~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
弁護士 織田信夫
2013年9月24日午後のこと、或る程度は予想していたことではあったが、福島地裁正門前に車で近寄ると、テレビカメラ等が目を光らせて迫ってくる感じがして一寸どぎまぎした。裁判所裏手の駐車場に車を回してもらい、そこからそのまま当事者控室に入ろうとしたら、報道関係者が、どうしても正門から入る映像を撮らしてほしいと言うので、依頼者である原告本人と相代理人佐久間敬子弁護士の意向を伺って、カメラマンの指示に従うこととした。
法廷にもカメラが入る。当初撮影が終わってから原告本人が法廷に入るという段取りも考えていたけれども、本人は「自分は何も悪いことはしていない、顔も名前も隠すことはない」とはっきりと言われたので、テレビカメラが回り出す前から、本人には原告席の私と佐久間弁護士の間に座ってもらった。
通常の第1回口頭弁論期日であれば「請求の趣旨、原因は訴状記載のとおりです。」と一言言うだけで口頭弁論とは名ばかりなのだが、当日は傍聴席には報道関係者や傍聴人も大勢いるので、事件の内容を説明するつもりで訴状の要点を読み上げる。これは公開の法廷で本来法律が定める口頭による弁論を行ったということである。50年余の法曹人生で初めての経験であり、いつまでも初さが抜けない私は、途中言い淀んだり間違ったりしてしまった。その点、原告本人は、要点を押さえ、声を詰まらせながらも、裁判所に訴えたいことをはっきりと述べ、弁論終了後に福島県弁護士会館で開いた記者会見でも実に堂々と自分の考えを述べていたのには感心した。
被告国に対し、当日提出した準備書面で答弁書に対する釈明要求をしたところ、被告指定代理人から、事前に提出して欲しかったとクレームをつけられた。当方は、反射的に一言「はい」と答えたけれども、後で考えてみれば、被告への訴状副本送達は5月10日であり、途中仙台地裁からの移送の問題はあったとはいえ、答弁書提出まで4か月もかけたことの被告の怠慢について、何故すぐに文句を言えなかったのかと自分の鈍さが恨めしかった。
本件は、当初、被告の応訴を期待して原告代理人事務所所在地にある仙台地裁に訴を提起した。本件の被告側の担当は恐らく仙台法務局の訟務検事になるであろうし、仙台地裁への提訴は被告国のためにも利益であり、応訴は確実になされると思っていたところ、あに図らんや訴状送達後20日近く経って開かれた進行協議期日に至って、応訴しないと言ってくるという、私らからすれば何とも不誠実な、意地悪以外にはない対応をし、さらに今回もつまらないことにケチをつけてきた。
この事件は、一国民が国を相手に裁判員法条文の違憲性と国会議員の立法行為の過失について、国策に沿って裁判員制度推進一点張りの態度をとり続け、中立性に疑問符の付く裁判所に判断を求めるという特異な事件である。かかる裁判所に正しい判断を求めることはもともと至難の業である。しかし国民としてはかかる裁判所以外に救いを求める道は残されていない。蟷螂の斧ではないかと揶揄する人もいるけれども、このような被告側の対応に接すると、何としてもこの裁判所を国民の意地と力を結集して説き伏せ、司法本来の力を発揮させて、その正しい判断を導き出し、被告に対しひと泡もふた泡も吹かせてやりたいとの思いが益々強くなって来た。それにしても、裁判官が憲法76条3項に定めるように完全に独立でなければ国民にとっては本当に困ったことになることを肌で感じさせられている。
次回は12月10日午後3時。それまでに佐久間弁護士と協力して被告答弁書に対する徹底した反論を準備したい。
今でもそうかもしれないけれど、マスコミは、これまで、この裁判員制度を、欧米でも行われている司法への国民参加の一形態であり、司法の民主化だ、良いことだと好意的に扱ってきたように思う。ここにきて、この国賠訴訟を大きく報道してくれることは、その底意は分からないが、幾らかは問題の重要性に気が付いてくれたのではないかとも思われるので、決して悪いこととは思っていない。この機会に裁判員制度に対する国民の批判が更に強まることを期待している。
おわりに、当日、ご多忙のところ東京から態々私たちの応援に駆けつけて下さった高山先生、山本さんに厚くお礼を申し上げます。本当に勇気づけられました。
以上
*インコからのお願い
次回口頭弁論は12月10日午後3時から福島地裁です。原告支援のため、傍聴をよろしくお願いいたします。
投稿:2013年10月3日