~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
3月29日付け『朝日新聞』の「記者有論」欄に、渡辺雅昭さいたま総局長による「最高裁長官退任 改革への意思 受け継いで」なる記事が掲載されています。この人は元論説委員です。
「竹﨑博允最高裁長官が3月末で退官する。十数年にわたり最高裁事務総局の幹部、長官として、強い指導力で司法制度改革を押し進めてきた。裁判官や職員に対し、裁判のあるべき姿を追求し、そのために何をなすべきかを考え、実践するように求めてきた」と。
渡辺雅昭なる人物。裁判員制度にからんで記憶のある方もいるでしょう。制度宣伝の方策に関する意見を聞きたいと最高裁が設けた「裁判員制度広報に関する懇談会」の正式メンバー、懇談会の言論界出身の唯一のメンバーだったんですね。
そんなことをしていたら制度を客観的に論じられなくなるという批判が当時社の内外にありました。そして現実は批判されたとおりになりました。朝日新聞は裁判員制度の批判をしないどころか、制度推進の旗振り役を買って出た。以来、朝日の現場の記者は「制度推進はわが社是です」などと自嘲して言うようにもなりました。
裁判員法が成立した2004年の7月から始まったこの懇談会。彼は、裁判員制度を国民に知らせ理解させる方法論について、最高裁の大会議室で、何年にもわたって竹﨑最高裁長官(当時は事務総長)たちと親しくお喋りしていました。懇談会のテーマは2009年の裁判実施までの間、この制度をどう国民に知らせるかということでした。この人にはジャーナリストを名乗る資格はない、と思うインコ。
ちなみに、懇談会の民間委員は、ミステリ作家の篠田節子氏、心理療法や心理学の学者平木典子氏、博報堂生活総合研究所の客員研究員藤原まり子氏、元自治事務次官で財団法人自治総合センター理事長などをつとめる吉田弘正氏、そして渡辺雅昭氏。対する裁判所委員は竹﨑事務総長以下6人の裁判官資格を持つ事務総局メンバーたち。不人気の制度環境を何とか巻き返し、国民に制度を「正しく」理解させるにはどうしたらよいのか、物書きや心理学の専門家や広告宣伝のプロや天下り元お役人など、お知恵を拝借したいと頼まれた人たちのど真ん中にメディア代表として鎮座していたのがこの人なのです。
「記者有論」の記事に戻りましょう。「裁判員制度。順調に滑り出したが、子細に見ると…」と来た。おーい、裁判員制度のどこが順調に滑り出したんだって? 「順調」は長官と朝日のおそろいのはっぴに刷り込まれている「家紋」なのだけれども、「子細に見ると問題があった」が「順調な滑り出し」って言ったら、たいていの人は「ん?」となりますよ。
氏は、「手間がかかっても大切な話はその人を法廷に呼んで直接聞くのが本来の姿だという長官の問題提起は的を射ていた。しかし嘆かわしいのは長官が言い出すまで現場から声が上がらず、トップの意向が伝わったら今度はみんなが同じ方向に一斉に走ったことだ」と言っています。全然わからん。
長官の問題提起が的を射たものだったら、現場が一斉に同じ方向に走ってどこが悪い。褒めてあげてもいいじゃないか。あっち行ったりこっち来たりもたもたうろうろしている方が良いってか。そこがそもそもおかしいのだけれど、裁判員裁判の現場が実際どういうことになっているかを考えてもまるっきりおかしい。裁判員裁判では公判前整理手続きで決められた証人しか調べない。「私にはよく聞こえなかったが、弟が窓際にいたので、もっとよく聞いていたと思う」という証言が法廷で飛び出しても、公判前整理の中で弟を調べることになっていなかったから、なーんもしないで公判審理は終わりましたね。
裁判員裁判の現場っていうのは、大切なことを知る人を法廷に呼んで直接聞く裁判になっていません。長官も渡辺氏もその現実をこそ考えなきゃならんのでしょう。「現場が一斉に直接ちゃんと聞こうなんていう方向に走り出して」なんかいないし、「さっさと審理を終えてしまおうという方向ならそれこそ現場は一斉に走り出して」いますよ。渡辺氏が何を言おうとしているのかが、まるでわからないということですね。
渡辺氏は「憲法は『裁判官は、良心に従い独立して職権を行う』と定めているし、自分の頭で考え自分の足で立つという、上意下達や思考停止からもっとも遠い世界であるべきなのに、現実との間には溝がある」とも言う。渡辺氏は竹﨑氏の大号令方式に問題があると少しは思っているのだろうか。だったらなぜ「自分の頭で考え自分の足で立つという、上意下達や思考停止からもっとも遠い世界に向かえ」とはっきり言わないのか。言えない関係が彼とあなたの間にあるのか。実際には竹﨑退官報道の陰には、彼がヒラメ裁判官を増やし、長官の意に沿う人がやたらに出世しているという話が広がっているというのに。
最高裁は、2011年11月、上告趣意にない苦役違憲論を勝手に上告趣意にでっち上げ、大法廷で合憲判決を出した。現在争われている「裁判員ストレス障害国賠訴訟裁判」では、原告代理人弁護士は、「最高裁の裁判官たちは、立法府などの専横から国民の基本的人権を守る責務を負っているのに、大法廷判決(竹﨑長官が裁判長)は職権を完全に濫用した。裁判員制度を実施して国民を強制的に裁判員の職務に従事させれば、裁判員を経験させられた者は心的外傷を受けることがあると知りながら制度推進という政治的目的のもとに虚偽の上告趣意を作出して合憲判断の判例化を策謀し、下級裁判所の裁判官たちに『裁判員法は違憲』の判断を下しにくくして、制度の強引な運用と定着を追求した。このことは裁判員の職務遂行を強要された原告に厳しい心的外傷を与える原因になった」と断じています。
ストレス国賠訴訟を知らないはずのない渡辺氏が、この裁判に触れないばかりか、裁判員裁判の問題に何一つ触れることもなく、「竹﨑長官の意思を受け継いでいけ」などと言う。この論説は、「裁判員制度推進は社是」という社内と絶望の最高裁に向けた矛盾だらけのエールではあっても、読者の市民に向けた真摯なメッセージでは絶対にない。
投稿:2014年3月30日