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あてどもなく荒野をさまよう最高裁

001177求刑を超える判決の是非をめぐって「最高裁もフラフラしている」という投稿がありましたよね。(「この制度はもう山を超えられないのでは」) 。インコさん、最高裁もフラフラとはどういうことですかって質問が来ているわよ。saikou

卵なし4ぼくもわかりやすく話をしてほしいです。

へ?わかった。わかりやすく話をしよう…。でも、判決の比較の話だから、どうしても細かくなり、長くなるのは許してね

001181…(あれっ?どうしのかな。いつもにまして弁解がましい)

1-e1397901276348最高裁の同じ小法廷の2つの判決を比較して考えることにする。

あせあせ小法廷って何ですか?

001177最高裁は長官と14人の判事によって構成されているの。このうち、15人の裁判官全員で裁判をする法廷のことを大法廷といい、原則5人の判事で裁判を進める法廷を小法廷というの。この小法廷は、3つあって、それぞれ第1小法廷、第2小法廷、第3小法廷とよばれるの。長官もいずれかの小法廷に属することになっていて、寺田逸郎長官は第2小法廷に所属しているわね。ちなみに上は大法廷の写真ね。

1-e1397901276348舞台は第1小法廷。最初に登場するのは、2012年2月13日に判決が言い渡された覚せい剤取締法違反等被告事件の判決。最高裁判事自身が後に紹介する別の判決文の中で「チョコレート缶事件」と名付けている。

001177判決に入る前に、いつものように事件を紹介しましょう。公訴事実(検察官の主張する犯罪事実)は次のようなものね。
「被告人は、クアラルンプール空港から成田行きの航空機に搭乗する際に、営利目的で氏名不詳の者と共謀し、約1キロの覚せい剤を缶3個に小分けしボストンバッグに隠して手荷物として積み込ませ、成田では機外に搬出させて覚せい剤の輸入行為を行った(ここで覚せい剤取締法違反は既遂)。
また、覚せい剤の携帯を申告せず税関の検査場を通過して輸入しようとしたが職員に発見され目的を遂げなかった(関税法違反は未遂)」

1-e1397901276348地裁・高裁の判決はこうだ。第1審千葉地裁は、裁判員裁判の結論として、「缶の中に覚せい剤が隠されていることを被告人が認識していたとは認められない」。無罪判決だ。検察は納得できぬと控訴。
第2審東京高裁は裁判員裁判の判断には事実誤認がある、検察の不服には理由があると認定して1審判決を破棄、一転有罪判決。今度は被告人側が上告。

あせあせ検察は、1審判決を尊重しなかったんすね。

1-e1397901276348ういうことになる。さて、最高裁第1小法廷は、12年2月、「原判決を破棄する。本件控訴を棄却する」と言い渡した。つまり、「検察官の控訴に納得した東京高裁はダメ、第1審裁判員裁判の結論のままでよろしい」ということ。ここまでよいかな。プリント

卵なし4はい

001177時期を押さえておきましょう。11年11月16日の大法廷は、「裁判員の職務は参政権と同じような権限を国民に与えるもので苦役を強制するものではない。裁判員制度は合憲」という判決を出したの。当時は竹﨑長官で、寺田さんは判事として裁判に加わっていたわね。
11年と言えば、3.11大震災があり、そのわずか2週間後に福島でも裁判員裁判を再開せよと最高裁が号令をかけて猛反発を受けたとき。焦った最高裁が必死の巻き返しを図って裁判員裁判は合憲だという判決を出した。この小法廷判決はその合憲判決からわずか3か月後に言い渡されたものだったのよ。

1-e1397901276348高裁の破棄判決の内容に入るよ。
被告人の機内携行袋にあったチョコ缶よりも預けたバッグのチョコ缶の方が重かったのでX線検査を施行したら影が認められ、開缶したら白色結晶が発見され、覚せい剤であることが確認された。

