~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
「台風8号ノグリー(狸)」による暴風雨の中、鸚哥大学の研究室では3羽による化かし合い…じゃなかった、仲睦まじい鼎談が始まった。
ねえ先輩。最高裁は12年2月、一審判決を覆すには「論理則、経験則などに照らして不合理であることを具体的に示す必要がある」と判示し、市民の判断を重視する姿勢を鮮明にしましたよね。その号令に下級審の裁判官たちはどう対応しているのですか。
まずは、一審地裁の裁判員裁判の結論をあえて否定する二審高裁の裁判の典型例にスポットライトを当てて考えよう。マネージャー、事件と判決を出して。いや、出して頂けますか。
松戸女子大生殺害放火事件 一審死刑、二審無期。
09年、松戸市のマンションに住む女子大生に対する強盗殺人と現住建造物放火で起訴。被告人は強盗や強姦を犯して服役しており、これは出所した直後の事件。他に強盗強姦などの余罪が11件あったとされる。
11年千葉地裁は「強い力で殺意をもって胸を刺した。犯行態様は執拗で冷酷非情で結果も重大。反省も認められず、更生の可能性は著しく低い。死亡被害者1人でも極刑を避けるべき決定的な理由にはならない」とし、求刑どおり死刑を言い渡したの(裁判長波床昌則)。
13年、東京高裁は「計画性がない。1人殺害の強盗殺人で死刑になった前例もない。死刑を選択するには一審判決は合理的かつ説得力のある理由を説明していない」として、一審判決を破棄し、無期懲役にしたわ(裁判長村瀬均)。
長野市一家3人強盗殺人・死体遺棄事件 共謀者4人中被告人B一審死刑、二審無期。被告人D一審懲役28年、二審懲役18年
10年、金銭トラブルからABCDの4人が共謀して、長野市在住の一家3人の首をロープで絞めて窒息死させ、現金約416万円などを奪い、愛知県西尾市の資材置き場に遺体を運んで埋めたとされ、強盗殺人・死体遺棄で起訴された事件。
長野地裁、11年、A(31歳会社員)に死刑。同年、B(39歳会社員)に死刑。同年、C(34歳会社員)に死刑。12年、D(51歳自営業者)に懲役28年(いずれも高木順子裁判長)。
だれが主犯かとか、被害者も加害者をイジメていてその復讐だとか、やたら入り組んだ事件ですよね。
東京高裁、14年、Aについて一審支持(村瀬均裁判長)。12年、Bについて一審支持(井上弘通裁判長)。14年、Cについて一審破棄し無期懲役に減刑「首謀者らに巻き込まれる形で犯行に加担しており、死刑は重すぎる。従来の被害者3人以上の強盗殺人事件とは重要な事情が大きく異なり、先例を参考にすべきではない。一審には刑の重さの判断に複数の重要な誤りがあった」(村瀬均裁判長)。13年、Dについて一審を破棄して懲役18年に減刑「強盗殺人はほう助にとどまる」(村瀬均裁判長)。
複数の重要な誤りって、市民語に翻訳するとメチャクチャだったと言ってるってことっすよね。
東京南青山強盗殺人事件 一審死刑、二審無期。
09年に東京・南青山のマンションで74歳の男性を殺害したとされた事件。10年起訴。弁護人は無罪を主張し、被告人は完全黙秘。
完全黙秘って裁判員には評判悪いんすよね。やってないならちゃんと弁明しろとか。
一審東京地裁は強盗殺人罪で死刑判決。「状況証拠を総合すると被告人が犯人と認められる。冷酷非情な犯行。2人殺害の前科は特に重視すべきで、生命をもって償わせるほかない」と。
2人殺害の前科って今回の事件とは内容が随分違うんでしたよね。
二審東京高裁は11年、「前科は夫婦間の口論の末の殺人とそれを原因とする無理心中。今回の強盗殺人との間に社会的にみて類似性はない。更生の可能性がないとも言えない。一審判決は刑の選択を誤った」として、一審を破棄して無期懲役に(裁判長村瀬均)。裁判員裁判の死刑判決が破棄された最初の事件。
東伊豆町ホテル暴行死事件 一審懲役12年、二審懲役8年。
10年、静岡県東伊豆町のホテルで元妻の顔や腹を殴って死亡させたとして傷害致死で起訴された事件。
同年、静岡地裁は懲役12年の判決。
検察は殺害を計画して旅行に行ったと言ってたような。でも、復縁のための旅行でそこで元妻が「他の男性と関係している」と言ったことが原因みたいな…。
11年、東京高裁は一審を破棄、8年の懲役に。「被告人の飲酒や睡眠剤服用は犯行にさほど影響を与えていない。復縁目的の旅行中の偶発性の強い犯行。妻側にも原因があり、一審判決には量刑に重大な影響を及ぼす事実誤認がある」と。
一審の裁判員裁判と違って、高裁の裁判官は検察の主張を鵜呑みにしなかったってことっすよね。
強制わいせつ致傷・監禁事件 一審懲役4年、二審懲役3年。
09年、神戸市内のホテルで取引先の女性にわいせつな行為をしたなどとして、強制わいせつ致傷・監禁で起訴された事件。
監禁ってホテルの室内から出られないようにしたってことなんすよね。部屋には自分で入ったんすよね。
被告人は「自供書は警察に誘導されて作成した」として無罪を主張。一審大阪地裁は懲役4年の判決。
被疑者が自分から進んで犯罪を告白したように捜査官がまとめる文書のこと。新明解さん風に言えばね。
