~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
福岡で11月23日午後1時30分から同4時30分までの間、「裁判員制度はいらない福岡の弁護士有志の会」が主催して裁判員制度に反対する市民集会「“裁判員”という苦役からの自由を」が開催されました。
集会は、司会あいさつ、主催者あいさつ&論点説明、織田信夫弁護士による報告「福島ストレス障害国賠訴訟判決批判」、織田弁護士と李弁護士による論点討論&会場からの発言という議事進行で行われました。今日は、司会あいさつと主催者あいさつ&論点整理の報告と、おまけとして集会参加を呼びかける市民代表の寄稿を転載させていただきます(敬称略)。
“裁判員”という苦役からの自由を
司会あいさつ:渡辺富美子
今日は、裁判員制度はいらない福岡弁護士有志の会主催で、仙台から織田信夫弁護士をお迎えして集会を開催します。私は今日の進行役をさせていただきます渡辺富美子です。
集会の議事進行は、これから30分ほど、主催者代表として李博盛弁護士からごあいさつと若干の論点について報告をいただき、その後1時間程度、織田弁護士から福島国賠訴訟の報告と問題提起をいただきます。休憩をはさみ、1時間ちょっと織田弁護士と李弁護士による論点討論と、出席者のみなさんからも意見や質問をお受けし、4時半には閉会します。よろしくご協力ください。
主催あいさつ&論点説明:李博盛
みなさん、こんにちは。福岡県弁護士会の李博盛といいます。今回は、福岡県弁護士会に席を置く福岡有志の弁護士の呼び掛けで、裁判員を経験して急性ストレス障害にかかった60代の女性の国賠裁判を原告代理人として担当されました織田信夫先生をお呼びして、裁判員制度はいらないという運動をこれまでやってきた市民のみなさんに聞いていただこうという趣旨で開催いたしました。
当初、裁判員制度はいらない大運動の高山俊吉先生の一緒に来られるというお話だったのですけれども、諸事情がございまして今日は見えることができません。そういった変更も急きょありましたことをみなさんにお詫び申し上げます。
織田先生の講演に先立ちまして、私の方から若干、司法改革の中における裁判員制度がどういう流れで現在に至ったのかについて、説明したいと思います。
思い起こしますと22年前、ちょうど私が弁護士登録をしたときもこの1992年でありましたが、の11月27日、福岡県弁護士会並びに日弁連が司法シンポ「司法改革の課題と実践」を開きました。
このシンポでは、3本の大きな柱を掲げました。
一つは「司法を市民の手に」、二つ目は「国民のための裁判への改革「官僚司法」の打破」、そして三番目が「刑事陪審制」でした。
この3つの大きな柱を掲げて、福岡県弁護士会並び日弁連は司法改革への声をあげた訳です。
この改革の報告書のとびら部分は、「オッペケぺー」の絵が描かれており、「利権でもの言う世の中は司法改革せにゃならん」という言葉でかがみを飾っていたのです。
シンポは国民の司法をめざして、課題と実践をどう取り入れるのかということで、7つの論点を提示しました。
① 裁判所はもっと数を増やし市民の近いところ
② 裁判所は市民が親しみやすい雰囲気に改めるべき
③ 裁判官の市民的自由を拡大すべき
④ 裁判官の独立のため人事制度、転勤制度を改めるべき
⑤ 弁護士の裁判官任官を拡大し、法曹一元を目指すべき
⑥ 最高裁裁判官の選任、国民審査制度を市民のための最高裁判所となるよう改善すべき
⑦ 裁判は、行政や大企業など情報や力量の大きいものに対して、これに劣ると考えられるものが反対当事者である場合、実質的対等原則で争えるようなシステムを考えるべき
裁判官に市民的自由に、裁判は当事者が対等に闘えるようにといったことを改革の目標として掲げたのです。
日弁連も司法改革を進めるための法案を国会に提出して、提案し作成させようという作業日程を組みました。
1992年のことですから、93年には叩き台を作成し、学者の協力を得て各単位会、各種委員会に紹介をかけて、94年には成案化、それと並んで学者、マスコミ、議員への協力でシンポを開いて公表しよう、各界・政党への協力要請をしよう、95年には3者協議なし法制審を中心に据えて法案化されたものを持っていこうというものでした。
3者協議というのは、裁判所、法務省とそれから弁護士会、この司法を担う役所及び団体が3者協議といって司法に関する法制度の改革や制定について協議をしてそれを国会に提案をして動いてきたという戦後の永い永い経過があります。法制審は法務省の下にあるのですが、いずれにせよ、3者協議を中心に据えて法案化されたものを、96年に国会に上程、97年には施行の準備をし、そこでは陪審法廷をつくる、法曹3者を教育して国民への広報活動を行い、21世紀を迎えるときにはこれを実施していくんだというタイムスケジュールを具体的にたてていたのです。
