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ハンセン病隔離法廷・最高裁調査報告のでたらめ

1-e1397901276348最高裁長官の憲法記念日記者会見の話はほとんどハンセン病隔離法廷問題だったが、インコは裁判員問題に絞ってコメントした。しかし、実はハンセン病隔離法廷の問題についても言いたいことがたくさんあるのだ。今日はこのことを取り上げて、最高裁を裁こうと思う。

001177月25日に最高裁が公表した調査報告書のことですね。「患者の人格と尊厳を傷つけたことを深く反省し、お詫びする」と謝罪しました。最高裁裁判官会議も「心からお詫びを申し上げる次第です」という「談話」を発表しました。

0063118今崎幸彦事務総長が1分20秒頭を下げたと報道されています。

1-e1397901276348マネージャー、報告書公表に至る経過を簡単にまとめてくれる、じゃなかったまとめてください。

0011772013年11月、全国ハンセン病療養所入所者協議会などが最高裁に要請書を出しました。裁判の公開を求める憲法37条や82条1項に違反する特別法廷について、第三者機関による検証と公表を要求したのでした。今回の報告はこれに基づくものです。

怒り第三者機関というのは、当該組織には正当・公平な判断能力がないと思われる時に設置される。世の第三者機関はすべてそうだ。元患者さんたちがいかに最高裁を信用していないかがわかる。

001178まね0最高裁の動きはのろかったです。内部に調査委員会を設置したのが半年後の翌14年5月。要求された第三者委員会に至ってはひどいもので、それから1年4か月も経った15年9月、有識者委員会(座長・井上英夫金沢大学名誉教授)を設置したのは検証要求から1年10か月も経過していました。

0063118調査報告書が認定した事実はどういうものだったのですか。

001178まね01948年から1972年の間に96件の特別法廷許可申請があり、1件の申請撤回を除く全件について特別法廷が指定されました。憲法82条は最高裁裁判官会議が全員一致で決めなければいけないと定めているのに、48年以来裁判会議はその判断を全部事務総局に丸投げしていました。報告書は「事務総局内で処理されていたと推認される」という言い方でこれを事実上認めています。

怒りふざけた話だ。

001178まね0しかし、「遅くとも60年にはらい予防法の隔離規定の違憲性は明白だった」と認めた2001年の熊本地裁の判決(確定)に基づき、02年に設置された政府の検証会議は、05年の最終報告で、隔離政策を未曾有の国家的人権侵害と断じ、最高裁の特別法廷指定は憲法の定める「法の下の平等」「裁判を受ける権利」「裁判の公開」に反する疑いがあると指摘しました。

0063118えっ、そうすると今回の最高裁報告は政府に11年遅れたのですか。

001178まね0いえいえ、その見方は甘いですね。11年経っても政府に追いついていません。今回の調査報告は政府の報告よりずっとあいまいで中途半端です。

0063118どういうことですか。

001178まね0いま紹介した「認定事実」に基づいて調査報告書は次のように「検討」をしています。
「最高裁は特別法廷の指定が真にやむを得ない場合かどうか慎重に検討すべきだったのに定型的な運用をした」
「遅くとも60年以降は運用が不相当だということを事務総局が裁判官会議に諮らなかったのは相当を欠く」
「合理性を欠く差別的な取り扱いが強く疑われ、裁判所法69条2項(特別法廷)に反する」
「しかし運用の問題は裁判の公開の問題には直ちにつながらない」
「裁判所の掲示場や開廷場所の正門などに開廷を告示していたと推認され、刑事収容施設や療養所は一般国民の訪問が不可能だったとまでは断じがたい」

0063118気づかなかった事務総局が悪い、裁判官会議に諮らなかった事務総局が悪い、裁判官会議には責任はない。そう言っているように読めます。ところで、「運用の問題は裁判の公開の問題には直ちにつながらない」ってどういうことですか。

001178まね0事務総局が簡単に特別法廷を許可したのは運用に問題があった、その責任は最高裁にある、しかし公開原則に抵触していたとまでは言えない、正門などに法廷が開かれることが掲示されていたようだし(=「推認され」)、事実上非公開だったと断定まではできない。報告書はそんな言い方をして、「端から許可」は正しい運用ではなかったけれど、だからと言って公開原則に違反していたとまでは言えないと言っているのです。

0063118それはへ理屈ではないでしょうか。

1-e1397901276348そう、このへりくつ部分が最高裁報告書のへそだ。

0063118へ理屈のへそですか、へんな話。「裁判の公開」って誰でも裁判を傍聴できるっていうことでしょう。ハンセン病患者を隔離する場所って、患者はよほどのことがない限り外に出られず、患者以外の人たちはよほどのことがない限り中に入れないところなんじゃないですか。

