トピックス

トップ > トピックス > 絶縁状を突きつける国民の姿を空から見る

絶縁状を突きつける国民の姿を空から見る

001177昨年末に裁判員裁判に関連する重大なニュースが続いたことで、年末年始のテーマが具体的な問題に絞られてしまいましたね。ここら辺で年の初めらしく、少し全体を俯瞰するというか、大局的に見た話をしたいですね。

1-e1397901276348よしわかった。「裁判員裁判の実施状況」の平成27年10月末・速報が出たようだ。出頭率はどうなっている?151299

00631100025.2%です。

1-e13979012763484分の1ぎりぎりまで落ち込んだか。

001177年末は出頭率が悪くなるでしょうから、10月末がこの状態だと15年は最終段階で25%を割り込むかもしれませんね。

1-e1397901276348その可能性は十分ある。25%割れは時間の問題だね。

001181この数字に衝撃を受けたのはテラダ最高裁長官では。出前講義を全国でやらせた効果が少しは出たかと思っていたでしょうに。

1-e1397901276348いや、出前講義の失敗はこの数字を見る前からはっきりしていた。やっぱりという程度の感慨だろう。ところでひよこ君。「出頭率」、最高裁はこれを出席率と言っているが、この意味はわかるね。

006311000わかります。「選任期日当日に出頭してきた裁判員候補者の数」を「選定された裁判員候補者の数」で割って算出された数字です。

1-e1397901276348そのとおりだ。前者は「裁判員を選ぶ日に裁判所に来た候補者」の数だ。そして、後者は「特定の事件の裁判員を決める裁判長が候補者名簿から選んだ裁判員候補者」の数だ。150人選んだけれど40人しか来なかったら26.7%ということになる。

001177後者の中には国会議員とか弁護士など、やりたくてもやれない人も含まれていますが、そういう人たちの数は知れたものでしょう。これほど出頭者が少ないというのは大変なことですね。

1-e1397901276348大変なことだ。過年度の数字はわかるかね。ひよこ君。

006311000裁判員裁判が始まった2009年が40.3%でした。翌10年にもう下がって38.3%、東日本大震災の11年にどんと下がって33.5%、それからも12年が30.6%、13年が28.5%、14年が26.7%と年々下がり、15年は10月末までで25.2%ということです。

むふふ凋落一途の悲惨な姿がよくわかる。

001177そう言えば、いつ20%割れになるかとか、いつ15%割れになるかとかで、賭が始まっているという噂も聞きます。

1-e1397901276348今日は出頭者が少ないことについて、もう少し掘りさげて考えて見ようか。

001178まね0掘り下げても掘り込んでも結構ですから、なるほどと思える話をね。

1-e1397901276348法務省や最高裁にとって大きな誤算は、これほど国民からそっぽを向けられるということだったろう。前評判の悪さから懸念はしていたとは言え、これほどひどい数字になるとは思っていなかった。

00631100どうしてそう言えるのですか。

1-e1397901276348裁判員法が正当な理由のない不出頭者を処罰することにしたのは、まずまずの出頭率は確保できると踏んでいたからだ。総スカンを予想したら、とりあえずやりたい人だけに参加させる制度として始めたかもしれないし、強制できない制度は無意味だということで断念していたかもしれない。

006311000そういうことか。

1-e1397901276348司法制度改革審議会の中でも、裁判員法の具体案を作った政府の裁判員制度・刑事検討会の中でも、「やりたくない人」に関する議論はまったくと言ってよいほどなかった。

006311000それにしてもどうしてこんなことになったのでしょうか。

1-e1397901276348決定的なことは、推進勢力は国民をバカにしたというか見くびったということだ。ごちゃごちゃ言っても、まぁ参加するだろう、そしてだんだん増えてゆくだろうとたかをくくっていた。304555

006311000ところが国民は法務省や最高裁が思うほど従順じゃなかった。

1-e1397901276348そう、いくら宣伝しても多くの人たちが横を向いたままだった。この制度はどこかおかしい、自分を動かす力を持っていないという受け止め方が国中に広がってしまった。

