トピックス

トップ > トピックス > 『北日本新聞』社会部記者が報じた現実

『北日本新聞』社会部記者が報じた現実

しらえび 蛍イカ ぶり etc、天然のいけすで獲れるきときと(新鮮)な魚と蜃気楼の国から、裁判員制度の晩景を描くお便りが届いた。裁判員裁判に関する情報が意外に途絶しているメディアの世界。「いいわいいわ」でひたすら走ってきたため、悲惨な現状に遭遇するとどう表現したらいいのかわからなくなる。そういう彼らの目にもようやく裁判員裁判の実相がリアルに見えてきた。今回は『北日本新聞』社会部記者の目を通してこの制度の否応ない現実をつぶさに観察してみよう。

150819-3

裁判員制度が2009年にスタートして21日で6年。県内で裁判員候補者が選任手続きのため富山地裁に出向く出席率が同年の88.4%から14年は67.1%となり、地裁の呼び出しに応じない候補者が増えていることが、最高裁のまとめで分かった。制度が社会に定着しておらず、同地裁は広報強化のほか、分かりやすい裁判に力を入れる。ただ、裁判員の負担軽減を重視するあまり、被告の処遇と更生を考える裁判本来の機能を損なう危険性を指摘する専門家もおり、課題は多い。
(社会部・高嶋昭英)

150819-1 出席率は、裁判員候補者名簿から抽出された候補者のうち、病気や仕事で事前に辞退を認められた人以外が、選任手続き日に裁判所を訪れる割合。選任手続きでは、一般的に80人前後を呼び出し、裁判長が候補者と面談などをして、裁判員を選ぶ。

 これまで県内で行われた裁判員裁判は29件と少なく、比較は難しいが、14年は呼び出された候補者の出席率は施行初年から20ポイント以上も低下した。全国も同様の傾向で、約3割の人が期日に出席を求められたにも関わらず、“無断欠席”していることになる。150819-6

 高岡法科大の西尾憲子准教授(刑事法)は「仕事や生活への影響を心配する人や、専門的なことに判断を下したくない人はまだまだ多い」と話す。日本世論調査会が3月に行った全国世論調査では、裁判員を務めたくないと考える人は7割近くに上り、「仕事への影響」「重要な判断をする自信がない」と理由を挙げる人が最も多かった。

 制度が社会に定着していない現状を踏まえ、最高裁は昨年、全国の地裁に広報強化を通知。富山地裁は昨年末からことし5月にかけ、裁判官が希望団体に出前講座を開き、概要や意義を伝えている。

 富山地裁によると、実際の裁判では難しい用語をなるべく使わないほか、裁判官は裁判員が積極的に参加しやすいよう雰囲気づくりに務める。評議の際はボードに要点を書き出したり、一般的な量刑の資料を配付したりして、判決を下す心理的なハードルを下げる工夫を凝らす。

 ただ、スケジュール管理を含む裁判員の負担軽減を重視するあまり、審理がおろそかになりかねないケースも出ており、国民参加の司法の実現は一筋縄ではいかない。

 県内で5件の裁判員裁判の弁護を担当した西山貞義弁護士(富山中央法律事務所)は「裁判官が裁判を1分でも短くしようとする傾向が強くなった。犯行の背景や被告の生い立ちなどを説明する時間が少なくなった」と話す。公判前整理手続きでは、弁護側が量刑に関わると考える主張や証拠の採用を求めても、裁判官から断られるケースが増えたという。「裁判官だけで主張や証拠の採用を判断しすぎると、裁判員裁判の意味が失われてしまう」150819-7

 また、高岡法科大の西尾准教授は「分かりやすさを求めすぎると、事件の本質が見えなくなる恐れがある」と指摘する。県内では昨年、傷害致死罪などに問われた少年の裁判員裁判が2件開かれるなど、短い日程の中で少年の心を見つめ、刑罰の意味を考え、更生を考えるという難しい判断を求められる裁判も増えた。「複雑な背景を持つ事件が単純化されてしまう危険性を意識すべき」と話している。(2015年5月21日)

1506011-8

北日本新聞「記者ブログ」2015年6月14日

投稿:2015年8月19日