~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
6月27日の「制度の墓穴を掘った出前講義‐その近況報告」を思い出しなさい。もう一つ、去年9月6日の「最高裁は出前講義『まいど!裁判所です』で何を訴える」もある。
すみません、最近は「国会前抗議」の勢いが強いもんで、影が薄くなって…。
だじゃれでごまかすな。出前講義の影はもともとあるかないかわからんぐらい薄い。忘れっぽいだけの話だろうが。まぁいい、親切な先輩はもう一度説明してあげよう。
(意地悪しないで、話せばいいのに。本当はしゃべりたいんでしょうが。)
前回は、全国的に見た出前講義の実施状況の話だった。言ってみればマクロ分析だ。今回はミクロ分析としゃれる。
本論に入る前に、ちょっとだけ国語学的勉強をしておこう。それは『出前』の用語分析だ。
もちろん、すっと入るさ。「語源由来辞典」によると、「出前」は、明治頃までは、「年季勤めが終わって遊里を出る前」を言う言葉だったらしい。一葉の世界の話だ。裁判員制度で言うと、お役御免になるまでは宮仕えの裁判官として否応なしにやらねばならない講義、ということになる。ここには、「あぁ早く解放してほしい」という思いが込められている。
「時間的な手前」ではなく、「物理的にお客様の御前(おんまえ)」の意味ではないかという説もあるようですね。
「笑える国語百科辞典」に倣って、わが裁判員制度について言うとこうなる。「裁判員裁判の出前講義とは、世界中で日本にしかない裁判制度解説のデリバリーサービス。本当は裁判所に来させて教えるのが理想なのだが、そんなことを言ったら絶対に来てくれない人々を相手に、わざわざ裁判所の外まで出かけて行って解説する。裁判所の雰囲気や裁判のリアル感がまったくないどこかの会社の会議室などで行われる。制度に反発する市民感覚を裁判官に直接体験させるという致命的なリスクがあるが、背に腹は代えられないとして実行の大号令がかかった。注文がないのに拝み倒して注文をさせるところに特異性がある。」
はい。インコは、実際に、各地の地方裁判所がどのように「出前講義」をしているのか、各地の裁判所に尋ねてみた。
インコは、誤字脱字とうっかりミスは時々するが、4月1日以外、ウソは言わない。
(胸張って言うことかしら。最近も『北日本新聞』と『北国新聞』を間違えたしね。)
東京地裁と札幌地裁と福岡地裁に、司法行政文書の開示要請をして、出張講義の実施に関する説明を求めたんだ。その説明の前に、前回紹介した今年4月末までの全地裁の実施状況のうち、この3地裁のデータをあらためて紹介しておこう。
まず、去年6月に、最高裁事務総局の刑事局第一課長と広報課長が連名で全国の高裁と地裁の事務局長宛に通知を発し、同時にボスの刑事局長が全国の地裁所長宛に通知を発した。
そういえば、この人たちはみんな超エリートコースを走っている現職の裁判官なんですね。裁判はやらず、司法行政にしか関わらない裁判官たち。
そうだ。この通知は、全国の地高裁に送られたのだが、何と言っているかというと、まず、連名通知は、「8割を超える国民が参加に消極的で、不安を感じている。改めて広報を通じて正確な制度情報を発信したい。この機会に国民の生の声を聞き制度に対する意見や理解の程度を把握することも必要だ。別記の実施要領を参考に広報活動を実施してほしい」と、まぁこんなことだった。
危機感がひしひしと伝わってきます。でも「正確な制度情報を発信」すると、ますますみんなが消極になり、不安になるっていうことは考えなかったのかしら。「国民の生の声」を聞き「意見や理解の程度を把握」したら、それこそ制度はもうおしまいなるって。
刑事局長の地裁所長宛の通知は、もっと率直だ。「人的態勢が足りず広報が不活発だ。各裁判所がきちんと情報を発信し、地域住民の意識動向を把握する取り組みをしてほしい。5周年記念イベントに終わらせず、地域社会との関係を深め、裁判官・職員は地域社会の実情や住民の生活実態などから得た知識・情報を制度運営に生かしてほしい。所長はリーダーシップをとって庁全体で取り組んでほしい」
広報はこういう風にやれという指示が中心だ。1つひとつ説明する必要もないだろう。ただ、気になったところを言えば、例えば、「制度運営が比較的順調に推移していることを理解してもらう」なんて言っていることだな。