ところが権力は、自由と平和を「安全あっての自由」に矮小化して言い出しました。今現在進行中の司法改革の直接の出発点というのが、振り返って見れば、1998年5月に経団連が発表した「司法制度改革についての意見」、そして翌6月に出された自民党司法制度特別調査会の報告書「21世紀の司法の確かな指針」です。
これからは、新自由主義に基づく規制緩和をしていくということで、その受け皿、あるいは「企業の経済活動のスムーズ化」していくという目的のために、刑事司法改革をするということ。構造改革に伴って格差が生じ、犯罪が増加するだろうという予測の基にそれに対応するための「治安の強化」に刑事司法改革を位置づけたのです。
そして現実に実践したことは、1999年7月に司法制度改革審議会が発足、その翌年4月には小泉内閣が発足し、2001年6月には審議会が意見書を提出しました。
その意見はどういったものだったか。先の権力が考えて公にしてきたものがより具体化されました。
⑴ 治安強化のための刑事裁判の迅速化等
⑵ 裁判員制度導入
① 刑事裁判の迅速化 「国家刑罰権の迅速な執行」
② 国民の意識改革(治安強化のための刑事裁判の迅速化等への国民理解の促進)
⑶ 弁護士の社会的責任(公益性)及び弁護士及び弁護士会活動の(透明性)
弁護士の活動に縛りをかけ、公的弁護制度が「治安の強化」という範囲を超えて運用されることがないように歯止め
2001年、まさに21世紀、当初、福岡県弁護士会並び日弁連が目標としたものはこういったものに置き換えられてしまった。ここには官僚司法であるとか、裁判官の市民的自由であるとかということは一言も触れられなかったということです。
そして、どうやって推進していくかというと、「内閣」がこの「司法制度改革」を推進するトップに立つというもので、内閣が推進する司法制度改革となったのです。それを具体化したのが2001年11月に成立した「司法制度改革推進法」でした。
そこには、「内閣」の主導するんだということで、内閣に司法制度改革推進本部が設置され、日弁連の責務について明文規定がなされました。この司法制度改革推進本部の本部長は当時の小泉首相、各大臣らによる部会構成というものでした。
これによって日弁連は,「内閣」が推進する「企業の経済活動のスムーズ化」及び「治安強化」のための司法制度改革に協力することが法的に義務づけられることになったのです。
当初、弁護士会が掲げた7つの改革への提言は一言も触れられず終いでした。
翌年2002年、福岡では144校の公立私立の小学校のうち、69校に「愛国心通信表」というのが採用されました。日本人として国を愛する自覚を持つということにABCがつけられたということがありました。学校の現場で教師は「愛国心」について生徒を評価させられるという事象が起きました。
2003年には裁判迅速化法が成立し、全ての刑事事件を2年以内に終わらせるということになりました。
そしてその翌年、2004年5月に裁判員法が成立したのです。施行はその先になりますが、憲法改正への舵きりも同時に行われました。「強力で効率的な国家」を作るということで、2004年6月には自民党憲法調査会が「論点整理」をしたのもこの時です。
この「論点整理」の中では、迅速かつ的確な政策決定、合理的かつ機動的な政策執行、「権利」としての権力に対する統制から「義務」としての権力への参画という3つのことが謳われたのです。つまり、「国民参加」は「共助・自助」で包んで「国民動員」へということです。
裁判員制度が実施されたのは2009年ですが、先に述べたように2003年には裁判迅速化法が成立して全ての刑事事件の裁判は2年以内に終わらせるようになり、2005年11月には刑事訴訟法が改正されて公判前整理手続が新設されました。このように着々と司法制度改革が進んでいく訳です。
「愛国心」教育も2006年12月に教育基本法が改正され、憲法改正の国民投票法も2007年5月に成立して2010年5月施行という流れを経てきています。
私も事務局をやっております「市民のための刑事弁護を共に追求する会」は、こういった動きの中で市民と弁護士らが「ちょっと待った」ということで立ち上げた会で、2007年6月8日、この福岡で「刑事弁護の危機に立ち上がろう」という集会を開催しました。
3回目の集会で、今日司会を務めております渡辺さんが代表あいさつで述べられたことがその時代の空気と言いますか、空気というものが述べられておりましたので、改めて紹介させていただきます。
日本はイギリスのサッチャー首相、アメリカのレーガン大統領に遅れること20年の時間差を持って小泉政権によって本格的な新自由主義経済に入りました。
一言でいうと、資本の蓄積、一握りのグローバル資本家の利益を最優先する政治・経済システムです。労働者・市民からの収奪が一層強化されてきました。
