~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
インコは、新潟大学名誉教授西野喜一さんの著『さらば、裁判員制度』を読みました。副題は「司法の混乱がもたらした悲劇」。今日はその話をしたいと思います。
西野名誉教授と言えば、裁判員制度廃止要求の研究者として押しも押されもしない第一人者ですわ。法律雑誌にたくさんの批判論文を書かれ、そのことで出版社が当局からにらまれたのか、出版社が当局を恐れたのか、なかなか批判本を出せなくなってご苦労されたとも聞いております。
それでも2007年には講談社現代新書から『裁判員制度の正体』を出され、08年には西神田編集室から『裁判員制度批判』を上梓された。また、昨年は、雑誌『判例時報』に、「裁判員の解任」というタイトルで、裁判員の解任に関する裁判員法の規定ぶりを奥行き深く分析された。裁判員制度には「解任」という落とし穴があり、これも制度崩壊のきっかけと読者に思わせたのではと評する人もいる。
その西野さんの新著『さらば、裁判員制度』ですね。ヘミングウェイを思わせます。
西野さんの主張の骨格は、もともとおかしな制度なのだが、実施後になんとか生きながらえさせようとしてますますおかしくなってしまったということです。それを問題にするのがこの本の目的だともおっしゃっている。そう、「違憲のデパート」から「屁理屈のデパート」への衣替えっていうこと。
「違憲のデパート」から「屁理屈のデパート」への衣替えとは言い得て妙。さすが。
西野さんは、ご自身の裁判官体験に裏付けられた司法府のあり方に対する危機感がこの本をまとめた底流の思想だともおっしゃる。
瀬木比呂志さんの本など裁判官体験者の告発本がこの間話題になっていますが、そういう声があちこちから出てくることもこの国の司法の劣化の表れかと。
そう言えば、福島地裁のストレス国賠訴訟を担当された元裁判官の織田信夫先生も『裁判員制度廃止論』を書いていらっしゃる…。
この本は、大きく3部構成になっている。第1部は、制度はもともとどんなに変な制度なのかを論じたパート。「制度本体の悲劇」と銘打たれている。第2部は、裁判員裁判を始めたらどんなに変なことになってしまったかというパート。これは「制度運用の悲劇」だ。第3部は、最高裁の考え方が当初とその後で大変わりしたという西野理論の大展開。これは「変節の悲劇」。
そういう作りは実に研究者らしいですね。理路整然の展開は学者の命。そして、「悲劇」の演出。
「なんたらの悲劇」なんて言われたら、インコなんかすぐエラリー・クイーンの方に頭がいっちゃうけれど、そこが学者とインコの脳みその違いなんだなぁ。
(鳥頭の自分を引き合いに出すなんて、ちょっと厚かましくなくて)
『間違いの悲劇』かな。そういえばエラリー・クイーン・ジュニアの「ジュナの冒険」シリーズに確か『黄色いインコの秘密』という作品があった。
さて、第1部。この制度はどうしてできたのか。司法制度改革審議会というのがそもそものくせ者で、すべての元凶。2年で結論というのも途方もなく拙速だし、「裁判員制度は司法の国民的基盤をより強固にする」って言ってるけど、いったいどういうことかもまるでわからない。審議会ではそのことについて何も議論していないし。「この制度で国民の司法に対する理解・支持が深まる」って言うけれど、それもどうしてそう言えるのか何一つ議論していない。
そう、じゃぁ何があったのかというと、弁護士委員などの陪審推進論者と陪審反対派の最高裁や法務省などの間の激しいせめぎ合いだけ。その妥協の産物として生まれたのがこの制度。妥協なんだからそれ自体に「本来の目的」なんてありゃしない、ぬえ(鵺) は所詮ぬえ。得体の知れない妖怪みたいなもんに存在目的なんてないのよ。もっともらしい飾り言葉がくっついているだけでね。
審議会が議論しなかったことを西野さんは列挙しました。紹介すると。
□ 結果の適正と手続の迅速がどうして調和できるのかについて議論しなかった。
□ これまでの裁判の誤判の原因と対策について議論しなかった。
□ 国民が参加するとどうして誤判が防げるのか議論しなかった。
□ 国民が司法への参加を求めているのか議論しなかった。
□ 国民がどのくらい協力してくれそうか議論しなかった。
□ この制度で司法のどこがどうよくなるのか議論しなかった。
□ この制度で審理が粗雑にならないのか議論しなかった。
□ この制度でどうして事案の真相が明らかになるのか議論しなかった。
□ 弁護士がこの制度に対応できるのか議論しなかった。
□ 被告人、被害者、国民にどのような負担をもたらすのか議論しなかった。
□ この制度は現在の刑法や刑事訴訟法の体系に調和するのか議論しなかった。
つまり、審議会では議論がありませんでしたということですが、この列挙を見るともう言葉もありません。
次に西野さんが丁寧に展開されるのは、「裁判員制度とはどういうものか」です。対象事件が重大犯罪に制限されていること、裁判員選任手続の進め方、検察官や被告人・弁護人による忌避の手続、補充裁判員を含めみんな解任でいなくなったらどうなるか、また公判手続や評議などの実情、上訴審での差戻しなどについても詳しい。インコのトピックスに出ていることにも触れてくれているので、わかりやすい。
さて、ここで一息入れてコーヒーブレイク。続き(中篇、後篇)はこの後にご紹介します。
「愛情は小出しに」って言うでしょ。時間をかけて小出しに、能力を小出しに、嘘をつかずに小出しに、手くだも小出しに、へへ…。
投稿:2015年4月26日