~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
大阪地裁の求刑1.5倍判決を最高裁が見直したことについて、自民党法務部会は会合の中で、「市民目線で刑の重さを考えるという裁判員制度の趣旨を根底から覆しかねない判決であり、懸念を抱かざるをえない」とか、「過去の量刑の傾向を重視しすぎると、裁判員制度を導入した意味がなくなる」とか、議論百出になったらしい。
実はインコは、鸚鵡大学法学部長からこのことについてきちんと論ぜよと命じられていた。だがしかしだ、無芸大食じゃなかった無学文盲じゃなかった天衣無縫じゃなかった、そう無為無策に時を打ち過ごしているうちに、「私も田舎の一弁護士」さんに抜かれてしまったのだ(「この制度はもう山を超えられないのでは」)。抜かれたとは何かって? うれしそうに追い込まないでよ。インコが書く前に、田舎の一弁護士さんにこの件で投稿をいただいてしまったっつうこと。
しまったと思ったが後の祭り。同じような論陣を張っても、どっかで聞いたなぁなんて言われそう。インコは評判が高い分、あちこちからねたまれてもいる。もてる者は気苦労が多いのよ、わかる?
無為不言、ここは「きくち君の宿題に便乗するののちゃん方式」でいくことにした。えっ、何の話かって?
いしいひさいちさんの同名マンガの主人公。そう、「裁判員制度は社是」の『朝日新聞』に長期連載中。ののちゃんは、夏休みって言えば(夏休みだけやないけど)、いつもやらなきゃならないことを友だちキクチ君の宿題に便乗してやりおおしたような顔するんや。
という訳で、この際、インコの「ツイッター」や「ホームページ」に寄せられたみなさまの声を一気にどーんとアップし、この問題に関する学部長の厳命にインコがきちんとお答えしたことにする(ことにさせてね)。だが、ホントにそれきりだとあまりにも申し訳ない(というか、ひどすぎる)から、インコとしては謹んでちょったどけコメントを付け加えさせていただきまする。ではでは、シュッパーツ。
「市民の目線がそれほど大事なら、政治家の収賄事件や選挙違反などはすべて起訴して市民に裁かせたらどうか。それが一番民意を反映する裁判で国民大歓迎」
……確かにそうなんですが、自民党代議士の言う「市民目線」は一般人の目線ではありません。福島の放射線や汚染水はアンダーコントロールと本気で思っている人の目線です。そういう人たちは殺人事件の被告人には厳罰を求める一方、収賄とか選挙違反とかには、まぁまぁそなんなうるさく言っても仕方ないよ、なんてすごく寛容です。
「裁判とは、権力によって一方的に過度な刑罰が科せられることがないように市民を守るものであるべきだ。自民党は何をいっているのか。厳罰化と先例無視でいいはずがない。そのような犯罪が発生する社会的要因はなにか、政治に問題がないのか、社会のセーフティネットはどうなっているのか考えるのがお前たちの仕事だ。さぼるんじゃない」
……はいはい、仰せのとおりです。犯罪の本当の社会的要因なんて本気で考えたとするとですな、自民党政権は1週間と持ちませんがな。ま、99パーセントの民衆が貧困から解放されたら、現在の犯罪はそれだけで10分の1に減るとインコは断言します。
「『過去の量刑の傾向を重視しすぎると、裁判員制度を導入した意味がなくなる』ってなんだよ。裁判員制度ありきでいいのか」
……裁判員制度を導入した時から、判例とか先例とか、そんなことにこだわらない新時代の司法を目指してるんだよ。なんてったって、戦争の時代が来たんだぜ。国民動員の裁判員制度を大々前提としてすべてを考えなくてどうするのさ。いいかい、すべては裁判員制度ありきで考え始めるの(と言ってるんですね)。
「市民目線で考えるというなら高裁、最高裁にも市民を入れるべきだ。そうでなくて1審だけを尊重しろというなら、それは軍事法廷、なら最初から重罪犯罪は1審制にすればよい。人権後進国の日本にふさわしいね」
……ありゃ~、あまりにも本当過ぎることをあっけらかんと。裁判員裁判はホントの話、軍事法廷なんよ。この判決は国民の声、天の声なんだから、はっきり言うと控訴なんてしないでほしいの。控訴審も上告審も裁判員様々で今必死に統一しようとしている。情勢を理解できない裁判官の変な抵抗でうまくいってないところもあるけどね。でも今裁判所に来ている裁判員たちはみんな一生懸命この国の将来を考えて、仕事を投げ打ってやってくれてるんよ。裁判員になりたい人の中には「どんな事件だろうが、お前みたいなクズは生きている価値がないから死刑って言ってやる」とか言った人もいたね。
