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裁判員制度5周年社説をインコが突き回す-日経・産経編

裁判員制度5年。多くのメディアが社説や特集記事を打ち出し、テレビでもニュース報道などが展開された。今、マスコミは裁判員制度について何を言うのか、どう言うのか。主な新聞の社説を取り上げて、観察してみました033851
今回は、経済紙である『日経新聞』と『産経新聞』をまとめてお送りします。

□ 制度も崩壊なら『日経』も崩壊だぁ(5月26日)
見出しは「5年の経験生かし開かれた裁判員制度に」。「おおむね順調」だが「課題も多い」。そういう言い方をすることで業界は一致団結したんかね。『日経』もしっかりこのお言葉でスタートしている。そして課題は「量刑の判断」と「守秘義務の緩和」に整理されるらしい。ずいぶん簡単なこと。

まず「量刑の判断」。「性犯罪や児童虐待を中心に従来より重い判決が出るようになった」と。違うね。性犯罪や児童虐待などに集中しているんじゃない、「全体に重い判決が出るようになった」と言いなさい。
「(重い判決は)市民感覚を反映させる制度の趣旨に沿ったものだが、刑罰の公平や安定を損なうことにもつながる」と。で、どうせよと。「こうした現状を放置していていいのかどうか、入念な検討が必要だ」。なんだ、何も言っていないのと同じじゃないか。集団的自衛権でも、秘密保護法でも、原発再稼働でも、『日経』は「入念な検討」で済ましてはいないでしょうが。

「放置していていいのか」なんて言うけど、『日経』は「市民感覚反映」歓迎派だったんじゃないのですか。だったら、特に検討することなんかありません、これでよいのですって言ってればいいじゃないか。それじゃぁ都合が悪いこと何かあるんですかね。

そして「守秘義務の緩和」に進む。「守秘義務が厳しすぎることも問題」と。「裁判官は過去の量刑相場の意味をどう説明しているか。それを受けた裁判員はどんな議論を経て判決を導いたか。こうした実態が伝わらない」「判決に至る経緯を分かりやすく丁寧に説明しなければならない」。

うーむ、はてはて。「量刑相場の意味の説明」も広い意味で評議の秘密に含まれるでしょ。「裁判員はどんな議論を経て判決を導いたのか」って言ったら、これはもう完全に評議の中身に踏み込む話ですよ。また、判決の「理由」じゃなく判決に至る「経緯」の説明を求めるって言うんだから、つまり判決の中で評議の内容を丁寧に説明せよと言っている訳だ。

裁判員にがんじがらめの縛りをかけるところにこの制度の特徴がある。でもだからと言って、みんなが評議の実情をしゃべるようになればこの制度に将来があるってもんじゃない。そう考えているとすれば完全に読み間違えだね。もっと知られたらもっと早く終わりになるってことをこの論説委員は理解していない。こまった

結論は、「裁判員制度は司法のプロだけで完結していた裁判に民主的なコントロールをきかせる仕組みだ」と。冗談言っちゃいけません。裁判員法の第1条を読んでご覧なさい。どこにそんなこと書いてありますか。だいたい「民主的なコントロール」っていう言葉自体がめっちゃくせ者だぜ。「国民が最高裁を抑制する仕組み」を最高裁が一生懸命推進するか? 御社の論説委員はここをどう説明すんの。いや説明の前にあんた自身どう考えているの。アホくさ。

□ 無反省暴走の『産経』だぁ(5月21日)
「裁判員制度5年 国民の判断を軽視するな」が見出し。「おおむね順調」「定着しつつある」までは『日経』と同じだけど、そこから先は歯に衣着せない言い方に変わる。

「裁判員たちの真摯な評議と苦渋の判断を経て選択した死刑を破棄するのは、国民の判断を軽視して制度の趣旨を揺るがすもの」と。それが見出しにつながっている。なるほどこれは『日経』より確実に正直です。インコに叩かれる前に言ってしまおうって思ったのかな、まさか。

この制度は国民の常識からかけ離れつつある先例傾向依存への反省に立っていたのではなかったか、苦しみ悩み抜いての評議の結果だったはず、先例で量刑が決まるのなら裁判員の苦悩は不要、上級審が裁判員裁判の判決を覆す以上説得力ある説明が不可欠、先例重視の1人歩きは制度の否定につながる、等々。

苦労してたどり着いた結論が間違いだと言われたら、もうやる気がしなくなるのは当然だ。裁判員制度の生き残りには、控訴審が裁判員裁判を否定するには「特別の理由という歯止めの設定」が欠かせないという『産経』の論調はわかりやすい。問題のありかがはっきりする。

ここで新しい大問題が生まれる。控訴審は一審が誤るかもしれないというおそれに対応して作られた裁判所。それは「人は間違いを犯すことがある」という教訓に基づく産物と言ってもよい。そこに裁判員裁判が登場したことで新しい理屈が生まれた。「裁判員の判断についてはよほどのことがない限り尊重し、一審の是正にはブレーキをかけよ」。さて。
こういう理屈を私たちは認めるのか認めてはいけないのか。ハムレットを超えるような難しいテーマ、なんて言う必要はありません。そんな変な原則を司法の世界に導き入れてはいけないっていうそれだけのことです。簡単な話。

『産経』はもう一つ踏み込んだ。「裁判員の精神的負担の問題も深刻だが、裁判員にも一定の忍耐が求められる」。苦労は覚悟せよということも言っておきたいという。まぁ、こういう言い方は国民を裁判員裁判から遠ざける決定的な通告文になることだけは確かですね。

□ インコの知らない懐メロが聞こえてくる
マネージャーが何か唄ってるような。「三橋三智也よ。知らんのか?」 知らないよそんな古い唄。「じゃあもう一回唄ってあげる」…歌2
嬉しがらぁせーえぇてー 泣かぁせーてー消えーたー♪ 

ゲーセンでふてくされている女の子がいる。
「こんなおもしろいこと。私なんかお金もらえなくてもやってみたかったんだよ。それがいまとなりゃ、思い出すだけつらいよね。重大事件だっていうから嬉しくなっちゃったんよ。こんな経験、ちょっとやそっとでやれないって思った。スリルはゲームとはまるっきり違ってた。
でも死刑にするかしないかってとこはこれでも結構悩んだよ。反対する人もいてね。やっとこさっとこ死刑にしてさ。それが後でひっくり返っちゃうなんて、私なにやってたのって感じよ。どうせひっくり返すんなら、わざわざ呼ばないでよ、もうやりませんよ私。
えっ、やってみたいって言う人がもういないんだって。どうして? もう、こうなっちゃったら胸もうつろよ。これから何を楽しみにしていこうかしら」

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投稿:2014年6月9日