1-e1397901276348最高裁は再審請求が相次いで起こされるのを極度に恐れている。公開の原則は憲法上の要請だ。ハンセン病被告関連事件はすべてこれに反していたということになれば、最高裁が全責任を負う特異な再審請求運動に火がついてしまう。

0063118なるほど。それは未曾有の大事件です。

20160201最高裁としては「公開原則に違反している」とは口が裂けても言えない。裁判官会議の「談話」も裁判公開の問題には一言も触れていない。

001178まね0政府の検証会議も「裁判の公開に反する疑いがある」と指摘していました。最高裁有識者委員会も「一般の人々に実質的に公開されていたとするのには無理がある。違憲の疑いは拭いきれない」というものでした。
どこかに掲示を出したとか収容者や職員などが傍聴できたとかで「公開」を保障したことになると言うのは、最高裁が公開原則をいかに適当に考えているかということを証明しているようにも思えます。

1-e1397901276348政府の検証会議副座長の内田博文九州大学名誉教授も、「違憲性を明確に認めなかったのは不十分。すさまじい偏見の時代に一般市民が隔離施設に入って傍聴したとは考えられない。報告書は問題の本質を理解していない。誤った手続きで行われた特別法廷の判決が適正だったかどうかも見直さなければならない」とおっしゃっている(『読売』4月26日)。

001178まね04月26日の『朝日』は、「責任負わぬ最高裁 理不尽だ」「ハンセン病元患者ら怒り」という見出しで、間違いを真摯に認めない最高裁を批判して、国立療養所菊池恵楓園(熊本県合志市)の入所者の皆さんが記者会見し、「司法の責任は不問にされたに等しく、到底受け入れられない」と述べたと報道しています。

0063118ボクも読みました。同じ日の『読売』は、「『違憲』なき謝罪 反発」「元患者ら『理不尽だ』」という見出しを掲げ、志村康入所者自治会会長の「患者らの人権をないがしろにする政策が司法にも染みついていた。(違憲と判断せず)こんな理不尽な話はない」という言葉を紹介しています。
これって最高裁は第三者委員会の結論を尊重しなかったということですか。

怒りそう、「重く受け止める」などと言って、軽く蹴っ飛ばした。

001178まね0第三者委員会の意見を求めていた元患者さんたちが怒るのは当たり前ですね。

20160201最高裁の「公開と見なせる」論がどんなに現実離れしたものかを裏付ける例として、隔離の必要性が失われていたとされる(熊本地裁判決)1960年の2年後に死刑が執行された菊池事件(殺人未遂・逃走・殺人等、被告人Fさん)の裁判の模様を説明する一文を紹介しよう。
「特別法廷は消毒薬のにおいが立ちこめ、被告人以外は白い予防着を着用、ゴム長靴を履き、裁判官や検察官は手にゴム手袋をはめて証拠物を扱い、調書をめくるのに火箸を用いた。取り調べも裁判も予断と偏見に満ち、被告人の裁判上の権利も認められないずさんな裁判で死刑が言い渡された」と。
これでどうして公開原則が保障された(保障されなかったとは言い切れない)なんて言えるのか。

001181熊本地裁は60年以前の運用を問題にせず、最高裁もそれ以前の運用を問題視しませんでした。符節が合いすぎているようにも思いますが。

0063118最高裁が熊本地裁に指示を出していたとしたら。

HP201642221このことあるを見越してってか。うーん。もしそうなら、「大津事件児島惟謙」以来の、と言ってもわからないか、少なくとも「長沼ナイキ基地訴訟」以来の大問題になるな。

001181それとも熊本地裁が最高裁に配慮した「あうん」の判決だったのでしょうか。

HP201642221そうかもしれん。ヒラメ裁判官の「あうん」判決はよくある話だ。ともかく、熊本地裁の判断も問題大ありさ。

001178まね0最高裁がハンセン病患者の特別法廷を初めて認めた48年というのはハンセン病の有効な治療薬が導入された年なんですってね。

20160201そうなのだ。72年までの全95件のすべてについて最高裁の対処が間違っていたという議論に進むのを何としても抑えたいという思いが最高裁報告にはにじみ出ている。

0063118政府の検証会議も「60年以前から運用を見直すべきだった」と言っています。

1-e1397901276348そう考えるのが常識というものだ。まとめに入ろう。最高裁に対するインコの判決だ。第1は、最高裁が謝罪したことの重大性だ。民事事件であれ刑事事件であれ、世の中の紛争や対立の最後の判定の場が裁判所になる。だから裁判所は公正・公平・中立・正義・信頼・真実などの言葉が一番当てはまる役所と一般に思われてきた。

0063118昔の映画に「お母さん、まだ最高裁がある」っていう言葉があったって聞きました。

1-e1397901276348八海事件に材をとった今井正監督の映画『真昼の暗黒』だ。世の中に対立があり、一方が責任を追及し、他方は責任はないと言う。争いの果てが裁判所の出番だ。すると裁判所はこのケースについてはAはBに責任をとれとか、あのケースについてはBはAに謝罪せよなどと言う。刑事裁判も司法の役割の根本構造を言えば同じ仕組みだ。

