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可視化ってなんだ、で本当は何が問題なのか

卵なし4「かしか」ってなんですか。

お茶かじかは淡水産の硬骨漢、じゃなかった硬骨魚。体長約15センチでハゼのように細長い。暗灰色で背部に雲形斑紋。清冽な水を好む。美味である。たしか、そうだ。

卵なし4だじゃれを言ってる時じゃありません。かじかではなく「かしか」です、「かしか」。

お茶かしかか。菓子科は料理学校の菓子専門科目です。特に洋菓子は若い女性に今大人気、名の通った学校だと洋菓子科は入学順番待ちだね。ほらシェルブールの雨傘で有名な…。

卵なし4違います。何かどんどん違う方にいっちゃう。あのー、字を言うと、不可の可、無視の視、お化け屋敷の化、それで可視化って言うらしいんだけど…。

むふふちょっとちょっと、字の説明が超ヘンだぜ。わかったよ、「取り調べの可視化」って、そう言ってくれればいいんだよ。余計な話を私にさせないでさ。

あせあせ私は余計なことは何も言わせてませんけど、先輩がどんどん…。

1-e1397901276348取り調べの可視化の説明だね。痴漢えん罪でもよい、貰い事故なのに加害者と見られているというのでもよい。君が捜査対象の被疑者になったつもりで聞いて下さい。可視化というのは、被疑者の取り調べの実情を録音・録画することにより捜査中の人権侵害を防ぎ、えん罪を減らす制度っていうのがよく言われている説明。

卵なし4へー。最近は検察や警察の取り調べのひどさや証拠捏造が問題になっているのでいいことじゃないですか。

1-e1397901276348ところが、その説明がそもそもひどいくせ者。一言で言えば「不可」。

あせあせ「不可」いやな言葉だなぁ~。

1-e1397901201583ヒヨコ君もまだ不可はもらっとらんだろう。

1-e1397901276348あっニャンコ先生。いま「可視化」の問題について話をしていたのですが、可視化を一番言っていたのは日弁連ですよね。だから何となく捜査中の人権侵害を防ぎ、えん罪を減らす制度だと思うのですが…でもなんかしっくり来ないというか肝心なことを忘れているような気がするんです。

1-e1397901201583ゆっくり説明しよう。可視化をいちばん言い募ったのは日弁連、というよりも「そこを根城にしている弁護士たち」と言った方が正確だが。例えば、「日弁連取調べの可視化実現ワーキンググループ」の小坂井久事務局長は、「現在進行している刑事司法改革のなかで、取り調べの可視化を改革の最優先課題とすることは、圧倒的に正しい」と断じていた(『季刊刑事弁護』38号「取調べ可視化実現に向けての動きと基本的考え方」2003年)。

へ?圧倒的に正しいですか…。

1-e1397901201583そして、そういう連中をマスコミが応援して追いかけた。20年くらい前からぽつぽつと言われ出していたが、今世紀に入って司法改革論議が進む中で爆発した。

へ?司法改革論議…なんか怪しい気がする。

1-e1397901201583この国の刑事訴訟法を正しく解釈すれば、被疑者には取り調べを受ける義務なんてない。そのことを専門家は「被疑者に取り調べ受忍義務はない」と言う。任意で取り調べられている時はもちろんだが、身柄が拘束されている場合でも、取り調べを受ける義務なんてない。取り調べを受けたくないと言えば、調べ官は直ちに取り調べを止めなければならない。

疑問インコ2えっ、ほんとですか? ヒヨコ君、知ってた?

あせあせ先輩が知らないのにボクが知ってる訳ないじゃないですか。ってか、ほとんどの人は知らないと思います。

1-e1397901201583その原則をそれこそ「無視」して、実際の被疑者取り調べは弁護人も立ち会わせない密室で行われている。当局や当局の立場に立つ学者は、拘束されている被疑者には取り調べを受ける義務があるなどと言っている。それが現実だ。

1-e1397901276348たぶん、任意でも取り調べを受ける義務があるかのように言うんだろな、警官は。

1-e1397901201583人権擁護の立場に本当に立つのなら、まずそのような取り調べのやり方を止めろということから言うべきだろう。「密室内で弁護人も立ち会わせないで取り調べをするのだから、せめて録音・録画はして下さい」なんて、どうして譲歩的・屈辱的な要求をするのか。

1-e1397901276348そう言われたらそうです。弁護人の立ち会いなしに取り調べをするなと日弁連は主張すべきです。

1-e1397901201583取り調べる対象の被疑者を取り調べる警察の留置場に収容すること自体、自白を強要する構造だ。結局えん罪の温床になり、そこから無実の罪に泣く人が生まれる。

へ?それって確か国連拷問禁止委員会・自由権規約委員会でも問題になってましたよね。

1-e1397901201583そうじゃ。だから、逮捕勾留した被疑者を捜査当局から完全に切り離し、警察外の収容施設に収容する。取り調べをしたい警察官や検察官はその施設に出かけて行って被疑者から話を聞けばよい。その施設としては法務省が所管する拘置所などがふさわしいというのがこれまでの日弁連の主張だった。

卵なし4今はもう言っていないのですか?