二課長連名の通知では使っていなかった「出前講義」という言葉が局長通知とこの要領中で堂々と使われていることも挙げておこう。この用語は江戸時代からある言葉だとしても、一種の俗用語で、公式の文書中で使うのは恥ずかしくないのかとインコなどは思うのだが、こういうのを恥も外聞もなくと言うのかな。
「外聞」が破滅的に悪い状況に陥っているのですから、もうその辺りは気にする問題じゃなくなってるんでしょうね。
「売り込み」を行う相手として、「商工会議所」「地元有力企業」「ロータリークラブ」を挙げている。自分たちの行動を「売り込み」という神経も大したもんだが、こういう団体が役に立つというか、役に立ってほしいと思っているところに彼らの「仲間意識」が透けてみえる。
最高裁判所が認定する「有力企業」に裁判員制度の延命を託していると…。
「制度実施前に行った調査の際のコンタクトポイント」も活用せよと言っている。
それって、東京電力とか東芝とかの超大企業のことじゃないですか。
コンタクト先の中心がそういう会社だったことは疑いない。こういう大企業が裁判員制度の実施後に生きるか死ぬかの局面に突入してしまったのは偶然じゃないだろう。いまや「活用」なんてできる状態ではない。
福岡地裁は、各出前講義に裁判員経験者各1名程度の参加を計画し、各講義の時間を1時間程度(説明20分、質疑30分) と決めた。そして、「出前講義 承ります。」というチラシを準備することにした。
そこだよ、問題は。聞いてくれ給え。福岡地裁では、結局たった1件しか出前講義が行われなかったのだ。たった1件だぜ。大山鳴動出前1件。参考までにその結果報告書と参加者の声を紹介しよう。
報告書の「講義の実施状況等」の欄には、「裁判官から裁判員制度の実施状況や裁判員に選任されるまでの流れについて説明した後、裁判員経験者から評議の雰囲気、審理の感想などを語ってもらった。座談会参加者からは活発に質問や意見が出された」とあるが、その内容はまったくわからない。「参加者の声」は一字残らず墨塗りだ。一切がわからない。10の発言があるようだが、延べ10なのか実数10なのかもわからない。
わからん。それにしても地域住民が何と言っていたか、まったく開示しないというのはどういうことだ。名前も住所も出ないのだから、誰が言ったかわかる訳がない。プライバシーの心配など何もない。よほど開示が不都合な話が続出したのかと推測されても致し方ないだろう。
東京地裁の開示文書の中には福岡地裁のそれとは別のものがあった。去年7月に最高裁事務総局の刑事局課長補佐が、各地高裁の事務局総務課長に「出前講義を実施した都度、実施翌月末日までに最高裁が指示した様式で結果報告をせよ」と事務連絡をしていたことがわかったのだ。
最高裁は、その報告書の書き方について詳しく指示している。例えば「参加者の声」欄には、わざわざ記載例まで付けて、「発言者が何らかの背景事情(仕事が繁忙、未就学児の育児等)に基づいて発言をしている場合には、その背景事情についても、発言内容からわかる範囲で簡潔に記載する」ことを要求している。
講義の実施状況等の欄には「座談会参加者から活発な質問や意見があった。評議の様子、審理の感想など裁判員経験者から語ってもらうことができた」とある。「参加者の声」欄は、裁判官が聞いて整理してまとめた文章になっている。例えば、「講義前は守秘義務に疑問を感じている参加者が数人いたが、講義後はその必要性を理解していただいた様子であり、否定的な意見は見られなくなった」などとある。
なんだ、それって「生の声」じゃないじゃないですか。内容そのものも結論先行のようだし、二重にヘンです。こういうまとめ方をしろって指示するのはどう考えても押しつけですよね。本気で現場の声を聞く姿勢などないことを窺わせますね。
5通の報告がついている。東京地裁は7回やっているというので、このズレは不可解だが、とにかくそういうことだ。実施状況等の欄には、「具体的な体験談だったので良く理解されたと思われた(15人集まり「声」は2)」「適宜説明をした後質疑応答(150人程度で10)」「裁判官の制度説明の後多くの質問(21人で10)」「裁判員経験者と掛け合い。参加者から活発な質問(60人で20)」「活発な質疑応答(30人で9)」「熱心に聞き活発に質問意見(約50人で7)」などと書かれている。そして、「声」はこの2+10+10+20+7のすべてが墨塗りだ。