続く安倍政権は、その体制的なイデオロギーの正統性、あるいは矛盾が出て来たほころびを覆うべく、歪んだナショナリズムと軍国主義化へ積極的に乗り出しました。
現在(当時)の福田政権は微妙な舵取りをしつつも、小泉・安倍の路線を完全に引きずり、そして市民への管理・監視体制を強化しております。
大学や公共機関など、これまである程度開かれていたところの公共性の剥奪が進み、今は弁護士会や裁判所など司法分野の体質改善の最終段階に差し掛かっているように私は思えます。
国家にとって大学や弁護士会、あるいは裁判所などの機関を味方につけていくことはとても重要な政策課題となっています。というのはその構成員たち、私も弁護士の一人ですが、ただ単に現状を受け入れるのではなく、一定の権威を持って現状を美化し、私たちの認識を権力の動向にある意味では積極的に同調させる言動をとらせることです。
日本弁護士連合会が今、残念ながら直面している事態です。
私は国家総動員体制ともいえる中で、弁護士会を翼賛団体にしないために、最後まで抵抗の火を掲げていきたいと思っております。
これが渡辺さんが述べられた当時の状況で、この状況は数年経った今も変わらないどころか、さらに現実化していることはみなさんも感じているかと思います。
その中でも、私たちは「裁判員制度はいらない」ということを運動の中心に据えてきました。
多数決で殺されたくない殺したくない、公判中心主義を取り戻そう、迅速審理・拙速な裁判は止めようということを訴えてきました。裁判員を誤判に荷担させるなということも言ってきました。
これは高山先生の書かれた『裁判員制度はいらない』という本の中で、いろいろな方が言われていることですが、
「命のこと生もののことは専門家に任せろ(嵐山光三郎)」、「時代の意識に抵抗できるほど市民の人権意識は確立されているのか(崔洋一)」、「警察の調べとか検察の調べが変わることが一番じゃないか(蛭子能収)」
というようなまっとうな声を多くの人があげてきたわけです。
裁判員制度は、被告人の義務としての裁判員制度で選択権はない、国民は義務としての裁判員裁判で辞退すると罰せられるという制度で進んできた訳です。
事後的な検証も全くできない、公にすると罰せられるという重い守秘義務が裁判員には課せられているのです。
さて、2011年11月16日の最高裁大法廷判決、織田先生が福島の裁判をはじめとして広く声を大にして訴えられていることがこの大法廷判決の問題であります。
大法廷判決は、こういうことを言っています。
法曹のみによって実現される高度の専門性はときに国民の理解を困難にし、その感覚から乖離したものになりかねない側面を持つ。こういった一方的な決めつけをしています。
刑事裁判のように、国民の日常生活と密接に関連し、国民の理解と支持が不可欠とされる領域においてはこの点に対する配慮は特に重要である。というように勝手に重要だと考えているようです。
裁判員制度は、司法の国民的基盤の強化を目的とするものであるが、それは国民の視点や感覚と、法曹の専門性とが常に交流することによって相互の理解を深め、それぞれの長所が活かされるように刑事裁判の実現を目指すものということができる。なにか立派なことが書かれているのですが、その目指す途中でいろいろと犠牲に合う人のことはどうするんだろうという視点が全く欠落しています。
今回の福島の裁判は大法廷判決が出た年の11月に候補者名簿登載通知を受けた人でした。その方は11月に「名簿に載りました」という通知を受けました。今年もまた当然のことながら11月に来年2月以降の裁判員候補者となる人に発送されました。
翌年12月に福島地裁郡山支部から裁判員候補者として呼び出され、2013年3月1日、選任手続きに出頭し、強盗殺人事件の裁判員に選任されました。
3月4日の第1回公判から連続開廷5日間、14日に判決。その間に急性ストレス障害発症、失業に追い込まれた方でした。
国賠を提訴されたのが昨年5月7日でした。
いろいろと訴えられていることはありますが、苦役からの自由、職業選択の自由、個人の尊重・幸福追求権が被害をうけたのです。裁判員法も違憲な条項がある。裁判員の呼び出し、過料の制裁、出頭義務、不出頭に対する制裁といったことも訴えて来られました。
以上が私からの報告です。
これからこの福島国賠訴訟の判決を批判するという題目で、今日は織田先生に来ていただきました。
織田先生は今月の18日で81歳になられたということで、「寒い仙台から福岡は暖かいですからぜひおいでください」ということで申しておりましたところ、本当に暖かいどころか汗ばむくらいの陽気になりました。
先生のお話をじっくりと聞いていただきたいと思います。
おまけ:「市民のための刑事弁護を共に追求する会」共同代表が「福岡地区合同労組ニュース」に寄せた文書を転載します。
投稿:2014年11月30日