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裁判員こそ死刑を判断せよ!? NHKの恣意的なアンケート調査

弁護士 猪野 亨

下記は「弁護士 猪野亨のブログ」6月2日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

少々、古くなりますが、NHKで報じられていたニュースからです。
その見出しは「裁判員経験者「死刑判断行うべき」57%」というものです。
(NHK2014年5月17日)

これは、裁判員ないしは補充裁判員経験者に行ったアンケート結果ということなのですが、この見出しをみると、いかにも多くの裁判員経験者たちが死刑判断を行うべきという決意に道々溢れたような報道の仕方です。
よく裁判員経験者に対するアンケートでは、多くの裁判員経験者が良い経験をしたなどと回答したいうアンケート結果があり、これも頻繁に報道されています。
裁判員を経験したこと自体は良くも悪くも経験に過ぎませんから、問われればよほど嫌な目に遭わない限りは「良い経験」という結果にしかなりません。
その程度のアンケート調査に過ぎないのですが、このような「良い経験」とも相まって、いかにも裁判員経験者は死刑の是非の判断に対しても積極的に行うべきという印象を受けてしまいます。

しかし、その実態はどうでしょうか。
NHKの報道の中に答えがあります。
NHKがとったアンケート調査方法は、
過去1年間に裁判員ないしは補充裁判員経験者の中の252人に郵送やメールで実施
その252人の中の77人が回答。
その中の57%が上記のような死刑判断を行うべきと回答した、要は44人程度だということです。
この1年間に裁判員ないしは補充裁判員経験者の実数は、1万人を超えているものと思われます。
(最高裁意識調査平成24年度版では、裁判員ないしは補充裁判員経験者に対するアンケートで裁判員8331人、補充裁判員2604人からアンケート結果が回収されていますが、これも回収率は100%ではないと思われます。)

1万人を超える母数がありながら、死刑判断積極派は44人ということですが、とてもではありませんが、NHKの報道の仕方は意図的と言わざるを得ません。
もともと回答する層自体が裁判員制度に対し、「積極性」がある層ですから、逆にいえば、積極派は、その数(44人)で尽きているともいえます。
もともと報道機関が行うアンケートは、裁判員ないしは補充裁判員経験者が匿名扱いとなっているため、裁判員裁判の終了後に記者会見に応じている数少ない裁判員積極派(たまに反対意見を述べるために応じている裁判員経験者もいます)でその際に知り得た連絡先が今回のNHKのアンケート調査の対象だったということになります。
(それ以外のルートは想定できません)

このNHK報道では、國學院大学法科大学院の四宮啓氏のコメントがあります。
「アンケートからは国民みずから権力を監視すべきだという制度の趣旨を理解していることが分かる。一方で死刑は精神的な負担が重いことも事実で、審理の在り方や心のケアの問題を一層改善すべきだ

このアンケート結果から、何故、国民による権力監視に理解などというコメントが引き出されるのか全く不可解です。そもそも裁判員制度は権力監視のための制度ではありません。
この四宮啓氏は、司法「改革」ではトンチンカンなことばかりを発言していました。
「起訴≠有罪」?? 四宮啓氏の主張の問題点
NHK 「日本のこれから、裁判員制度」(08年12月6日)へのコメント

四宮啓氏は、死刑制度については否定的見解をお持ちのようであり、それはそれで良いと思うし、四宮啓氏の発言(見解)に私も共感するものもあります。
「裁判員裁判の死刑判決を破棄 高裁の役割を示す」

しかし、四宮氏は、死刑について裁判員が判断することの是非を問われても、死刑については分けて考えるべきだなどという見解を示してきたのですが、いかにもご都合主義に過ぎます。現に裁判員制度は死刑制度を前提にしているのですから、分けて考えるなどあり得ないことです。いくら裁判員制度を推進したいからといって自分の頭の中だけの理想的に作り上げた裁判員制度をもってして裁判員制度を語るのは裁判員制度の問題点を覆い隠す役割にしかなりません。

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投稿:2014年6月15日