~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
毎年何十万部も印刷されながら、一般書店ではお目にかかれない謎のベストセラー本! それがDVD付き『よくわかる!裁判制度Q&A』である。
前年と中身はほとんど変わらない。反対の声がどんどん多くなろうと出頭率が激減していようとお構いなしです。
裁判で遺体などの写真を証拠として提示する時には、裁判員の選任手続きの段階で候補者に説明することになったなんてことにもまったく触れていません。
触れちゃうと、「呼び出さないのが一番の配慮でしょ」となって制度廃止しろに進んじゃうからね。激動と激変の現実を覆い隠し、何食わぬ顔で裁判員候補者に「裁判員の心得」を教え込もうって訳。でもその手は桑名の焼きはまぐり。
さて、この『Q&A』ですが、制作は「TREND-PRO」、作画は「ヤマダリツコ」となっています。TREND-PROのサイトを見ると、マンガ制作実績のところに官公庁や地方自治体、有名企業がずらずらずらーっと並んでいます。コースも有名漫画家とか連載漫画家とか作者によってお値段いろいろのようですが、最高裁が依頼したのは「プロ漫画家コース」
基本制作費用(8ページ)は240,000円~560,000円 オプションとしてカラー原稿+10,000円/ページ、表紙デザイン+50,000円~となっています。ちなみに『Q&A』はオールカラー63ページ。
作画のヤマダリツコさんも検索してみました。ヤマダリツコのペイント画集というのがヒットしたのでクリック。「阿修羅王」とか「寒山さんと拾得さん」とか「鍾馗さん」の絵は琴線に触れる。インコ結構好きだなぁ~(笑)。『Q&A』は作者自身苦しみながら描いているんじゃないかとふと思っちゃったね。本当は楽しい絵の人なのかも…。話がそれましたね。
それでは、インコが30問答の代表的なものをつつきます。
Q どのような事件を扱うのですか?
A 対象事件は一定の重大な犯罪。具体的には①人を殺した、②強盗が人にケガをさせ、あるいは死亡させた、③人にけがをさせ、その結果、死亡させた、④ひどく酒に酔った状態で、自動車を運転して人をひき、死亡させた、⑤人が住んでいる家に放火した、⑥身代金を取る目的で人を誘拐した、⑦子どもに食事を与えず、放置して、死亡させた、⑧財産上の利益を得る目的で覚せい剤を密輸入した
インコ:奥さんの言葉にもあるように「素人なんだから簡単な事件」ではなぜないのか。なぜこのような重大犯罪を裁かせるのかという説明は一切なし。まずは、どうしてそんなに重大事件を素人に裁かせるの?っていう基本的な疑問に答えてよ。
Q 裁判員等(裁判員と補充裁判員)に選ばれる確率はどれくらいですか?
A だいたい9,500人に1人程度です。平成25年に裁判員等に選ばれた人は、裁判員は7,937人、補充裁判員は2,622人。
インコ:あのね、みんなが知りたいのは「裁判員に選ばれる」確率じゃなく「裁判所に呼び出される確率」だよ。これってずいぶん意味が違うの。実際には選ばれた人の多くが呼び出されていないんだ。
でも、通知をもらった人は、今度はいつ呼出状が来るかドキドキしてるんだから、こんな数字聞いたって何の慰めにもなりゃしない。
それにしてもこのマンガは何を言いたいのか。「みんな嫌がったり怖がったりしているけど、大丈夫。選ばれるのは交通事故で死ぬ確率より低いよ」ってことかな。で、ひきつった顔で「ラッキー」と言われてもね。
Q 裁判員を辞退することはできないのですか?
A 基本的にはできません。法律等で認められた事情がある場合は辞退することができます。70歳以上の人、学生・生徒、妊娠中・出産の日から8週間以内、重い病気やケガ、親族同居人の通院等の付き添いや養育・介護など、裁判所がこれらの事情にあたると認めれば辞退できる。
インコ:「原則として辞退できない」って笑いながら言うところがすごいね。だから「ぶーっ」です。一見すると辞退できる理由がいろいろと書いてあるようだけど、もう1度読んでご覧。たいていの人はどれにも当てはまらないでしょ。
やっぱり辞退できないんだ。ガ━━Σ(゚◇゚|||)━━ン!!
