トピックス

トップ > トピックス > 仙台裁判漂流記

仙台裁判漂流記

2月28日の朝刊各紙には、「裁判員死刑判決『誤り』」「裁判員判決 再び破棄」の見出しが躍りました。

東京高裁と仙台高裁での判決で、事件も違えば破棄の意味・内容も違いますが、もうこれだけ見ても裁判員裁判はどうしようもないところまで来た、これでもやりたいと思う人がいるのか、いたら余程の奇人変人という気がしますね。

さて、新聞によって記事に濃淡があるからでしょう。読者からは「仙台高裁の事件がわかりにくいから教えて」と。確かにややこしいですね。÷

【事件】
今回の裁判の被告人であるAはB、Cと共謀。2004年9月3日夕方、東京都の井の頭公園付近で、拳銃の取引をするなどと偽って誘い出した仙台市青葉区の風俗店経営のZ(当時30)を車に乗せ、顔に粘着テープを巻き付け両手に手錠をかけて監禁。茨城県内の貸別荘を経由し、同月4日午前10時半ごろに仙台市の山林に着くまで連れ回し、11時半頃に男性の首をロープで絞め、頭をバールで殴るなどして殺害。死体を遺棄した後、同日夜から6日ごろまでの間、Zの自宅金庫から現金約5000万円と預金通帳数冊を奪った。DとEは東京都内から茨城県の貸別荘に向かう乗用車内や別荘での暴行に加わり、更に現金60万円を奪った。Fも都内から茨城県、更に仙台市の山林までの監禁に共謀した。
Bは被害者であるZと高校時代からの友人で犯罪組織を結成し、Zの経営する貸金業を手伝っていた。Bは「子分のように使われた」と供述しており、給料が少ないことに不満をもち、知人らとともに金を奪うことを計画した。
【逮捕に至る経緯】
Bは2006年10月16日に「仙台での男性暴行事件」で逮捕監禁容疑で逮捕された後、取り調べの中で仙台市の不明男性の名前を挙げ、「Zを殺害し、(仙台市太白区の)山林に埋めた。金庫の鍵を奪って金を盗んだ」と暴露。さらに2007年6月25日に開かれたGの公判で、証人として出廷したBの弟Hが弁護人の尋問で「兄から人を殺したことがある。Zの件で」との質問を肯定。さらに家へ3000万円を持って戻ってきたと答えた。宮城県警は、Bらの供述は信憑性が高いと判断。2006年11月に犯行グループの1人が指し示した場所を掘り返した、Zのものとみられる毛髪などを採取したが、他には何も見つからなかった。同じ場所は2009年6月にも再度掘り返しているが、同様の結果であった。しかし4月下旬から5月上旬、BらがZさんを連れ回したという東京都内の繁華街や茨城県内の貸別荘などに捜査員を派遣し、「供述だけではない証拠が得られた」(捜査幹部)として、遺体が未発見のまま営利誘拐と逮捕監禁容疑での逮捕に踏み切る。
宮城県警は2009年8月13日、別の営利誘拐と逮捕監禁容疑で受刑中のAとB、C、D、Eの計5人を逮捕。仙台地検は31日、5人を同容疑で起訴した。
10月26日、宮城県警はA、B、C、Dの4人を強盗殺人容疑で再逮捕した(死体遺棄はすでに時効)。またFを新たに営利誘拐と逮捕監禁容疑で逮捕した。
仙台地検は11月16日、A、B、Cを強盗殺人容疑で追起訴。DとEを強盗容疑で追起訴。Fを逮捕監禁容疑で起訴した。
さらにBは「1999年にも東京都内の暴力団組員の男を殺した」と供述。2009年7月、宮城県警は仙台市太白区内の山林を捜索。白骨化した暴力団組員男性の遺体を発見した。2010年2月10日、宮城県警はBとCを殺人容疑で再逮捕。当時少年被告とIを殺人容疑で逮捕した。
仙台地検は3月3日、BとC、当時少年被告を殺人容疑で起訴した。Iは「死体遺棄のみの関与だった」として処分保留で釈放した。死体遺棄罪は公訴時効(3年)を迎えている。
さらにBは「Cが自殺を装って自衛官を殺害し、保険金を手に入れている」と話したことから、宮城県警が捜査。3月3日、保険金殺人事件でC、I、F、J、Kの5人が逮捕された。仙台地検は3月25日、5人を殺害の容疑で起訴した。
上記らの事件は、マフィアにあこがれたZが高校時代の同級生であるBと1994年頃に結成した犯罪組織「BTK」のメンバーが起こしたもの。組織名は「殺すために生まれた(Born To Kill)」から名付け、ZとBの2人がリーダー格だった。ナンバースリーだったCも高校生のころに加入。組織は拡大しながら犯罪を繰り返した。

【A被告の主張】

被害者のZをSらと一緒に誘拐したことは間違いないが、殺害を事前に話し合っておらず、自分は殺していない。被害者には好感を持っていた。殺す理由がない。

【1審・仙台地裁判決】

2010年10月:被告と実行犯との共謀を認めず、検察側主張の強盗殺人罪ではなく、強盗致死罪を適用。懲役15年の判決。

【検察控訴】

「なんでやねん!これやから素人は困る。無期懲役に決まってるやろ」という言い方をしたかどうかは知らないが、ともかく強盗殺人を認めろ、無期懲役にしろと控訴。

【仙台高裁判決】

2011年5月31日:控訴審初公判で、検察側は強盗殺人罪の成立を主張し、弁護側は控訴棄却を求めた。

2011年7月判決:被告の法廷の供述でも、現場での暗黙のうちに共謀が成立していた可能性が濃厚。1審の裁判員裁判は、争点整理が不十分で検察側の主張を正しく把握していない。1審は審理を尽くしておらず、判決に影響を及ぼすのは明らか。地裁判決を破棄し、差し戻し。