「憲法解釈を勝手に変更する自民党らしい意見ですね。最高裁の判決には縛られないとかいった人もいましたっけ」
……最高裁の長官には自民党の息がしっかりかかっています。というか私たち自民党がしっかり粉をかけています。私たちが納得しない人たちはその地位には就けません。なのに時々私たちに逆らうような態度をとったりする。許せない。裁判員制度は自民党も最高裁も気持ちを1つにして創った制度なんですけどね。最高裁はもう疲れてしまったようですね。今回も恥ずかしいフラフラ判断です。中立を装いながらしっかり私たち自民党と連携するっていう固い信念にやや欠けているように思います。
「市民感覚で刑罰を決めるなんてどこの国もやっていないこと。参審制は裁判員制度とは全く違う。どれだけ危険な話かと思う」
……裁判員制度は参審制の一種だという人もいる。それは当たっていなくもない。でも、短期間で裁判を終わらせようとか、市民感覚で裁けとはどこの国も言っていない。市民感覚で刑罰を決めるのはおかしいというのはホントにそのとおりです。「酒の席で口論となり、殴られたので殴り返したら相手がその場に倒れ、頭を打って死亡してしまった。この加害者にふさわしい刑罰は」なんて考えて生活してますか?。アメリカの陪審制は、否認事件で被告人が希望したときだけ陪審員が有罪か無罪かを判断し、量刑は原則として職業裁判官が判断することになってる。素人は量刑を判断できない。
「自民党の政治が市民目線とはとても思えません。司法に口出しするより、自分たちの仕事をきちんとしてほしいと思います」
……この党の用語辞典で「本当の市民」をひくと、「この国を守る気概に溢れた国民のこと」とあり、「ちまたで使われている市民」をひくと「非国民のこと」とあるって誰か言ってたよ。司法がきちんとした基準で行われていない時には自分たちが口出しして是正するしかない、つまり口出しが自分たちの仕事、それが歴史的使命なんだってさ。
「近代刑法をやめるか裁判員制度をやめるかのどちらかです」
……いやまったく。裁判員制度は近代以前です。3日だの5日だのという超短期間で被告人に刑事責任があるかないかを判断しちゃう。どれだけの刑罰がふさわしいかということだってじっくりゆっくり考えることなんか一切しない。その日のうちに結論を出しちゃう。それは到底まともな刑事裁判とは言えません。目見当裁判とか当てずっぽう裁判とか言うのがふさわしい。こりゃ盟神探湯(くかたち)みたいなもんじゃないかって言った人もいるよ。
「市民目線で刑を考えたら、重罰化するに決まっている。でも、そんな感情論で判決が出て良いと思っているのか」
……本来の市民目線はそんなもんじゃないと思うのだが、この政党が理想型とする市民というのは、確かに「放っておいても重罰要求でいきり立ち、厳罰を科せと大きな声を上げる国民」なんだろう。私たちはどうしてこの政党にこんなにたくさんの議席を与えちゃったのか。「全国の非国民よ決起せよ」と叫びたい。
「導入した意味がなくなったんだから、制度を止めればいいじゃん」
……そうそう、設計図どおりの建物が順調に建たなかったんだから、無理に耐震装置なんかで補強を考えたりしないで、素直にもうやめますと言えばいいのに、最高裁は自民党に色目を使ったり、判例先例に気を使ったりとダッチロール状態。そうなると自民党はいったいどうなってるんだと言い出す。3.11直後の東電本部のようにしっちゃかめっちゃか。
「市民目線で刑を決めるって要するにリンチですね」
……そのとおり、理屈もへったくれもない袋だたきの儀式。ローマ帝政時代の円形闘技場コロッセオを思い出せばよい。奴隷が血を流して倒れたらみんなが喝采を上げるあれね。時代がおかしくなるとこういう異常事態が生まれる。この国は今明らかにおかしくなっている。
「なぜ重罪事件だけを裁かなきゃならないのか。なんのために裁判官がいるんだよ。それほど市民に裁判をやらせたいなら政治家の汚職事件を裁かせろ」
……軽罪から始めたらどうだという議論もあったけど、そういう考え方も裁判員制度推進論に引きずられた論だった。どうしてこの制度をやるのかっていう基本のところを考えなければ。万引きや痴漢事件と違って社会を大きく揺るがす重大事件こそ国民教育上効果的。この国の治安を守ると決意するにはそういう事件の方が良いんです。政治家の汚職事件などに関心を向けているようでは、「この国を守るのは自分だ」という無我の境地にまだとても立てない。精進精進。
「死刑執行では世論がといい、重罰化には民意がという。それほど民意を反映したかったら、国民の8割が嫌だといっているこの制度をまずは廃止すべきでしょう」
……そうです。何も言うことありません。
投稿:2014年9月19日