大阪高裁は一審を破棄して監禁について無罪を言い渡した(裁判長森岡安広)。「ホテルに無理矢理連れ込まれたという被害者の証言はやや誇張して述べている可能性がある」と。
正直言えば、高裁にはそこまではっきりと踏み込んでもらいたかったね。
竹田母親殺害事件 一審懲役3年、保護観察付き執行猶予5年、二審無罪
10年、大分県竹田市の自宅に引きこもり状態だった男性が同居していた母親の首や胸を缶切りや金属製の箸で何度も突き刺して殺害。
男性は統合失調症の患者だったが、検察は精神鑑定の結果、責任能力があると判断して起訴。
裁判では事実関係に争いはなく、責任能力の争いに。検察は引きこもり生活への不満などが動機と主張、弁護側は心神喪失を理由に無罪を主張。
11年、大分地裁は「急所を執拗に狙っており、行動制御の能力が残っていた」として、懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決(西崎健児裁判長)。弁護側控訴。
同年、福岡高裁は、当時の生活状況や通常は使わない道具を凶器に使って1時間も攻撃する行動の奇妙さを指摘して被告人を「重度の統合失調症」と認定、引きこもり生活の中でふと「母親を殺そうか」と思ったとする動機も「了解不可能」と論及して責任能力を全面的に否定(川口宰護裁判長)。裁判員裁判の有罪を破棄して全面無罪を言い渡した初の判決。
その前にまずは裁判官を紹介しよう。何回も名前が出てくる村瀬均裁判官について。この人は一審の死刑判決を3件破棄して無期懲役にした高裁判事。裁判官経歴37年。最高裁刑事局付、最高裁調査官、司法研修所教官を歴任したエリート裁判官。現在は東京高裁部総括判事。東京地裁時代に、新宿のホームレス強制撤去事件で無罪を言い渡したかと思うと、都立高校元教員が卒業式開始前に君が代不起立を保護者たちに呼びかけたことを威力業務妨害として罰金を言い渡したりしたことで知られる。
村瀬さんは威力業務妨害判決で「ヒラメになった」と非難する人もいるけど、私はそうは思わない。きっと1対2の合議で破れて仕方なくだったと信じている。
(きっ)確かに村瀬さんは裁判官にしておくにはもったいないと思うけど、それで言ってるんじゃありません。
はいはい、次に川口宰護裁判官。地裁時代に無罪判決をいくつも出している。福岡地裁では、飲酒した地方公務員が運転する自動車にぶつけられて海に落ち3人の子どもたちが亡くなった事件で、危険運転致死罪の成立を主張する検察に、業務上過失致死罪(当時)に訴因を変更させたことでも話題になった。裁判員制度を宣伝する最高裁のリーフレットに登場したことでも知られる。高裁に来てからは一審無罪を逆転させるケースも目立つよ。
この人も裁判官にしては見た目が良い男ね。だからリーフレットの顔に選ばれた。
でも、竹﨑さん(前最高裁長官)や寺田さん(現長官)ではちょっと陰気っぽくって…。
東京南青山強殺事件で死刑判決の言渡しに参加した裁判員たちの感想を取り上げると。
判決後の共同記者会見で、判決言い渡しにも無言を通した被告人に、50代の女性裁判員は「感情がまったくわかからない」。補充裁判員の30代の男性裁判員は「被告がしゃべってくれたら何かわかると思ったが」。死刑判断にかかわった精神的負担について、20代の男性裁判員は「今のところ負担はない」。40代の女性裁判員は「今はあまり今後の負担を考えないようにしている」。50代の女性裁判員は「日常生活に戻った時に負担を感じるかもしれない」。この事件の一審判決は高裁で破棄された。
今のところとか、考えないようにしているとか、感じるかも知れないというような「奥歯に物が挟まった」言い方をするところに、心の奥底によどむ複雑な思いが覗けるわね。
この裁判員の皆さんは、二審の減刑判決を知ってどう思ったのでしょう? 悔しかったかほっと安堵したのか。裁判員をまたやってみたいと思ったか、2度とやりたくないと思うようになったか。
そうね。どうなんでしょう。
さて、問題は、市民の判断を重視する最高裁の姿勢に、高裁の裁判官たちがどういう態度をとっていると見るかだわ。
不合理であることを具体的に示していない逆転判決など現実には考えられない。だから、「不合理であることを具体的に示せ」という指示は「よっぽどのことがない限り裁判員裁判の結果に従え」と言っているに等しい。とすれば、彼らは最高裁の指示に唯々諾々と従うことはせず、むしろ抵抗とも言える行動をとっていると見て良いだろう。
今年4月14日のジャーナリストの卵OMさんが「全国犯罪被害者の会に参加し、刑事司法を考える」でも報告してくれているが、1月、全国犯罪被害者の会(あすの会)が「何時間もかけて慎重に心理を尽くし死刑を言い渡した一般市民の判断の重みを軽視し、裁判員制度の否定につながりかねない。軽々に一般市民の良識ある判断を覆すべきではない」と決議した。高裁の逆転減刑判決を怒る人たちと最高裁の姿勢には通じるものがある。
結論として、「一審裁判員裁判を否定して減刑する二審高裁判決は、裁判員裁判に対する裁判所部内の亀裂と溶解を私たちの眼前に展開している」ということですね。
投稿:2014年7月13日