問答無用の圧殺台詞は「裁判所がこれらの事情にあたると認めれば」ってヤツよ。裁判所が認めなければダメ。
いつ認めてくれるかって? それは裁判所に呼び出されて裁判長と面接した時。「当日はともかく裁判所に出頭しろ。裁判長の前で必死に弁明してみろ。事情によっちゃ勘弁してやるかもしれない」って訳さ。
でも、ここで福島地裁郡山支部で裁判員を経験させられ急性ストレス障害になったAさんの影響がどこにも見えないところがもっとすごいね。最高裁長官が問題を深刻に受け止めて対策を指令したっていうのに、春風駘蕩だ。
イヤ違うな。何も言わないところに真実がある。どういう場合に辞退できるのかについて、文章にすることもできない状態に最高裁が追い込まれているということなんだね。
Q 仕事が忙しいという理由で辞退はできますか?
A ご自身の不在により著しい損害が生じる可能性があると認められれば、辞退可能です。仕事が忙しいというだけの理由では、辞退はできない。ただし、とても重要な仕事があり、自分が処理しなければ、事業に著しい損害が生じると裁判所が認めたとか、裁判員になると自分や周囲の人たちに経済上重大な不利益が生じると裁判所が認めた場合は、辞退が認められる。
インコ:君の仕事よりお国が呼び出す裁判の方がはるかに重要。「事業に著しい損害」とか「とても重要な仕事」とか「経済上重大な不利益」とかってどんな基準で判断するの? どうせ「『著しい損害』とまでは言えない」とか「『とても重要』とまでは言えない」とか「『重大な不利益』とまでは言えない」と言われちゃったりするのでしょうが。マンガのおじさんも「何言ってんだ」って顔してるよ。
Q 自宅に要介護者や養育が必要な子どもがいる場合、辞退できますか?
A 裁判所が介護や養育に支障を生じると認めた場合は辞退が認められます。介護や養育を行う必要があれば、辞退の申立が可能です。介護や養育はどの程度必要なのか、代わりに介護や養育を行う人がいるかなどの事情を考慮し、裁判所が個々のケースごとに、具体的に辞退を認めるかどうか判断する。
インコ:「辞退が認められます」の後に続く文章が「辞退の申立が可能」。認めるかどうか別にして「申し立てはできる」って。ふざけたことを言ってんじゃないよ。「必要性や代われる人を個々に判断する」って言っているけど、どういう場合に辞退を認めるかという一番大事なことには何も答えていない。
それに「個々に判断」って、裁判長はどうやって判断するの? 介護や養育の個々の事情なんて、何の予備知識も判断材料もない裁判長にわかる訳がない。「大変だったら来なくていいですよ」って言っているのとどこが違う。超厳格な法規制と超ザル運用の異様なコラボ。
お母さん、「アドレス帳」を開いて、スーパーで走り回る小さな子どもの面倒を見てくれる人を探すよりも「そんな人はいません」と言って出頭しない方が良いですよ。あなたがもし、裁判員に選ばれてPTSDになったりしたら、あなただけでなくお子さんも被害者になります。
Q 育児中に裁判に参加する場合、どうすればいいでしょうか?
A 一時保育等の保育サービスをご利用できます。保育所における一時保育等の保育サービスを利用して、お子さんを保育所に預けて、裁判に参加することができる。
インコ:そりゃできるでしょうよ。そんなことくらい言われなくったってわかる。問題は裁判所がそれをサポートするかどうかでしょ。
みなさん、驚かないでくださいね。裁判所は保育サービスをしません。斡旋なども一切しません。あなが自分で探しなさいと言っているだけです。
「保育サービス」にかかる経費もすべてあなた自身の負担です。どうすればもこうすればもない「窮&A」です。
Q 交通費や昼食代などは支給されますか?
A 日当、交通費、宿泊料は必要に応じて支払われます。裁判員候補者には1日あたり8000円以内、裁判員及び補充裁判員に選ばれると1日あたり1万円以内。
インコ:「我と来て 裁けや職の ない大人」ですか。普通電車では間に合わないので特急で行ったら特急料金は自腹という話もありました。
そもそも日当や交通費、宿泊料は税金から支払われます。高い給与を払っている裁判官が素人に助けてもらわなければ裁判やれないのなら、以前と同じ俸給をもらうのもおかしいでしょ。それにしても庶民性をアピールするためか、裁判長が学食でおかめそばを食べている・・・なんか全部ヘン。
Q 裁判員は何日ぐらい裁判に参加するのですか?
A 裁判員裁判の多くは5日以内で終わっています。ポイントを絞ったスピーディな裁判が行われるように、事件の争点や証拠を整理し、審理計画を明確にするための手続(公判前整理手続)が行われます。
インコ:一昨年の『Q&A』は3、4日程度だった。それが昨年は4日前後に延びた。そして今年は5日以内になった。マンガのお嬢さんも「意外と短いわね!」じゃなく「意外と長くなってきたわね!」ってと言わなきゃいけませんね。公判期間が年々長くなっていることを最高裁も認めない訳にはいかない。
「ポイントを絞る」とか「スピーディな裁判」とか言ってるけど、状況は年々確実に変わってきた。裁判はどんどん長くなっている。考えてみれば、短ければ良いというものではないのは当たり前のことでしょ。刑事裁判で一番重要なことは裁判員の参加のしやすさなのですか?
