~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
ストレス障害国賠訴訟。今回は、前回の公判傍聴記に引き続き、第1回口頭弁論期日の経過。インコ畢生、渾身のご紹介。原告Aさんと弁護団(織田信夫さんと佐久間敬子さん・仙台弁護士会)は訴状陳述の手続きをした。普通は原告代理人の弁護士が「訴状を陳述します」と言うだけで終わる手続きのようだが、この日は主任代理人の織田さんが「傍聴人もいらっしゃることですから」と15分ほどかけて訴状の要点を実際に述べた。
請求の結論は「国は私に200万円の慰謝料を支払え」というもの。請求の理由は次のとおり。
・ 郡山市内で介護職として働いていた私(62歳)は、昨年11月、最高裁から裁判員候補者名簿に載ったと通知され、12月には福島地裁から今年3月1日に郡山支部に来るようにと請求された。呼出状には「正当な理由のない不出頭には10万円以下の過料もあり得る」と書かれていた。過料の制裁は避けたいと出頭したところ裁判員に選任されてしまった。事件は2名の強盗殺人事件だった。
・ 裁判は3月4日に始まった。検察官が提出した被害を示す写真には、頭や頸に刺し傷がたくさんある被害者夫婦の遺体が血の海の中に横たわる凄惨な状況が映し出され、被告人が使ったとされる血だらけの軍手や刺し傷を写した写真のほか、頭や頸の模型を使って示した刺し傷の写真などもあった。すべてカラー写真だった。次いで、被害者の妻が消防に救いを求める録音が再生された。断末魔のうめき声が聞こえる約2分30秒の長さのものだった。
・ 私はこの経験で心の平静を保てなくなった。裁判開始の日、昼食を口にしたとたん吐き気を催し、トイレですべてをはき出した。裁判は3月8日まで5日間続いたが、その間昼食時の吐き気が続き、ほとんど夢うつつの状態で集中力を欠き、食事が作れなくなり、食欲が落ち体重も減った。熟睡できず何度も目を覚まし、突然事件のことや映像やフラッシュバックし、不安が募った。しかし、裁判員の仕事は義務だと思い、自らを励まして3月14日の判決の期日まで裁判所に通い続けた。
・ 職場に戻っても仕事を間違えそうになったり、忘れごとをしたりして、周囲などに迷惑をかけ、その後も精神的な不安定状態が解消しなかった。裁判所に連絡し、その紹介でメンタルサポートセンターに電話し、センターから郡山市の保健所を紹介された。しかしそこにも対応できないと言われ、自身の判断で3月22日、郡山市内の心療内科を受診し、「急性ストレス障害」と診断され、不安定な精神状態が続き通院を続けている。
・ 私がこのように深刻な精神的損害を受けた原因は、裁判員法に基づく強制を受けて裁判員の職務を担当・遂行させられたことによる。裁判員裁判の証拠調べの手段方法に問題があると考えているのではない。裁く立場に立つ者には証拠に正しく向き合い冷静に判断する能力が求められ、そのような訓練を受けた者のみが関わるべきことだと考える。問題はそのような訓練を経ていない私のような者に判断をさせる制度を制定したことにある。
・ 裁判員法は、憲法第18条後段が定める「犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役(くえき)に服させられない」との規定に真っ向から反する。最高裁大法廷が平成23年11月16日に言い渡した判決は「裁判員の参加は苦役とは言えない」と言っているが、ケースの異なる判決の判断を私の事件にあてはめないでほしい。また、国民は憲法第22条第1項により、裁判員のような非常勤特別職公務員の職に就くことを強制されない「職業選択の自由」を持っている。また、参加を強制することは、「すべて国民は、個人として尊重される」と定めた憲法第13条にも違反する。
・ 裁判員法は、両院あわせて2か月20日弱、審議期間僅か12日という短期間で成立したもので、憲法問題にはまったくと言ってよいほど触れなかった。それは国会議員の明確で重大な過失と言うべきである。それは、施行もされない段階で改正されたり(区分審理・部分判決)、施行直前に施行延期を求める「裁判員制度を問い直す議員連盟」が発足した異例の法律である。
・ 私は、このような立法の重大な過失により深刻な精神的損害を受けた。損害を敢えて金銭に見積もれば180万円を下回ることはない。その弁護士費用のうち少なくとも20万円は公務員による不法行為と相当因果関係を持つ損害と考えられるので、国家賠償法第1条に基づきこの合計額200万円の支払いを請求する。
被告代理人があらかじめ裁判所と原告に提出している答弁書について、裁判長は「被告は答弁書を陳述しますね」って聞き、被告代理人は「陳述します」って発言するだけで終わるらしい。
この日、裁判長は「被告は答弁書を陳述しますね」って聞き、被告は、もぞもぞっというか、うにゃうにゃっていう感じで何かしゃべった。傍聴席にはよく聞こえなかっけれど、裁判長は「何とおっしゃったのですか」なんて聞き返さなかったから、多分いつものとおりにやるんだねっていうことだったのでしょう。この間約10秒。
ただし、この日の被告席には弁護士は1人もいなかった。前回傍聴記で報告したとおり、居並ぶ7人は全員役人たち。中心はもちろんバリバリのキャリア組(マネージャーの直感的推測)。とにかく法務省の要人が代理人席に並ぶ法廷は珍しいらしい。国の緊張ぶりがうかがわれる。