1-e1397901201583いや、今でも小さな声ではそう言うのだが、以前は大きな声で叫んでいた代用監獄廃止要求をここにきて押し入れの奥にしまい込んじゃった。一方、学者はと言えば、日弁連のお祭り騒ぎを総じて冷ややかに見ていたね。小坂井弁護士は、学者の姿勢がよほど気に入らないと見え、「研究者の方々は、一部を除いて、必ずしも積極的反応をされてきたとはいえない」なんてわざわざ言っている(前同引用書)。

1-e1397901276348にゃんこ先生も日弁連何をしとると…。

1-e13979012015832002年、きときと(新鮮)な魚が自慢の富山県氷見市で無実の男性(当時34歳)が強引極まる取り調べで自白を迫られ虚偽の供述をした。その結果強姦で3年の懲役になった。彼は服役して出所したが、その後に真犯人が現れるという捜査犯罪事件が発生した。もちろん再審無罪だ。
続いて2003年、はもや薩摩揚げなどが名物の鹿児島志布志市では、県議選をめぐる選挙違反事件で、踏み字など非人道的な取り調べが強烈に展開された。しかしこちらは判決前にその事実が暴露されたため12人の被告人全員が無罪になるというこれも大変な捜査犯罪事件が発生した。

卵なし4覚えています。どちらも警察・検察は何をしているのだという批判の声が全国から上がりましたよね。

1-e1397901201583そうじゃ。暴走捜査は今に始まったことではないが、窮地に追い込まれた検察は、取り調べの一部について録音・録画をして見ようと言い出した。警察はしぶとく抵抗したが、検察は少し先を読んだ。近々導入される裁判員裁判では、捜査が適正に行われたことを裁判員に説明する必要がある。可視化はそれに役立つ。

へ?一部って、なんか検察にとって都合の良いところだけって話になりませんか。

1-e1397901201583なったのじゃ。裁判員裁判開始を2年後に控えた07年5月、ある事件の公判で、検察は、捜査段階の自白が任意に行われたことを証明する証拠として、録音・録画を提出した。それは検察に好都合な部分だけを切り取ったものだった。この頃から「可視化」は検察側の武器として使えるという論が検察内部でも展開され始めた。「映像をご覧下さい。被疑者は頭を下げて謝ってるでしょ。このどこに脅迫行為や暴力行使がありますか」という感じだ。

あせあせそこに至るまでに何があったのかが問題では…。

1-e1397901201583なんでもいいから自白してしまおうと決断するところまで被疑者を追い込んで追い込んで追い込んで、叩き割った被疑者を前にして録音・録画をすれば、どこにも脅迫も暴行も利益誘導も出てこない。峠はとっくに越し話の始末はついているのだ。そしてその自白は決して「任意の自白」ではない。そういうケースが当然起こり得る。

1-e1397901276348でも、裁判員はもちろん、裁判官もその「自白」を信じてしまうのでは? 日弁連はそれで良いのですか?

1-e1397901201583日弁連もつい最近まで、捜査側に好都合な録音・録画だけ出すのは許されないとして、「一部可視化」ではなく「全面可視化」じゃなければダメだと言っていた。99%出されても隠された1%のところにとんでもない違法捜査の証拠が潜んでいる可能性がある。いや、そんな極少部分を隠していれば、そこにはよほど不都合なことがあるのだろう。そういう見方に立った「100%要求」だった。

卵なし4100%なら安心…。

1-e1397901201583いや、100%なら本当に有効か。よく考えたまえ。そこが可視化の問題の本当の中心だ。自分の支配下に置いた被疑者を取り調べる取り調べ官には、被疑者に影響を与える場がいくらでもある。「これは取り調べじゃないからな」と言えば、それは取り調べじゃなくなる。そんな時に捜査官と被疑者の間で交わされている会話など、わかったもんじゃない。

へ?うーん。

1-e1397901201583何をもって取り調べというかを捜査当局が決めてしまう以上、「取り調べの100%」なんてお題目のように唱えたところで、与太話にしかならない。

あせあせ100%可視化でも問題ありか…。

1-e1397901201583身柄を拘束されている被疑者は、それだけで無限の不安に追い込まれている。いや、捜査官は不安に追い込むのだ。たいていの被疑者はこれからどうなって行くのかわからないでいる。捜査官は、自分の胸一つで決まるようなことを必ず言い、そこで執拗に自白をとろうとする。暴力や甘言が使われなくても、状況そのものがしっかり拷問なのだ。そのような状況下でされた自白など、真実をそのとおりに述べたものではない。