00631100「長い物に巻かれよ」っていう言葉がこの国にはあるのに、この国の人たちも案外図太いんだね。

1-e1397901276348この制度の存在理由の説明があまりにも説得力を欠いていたということだろう。主権者なら裁判をするのは当然だなどという程度の話で「そうだそうだ」という方がおかしい。

001181でも、前号でご紹介した昨年末の『朝日』の社説はまだそんなことを言っています。

1-e1397901276348焼け野原を緑の草原と言い張るようなものだ。こういう人たちはいつまでも念仏のように同じことを言い続けるのだろうが、自身の言葉に「力」がないことがわからないのならアホウだし、わかっているのならワルだ。

006311000制度の破綻を国民が実感したのはどういう機会でしょうか。

1-e1397901276348決定的なのは、出頭しなくても処罰されないという関係がはっきりしたことだ。

006311000はっきりしたんですか。

1-e1397901276348はっきりした。この7年間、裁判員候補者に選定された人の数はだいたい77万人だ。そのうち裁判員裁判の選任手続の期日に出頭した人の数は約24万人しかいない。不出頭53万人といえば鳥取県の人口に近いが、たった1人の不出頭者も処罰されていない。

006311000不出頭は不処罰ということになったのでしょうか。

1-e1397901276348そんなことはない。裁判員法第112条一号は「呼び出された裁判員候補者が正当な理由がなく裁判員選任手続期日に出頭しない時は10万円以下の過料に処す」とはっきり規定している。制定開始以降この条文はまったく改訂されず、今日も「健在」だ。

006311000いうことはつまり…。

1-e1397901276348この国の政府と最高裁が、すべての不出頭に「正当な理由がある」と認定したことを意味する。

00631100まさか。

1-e1397901276348いや、そうなのだ。出頭したくなければ出頭しなくてよい。出頭した後に心の病に陥ったなんて言われたんじゃたまらない。やりたくないという国民はいち早く退出してもらうように現場の裁判官はきちんと対応せよということになったのだ。

006311000事実上義務づけないことになったと。

1-e1397901276348まぁそういうことだ。原則は義務だなんて言っていられる状況ではなくなった。形だけでも国民が参加していれば文句は言わないことにしたのだ。

006311000それって制度の失敗を認めたっていう話じゃないですか。189263

1-e1397901276348そう、「裸の王様」だ。みんな失敗したと思っている。法務省も最高裁もそれを認めたと言わないだけで、失敗は公然の秘密だ。そのことはこの制度が始まってすぐに明らかになり、時の経過とともに動かしがたい事実になっていった。

006311000外向けには「基本的に順調」なんて言いながら、実際にはそういう経過を辿ってきたんですね。敗残敗走の経過をもう少し聞きたいです。

1-e1397901276348いいだろう。みんなに嫌がられている中で裁判が始まったのが2009年だ。その後に起こった「怒濤の裁判員離れ」のきっかけを作ったのは次の4つだ。

006311004つ?

1-e1397901276348そう、第1は、東日本大震災・福島第1原発爆発。これでほとんどの国民が裁判員制度から「引いた」。自身の明日の命や健康のことを横に置いて裁判所に出かけて行き、人の命を奪うことや人を刑務所にぶち込むことを考えなければならないってどういうことという根本的な疑問を懐くようになった。それは東日本や福島に限らず、日本中に起きた違和感だった。

001178まね0そう言えば、竹崎最高裁長官(当時)は、震災発生からわずか2週間後に「被災地でも裁判員裁判を再開しろ」と号令を発し、被災者はもとより、現場の裁判官からも大きな反発を受けました。まさに、「国家の命あれば人命はインコの毛より軽し」でしたね。19-h

006311000そして、この年出頭率が大きく落ちました。

1-e1397901276348第2の躓きの石は、裁判員裁判が控訴審でひっくり返される事件が頻発したことだ。

001177確かにこのことは裁判員の参加意欲を大きく傷つけたでしょうね。

1-e1397901276348そういうことになるのならわざわざ私たちを裁判所に呼び出すことはないだろう、裁判官たちで好きなようにやってくれということになった。

0011773審制の日本の裁判制度では1審の判断が控訴審でひっくり返ることもあるなんていくら説明しても、国民には説得力はないんですね。それこそ法務省や最高裁が高く評価した「市民感覚」の結論ですから。