そういう訳で、法廷では国の言い分がまったくわからないままで終わった。一言二言しゃべったらどうだって思ったけれど、不利益なことや不都合なことは言いたくないんだろうね。後でマネージャーを通してAさん側からいただいた答弁書を見たらずいぶん長大なものだった。でも中身はあまりなかった(とインコは思う)。以下はその要約。ところどころの侵入コメントはインコです。
・ Aさんが『うめき声』だと言う録音の長さは約2分30秒ではなく約2分50秒である。裁判員として参加して受けた苦痛に関する主張は全部「不知」。
――結構でしょう、ホントはもっと長かったんだって。何を言いたいんですかね。まったくもって。それにしても「不知」とは何? ぜーんぶ「しーらないっ!」で済ますこの感覚。ここでインコは完全に切れました。
・ 国会の立法が憲法違反になるかどうかについての国家賠償法の基本的な考え方は、よほど例外的な場合に限られる。そのことについては最高裁の判例が明言しているところである。
――偉そうに。明言だか何だかそれこそインコ「不知」だけど、裁判員はその「よほどのこと」に当たるでしょうが。
・ (裁判員法の立法理由、立法過程、立法内容を説明した上で)「国民の感覚が裁判内容に反映されることで、司法に対する国民の理解や支持が深まり、司法がより国民的な基盤を獲得できるようになる…」という司法制度改革審議会の提言を受けて、国会では十分審議された。
――司法の仕組みの根幹に関わる法律の審議がたった12日間でどうして十分なんですか。国を愛する心が足りないよ。
・ 最高裁も平成23年の判決で、「裁判員の職務は参政権と同じような権限を国民に与えるものであり、裁判員法第16条は柔軟な辞退制度を設けている」と言っている。裁判員を義務づけることは事実だが、義務づけには合理性がある。不出頭を犯罪として処罰してもいないし、実力で裁判所に連行することにもしていない、過料という行政制裁にとどめている配慮をよく見てほしい。
――選挙は行かなくたって処罰されないでしょうが。どこにあるの義務づけの合理性なんて、犯罪? 連行? 何考えてるんですか。それにそんなに当然だったら、どうして竹崎最高裁長官はあんなにあわてる必要があるの。
・ 苦役ではないというのは最高裁の判決ですでにはっきりしている。
――それはケースが違うってAさんが訴状でわざわざこの判決に触れてたでしょ、それに答えなきゃダメでしょう。インコの知識では、最高裁の判決っていうのは、裁判員の参加は納得できないっていう被告人の主張に対する判断でした。今回の事件は裁判員をやらせられた本人が裁判員を強制されるのは私にとって苦役だって言っているケースですよ。そこんとこよく言っといてほしいな、三宅坂の5番街でね。
ここで、織田さんが立ち上がり、あらかじめ受け取っていた被告の答弁書には疑問点が多くあり、反論をする上で必要なので、この機会にいくつか釈明(説明)を求めたいと発言した。それが書かれている書面(準備書面っていうんだそうです)の内容はおおよそ次のとおり。
① 国会で十分に審議がされたと言うが、その内容を具体的に明らかにしてほしい。
② 義務づけの合理性を言うが、国会がどう議論したのか具体的に明らかにしてほしい。
③ Aさんの急性ストレス障害と裁判員の職務遂行の関係について不知と言うが、法は配慮しているし辞退もできると言っているというのは、つまり今回のAさんの受傷は自業自得だと言っているのか明らかにしてほしい。
④ 刑事罰や直接強制はしていないと言うが、刑事罰や直接強制を講じたら憲法違反になるという趣旨なのか明らかにしてほしい。
――なるほど、法律家という人たちはこういう風に争ってゆくのか。インコなんとなく納得!
ここで、織田さんが、「Aさんは原告としてこの機会に意見を陳述したいのでその機会を与えて下さい」と裁判長に要請。裁判長は被告席に「ご意見は」と聞く。被告代理人「しかるべく」と言う。裁判長、原告席に「ではどうぞ」と。
――なんだか全体に妙に儀式的。しかるべくって何のこと?
Aさんの意見は「意見陳述」という題の書面にまとめられていて、これを読む形での陳述になった。言葉に詰まりながらの約15分。圧倒的な重みだった。佐久間さんの懇切な支えが印象的。マネージャーを通してこの書面も頂戴したので、次回は本人意見の特集でご紹介することにして、ここは謹んで割愛させていただきます。乞うご期待。
Aさんは、訴状の主張を証明する証拠として、23点の証拠書類を提出した。
国は、司法制度改革審議会の意見書の抜粋など3点の証拠書類を提出した。
裁判長は、被告国には原告の釈明要請に応えて準備をするように要請した。また、原告Aさんには国会議員の過失が直ちに違憲に結びつくのかどうかさらに検討した主張をすることや被告の18条、13条合憲論にどう反論するのか、特に13条違反を言うとすればさらに詳しい主張を検討してほしいなどと要請した。
また、Aさんに対し、Aさんは裁判員裁判の中での裁判所や検察官の裁判の進め方を問題としているのではないという趣旨ですねと確認、織田さんはそのとおりですと答えた。
以上、審理時間約45分。
次回期日は12月10日 午後3時。また、マネージャーには必ず参加させなきゃ。みなさまもぜひ傍聴を。
投稿:2013年9月29日