめた上で、傍聴整理券の交付(いやいや、この時点で座席は余ることが分かっているはずなのに)。さらに別の職員と、その整理券と傍聴券をその場で引き換え(いやはや、もうこうなったら儀式ですね)。001172

 その後、職員から傍聴に当たっての注意事項の説明がある。
□録音・録画の禁止。
□入廷後、退廷した場合の再入場は認めない。
□35分になったら法廷に案内するので、それまでにトイレ等済ませておくように。
□座席は34席なのでまだ余裕があるが、遅れて来た人には法廷前入り口で傍聴券を先着順に配付するので、もし遅れてくる知り合いがいればそのように連絡のこと。
□傍聴券ウラの注意事項をよく読んでおくように。

14時30分、原告代理人の織田信夫弁護士、佐久間敬子弁護士、そして原告のお連れ合いのAさん到着。でも、Aさんご本人に姿が見えない。どうされたのかとちょっと心配。

14時35分、裁判所職員に引率されてぞろぞろと206号法廷へと入った。その後、「記者」の腕章をつけた人たちがバラバラと入ってくる。

結局、マスコミは13社、一般傍聴人は13人(もしかしたら後、1~2人増えていたかも)でした。

口頭弁論の経過

織田弁護士と佐久間弁護士が入廷。その後、6人の被告代理人が入廷。事務官、書記官、3人の司法修習生、そして裁判官3人が入廷してきた。

1 主張の陳述 

 裁判は原告と被告が準備したそれぞれの主張の陳述から始まった。
  □ まず、被告の主張に関する裁判所とのやりとり。
 ・裁判長
   10 月25日付けの第1準備書面を陳述しますね。
 ・被告代理人
   はい、陳述します。
 ・裁判長
   認否の補足のほか、裁判員法案の審議過程などを述べたものですね。
 ・被告代理人  
    そうです。
   (何とこれで終わり。書面は20頁もあるのに! 「認否の補足」って何のこと。「裁判員法案の審議過程」って何が書いてあるんだ。被告が何を主張したのかほとんどわからない。傍聴席にいても何が議論されているのかわからないんじゃ、傍聴にはならない。この被告準備書面については次の報告で詳しく説明します。乞うご期待) はて

□ 続いて、原告の主張に関する裁判所とのやりとり。
・裁判長
さて原告です。11月12日付けの準備書面(2)を陳述しますね。
・織田弁護士
はい、陳述します。準備書面の内容の要点をここで述べたいのですが…。
・裁判長
被告はよろしいですね。では、どうぞ。
・織田弁護士
要点を述べます。
(織田さんはさすがに被告とは違う。用意してきた準備正面の要点を述べる。書面は32頁におよぶ大部なもの。要点を明確にして裁判所や傍聴人に理解してほしいという気持ちが溢れている。要点は次のとおり。太字はインコがつけました)

原告準備書面(2)要約

 ① 裁判員法、またその中の裁判員強制に関する規定には立法事実即ちその法律を必要とする社会的、経済的事実もない。そのことは裁判員制度を廃止しても国家も国民も全く困るものではないことからも明らかである。裁判員法は病気でもないものに劇薬を与えるようなものである。

② 裁判員法の国民強制規定は国民に苦役を強いるもの以外の何ものでもない。最高裁平成23年11月16日大法廷判決は上告趣意とされていないものを敢えて上告趣意とし憲法裁判所的に判決しているものであり、国民を欺罔する違憲の判決であって何ら判例としての価値を有するものではない。

③ 裁判員法の国民強制規定は職業選択の自由を侵すものである。被告はこの職業選択の自由の意味を履き違えている。

④ 同じくその強制規定は国民の幸福追求権という国民として最も大切な権利を何の根拠もなく侵すものである。

⑤ 国会の立法行為の違法性と責任は他の公務員についての場合と比較して特段に差等を設けるべきものではない。最高裁の判例も変遷し次第に広くその責任を認める方向になっている。仮に明白性の原則が要求されるとしても、国会議員は裁判員法の人権侵害に気付くべきであったし、また容易に気付き得た。国会の立法の不法行為責任は免れない。この立法に賛成した議員の有志は施行直前にこの法律の問題性に気が付き、超党派で「裁判員制度を問い直す議員連盟」を発足させている。

⑥ 今回の原告の受けた被害は裁判官や検察官の違法行為によるものではなく、罰則の脅しをかけて裁判員に国民を強制するという違憲の立法行為に起因するものである。

⑦ 被告の平成25年10月25日付準備書面による主張は、国会審議において国民を裁判員に強制する憲法問題については殆どといってよいほど議論されなかったことを会議録から証明していることを認めるものである。

⑧ 国民に強制をかけなければ国民が裁判員として集まらないことは明らかだが、問題は強制しなければ国民が集まらないような違憲の制度を作ることがそもそもおかしい。本裁判は国民を救うか裁判員制度を維持するか二者択一をせまる裁判である。 

