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寄稿 静岡に裁判員裁判を売り込むもくろみの無理

 覚せい剤を何度も売ったとして、静岡地検は、裁判の途中で覚せい剤取締法違反から麻薬特例法違反に訴因を変更して、裁判員裁判に切り換えることにしました(8月10日付け『読売新聞』静岡版)

 被告人は、埼玉県朝霞市の衣類販売業(47歳)と同県富士見市の革製品製造販売業(48歳)の男性。2人は昨年12月から今年2月にかけて、愛知県の女性に覚せい剤など約42グラムを計106万円で販売したほか、1人は他にも多数回にわたって複数の人に販売を繰り返したとされています。

 営利目的で覚せい剤を売れば、覚せい剤取締法41条の2、2項違反で、法定刑は20年以下1年以上の懲役。しかし、ただ売った者ではなく売ることを「業とした者」は麻薬特例法5条4号違反で、法定刑は無期または20年以下5年以上の懲役になります。
 裁判員法は、「死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件」は裁判員裁判の対象と定めているから、検察官の訴因変更で、裁判官が審理していた事件が審理の途中で裁判員裁判に変わるという異例の展開になりました。

 さて、問題は「業とした」です。「業」は業苦・因業・業腹の「ごう」ではありません。家業の業、「ぎょう」、仕事、なりわい、生活をしていく手立てということです。と言っても、何をもって「業とした」ことになるのでしょうか。42グラムというのは覚せい剤の世界ではとても大量とされます。でも1回にどかんとまとめ売りしたら直ちに「業」になるということもないでしょう。12月から2月まで3か月の期間をかけたというのはどう判断したらいいのでしょうか。

 「業」と言えるには、繰り返していたり、多数の客を相手にしていたり、儲けていたり、売り方を決めていたりする必要があるんだろうなぁというあたりまでは何とかついていけるかしら。でもその辺でアウト。何回繰り返し、どの位儲けて、どんな販売形態なら「業」になるかなんてわかるわけないでしょうが。

 いえいえ、皆さんのその気配をみてとると、裁判長さんがすかさず言ってくれるのですね。
「3回以上繰返していたという理由で業と認めた何年何月何日の大阪地裁の判例があります。儲けていたかどうかですか。えーと、代金20万円を儲けていたということで業と認めた何年何月何日の札幌高裁の判例もありますねぇ」
そんな話わかる訳ない裁判員の皆さんはただぽかーんと聞いているだけです。

 今年4月末で全国の覚せい剤取締法違反事件の裁判員裁判は546件、そのうち成田空港を抱えた千葉地裁が6割近い313件。一方、静岡地裁には麻薬特例法を含めこれまで1件もありません。静岡地検は県民に薬物事件の裁判員を経験させようと、覚せい剤取締法違反で起訴した被告人について、わざわざ麻薬特例法違反事件に作り替えるという奇手を考案したのです。

 しかし、無理なものは無理。裁判官が判断のレールを敷いてしまうのはそれこそ目に見えていると言ってよいでしょう。

  裁判員裁判 ダメ。ゼッタイ。 1

 

 

 

投稿:2013年8月11日