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遺体写真見たくない! 当たり前のこと

弁護士 猪野 亨

下記は「弁護士 猪野亨のブログ」記事です。猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

先般、遺体の写真を見たことで福島県の60代の女性がPTSDとなり、国家賠償請求訴訟を起こしました。
裁判員のPTSD 勤務先からの解雇は不当か

 これを受けて、東京地裁では8月1日から遺体の写真を見たくないという裁判員候補者の辞退を「柔軟」に認めるという運用を始めました。
 最高裁も東京地裁に習うよう全国の地裁に同様の通知を送付しました。
「遺体写真見たくない」…裁判員辞退を容認」(読売2013年8月1日)

 裁判員制度は義務として国民に出頭を強要し、そして、刑事裁判に関与させるというもので、現代の「徴兵制度」ともいうべきとんでもない制度ですが、国民の拒否反応の前に、この義務が形骸化してきており、支配層が目論んでいた目的、国民を義務として動員(徴用)するというやり方が崩れつつあることを意味します。

 もともと、裁判員制度が導入される前から裁判員をやりたくないというのが国民の圧倒的多数の声でした。
 最高裁が実施した意識調査より

  参加したい  参加してもよい   義務であれば参加せざるを得ない 義務であっても参加したくない   わからない
平成22年1月調査 7.2% 11.3% 43.9% 36.3% 1.3%
18.5% 80.2%  
平成23年1月調査 4.6% 10.4% 42.6% 41.4% 1.0%
15.0% 84.0%  
平成24年1月調査 3.8% 10.7% 42.3% 41.1% 2.3%
14.5% 83.4%  

 それ以前の世論調査についてはこちら。
各種世論調査」(北海道裁判員制度を考える会)

 制度導入前は、最高裁は繰り返し、誰でもできると宣伝していたのですが、それは国民の拒否反応が強かったからです。
私は、法律を知らない素人です。そんな私でも裁判員として判断できるのでしょうか。」(北海道裁判員制度を考える会)
 しかし、徐々に被告人が否認していたりなど複雑な事案が増えるに従って裁判が長期化してくるようになると、誰もできるよ、負担などないよ、などとは言えない実態が明らかになりました。

 もともと当初から裁判員候補者に対しては、それこそ「柔軟」に辞退を容認していました。
 実際には、100人選出した候補者のうち、義務として呼び出しているのは30~40人で、それ以外の60~70人に対しては、辞退を認めているのです。
 そして、その義務のある30~40人の中で無断欠席がありますが、母数を30~40人ということにしているので(最初の100人を母数としていないということ)、出頭率が「9割」という当局の発表になっているのです。
 「実際の出頭数」(北海道裁判員制度を考える会)
 数字に欺されてはいけません。

 このように従前より裁判員制度の初期の目的は崩れつつあったのですが、裁判員が遺体写真を見なければならないという現実の前に、いよいよ制度としての形骸化が進んでいくことは必至です。

 とはいえ、このように「辞退」が進むと、「オレがオレが」の人ばかりが裁判員として登場してくることになります。
裁判員をやりたい! ってどんな人?
 刑事裁判としては最悪の状態と言えます。

 無理矢理にでも遺体の写真を見せ、義務を尽くさせるという国民動員が失敗しただけでなく、刑事裁判それ自体を破壊してしまった裁判員制度。
 しかし、裁判員制度による国民動員の失敗、今後、ますます裁判員制度を拒否する国民が増えていくことでしょう。
 ここに私たちは、裁判員制度の廃止に向けた展望を見出すことができます。
 何としても、この愚かな制度を廃止させなければなりません。

rainrain

 

投稿:2013年8月8日