~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
弁護士 中本源太郎
当初、裁判員制度の導入に反対していた最高裁がいつの時点からか賛成に転じ、いまその推進に躍起になっているのは何故か、不可解だった。なにせ官僚裁判官たちが国民の司法参加を歓迎する訳がなく、司法の民主化を本気でやろうとすることなど考えられないからである。
その疑問が、最近公刊された元裁判官の著書で氷解した。なるほど、そういうことだったのか。元裁判官とは瀬木比呂志氏。キャリア33年のベテラン判事で、著書、論文も多く、超エリートと目されてきた。その瀬木氏が著書『民事訴訟の本質と諸相』で裁判員制度について歯に衣着せぬ意見を展開している。そのさわりを紹介しよう。
・・・何となく民主的な方向だから良いのではないかといった、制度の検証が十分でないままの賛同の論調の方が危険・・・裁判員制度の導入に関する報道にはその傾向が強かった。
・・・制度の導入については、最初は、裁判官の間には消極的意見が非常に強かったと記憶している。それが、最高裁事務総局が賛成の方向に転じてから、全く変わってしまった。
・・・現在の最高裁長官である竹崎博允氏自身、・・・市民の司法参加には極めて消極的であったが、裁判員制度については、ある時点で180度の方向転換、転向を行ったと言われている。
・・・現在では、この制度を表立って批判したりしたらとても裁判所にいられないような雰囲気となっている。こうした無言の統制の強力なことについては、弁護士会や大学など全く比較にならない。
などと論述したあと、当時の最高裁のトップの裁判官たちが裁判員制度の導入賛成の側に回った理由について、「国会方面からの制度導入に向けての圧力、弁護士会や財界からの突き上げなどを認識し、裁判所がこれに抗しきれないと読んだ」ことによるとされているが、そうではない。
・・・その実質的な目的には、トップの刑事系裁判官たちが、民事系に対して長らく劣勢にあった刑事系裁判官の基盤を強化し、同時に人事権を掌握しようと考えたという事実が存在するのは否定できない・・・これは・・・公然の秘密・・・」
と述べている。
そして、某刑事系の高位裁判官達の「最高裁が裁判員制度賛成に転じてくれたおかげで、もう来ないと思っていた刑事の時代がきた」発言を紹介し、「事務総長、人事局長などの重要ポストだけではなく、刑事系裁判官が過去に一人しか就いたことのない最高裁首席調査官ポストにも刑事系裁判官が就いた、高裁長官や大地裁の所長人事にも刑事系優先の傾向があった」と指摘している。
瀬木氏は、「裁判員制度の導入が、刑事裁判に関する市民の裁判参加の実現という目的とは離れたどろどろした権力抗争に一部裁判官が勝利するための手段でもあったとするならば、それによって、裁判員として、また、納税者として、重い負担をかぶることになる国民、市民は利用されたことになるのではないだろうか」とまで言う。まさか、と思うが、そう言えば、つい最近相次いで高裁長官に就任した元最高裁事務総長や東京地裁所長は刑事系裁判官のようだ。
瀬木氏の上記指摘が事実だとすると、膨大な国民の動員と犠牲、莫大な予算の投入はいったい何だったのか?その責任はどうしてくれるのか。全く呆れかえる話だ。
投稿:2013年7月2日