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法務省「検討会」取りまとめ報告書を読んで 

―全否定された日弁連の「提案」  

弁護士  川 村  理

 裁判員制度の見直しに関し、昨年12月、最高裁事務総局は「裁判員裁判実施状況の検証報告書」をすでに公表済みだが、これに引き続き、法務省の「裁判員制度に関する検討会」は、本年6月、同会の「取りまとめ報告書」を公表した。

報告書の内容は、報道のとおり、「公判期間が年単位」に及ぶ事件のみを裁判員裁判から除外する以外は「大幅な見直しはない」というものである。もともとこの「検討会」自体、制度策定の中心人物・井上正仁が座長を詰めるなど、制度自体の見直しなどハナから念頭にはないことは明らかであったから、こうした結果は概ね予測されたことではある。

しかしながら大手メディアが報じないこの報告書の最大の特徴点を指摘しておきたい。それは、この「検討会」にも日弁連執行部を代表する弁護士が2名参加し、その提案を強く述べたにもかかわらず、日弁連執行部の提案は、この報告書において、全面的に否定されてしまったということである。

このことは、本年5月1日付日弁連の「裁判員本部ニュース」において、同本部副本部長の前田裕司氏(同氏は、法務省検討会のメンバーでもある)自身が、「結論としては、日弁連提案はいずれも受け入れられなかった」と述べるところから、日弁連執行部自身も自認するところなのであろう。

ちなみに、日弁連の「提案」内容とは、①裁判員対象事件の拡大、②公判前整理手続きの拡大、③証拠開示の拡充、④裁判長による法39条の説明の義務化、⑤事実と量刑の手続二分論、⑥死刑事件の評決の全員一致制、⑦裁判員の負担軽減措置の法制化、⑧守秘義務の緩和、であり、それ自体とんでもない中身を含むものであるが、にもかかわらず、こうした日弁連「提案」は、「検討会」にて、歯牙にもかけられなかったわけである。HP日弁連2

そもそもかつて日弁連は、2004年の裁判員法の成立に際し、

1、裁判員の数は9人以上とし,裁判官の数は1人または2人とすること

2、評決は全員一致を原則とし,有罪の評決は,一定の要件(一定時間経過後又は評議と投票を数回繰り返しても意見の一致をみないとき)の下で3分の2以上の多数決制とすること

3、 直接主義,口頭主義の原則に忠実な証拠調べとすること

4、 取調べの適正化に加えて,裁判員に分かりやすい証拠調べという観点からも取調べの可視化(取調べ全過程の録音・録画)を実現すること

5、 連日的開廷を実施するためにも,完全な証拠開示と十分な準備期間を確保すること

6、 身体拘束制度を抜本的に改革すること

等の点をもって「制度実施の不可欠の前提条件」などと称していた。しかしながら、これらの懸案がひとつも実現されていないのに、日弁連執行部は、裁判員制度が実施されるや、その推進の先頭に立ったのである。

日弁連執行部は、最高裁の検証報告書においては、一方で、「審理長期化の主たる原因は弁護体制の不十分さにある」と最大限にけなされ、他方で、「刑事司法では久しくみられなかった、法曹三者の協力の機運が高まった」とおほめにあずかり(?)、にもかかわらず、特にこれにたいして怒るでもなかったようである。

ということは、今回の「検討会」にて、自己の提案が全否定されたとしても、日弁連執行部の制度推進姿勢に変わりはあるまい。やはり、こうした日弁連執行部の姿勢転換抜きには、制度の廃止もあり得ないということである。3HP日弁連

 

 

 

 

投稿:2013年6月25日