卵なし4チョコ缶の重さに違いがあったと。でもそれってあり得ることじゃないっすか。クッキーが入っていると軽いとか。

1-e1397901276348(無視して)被告人は名義の異なる5通の外国旅券を持っていて、うち3通は偽造だった。捜査の中で、被告人は国内にいたある外国人から30万円の報酬で偽造旅券の密輸を頼まれ、マレーシアでその外国人への土産としてこのチョコ缶を渡すことを頼まれたと供述した。
裁判では「被告人が覚せい剤と知っていたか」が争点になった。検察官は犯行の態様や被告人の言動、弁解の実情から覚せい剤と知っていたことは明らかだと主張。これに対し被告人は、偽造旅券の密輸の認識はあったけれど、チョコ缶に覚せい剤が入っているという認識は絶対になかったと弁解。

あせあせ偽造旅券の密輸を頼まれただけだと…

1-e1397901276348第一審判決は、検察官の主張に即して次のように判断した。
①缶の内身は外から確認できないし、開缶した気配も特になかった。
②偽造旅券の密輸の事実があったからと言って、直ちに覚せい剤密輸の認識につながるものではない。
③被告人は預けたチョコ缶と手持ちのチョコ缶の重さの違いに気づく機会がなく、また仮に重量差に気づいたとしてもだからと言って直ちに薬物隠匿がわかるものでもない。
④税関検査時の被告人の言動の不自然さをいうが、子細に考察すれば納得できないものではない。
⑤被告人に報酬を約束した者が覚せい剤輸入事件の被告人として裁判中の人間であることは、確かに被告人の認識をうかがわせる事実ではある。
⑥しかし、偽造旅券は隠していたのにチョコ缶は目立つところにおいていたり、偽造旅券の開示には抵抗したのにチョコ缶については直ちに開示したことなどからすると、被告人の弁解は信用できないとは言えない。
以上の判断に基づき、裁判所は結局無罪を言い渡した。

001177特に、「税関検査時、チョコ缶開示を求められたとき、被告人にうろたえた様子がなかった」ってことがポイントだったみたいね。

1-e1397901276348そういうこともあった。で、控訴審は、いろいろ主張が変遷したり隠そうとしたりしていることを挙げて、被告人の供述や態度は総じて信用できず、第1審判決の言うあれこれの指摘や説示は納得できないと判断、被告人が覚せい剤と認識していたと認めるのが相当として第1審判決を破棄、有罪を言い渡した。

001177判決は懲役10年と罰金600万円だったので、当然、被告人側は上告ね。

1-e1397901276348最高裁はこう言った。控訴審の審査はあくまでも第1審の判断が不合理なものと言えるかどうか事後的に審査するもの。だから第1審判決に事実誤認ありと言うためには、第1審判決の不合理を具体的に示さねばならない。裁判員裁判では直接主義・口頭主義が徹底されたからとりわけそう言える。
①~④は被告人の薬物認識を推認する根拠としては足りない。
例えば、供述に変遷があると言うだけでは足りないし、⑤は確かに認識をうかがわせはするが、被告人はそれなりに裏付けのある弁解もしている。
被告人の認識を支えると検察官が言う間接事実は被告人に認識がなかったことの証拠とも評価でき、第一審判決が不合理だとは必ずしも言えない。控訴審としては第1審判決に論理則や経験則等に照らして不合理があることを十分に示していない。

001177ここで、白木勇判事は次のとおり補足意見を示したの。
「裁判員裁判の事実認定や量刑判断に幅の広がり、許容範囲を認めないのは不合理。裁判員制度の下では、控訴審は第一審裁判員裁判の判決をできる限り尊重すべきであり、論理則や経験則等に照らして不合理でなければこれを受け入れるべきである」とね。

怒り何を言うとるんや。
控訴審は第一審判決を前提として事後的に審査するという理屈は裁判員裁判だろうが裁判官裁判だろうが刑事裁判の基本原則だ。論理則だの経験則だのと小難しい言葉を振り回さんでもよろしい。
第一審の判断に具体的な不合理が見いだせなければ、裁判官裁判だって第一審判決を尊重しなければいけない。裁判員制度が導入されて直接法廷で尋問したり、書面証拠より口頭証拠が重視されるようになったから事後審査になった訳ではない。
あったり前の話について、なにをごちゃごちゃ言っとる。プリント