0063118最高裁はこれより先がない最終の司法機関です。正義の砦、平たく言えば市民生活のメートル原器のようなもの、かな。

001181素朴にそう考えてきた市民は少なくないでしょうね。その裁判所がお詫びをせよと言われたり、実際にお詫びをしたりするということになると、正義はいったいどこにあるのかとか、裁判所の不法の責任追及はどこに持ち込めばいいのかということになります。

0063118メートル原器が壊れちゃったということですね。

20160201それもただ1回の裁判ではない。最高裁という日本の司法の最高責任者が過去20年以上にわたって何をしていたのだという話だ。九州各地の皆さんに申し訳ない喩えになるが、東京・三宅坂を震度7クラスの激震が連続して襲い、あの最高裁城が揺れっぱなしに揺れている。5月2日の長官記者会見ではその実情がリアルに窺えた。

001178まね0とにかく遅すぎませんか。ハンセン病問題については政府だけでなく国会もとっくに謝罪決議をしているんでしょう。

怒り国会も政府と同様、2001年に元患者さんたちに謝罪している。ここで判決の第2は、間違っていたと言うのに行政や立法より15年も遅れる最高裁のでたらめさだ。

0063118でたらめさですか。

怒りそう、最高裁という役所は、実を言うと公正・公平・中立・正義・信頼とはかなり遠いところにいる。真実を真実と認めることより政治権力や社会的な強大勢力を重視する。建前や形式にむやみにこだわる。そして自分たちの間違いを認めず、誤りを指摘されるとごまかしたり無視したりする。

001178まね0ハンセン病国賠訴訟を担当された八尋光秀さん(福岡県弁護士会)の言葉を借りれば、「社会常識、社会通念、社会道徳、宗教観、良心、美意識に至るまで」あらゆる価値観を誤らせた最高裁の責任はたとえようもなく重大だ(八尋さんの言葉はオフィシャルサイトをご覧下さい)。

0063118議員定数の問題などでは、最高裁は何も決められない立法に切り込む正義の士のようにも見えますが、あれは何ですかね。

1-e1397901276348それこそ民意を最高裁に引きつけるパフォーマンス、人気取り司法政策さ。それが証拠に、原発に関する最高裁の判決を見なさい。刑事司法の根幹に関する最高裁の姿勢を見なさい。「この国の姿」を決める話になれば、虚言、欺瞞、恫喝、偽装、隠蔽のオンパレードなのだよ。

0063118その典型例が裁判員制度ですか。

怒りそう、裁判員制度に極まると言ってよい。この制度も答申からちょうど15年だ。制度がいくら順調に進んでいなくても順調と言う。嫌がる人たちがどんなに多くても良い体験をしたと言っている人がたくさんいると言う。多くの人たちが出頭を拒絶してもそのことに触れない。法廷中心にしようなどと言いながら捜査当局の捜査結果を絶対のベースにする。

1-e1397901276348さて、裁判員制度に引きつけて判決の第3だ。それは年貢の納め時がついにきたということさ。世の中に最高裁不信が急速に高まっている。制度を何とか生き延びさせようと必死の努力をしたが、東日本大震災・福島第1原発事故がアッパーカットになり、未曾有の不況がボディーブローになりと次々襲いかかってきた。どう対処しようとしてもうまくいかない。そしてついに限界にきた。

0063118わかりました。そこにハンセン病隔離問題が最高裁を襲ったということですね。裁判員制度が始まる前に謝っていれば、裁判員裁判に関わることはなかったのに、元患者さんたちの声を無視しているうちに裁判員制度の破綻と時期が重なってしまったという感じですね。

001181そういえば、国民動員というカードは諸刃の刃でしたね。失敗するとオセロのように相手方のコマが一気に増える。最高裁がいくら参加を呼びかけても出頭する裁判員の数が減り続けているのは、最高裁に対する国民の反撃でしょうか。

0063118森が動くと言います。

1-e1397901276348そうだ、バーナムの森が動いている。世の中の最高裁に対する見方が「公正・公平・中立・正義・信頼・真実」から「虚言、欺瞞、恫喝、偽装、隠蔽」に大きく軸足を移しつつある。そのことをこの人たちはわかっていない。いや、わかっているのだが、ごまかし通せるものと考えてきた。それが今や無理になった。

001177マスコミだの日弁連の推進派だの、最高裁や政府の制度護持勢力と悪縁・腐れ縁を作っちゃった人たちはご苦労なさっているのかもしれませんが、そういう人たちとは無縁の善良なる市民はみんな安堵の胸をなで下ろせます。本当によかったですね。

 

投稿:2016年5月6日