あせあせ身柄を拘束なんてされたら、いつ釈放されるのか、これからどうなるのか不安で仕方ないです。

1-e1397901276348日本は先進国にあるまじき勾留期間だからなぁ。3日で釈放されるならともかく、微罪だって起訴までギリギリの23日間勾留される可能性だってある。仕事やなんだかんだ考えると認めちゃおうとなりかねない。

1-e1397901201583だから、取り調べの可視化要求ほど現実離れしたものはない。それなのに日弁連がそのことを言い募った。そうしたら、検察側にその主張を逆利用されて、日弁連さんが強調してやまない録音・録画をいくらか取り入れるから、その代償として、この際皆さんが人権侵害捜査と批判してこられた手法を少し取り入れさせてよ、と言ってきた。今、法制審議会で行われている「新たな刑事司法制度の構築」のことだ。

怒りなぬっ!

1-e1397901201583でも、録音・録画を取り入れるって言ったって対象は全刑事事件のたった2%強に過ぎない。少ないからダメとか、多くなればよいと言ってるんじゃないからここは間違えるでないぞ。一方、人権侵害捜査の取り入れは「少し」どころじゃない。ここで刑事司法の根底からの改悪話に一挙に進んでしまった。日弁連が可視化に途方もない高値を付けたものだから、彼らは相当の人権侵害を言ってもバランスは取れているはずだということになった。

怒りそんな…可視化で失うものの方がはるかに大きいのがわからないのか日弁連は。

1-e1397901201583整理しよう。日弁連は、さして意味もなく場合によっては有害にもなりかねない可視化の主張を刑事司法改革の主柱として大展開した。検察はそれを利用して人権侵害司法にさらに推し進める策を提案し、それをセットで実現しようと言ってきた。
日弁連執行部はこの構想に賛成した。日弁連は誤って掘ったどでかい穴に自ら喜んで転がり落ちた。

卵なし4執行部の暴挙にみな黙っていたんですか?

1-e1397901201583いや、強引な展開に全国の会員が激しく反発したのはもちろんだ。今年6月に開かれた日弁連理事会では、全国51単位会のうち23会の理事が反対を表明した。

へ?半数近い理事が反対するなんてめったにないことでしょう? 当然、執行部は態度を…。

1-e1397901201583いや、執行部は、ボタンのかけ違いを認めないどころか、前のめりに悪の道を突き進んでいる。
8月2日の『朝日新聞』のオピニオン欄は、「インタビュー 取り調べ可視化 まず一歩」というタイトルで、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員を務めた周防正行監督を登場させている。聞き手は例によって山口英二記者だ。

へ?また、山口記者ですか。(「裁判員裁判はえん罪を確実に増やす」でも触れた聞き手なのでそちらも見て下さい)。

1-e1397901201583中見出しは「対象事件2%でもおおきなクサビ 全過程実施に意義」「進まぬ司法改革 反省なき裁判官 裁かれる視点持て」だ。周防氏は、全過程で録音・録画が義務づけられたことに大きな意義があると言っている。だが、特別部会は、検察に録音・録画をするかしないかについて裁量の余地を与えていて、無条件の全過程録音・録画など決めていない。

1-e1397901276348「恣意的な運用を許さないというクサビが打てた」って? 監督は、刑事訴訟の原則が実施されていないことを怒って映画『それでもボクはやっていない』を作ったんでしょ。「実態への疑問と怒りではちきれそうになってこの映画を作った」ってこの記事の中でも言っているじゃないですか。

1-e1397901201583その周防監督は、録音・録画をしたら痴漢えん罪がなくなるとか少なくなるとか本心思っているのだろうか。氷見事件にも志布志事件にも反省の色さえ見せない裁判所や検察庁の姿勢に身震いしなかったか。

1-e1397901276348監督って、失礼ながら言うほどもなく脳天気なお方なのか。それとも司法改悪を疑うことを知らない『朝日』記者に見事に誘導されてしまったのかですね。

1-e1397901201583この特別部会は、この国の司法が正統に行われていると信じて疑わない裁判官や検察官や御用法学者と、腕に「可視化いのち」と彫り込んだ日弁連委員と、なにやら一般受けしそうな映画監督やえん罪被害の厚労相元局長や司法ジャーナリストなどを五目煮よろしくまぜ集めた文字どおりの「お化け屋敷」だ。まともな議論が行われていると思う方がおかしいだろう。

1-e1397901276348お化け屋敷が「新たな刑事司法制度の構築」という怪物を生み出すつもりなんですね。

1-e1397901201583そうじゃ。こんな形でこの国の刑事司法の将来が決められたら、私たちは安心してかじかや洋菓子を食べたり、きときとやはもに舌鼓を打っていられない。そのことを国民の誰もがよくわかるように、法制審議会の実態を国民の前に「可視化」せよと私は言いたい。

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投稿:2014年8月14日