Q 法律の知識がなくても大丈夫ですか?
A 大丈夫です。日常生活で行っている判断をしてください。有罪か無罪かの判断の前提として法律知識が必要な場合は、裁判官が分かりやすく説明する。
インコ:裁判に法律の知識が必要ないなら、裁判官はなんのために難しい司法試験の勉強をしたんですか?
ここで裁判官が言っている「裁判官がきちんと説明」っていうのがトンでもないカラクリ。裁判官は丁寧に説明して裁判員たちにわかったような気にさせて、実際には自分たちの思うとおりの判決に賛成させるだけ。
Q 議論を尽くしても、全員の意見が一致しなかったらどうなるのですか?
A 多数決で結論を出します。この場合、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合にどのような刑にするかについて裁判員は裁判官と同じ重みを持つ。
インコ:陪審制の裁判は全員一致が原則。12人の陪審員の1人でも有罪に疑問だと言えば評決は不能。1人でも疑問を持つってことは「疑わしきは罰せず」ってこと。
ところが、裁判員裁判では多数決で決めてしまう。無罪を主張した4人の意見を吹っ飛ばして有罪にし、5人が賛成すれば死刑判決もOK。
それにしても、心ならずも有罪判決を言い渡す仲間に組み込まれ、心ならずも重罰を言い渡す立場に追い込まれるつらさを考えてください。これを憲法の禁止する苦役と言わずしてなんというか。
さて、マンガの裁判官は「もう少し議論を」なんて言っていますが、実際には分刻みで決められたスケジュールなので、時間がくれば強行採決です。 多数決方式の背景には、裁判官が結論を出すという考え方が根強くあります。マンガの裁判員たちだって裁判官が結論を出すと思っている。
言うことを聞かない裁判員がいても大丈夫。3人の裁判官が2人の素人を味方につければよい。いくら言っても聞かない裁判員なら「不公平な裁判をするおそれがある」として解任だってできる。
そういえば、Q&Aには「解任」に関するコーナーがありません。実際には10件に1人くらいの割合で解任されている。理由は公表されないので不明。触れられたくないことは徹底して無視します。
Q 見聞きした事実について、話をしてもよいのですか?
A 法廷で見聞きしたことや裁判員を務めた感想は、話をしてもかまいません。漏らしてはいけない秘密は、評議の秘密と裁判員としての職務を行う際に知った秘密。「評議の秘密」とは議論の過程とかどのような意見があったとか、その意見を支持した者の数や反対した者の数、評決の多数決の人数など。
インコ:この質問の背後には「なぜ守秘義務があるのか」という疑問が潜んでいるはずです。人は珍しい経験をすれば人に喋りたくなる。ところが、夫婦の間でも喋るな、墓場まで持って行けと言うのです。
Q&Aは「義務に違反した場合、刑罰が科せられることがあります」とさらっと書いているだけだけど、裁判員法は「秘密を漏らせば6月以下の懲役」と決めているんです。「本当は恐ろしい最高裁の裁判員童話」。
「裁判員 うっかり喋って 被告人」
ひどいのは基準のわかりにくさです。「参加した感想」は話をしても、「過程や意見の賛否など評議の秘密は漏らすな」って? わからなきゃ何から何まで黙ってろってことですね。知りたくもないことを知れと強制し、知ったことは喋るなって強制する。これは根本的に国民を愚弄する制度です。
最後のマンガ と裏表紙
インコ:裁判員を経験した人は、「いい勉強になったな」とか「めったにできる経験じゃないですしねぇ」などと言ってるが、本当に喜んでいるんだろうか。つらい体験で急性ストレス障害になり、国賠訴訟を起こした例がある。大半の人たちは早く裁判のことなぞ忘れたいと思うだけだろう。
はっきり言えることは、最高裁は嬉しそうな感想を漏らす人たちを「好ましい裁判員」「好ましい国民」と考えているということ。人を処罰することは確かに「めったにできない経験」だが、何の勉強になるのだろう。隣人を処罰することに喜びを感じる国民を作り出す恐ろしさをインコは感じる。
断言できることは、この国に住む人々のほとんどが最高裁のご教訓を拒絶しているという厳粛な事実! ざまぁみろってことよ。
私の視点、私の感覚、私の言葉で拒否します 。
投稿:2014年12月29日