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連続講座第8回 「無敵の量刑論」

猪野亨弁護士ウェブ連続講座
「マスコミが伝えない裁判員制度の真相」第8回 

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  裁判員というのは、量刑に関する判断では裁判官に負けないんです。有罪・無罪、証拠をどう判断するかということでは、裁判官の手のひらの上でしょう。責任能力の問題ということになれば、また、話は違ってきますけれども、そうでない場合は、なかなか、裁判官には太刀打ちできないんだろうなという気はします。

しかし、量刑に関しては、そうはいかない。「自分の感覚で良い」となれば、これは無敵です。理由がいらないんですから(笑)。335733c
マスコミは、決まり文句のように、「裁判員は難しい判断を迫られる」というような言い方をするんです。でも、本当に難しいんだろうか、ということなんです。

 東北の『河北新報』は、こう報じています。「東北のある裁判員は、こう打ち明けた。『量刑は、被告人に対する感情で決めた。判例の比較ではなく、感情論』」と。これはもう無敵です。私の感情はこうだということです。もちろん、そう露骨に言わないで、ああだ、こうだと言えば良い訳です。だから、どんどん、重罰化していくというのは当然のことなんです。

 量刑は、求刑の8掛けみたいなことが言われてきましたが、その中で、徐々に量刑が求刑超えをしていきました。

 その行き着くところが、先にお話ししたアスペルガー症候群の判決だったり、求刑の1.5倍判決だったりするのです。児童虐待で傷害致死に問われた両親に、求刑10年のところを懲役15年ということになる。335733b

 この量刑の判断に関して言えば、裁判員には「自分たちこそが」みたいなところがあるんです。

 例えば、求刑20年で判決が懲役17年となった裁判を務めた裁判員は記者会見で、「裁判官だけなら、懲役15年になっていたかもしれない。自分たちが参加した意義がある」と。要するに、裁判官だけなら15年になっていたが、自分たちが頑張ったから17年になったんだと。こういった発想なんです。

 先ほど、ご紹介した1.5倍の判決に関しては、量刑理由もすごいです。「守ってくれるはずの両親から、理不尽な暴行を繰り返され、悲惨・悲痛な死を余儀なくされた」ここまでは良いでしょう。

「児童虐待は、大きな社会問題で今まで以上に厳しい刑罰を科すべきだ」と。社会防衛のために、アスペルガー症候群の被告人を隔離してしまえ、というのとまったく同じ発想です。大きな社会問題だから、今まで以上に厳罰にするんだというところで、懲役10年の求刑に対して15年を言い渡す。まさにこれが裁判員裁判なんです。ひょっとしたら、裁判官は頑張って、裁判員を説得したのか、説得しようとしたのかも知れないけれど、もう押されてしまった。

20160201インコ一言:やれやれ。確かに感情で決めるとなれば理屈はいらない。理由もいらない。無敵です。「市民感覚を裁判に活かす」と言ったことを真に受けた結果。051189

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投稿:2016年2月3日