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『河北新報』かく語りき―仙台の8月は熱い

 読者から「広域紙『河北新報』が連載記事「裁判員裁判 5年目の課題 東北の現場から」を掲載した(8月14日~18日)」と連絡をいただきました。  

 『毎日』の社説(の問題はこちらをどうぞ⇒「判決後」にではなく、「制度続行の危機」に意識を!)とほぼ同時期の「現場」を標榜する記事です。中途半端な指摘もいくらか混じりますが、一所懸命追いかけているところは評価したいと思います。これは『毎日』と『河北』の差なのか、論説委員と現場記者の差でしょうか。詳しくは原記事を検索していただきたいのですが、せっかち読者のために『河北』5回の記事を超簡単ダイジェストにご紹介します。

 1列目□に各回のタイトル、「 」で小見出しと要旨、○出しで特徴的な記事、の順でまとめました。考える猫

□ 8月14日 裁判員(上) 密室 評議透明化望む声も

「選択できるか」=死刑と無期懲役を裁判員は本当に選択できるか。
誰にも明かせず」=守秘違反に6か月以下の懲役か50万円以下の罰金の重さ。
弁護士会が意見」=裁判官の不適切な誘導で評決結果に歪みが生じていないか。 

 ○ 殺意がいつ発生したかをめぐり、ある裁判員が「凶器を持って現場へ行った時か」と尋ねる。裁判官は「違う。凶器で被害者を攻撃した時です」と指摘した。
○ 
裁判官は最後にこう伝えた。「ここを出たら、裁判所は(裁判員経験者らを)守れません」 肉球左向き

□  8月15日 裁判員(下) 義務 参加意義 乏しい議論

「制度の実験台」=急性ストレス障害と診断された郡山の裁判員の深刻な状況。
社会守る意識を」=秩序・治安を自ら守る意識改革を国民に求める国。
環境整備が必要」=参加しやすい条件を整えないと辞退者は増える。   

○ 東北では昨年12月末現在、約2万5400人が裁判員候補者となり、約6割が病気や介護などの理由で辞退を認められた。
○ 
郡山国賠訴訟の代理人の織田信夫弁護士(仙台弁護士会)は訴える。「なぜ市民がそこまでしなければならないのか、詰めた議論はない。国の仕組みに無理やり組み入れるのはおかしい」魚を考える

□  8月16日 裁判官 配慮 審理との両立に苦心  

「市民負担を軽減」=審理10分で休憩、昼食も裁判員と一緒にという配慮。
『誘導』の重圧も」=結論をもって評議を進め、時間ばかり気にするる裁判長。
説明評価が9割」=裁判官のそばで書き込むアンケでは本当の意見は出てこない。

○ ある裁判員経験者は、「裁判長が結論ありきで評議を進めた印象がある。疑問点を聞いても裁判長の意にそぐわないと退けられたと感じた」と不満をぶちまける。
○ 
刑事裁判官は複雑な胸中を明かした。「裁判員に言いたいことを自由に言わせるだけでは収拾がつかなくなり、意見を修正すれば『誘導した』と捉えられかねない」
○ 
(最高裁が、アンケート調査の結果、法廷での裁判官の説明を9割近くが「分かりやすかった」と評価し、評議の議論の充実度について7割超が「十分に議論ができた」と答えたと発表したことについて)ある裁判員経験者は、裁判所内で裁判官がそばにいる状況で、アンケート用紙に記入したという。「裁判官が喜びそうな答を選んだ」と明かし「裁判官の対応の検証は、裁判員の『本音』に基づいてなされるべきだ」と提案する。肉球右向き

□   8月17日 検察 強調 証拠の見せ方 異論も   

「13秒の長さ実感」=飲酒運転者の前方不確認時間をストップウォッチで実演。
弁護側に危機感」=被害者の法廷内嘔吐、血の海のカラー写真、そこまでやるか。
イラストも検討」=負担配慮は本末転倒では。脚色して結果を変えてはならない。  

○ 福島地裁郡山支部であった強盗殺人事件の裁判。検察側は血の海と化した現場のカラー写真を示し、被害者が消防署に助けを求める音声を聞かせた。判決は極刑。複数の裁判員経験者が「写真を見て、こんなにひどい事件を起こした被告は死刑しかないと思った」「音声が頭から離れない」。
○ 
ある弁護士は裁判員裁判の経験を通じ、最近の検察側の立証に危機感を抱く。「量刑が重くなるよう、被告に不利なことを裁判員に必要以上に強く訴えかけている」箱考える

□   8月18日 弁護士 苦境 被告防御 困難さ増す   

「求刑上回る量刑」=求刑超え判決すでに5件、重罰志向の傾向が弁護士を襲う。
『審理尽くして』」=裁判員裁判の審理不足を控訴審で回復する必要に迫られる。
スキル向上図る」=刑事弁護技術の向上を図るというが…。  

○ 裁判員経験者と法曹三者の意見交換会。「法廷で弁護士の話が分かりづらかった」裁判員経験者の男性が指摘した。同じ裁判で裁判員を務めた全員が分かりにくさを感じたという。同席した小野寺友宏弁護士(仙台弁護士会)は「弁護士が厳しく見られている」と受け止めた。
○ 
一審から傍聴してきた更生支援団体関係者は、「一審は少年法の理念や事件の背景の審理が欠けていた。二審は審理を尽くしてほしい」と訴える。
○ 
(裁判の当事者である被告の権利の保障や、公判前整理手続きに伴う被告人の長期拘束の問題について)裁判員裁判の見直しを議論した法務省の検討会では、「被告人の裁判を受ける権利より、裁判員の負担の方に軸足を置いて考えるべきだ」との意見も出ている。  箱考える猫

インコの感想を一言

 『河北新報』の記事を一言でまとめれば、裁判員は「密室」と「義務」に縛られ、裁判官は裁判員への「配慮」に苦労し、検察官は証拠の「強調」に走り、弁護士は被告人の防御で「苦境」に立っているということです。この制度、どこにいいところがあるというのでしょうか。記事を読んだ大半の人たちも同様の感想を持つと思います。

 「どうしてやるのか。なぜやめないのか」。いまや議論はこの一点に集中すべきときだとインコは考えます。青木正芳弁護士(仙台弁護士会)は、「廃止は拙速。市民や専門家の力を借りながら改善し、存続させるべきだ」とコメントしたそうですが、なに寝とぼけたようなことを仰るのか。「4年も月日をかけて」やってみたけれど、「どうにもこうにも拙(まず)い」のなら、やめようという話でしょう。そのどこが「拙速」なのですか。「市民や専門家の力」って何のことでしょうか。それに、この方は法務省が「見直すべきことは基本的にない」と断言していることもおそらく全然ご存知ないのでしょう。ご存知ならばそのことに触れない訳にはいかないはずですからね。

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投稿:2013年8月26日