1-e1397901276348第3は、1審福島地裁、2審仙台高裁とストレス障害の元裁判員が国に破れた判決だ。裁判員を経験させられ心の病になった元裁判員が国を相手に責任を追及したら、裁判所は「裁判員をやったあんたの責任の問題だ」と断じた。辞めたければ辞められたのにやったのが悪かったというような裁判所の言い方は、一般の国民に決定的な拒絶意識を植えつけた。

001177「やりたくない」ことは不出頭の正当な理由になると裁判所が明言したと誰でも受けとめることになりましたね。

006311000やりたくなければやらなければよかったと言われたら、みんなやらなくなるに決まっています。

1-e1397901276348そして最後第4は最近のこと。裁判員裁判で死刑判決を受けた死刑囚の死刑執行だ。これで僅かに残った裁判員制度の支持論者や追従者たちに冷や水がぶっかけられたことになっただろう。結果はこれから明らかになるが。

001181人に死刑の言渡しをしてみたいというような特異の人を除けば、死刑判決に関わる国民はたいてい辛く苦しい思いに襲われるでしょう。

1-e1397901276348頭の中では整理していたつもりでも、現実に死刑執行という事態に遭遇すると、自身がこのような判断に関わったことをあらためて考え直す人たちがやっぱり多いのではなかろうか。

00631100その時まであまり深く考えなかったというのもどうかと思うけれど…。

1-e1397901276348決定的なのは、死刑執行という衝撃的な事態を眼前にした多くの国民が裁判員になることを厭う気持ちを亢進させることだ。死刑を言い渡す場合に限らず、すべての裁判員裁判について、裁判員にはなりたくないという思いをこれほど強める事件はなかっただろう。

006311000確かにそう思いますね。

1-e1397901276348この4つのことが、もともとふらついていた裁判員制度の幹を叩き割る大なたになった。

006311000裁判員制度の現状を一言で叙述すると、どういうことになりますか。

1-e1397901276348よく聞いてくれた。それを言いたい、言わせてくれ。

0011780言いたいことをずっと言わせているじゃないですか、さっきから。

1-e1397901276348国民の裁判参加の狙いが「これまでのこの国の裁判の正しさを国民に理解させること」にあることが明らかになるにつれ、国民は強く拒絶を表明し始めた。何となくの拒絶から意思を持った拒絶に成長した。国民と国の間の距離感覚・対立感覚が時の経過とともに明確になってきた。それがこの間の経過を貫く国民の意識変化だ。

00631100そうか、そういうことだったのか。262857

1-e1397901276348どこかで聞いたことのあるセリフだな。ま、いいだろう。「主権者の司法参加賛成」論一本でやってきたマスコミや革新政党は「困ってしまってわんわんわわん」の筈なんだが、彼らは奥歯に物が挟まったようなことしか言わない。そして最高裁は基本姿勢を変えない。

006311000出頭率激減の方向は変りませんね。

1-e1397901276348変らない。推進勢力は死んでも失敗したとは言えない。国民総参加の裁判から「やりたいヤツによる、やりたいヤツのための、やりたいヤツの裁判」に変貌してもとりあえずは致し方ない。生き延びるにはやりたいヤツを集めてやるしかないってところなのだ。

006311000どうすればつぶせますか。

1-e1397901276348国民の反発を最高度に高め、どうにもこうにもへんちくりんな人たちしか裁判所に出かけていかなくなるときが制度の終焉の時さ。もうかなりそれに近くなってるけどね。

001177今日は年の初めらしく、大局観に立った話というか、全体を俯瞰した話になりました。

お茶それを言うならこの際は鳥瞰といってほしいね。というところで話が終わったことを確認し、今日は成人の日を迎えるひよこ君をお祝いして、新春の一杯と行こうじゃないか。

001178まね0また、お酒の話になりましたね…。

Print

 

 

投稿:2016年1月10日