~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
少し前になるが、東京地裁立川支部で三鷹女子高生刺殺事件の差し戻し審判決があった。
リベンジポルノの事件で、判決は3月15日。ややこしい経過をたどり今回で3度目の判決でした。
そうです。これは2013年に高校3年の女子生徒(当時18歳)が刺殺された事件です。14年、裁判員裁判で求刑は無期懲役でしたが、懲役22年が言い渡されました。裁判長は林正彦判事です。弁護側が控訴。15年、東京高裁(大島隆明裁判長)が一審判決を破棄し、差し戻しの判決を言い渡していました。
差し戻し後に女子高生のご遺族が児童買春・児童ポルノ禁止法違反容疑で被告人を告訴しましたね。
そのとおりです。これを受けて検察は同法違反などで被告人を追起訴。今回差し戻し審の裁判員裁判は殺人罪と児童買春・児童ポルノ禁止法違反を理由に以前と同様懲役22年の判決を言い渡しました。今度の裁判長は菊池則明判事です。
複雑な経過をたどった裁判だったが、刑事裁判の原則をねじ曲げ、その是正もつじつま合わせに終始した。これは裁判員裁判の異様さを浮き彫りにした事件だったと言えるだろう。差し戻し判決に弁護側は再び控訴したが、今日はこの裁判を考えてみたい。
わかりました。それではもう少し詳しく事件の説明をします。被告人は別れ話を告げられた交際相手の女子生徒に恨みを抱いて生徒の自宅に侵入し、首などを刺して殺害したとされています。そしてその時期に女子生徒の画像をネットに流したのでした。これはいわゆるリベンジポルノ事件でもあります。
被告人と女子生徒は同い年だったんですね。
旧裁判の刑は懲役22年でした。起訴されていないリベンジポルノに触れて被告人の責任は重大だと裁判所が明言したため、そういう事実を量刑判断に加えるのは刑事裁判のルールを根本から踏み破るものであることなどを理由として弁護側が控訴しました。
それは完全にルール違反。法律家の判断として控訴するのは当然のことだ。
東京高裁の大島隆明裁判長は、「起訴されていない名誉毀損罪を実質的に処罰する趣旨で量刑判断をした疑いがある」として、一審裁判のやり直しを命じました。窮地に追い込まれた検察は高裁の判断を争わず、立川支部のやり直し裁判が始まったのでした。
すべては法律家の判断として当り前過ぎるくらい当たり前のことだ。立川支部の裁判官は法律家ではないのかという話になる。
悪いやつなんだから起訴されていようがいまいが「犯したらしい事件は犯した事件と同じ」という理屈で旧裁判の裁判官たちは走ったんでしょうね。
そういうことになる。もう一度言うが、この迷裁判長の名前は林正彦。司法研修所32期と言えば裁判官経験36年のベテラン裁判官で、今は山形地家裁所長だ。ヒヨコ君、この際、なっがく覚えておけよ。
忘れません。リメンバー・ハヤシです。ところで、リベンジポルノの犯罪事実を検察は見逃していたんですか。
いや、そうではない。ご遺族が故人の名誉に関わるのでこのことは事件にしたくないと警察に申し入れていたのだ。犯罪事実は厳密な証拠によって認定しなければいけない。そのことを「厳格な証明」という。情状に利用するだけだからよいという理屈はない。3人の裁判官がそろってこの大原則を忘れていたはずはないから、敢えて無視したということになるだろう。
「犯したらしい事件は犯した事件と同じ」と悪性判断の結論を急ぐ裁判員たちを説得しなかったというか、押さえられなかったのでしょうね。
東京高裁でそういう裁判はダメだっていうことになり、破棄差し戻しの結果、立川支部が裁判員裁判をやり直すことになったと。
そう、検察は、児童ポルノ禁止法違反で告訴してくれと今回は強くご遺族に働きかけ、実際にご遺族は告訴をした。「さぁ今度は被告人の悪質さを正面から判決に反映させてよくなったでしょ」っていうことになった。
そんなことはない。弁護人は公訴権を濫用するものだとして公訴棄却を求めた。
公訴棄却を求めるというのは、実体判断に入る前に検察の請求を門前払いしてほしいということですよね。
で、裁判所はそれを認めたのですか。
認めなかったね。「遺族の意向は考慮されてしかるべき。追起訴が無効とは言えない」と言った。問題はご遺族の意向がどうかという問題とは別のことだ。裁判所は問題の理解がまるでできていなかった。
弁護人の考え方はどういうことだったんですか。
今回の審理に先立って追起訴が行われたので、差し戻し審に新事件が登場することになった。差し戻し審はあくまで破棄判決を判断の対象とするものだ。それなのに差し戻し事件と追起訴事件を一緒に審理するのは裁判の進め方の基本を誤るもので、それは適正な刑事手続きを保障した憲法第31条に違反するということだった。
なるほど、それで今度は検察の求刑は旧裁判より高くなったんでしょうか。
低くなった。以前は無期懲役を求刑していたのに今度は懲役25年の求刑になったのだ。
何ですって。殺人だけの時よりも殺人+児童ポルノ禁止法違反の方が刑事責任は重くなるんじゃないんてすか。
犯したとされる犯罪の刑種も数も増えたのに求刑が下がった。このことで旧裁判の審理がリベンジポルノの責任論議を含んでいたことは明らかになったが、やっぱりおかしい。検察としてはせいぜい求刑を同じにすべきところだっただろう。下げてしまったたのは以前の求刑に根本的な間違いがあったということを意味する。もはや理解不能だね。
検察と裁判所が一体になって刑事裁判を混乱させたことについて、釈明もお詫びもありませんでしたね。
ひどいじゃないですか。ご遺族も被告人も検察の対応や裁判所の間違った訴訟指揮に翻弄されたことになりませんか。
そう、翻弄するものだ。起訴されていない事件を起訴されているのと同視した旧裁判は裁判員迎合の「感情裁判」の典型だ。高裁は、起訴しなかった事件を検討の対象から外して量刑判断をせよという趣旨で旧裁判を破棄したのだろう。ところが検察はあらためてご遺族に告訴をさせ、差し戻し審の審理に新事件を挿入した。しかし求刑は以前より下げた。新裁判の裁判長は、またまた裁判手続の厳格性を踏み外す裁判を容認してつぎはぎ模様の「一体裁判」もありとし、そして判決の量刑は以前と同じにした。
弁護側が控訴したのもよくわかります。
メディアの姿勢も見ておきましょう。『読売』(3月16日)では、記者の渡辺星太さんが次のように解説しています。「今回の判決は、『被害者の全てを奪い、徹底的におとしめた』と厳しく非難したが、結局、量刑は変わらなかった。娘を奪われた両親が司法に翻弄され、失望させられる結果になった感は否めない。刑事裁判が証拠に基づき、起訴事実についてのみ審理されるのは大原則だ。被害者の意向をくみつつ、適切な量刑を導くために、公判はどうあるべきか。検察側、裁判所側双方は今回の問題点を検証すべきだ」。
裁判員裁判の中で裁判所は奈落に向かって爆走しているという印象を受けますね。
そのとおりだ。判決に対して被告人もご遺族も不服を明らかにした。制度はどうしようもないところにきている。インコは今日の表題を「つじつま合わせの醜悪」としたが、本当のことを言うと、つじつま合わせにもなっていないということが今日の主題だ。そのことを最後に言っておきたい。
投稿:2016年5月1日