裁判長が「うん、うん、検察官の言うとおりだ。これが理解できないなんて、だから素人はダメなんだ」といったかどうかは知らないが、少なくとも思ったんだろうなとインコは推認。

【被告が上告】

被告人は「なんでもう1回地裁で裁判員裁判せんとあかんねん。最高裁は裁判員裁判の判決を尊重しろと言ってたやん。最高裁そうやろ!」という気持ちだったんだろうな。

【最高裁】

2012年3月:高裁判決を支持。上告棄却

「裁判員裁判の判決を尊重しろ」というのは重罰化したときだけで、このような場合は・・・と言わんばかりの棄却で裁判は振り出しに戻る。

【2度目の仙台地裁・裁判員裁判】

差し戻し審では、新たに選ばれた裁判員らが6日間の日程の内の3日(計8時間)を1審の審理のDVD映像視聴に充てて審理。

2013年1月29日初公判:被告は「誘拐は間違いないが(共犯者と)殺害を事前に話し合っておらず、暗黙のうちに意思を通じ合ってもいない。殺害行為もしていない」と強盗殺人罪を改めて否認した。冒頭陳述で検察側は「殺害現場到着前も後も、被告は共犯者と殺害について話し合っていたか、暗黙のうちに意思を通じ合っていた」と主張。弁護側は「被告には被害者を殺す理由がない」などと反論。 
 冒頭陳述後、31日まで3日間計8時間DVD鑑賞視聴。
 1月30日第2回公判:主犯のBが証人出廷し、「殺害前に、Aから『合図したらやれよ』と言われていた」などと述べ、事前に殺害計画があったとする内容の証言。
 2月1日第4回公判:被告は被告人質問で殺害の共謀を改めて否定。
 2月4日論告:検察側は、Bの証言は信用できるとし、「被害者を殺害することについて意思を通じ合っていた」として、強盗殺人罪の成立を主張。一方、弁護側は最終弁論で「殺害について話し合っておらず、殺害行為をしていない」として、強盗致死罪にとどまると訴えた。弁護側は最終弁論で、事前の共謀は否定した1度目の一審判決(懲役15年)を引用しようとしたが、検察側が「破棄されている」と異議を唱え、裁判長は引用を認めなかった

 2月5日判決:裁判長は、争点となった共謀について、Bの証言を基に「犯行前の話し合い時点で、実行役と殺害に関し共謀があった。被告は具体的な犯行計画を立てるなどしている」と事前共謀を認めた。そして「不可欠な役割を果たし、殺害の実行犯と同等と言える」と指摘。検察側の主張どおり、強盗殺人罪を適用し無期懲役判決。

ヒラメ裁判長は最高裁の意を汲んで強盗殺人罪を適用し無期懲役判決を出したということ。裁判員の意向なんざ、裁判官次第でどうにでもなるって見本のようなもの。

【被告控訴】

被告にすれば「冗談じゃない!俺には殺意がなかったと言っているだろう」ということですね。しかも無期懲役=終身刑みたいなもんですから、有期刑とは大違い。

被告人は、被害者遺族に約1211万円の被害弁償。そのうち、610万円はやり直し地裁判決後に支払い。

【仙台高裁判決】←いまここ

 2013年9月26日控訴審初公判:被告側代理人弁護士は無期懲役の地裁判決について「B(同事件などで無期懲役など判決)との間に殺害の共謀があったとの内容には事実誤認がある。持ちかけたのはBで、他の共犯者の名前も伝えられていないなど、被告は従属する立場だった」とし、「極めて不当」と述べた。また、殺害現場での暗黙の共謀のみが審理の対象だったのに、事前の共謀まで審理したのは手続き違反だと主張した。検察側は控訴棄却を訴え、即日結審した。
 12月5日は判決予定だったが、結審を取り消し、弁護側が請求していた被告人質問が行われた。被告は被告人質問で「(母親が7月に死亡し相続することになった)預金は税や預かり金などを除き、すべて賠償に充てる」と述べ、弁護側が情状酌量を求めた。弁護人によると、遺産の総額は不明だが、預金通帳に3千数百万円が残されており、一部を被告が相続するという。

 2月27日判決:裁判長は、「被害者の逃走を阻止するなど重要な役割を果たしていた。共謀が成立するのは明らかで実行役が被害者を殺害することを認識していた」などとして、争点となっていた実行犯で主犯のBとの共謀を認定。「被害者を実行役に引き渡すなど犯罪の実現に不可欠な役割を果たしており、責任の重さは実行役と同等で、2度目の1審判決に誤りはない」と判断。また、「改めて争点を整理して審理したのは違反ではない」とした。一方で、2度目の1審判決後にも610万円を、合計約1211万円を被害弁償していることから「2度目の1審判決の量刑(無期懲役)は、その言い渡し時点ではやむを得ないもので、重すぎて不当とは言えない」が「被害弁償をしていない実行役と同じ無期懲役にするのは躊躇せざるを得ない」として減刑した。

最高裁の意向を踏まえて検察官のメンツも立てつつ、妥当な量刑判決を下したということかな。

さて被告人は、この判決が確定したら群馬県での男女強盗殺人未遂事件などで既に判決が確定している懲役24年に量刑が加算され、有期刑上限である懲役30年の刑が科されることになる。41歳の被告人が満期で出所したとすると71歳。それでも検察はあくまでも無期懲役を求めるのかどうか・・・

027225

 

 

 

投稿:2014年3月1日