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制度崩壊の日は近い

 弁護士 川村 理

  1月16日に報じられた水戸地裁における裁判員・補充裁判員の8人の全員解任事件は、裁判員制度が、ほぼ瓦解寸前の現状にあることを改めて浮き彫りにした。

  本件は、今月14日から開始された現住建造物放火事件(事件は昨年9月)の公判が、全公判日数はわずか3日しかない予定であったのに、6名の裁判員と2名の補充裁判員が次々と途中で辞任を申し出、その結果、裁判所が8名全員を解任したというものである。

  裁判所による裁判員解任の実態は、従来、あまり明らかにされてこなかったが、一昨年10月1日発行の『裁判員制度はいらない!全国情報』36号によると、その実態は別表のとおり、当時の統計から推定しても、10数件の裁判で1件の割合による解任事案が発生していたのである。ちなみに同号の記事によれば、「拒絶しそびれて心ならずも就任してしまったり、やってみてもと思って名乗り出て就任した数少ない裁判員や補充裁判員の中から、ボロボロこぼれ落ちる脱落者がこれだけいる」などと分析されていたのだ。

 しかし、8名全員の総辞任による全員解任という今回の事態は、当時の記事の想定をもはるかに上回る異常このうえない事態である。

  奇しくも、1月16日に公判が開始されたオウム真理教元信徒の事件における裁判員選任手続(東京地裁1月10日)では、選出母数の候補者400人中、選任手続当日に出頭した候補者はなんとたったの60名、全体の15%でしかない。候補者の参加率自体が、徹底的に落ち込んでいるのだ。

  裁判員制度の違憲性を訴えるストレス障害福島訴訟において、被告国側は、制度が「苦役」に当らない根拠として、「候補者の辞任や辞退を広く認めている」などと主張している模様である。こうした国側の主張を、裁判所が自己の行動でも示していくならば、当然のごとく、今後、裁判員候補者の不出頭や辞退、辞任は爆発的に広がらざるを得ない。既に、裁判員制度が「見直し」等では到底解決できない地点に追い込まれているのは明らかではないか。

  いま一つ、水戸地裁の事件で決して看過しえないのは、全員解任による公判中止という事態が、被告人の迅速な裁判を受ける権利(憲法37条)を侵害した、すなわち、裁判員制度が被告人の重要な権利を蹂躙したという事実である。前記のとおり本件はわずか3日で判決まで予定されていたことからして、事実関係にはほとんど争いがなく、当該被告人も迅速な裁判を望んでいたと思われる。裁判員裁判では、こうした被告であっても否応なしに公判前整理手続きを強要し、今回のように裁判員が辞任してしまえば、裁判はさらに数カ月延期ということになる。制度の違憲性がいま一つ明確になったというべきではないか。

  最後に、『朝日新聞』1月16日は、本件の記事を「そして誰もいなくなった」などとアガサ・クリスティの小説のタイトルを用いておかしげに報じた。制度推進の急先鋒であった同紙が、制度の問題点をかくも深刻に示しているこの事件を、ふざけた態度で報じることは、許されない。

  一日も早い制度の廃止を!

各地裁別解任された裁判員数(人)
総数 384 神戸地裁姫路支部 1 熊本地裁本庁 5
東京地裁本庁 45 奈良地裁本庁 1 鹿児島地裁本庁 7
東京地裁立川支部 18 大津地裁本庁 5 宮崎地裁本庁 1
横浜地裁本庁 15 |  和歌山地裁本庁 1 那覇地裁本庁 13
横浜地裁小田原支部 2 |  名古屋地裁本庁 12 仙台地裁本庁 15
さいたま地裁本庁 13 |  名古屋地裁岡崎支部 1 福島地裁本庁
千葉地裁本庁 53 |  津地裁本庁 3 福島地裁郡山支部 6
水戸地裁本庁 10 |  岐阜地裁本庁 4 山形地裁本庁 3
宇都宮地裁本庁 4 |  福井地裁本庁 1 盛岡地裁本庁
前橋地裁本庁 4 |  金沢地裁本庁 3 秋田地裁本庁 1
静岡地裁本庁 2 |  富山地裁本庁 青森地裁本庁 1
静岡地裁沼津支部 3 |  広島地裁本庁 13 札幌地裁本庁 7
静岡地裁浜松支部 1 |  山口地裁本庁 函館地裁本庁 1
甲府地裁本庁 7 |  岡山地裁本庁 5 旭川地裁本庁 3
長野地裁本庁 4 鳥取地裁本庁 釧路地代本庁
長野地裁松本支部 1 松江地裁本庁 1 高松地裁本庁 5
新潟地裁本庁 6 福岡地裁本庁 14 徳島地裁本庁 2
大阪地裁本庁 26 福岡地裁小倉支部 3 高知地裁本庁 4
大阪地裁堺支部 9 佐賀地裁本当 3 松山地裁本庁 1
京都地裁本庁 2 長崎地裁本庁 5 (注)
    延べ人数であり、速報値である
神戸地裁本庁 6 大分地裁本庁 2

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投稿:2014年1月17日