焦るインコさん、落ち着いて…

怒り裁判員裁判になったからもっと重視しろという理屈のおかしさをとりあえずおいて考えることにしてもだ。
裁判員を重視尊重するとどこまで、しかもどういう基準で受け入れの幅が広がるのかがさっぱりわからない。つまり、論理則とか経験則とか合理性とかいろいろ言っても、要するにどのような場合には第1審判決をひっくり返してよいのか、ひっくり返さなくちゃいけないのかという基準が全然示されていないだろ。

きっ白木判事はほとんど底抜けに裁判員優先を言いたいみたい。でも、基準は不要とまでは言わず、できる限りなどと言っているのだから、他人に理解できる判定基準をきちんと言わなければいけないはずなんだけど、確かに彼はその点何も言ってないね。

あせあせ簡単に言えば、「裁判員裁判はできるだけ尊重してよ」と言っているだけなんですね。

001177そういうこと。裁判員裁判が崩壊しかかっている現実をよく反映した悲鳴に近い判断だったってことね。

1-e1397901276348最高裁のおそまつな裁判員尊重のメッセージさ。
それがどうフラフラしているのか。それから2年5か月が経過し、ここで話は第2章、今年7月24日の同じ最高裁第1小法廷の判決の段に移る。

001177この判決についてもインコのトピックスにいくつも記事があるので参照してね(「『いま、最高裁は語りはじめます』ってか?!」「超えるか超えぬか 最高裁はどこに行く」「最高裁は結局こういところに行き着く」)。

1-e1397901276348この事件について第1審が認定したのはだいたい次のようなことだ。「被告人ら父母は2人の間の3女に継続的に暴行を加え、お互いに容認して共謀し、自宅で父が3女の頭を平手で強打して床に打ち付けさせ急性硬膜下血腫などの傷害を負わせて脳腫脹により死亡させた」。
1審大阪地裁は、検察官の各懲役10年の求刑に対し、これを5割も超える各15年の刑を言渡した。量刑理由は、犯情に関しては、児童虐待の親の責任、態様が悪質、結果が重大、身勝手な動機、父母の責任に差異なしなどなど。一般情状としては、堕落的な生活、罪に向き合わない態度、責任を2女に向ける態度などなど。

卵なし41.5倍の懲役15年になった量刑理由はなんでしたっけ。

1-e1397901276348検察官の求刑は児童虐待の悪質性や2人の態度の無責任さを十分に評価していないと断じたね。
また、同種事犯の量刑傾向と言っても、過去の実例がまとめられている「量刑検索システム」では判断の妥当性の検証ができない。
今まで以上に厳罰を科すことが社会情勢に適合することなどを挙げたね。

001177これについて、2審大阪高裁は、第1審判決は誤っているとまでは言えず、第1審の量刑判断が同種事犯の刑より突出して重いものになっていることで直ちに不当とも言えないと判断したの。
つまり第1審裁判員裁判の完全受け入れ声明ね。

卵なし4「なんてったって最高裁の12年2月の判決があるからなぁ」なんて高裁の裁判長は言ったんすかねぇ。

焦る…(うわっ。その物言い、インコさんそっくり)

1-e1397901276348ところが最高裁の判断は、裁判員裁判の第1審判決も、これを擁護した第2審の判決もそろって破棄するというものだった。裁判員顔色なしの形なしだ。
さてさて、これはいったいなんなんだということになった。

001177ふぅー、ここまでの話が長かったけど、これで最高裁フラフラって言う訳よ。

1-e1397901276348で、最高裁はこんな風に言っている。第1審判決の量刑とこれを維持した第2審の判断は次の理由で是認できない。
先例の集積によって量刑傾向が示され目安とされるから、量刑要素が客観的に適切に評価され、結果が公平であることが必要になる。これまでの量刑傾向を視野に入れて判断することは、量刑判断のプロセスの適切さを保証する重要な要素になる。その理屈は裁判員裁判でも変わらない。
先例の集積結果に相応の変容を与えることはあり得るが、裁判員裁判といえども他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならないことはいうまでもない。

