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刑事訴訟の原則を破壊 見直しではなく廃止を

弁護士 寒竹里江

裁判員法は3年経ったら見直すことを義務付けている。「見直す必要がある=欠陥がある」と最初から分かっている法律が施行されること自体がおかしな話。

今,行われている見直し論議のほとんどが裁判員に選ばれた市民の負担軽減をどうするかということに終始している。負担軽減するなら,呼び出さなければ良い(制度廃止)だけのこと。

寒竹里江弁護士は,共同通信社からの依頼で,裁判員裁判の経験を踏まえ,裁かれる被告人,そして弁護人の立場から制度の問題を論評され,廃止を訴えられた。
寒竹さんの論評は,分かっているだけでも次の地方紙に紹介されている。

5月22日:東奥日報  見直しではなく廃止を
5月23日:中國新聞  刑事訴訟の原則を破壊
5月25日:新潟日報  見直しより廃止せよ 刑事訴訟の原則を破壊
5月25日:長崎新聞  刑事訴訟の原則を破壊寒竹原稿4
5月26日:神奈川新聞 見直しより廃止を
5月26日:高知新聞  刑事訴訟の原則を破壊
5月27日:岩手日報  検察と弁護側“格差”が拡大
5月29日:山形新聞  刑事訴訟の原則を破壊

【論評】

裁判員制度施行から4年,制度は見直しの時期に入っている。裁判員として苦痛や負担を強いられた方の国家賠償請求訴訟が話題になっているが,私は,裁かれる被告,そして弁護人の立場から「廃止」を訴えたい。複数の裁判員裁判で弁護人を務め,制度が刑事訴訟の原則を破壊していると確信したからだ。

例えば,首都圏のある裁判員裁判で,医療記録などの重要証拠をそのままの形で提出できず,「要約報告書」に書き換えるよう裁判所に迫られた。これは証拠の変造に等しい。要約の過程で書き換えたり,落としたりする部分に,私自身も気づかなかった重要な要素があるかもしれないのだ。そう思いながら,指示に従わざるを得なかった。

迅速化を図るため争点を絞る「公判前整理手続き」が行われ,検察側と弁護側が主張をまとめた書面を提出する。
このとき裁判官は,両方の主張を見比べて「いずれがもっともらしいストーリーか?」によって判決結果(心証)を決めてしまっているように見えた。

この段階では市民から選ばれた裁判員はいない。裁判官や検察官,弁護士というプロの法律家が,密室の公判前整理手続きで大まかなラインを敷く。だとすれば,その後の裁判は,ラインを走るだけの儀式にすぎない。

公判が始まると,裁判長は時計ばかり気にして尋問を短時間で切りたがる。公判前整理手続きで裁判長に「長くなると裁判員が居眠りします」と言われたことさえあった。

「被告には誰に裁かれたのか知る権利がある。裁判員の名前を知らせても構いませんね」と尋ねたときには「禁止規定はないが,慎重な考慮を求めます」と事実上,やめるよう求められた。

検察官の証拠朗読は解説モニター付き。しかも訓練されたアナウンサーのような滑舌の良さだ。「法廷の劇場化」が進む。弁護側はそんな時間もお金もかけられないから,検察側との“格差”は拡大する。

反対尋問のための被告との打ち合わせ時間も十分に取れない。公判の休憩時間に廊下で約10分間だけということもあった。手錠・腰縄付きで刑務官立ち会いのまま。被告と弁護人との「秘密交通権」は無視された。

裁判員は真剣に検討してくれた。といっても彼らに渡された証拠は,要約された薄い資料にすぎない。裁判官は,枝葉末節の事実も含め,裁判員が疑問に思っていることを尋問させたり,自分が裁判員に代わって尋問したりしていた。

しかし,この程度の関与で「健全な市民の常識によって裁判をより良いものにする」という理想が実現できているとは到底評価できない。

刑事裁判は本来,検察官が起訴事実を「合理的な疑いを入れない程度に立証できるか否か」を問う。そのためのフェアな手続きとして,公訴提起の際,検察官が提出できるのは起訴状だけとする「起訴状一本主義」があった。裁判官に予断を抱かせないためだ。だが,この原則は公判前整理手続きによって瓦解した。

さらに「裁判員に負担をかけないため」として,短期間に連日,公判が開かれる。そこに「被告人の利益」はない。寒竹原稿用2

私は熱心に審理する裁判員や裁判官,検察官や弁護人を非難するつもりはない。
ただ,次のように問いたい。
あなた自身は,この制度で裁判を受けたいと思いますか?

投稿:2013年7月6日