(この原告準備書面についても、あらためて詳しい内容を報告させていただきますので、お待ち下さい)

2 証拠の確認

 さて、主張の陳述の手続きが終わると、双方が提出した証拠の確認に入った。
□ 被告が提出した証拠は、国会の審議経過を示す会議録。
(これだけの重大な立法にしては会議録は大した量じゃない。大きめのファイルに収まってしまう程度のもの。なんだかなぁ~。国会のいい加減さはこんなところにも出てるよね)
□ 対する原告提出の証拠は、裁判員制度の制定に関連する様々な文献など13点。
(裁判員制度の制定に関する問題点を明らかにする専門家の文献など)

3 被告への質問

主張と証拠の手続きが終わったところで、裁判所は被告に尋ねた。
・裁判長 
原告の「立法事実の欠如」の主張に対し、被告はどう対処する考えですか。
(「立法事実」というのは、わかりにくい言葉だけど、法律を作らなければならない理由や事情のことを言うらしい。織田さんたちは、裁判員法を制定しなければいけない理由・事情はなかったと主張している。この主張に被告はどう答えるのかという裁判所の質問)
・ 被告代理人
被告の主張はすでに明らかにしており、特に反論の必要はないと考えております。速やかに結審していただきたい。
(えっ衝撃うさぎ。裁判は始まったばかりなのに、もう終わりにしてほしいって言うの?! 裁判長は被告代理人の応答に一瞬天井を仰ぎ、困ったなという表情を示した。これはおもしろくなってきましたね)

・裁判長
被告が主張したとおっしゃっているのは、答弁書中の「立法理由、立法過程」の記述のことでしょう。原告が言っているのは、そういうことではなくて、立法を必要とする社会的事実がないのに立法したではないかということなのですよ。その主張に対して反論をしないのかと聞いているのですが。
 ・被告代理人
自明のことと考えていました。しかし、裁判所がそうおっしゃるのであれば、主張を検討します。
(自明っていうのは、言わなくてもわかっているっていう時に使う言葉でしょ。私、思わず吹き出しました。これはおもしろくなってきましたね)
 ・裁判長
平成17年の最高裁判決が言う違法性の判断をする上で、立法事実の存否は重要な間接事実になると裁判所は考えています。裁判員法の立法時には刑事裁判の在り方への批判があってこの法律ができたはずです。当時の刑事裁判への批判についてもこの裁判の中で議論させてもらわないと、憲法適合性の適切な判断ができなくなると考疑問うさぎえているのですが。
(えっ?えっ?えっ? 何のこと、何のこと。「立法事実の存否」問題は大事だと思うけど、裁判員法を制定した時に、「刑事裁判の在り方への批判があるのでこの立法が必要だ」なんて最高裁も法務省も全然言ってなかったでしょ。裁判所は、国に「この国の裁判はえん罪や間違った裁判が多いので国民の裁判参加で状況を変えようとしたと言わせたいのかしら。まさかね。この国の裁判は正統性がある立派なものなのだけれど、国民がよく理解できていなくて国民の支持も十分でないために困った状態が生まれている。それを直すのにどうしても裁判員法の制定が必要だと言わせたいのだとしても大議論になるのは必至。こういうやりとりが出てくるから裁判は「生き物」なんですね。そう、「平成17年の最高裁判決」っていうのは、国会が定めた法律の間違いを根拠にして国の責任を追及できるのは、よほどの事情がある場合に限られるって言った最高裁大法廷の判決のことですね)
 ・被告代理人
裁判所の問題意識を前提に考えます。
裁判長
被告として反論の準備をすると理解してよいでしょうか。
 ・被告代理人
結構です。
(ここで織田さんは黙って引き下がりはしませんでしたね)
・織田弁護士 
裁判長の発言について一言。裁判員法の制定時に「刑事裁判の在り方への批判があった」というようなご指摘がありましたが、政府の説明の中にはそのような指摘は一切ありませんでした。むしろ刑事裁判には問題がなかったと言っていたのです。裁判所はどういう方向で被告の主張を求めようとしているのでしょうか。ひらめきうさぎ
・裁判長 
いやいや、何か前提をもって尋ねたのではありません。 誤解を招かないように今の私の言い方は撤回します(あいまいに笑って)。

4 次回期日

審理が終わる。
・裁判長
では、反論は来年1月14日までにして下さい。また、原告はそれに反論があれば出して下さい。次回期日は来年の3月4日午後2時にします。本日はこれで終わります。

  (審理時間約20分)

 裁判終了後、Aさんに、Hさん(原告)がどうして来られなかったのかお尋ねしたところ、娘さんが出産されてそのお世話で来られなかったとのこと。安心しました。

インコ

写真は、マスコミ取材を受け、最高裁判所の前で、裁判員制度必ず廃止の決意のガッツポーズをするインコ 撮影@マネージャー

 

 

 

投稿:2013年12月12日