卵なし4それって当然すぎるくらい当然の話ですよね。

1-e1397901276348第1審判決は、従前の傾向に必ずしも同調せず、そこから踏み出した重い量刑が相当であると考えていることは明らかである。公平性を考えてもその判断が是認できるものであるためには、従来の傾向を前提とすべきではない事情の存在について具体的、説得的に判示せねばならない。
本件第1審判決はその点の根拠を示していない。
結果、甚だしく不当な量刑判断になったので破棄して自判する。父は懲役10年、母は懲役8年。

001177ここでまた白木勇判事が登場して補足意見を言うのね。この人はかなりおしゃべりな人と見える。0174670

1-e1397901276348むふふマネージャーと…

きっ何か言った?

むふふえっ、いえいえ何も言ってなんかいないわ、泣いてない♪…

001177「量刑は直感で決めればよいのではない」だって。裁判員裁判であろうがなかろうがそれは当然のことでしょうが。直感で決めることの良し悪しなんてわざわざ言うのはどういうことよ。

あせあせえっ、この人そういう宗旨でしたっけ、前の判決はちがっていたんじゃ…。

001177「裁判員裁判の裁判官は量刑に関する判例や文献等を参考に、量刑評議のあり方について日頃から研究し、考えを深めておく必要があろう」

1-e1397901276348それって判決の中で書くことかい。

001177ふふふ。「個別の事案に即して判断に必要な事項を裁判員にていねいに説明し、その理解を得て量刑評議を進めていく必要がある」。
裁判員のいうことにできるだけ耳を傾けろっていうんじゃなかったのかしら。この人のいう「できるだけ」の意味の研究も必要ね。

1-e1397901276348やっぱ、ご本人自身、過去の発言との整合性を問われるなと思ったんだろうな。
自分から、12年2月のチョコレート缶事件で言った自分の補足意見を引っ張り出した。
「私(白木判事)が『裁判員裁判ではある程度幅のある認定、量刑が許容されるべき』と言ったのは、適切な評議が行われたことを前提にしているのだ」ってさ。

卵なし4なーるほど。「幅は認めるがそれは裁判官がきちんとリードした場合に限るよ」ってことっすね。

001181(あらっ!よくわかってるじゃない)

卵なし4それにしても、ある判決の趣旨を別の判決の中で釈明するって前代未聞じゃないっすか。

001177そうでしょうね。自説の論旨が一貫していないって別の判事に指摘されたりして、いやあれはこういう意味だったんですよ、なんて弁解して、そうだ言うことがその時々でまるっきり違うじゃんなんて言われないように時機後れでもなんでもいいからこっちの事件の方で弁解しておこうって思ったんでしょうね。

1-e1397901276348でもねぇ。「可能な限り裁判員の言い分を聞け」とか、「裁判員にていねいに説明しろ」とかいったって、要するに裁判員の主張についてホントのところどういう姿勢をとれというのか、具体的にはまるでわからんというのが正解だろうね。
だって基準標と言えるものが何一つ示されていないもん。実際の裁判には一切関わらない最高裁の判事たちの勝手な空論には、現場のまじめな裁判官たちは頭ぶち切れるんじゃないかなあ。

お茶さぁて、「最高裁がフラフラしているってどういう意味ですか」って質問をくれた読者の皆さん。最高裁が空論をもてあそんで、あっち行ったりこっち行ったりとそれこそ定まるところもなくフラフラしていることはおわかりいただけたでしょうか。

001177今夜は月がきれいね。同じふらふらでも、私たちは秋のすすき野にふらふらと散歩に出ますか。

お茶いいっすね。月見で一杯っと。準備してきまーす。

あせあせこういうときだけ、インコ先輩って動きが素早いですね。

焦るほんと。ほんと…087589

 

 

 

投稿:2014年9月16日