これで実情が分るようにはとても思えません。まずまず良かったという声がほとんどのようで、これでは特に懸念する問題はないってことになりませんか。それにしては「声」の全部を開示しないのは理解不能です。裁判官がまとめてしまった声では意味がないけれど、それでも見せる訳にいかないというのはよほど具合が悪いということでしょうかね。
札幌地裁は最高裁のいう約1時間では無理だと考えたのか、1時間30分程度という計画を立てたようだ。
札幌地裁は、まず、裁判員経験者が所属する会社などに出向くことを計画した。その方が実現しやすいと考えたのだろう。経験者全員に声を掛けるか、協力してくれそうな人に頼むかは各担当部に任せるということにした。
そこがそもそも問題だ。各裁判所は、裁判官などと行う意見交換会に参加しても良いという裁判員経験者のエントリーリストを作っているようだ。札幌地裁は、このエントリーリストを使って裁判員経験者に協力を要請しようとし、「意見交換会にエントリーした人に働きかけても良いか」と最高裁に問い合わせたんだ。そしたら、刑事局第一課長補佐は「意見交換会への参加の了解を取りつけていても、出前講義に駆りだされるという前提は含まれていない」から「意見交換会へのエントリーリストを利用した募集はするな」と明確に差し止めた。
札幌地裁はよほど焦ったのでしょうが、それは目的外使用の典型で、当然でしょう。それにしても、最高裁が「出前講義に駆りだされる」という言葉を使ったというのは本当ですか。
本当だ。札幌高裁事務局総務課課長補佐がそのとおり電話聴取書にまとめている。
そうですか、やっぱり最高裁自身が「駆り出す」という意識でいるんですね。こういうやりとりが部外に漏れることがあるとは思っていないんでしょうか。それともみんな浮き足立っていて、そんなことを考えるゆとりもないのか・・・。
どうやら経験者への連絡は地高裁内部で紛糾した気配だな。しかし、結局、裁判員経験者で講義に参加すると答えた人は1人もいなかったらしい。またそれ以前の問題だが、出前をやってくれと申し入れてきた団体がそもそもなかった。それこそ話にならん状態だ。いつ作成された書面か年月日の記載がないが、「現時点で広報を希望する団体等はいない。このままでは期限までに出前講義が実施できないおそれがある。しかし実績なしという結論は好ましくない」などと、ほとんど悲鳴に近い言葉を吐いている書面がある。
参加を了解した裁判員経験者は1人もいなかったのですか。札幌地裁の裁判員裁判は去年の段階で150件くらいになっていますから、裁判員と補充裁判員の数は1000人を優に超えています。その中からたったの1人も出前講義に参加すると言ってくれる人が出てこなかったというのは、それはもう言葉もないほどの驚きです。
しかし、ついに出前を頼むと言う会社が1社現われた。地裁所長は失神するくらい喜んだだろうなぁ。年度末ぎりぎりの3月28日にこの会社の本社会議室に24人が集まって、出前講義になった。報告書の実施状況欄には「全般的に裁判官の講義を真剣に聞いてくれた。複数の質問が出た。笑いも混じった」とある。一番笑ったのは裁判官だったとは書いてないがね。この日、6つの質問意見があったらしい。
そういえば、福岡地裁の1件は、今年の4月13日、それこそ実施期間終了間際、ギリギリのところでした。地裁所長はこの1件に欣喜雀躍、歓欣鼓舞、狂喜乱舞、有頂天外・・・。
オホン。とにかく、この1年、テラダ長官の大号令で、上を下への大騒ぎの出前講座だったが、本当に、大山鳴動して鼠一匹というか、七転八倒してもこれだけの結果しか出なかった。そしてそれが裁判員制度の現実だということが国民の前に示された。使った司法予算だってもちろん馬鹿にならない金額になった。
それにしても、忙しい中で出前講座に出席した社員の皆さんはどういう質問や意見をぶつけたんでしょうね。
わからんが、福岡地裁だけでなく、東京地裁も札幌地裁もそろって「声」欄が全部墨塗りだ。どの「声」欄にも「好ましくないこと」が書かれていて、すべてについて最高裁が各地裁に真っ黒に墨を塗れを指示したと考えるしかないね。
そうですか、では、「裁判員制度は今や真っ暗闇」を暗示するこの「声」の頁を、東京地裁(左)と札幌地裁の分も1頁ずつ紹介しておきましょう。これが現在の裁判員裁判のありのままの姿だと思って下さい。
あ、どこからか「どうせこの世は真っ暗闇よ」なんて聞こえてきたような…。
*8月31日追記
札幌弁護士会の猪野亨弁護士にブログ裁判所の裁判員制度に関する「出前講座」のお寒い末路で本記事をご紹介いただきました。
投稿:2015年8月30日