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裁判員裁判、見に来てくれーっ byテラダ長官

1-e13979012763485月2日、裁判員裁判の開廷予定日をホームページで案内するよう最高裁が全国の地裁に指示した。tokyo201605

006311000ュースで知りました。

001177全地裁が一斉に公開を開始しましたね。東京地裁と札幌地裁と福岡地裁の案内例を紹介しましょう。5月に始まる事件は、東京地裁は覚醒剤取締法違反など6件。札幌地裁は強盗致傷等など3件。福岡地裁は殺人等など2件。

1-e1397901276348掲載の様式までほぼ同じ。ということは、事細かに最高裁が指示しているということだ。

001177また電通にでも依頼してレイアウトさせて、横並びの統一スタイルにさせたんざんしょ。

1-e1397901276348そうかもしれない。出前講義の時は案内の仕方が各地裁てんでんバラバラだった。最高裁の統制がさらに強まった感じだな。

006311000最高裁の新方針にはどういう意味があるんですか。

1-e1397901276348いいことを聞いてくれた。今日は裁判員裁判の開廷日案内について話そう。ただし、この話に入るには、その前に裁判の公開とか傍聴の自由について基本的な説明をしなければならないな。

001178まね0どうぞ、前でも後でもお好きなだけ話して下さい。ダメだといってもお聞きにならないでしょ。

1-e1397901276348ふてくされるでない。そもそも裁判は公開せよというのが憲法上の大原則だ。

006311000わかります。最高裁がその原則を踏みにじったとされたのがハンセン病隔離法廷の事件ですよね。

001177憲法第82条1項は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」として、裁判の公開を命じています。また、第34条は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない」と定めています。

006311000開法廷は大事な大事な原則なんすね。

1-e1397901276348そうだ。昔から権力者は密室で裁き、密室で結論を出していた。お白州に傍聴席は用意されていないだろ。公開されるのは見せしめの処刑の場面だけだ。

006311000罪を犯したのではないかと疑われた人の人権を守るために、密室裁判を許さないことにしたと。

1-e1397901276348公開法廷は近代刑事司法の基本原則になった。審理は人が見ることができるところで実施し、判決も人が聞くことができるところで言い渡さなければならないことになったのだ。

001177公開原則というのは言い換えれば傍聴可能原則ということですね。誰でも傍聴できる条件がととのえられたときはじめて公開されたと言えることになる。

006311000現在の裁判はすべて傍聴できるんですか。

1-e1397901276348基本的にできる。傍聴できないのは極めて例外的な場合に限られる。事件内容による例外もあるが、一番多いのは傍聴席が埋まってしまってこれ以上人を法廷に入れられない時などだ。

006311000大事件などは希望者が殺到しますよね。行列を作っているって見たことあります。

001177そういう時には多く抽選になりますが、マスコミが席確保のためアルバイトを動員しているので、一般の傍聴希望者が閉め出されてしまうことがありますね。

006311000傍聴のルールは裁判員裁判もそれ以外の裁判も同じっすか。

1-e1397901276348もちろん同じさ。

006311000裁判員裁判の傍聴の実情を教えて下さい。

1-e1397901276348裁判所によっても異なる。東京や大阪などの大規模地裁では傍聴者はたいていそれなりの数になる。法廷がいっぱいになることもある。小規模地裁はマスコミに大きく報道された事件でもないとたいてい空いているな。大地裁でも、「殺人・死体遺棄」とか「住居侵入・強姦致傷」とか「強制わいせつ」なんていう罪名だと、ヘンな言い方だが「人気が高い」。裁判員裁判か裁判員裁判でないかということはあまり関係がない。被告人が女性名だったりしたら傍聴席は満杯だな。裁判員裁判でも「覚せい剤取締法違反・関税法違反」とかになると、それも被告人が外人名だったりすると傍聴者は一気に激減して、傍聴席は閑古鳥が鳴く。

00631100うーん。大都市の方が物好き・暇人(ひまじん)が多く、傍聴希望者は簡単に言うとミーハーっていうことですか。

1-e1397901276348はっきり言ってミーハーだ。勉強のために傍聴する人ももちろんいる。だがほとんどは興味本位のお遊びさ。考えてごらん。裁判物はアメリカ映画の定番の一つだし、日本だって裁判映画や裁判物テレビドラマはけっこう多いだろ。人気ジャンルの一つと言ってもよい。しかも実際の裁判は作り物ではない。「事実は小説よりも奇なり」のおもしろさがある。ドキュメンタリー映画を見ている気分だろう。それに、裁判傍聴は映画と違って何時間見ても聞いてもタダなのだ。

001177裁判は平日の昼間しかやっていませんから、普通の勤め人や学生は傍聴するのが困難です。平日に休みがある人でも、折角の休日にわざわざ裁判所に出かけて行って、知りもしない人たちの間で起きた事件の法廷を傍聴する気になるのは、よっぽどのマニアに限られるでしょう。

006311000今、「人気」とか「空いている」とかいう言葉が出ましたが、どこでいつ裁判が開かれるというのは、一般の人はどうして知ることができたんすか。

1-e1397901276348裁判所によって多少違いがあるようだが、東京地裁だったら、裁判所の玄関ホールにその日の開廷予定事件一覧表が冊子になって置かれている。そこで冊子を開いて、何時何分に○○号法廷で始まる何々事件はおもしろそうだということになれば、その事件の法廷に行くのだ。

006311000傍聴希望者はみんなそこに集まるのですね。

1-e1397901276348その事件の関係者などで、どの法廷で裁判が開かれているのかあらかじめ知らされている場合には、冊子を開いたりせず法廷に直行することになるが、それ以外のたいていの傍聴希望者はここに群がる。

00631100群がる…。

001177確かに群がるという言葉がぴったりしまね。黒山の人だかりで開廷予定事件一覧表にたどり着けないこともありますし。

006311000なるほど、そのあたりの雰囲気はわかりました。で、最高裁は、今回どうして裁判員裁判の開廷予定日を公開させることにしたんすか。ハンセン病隔離法廷を反省して、裁判公開の原則を徹底的に進めるようにしたのなら、刑事裁判全部の日程を公開すべきだし。開廷予定一覧表にたどり着けない傍聴希望者の便宜を図るためならなおさら、全刑事裁判にすべきかと。

1-e1397901276348やいや、今説明したのは東京地裁の例だ。しかも一般事件を含めて傍聴の実情を説明したのだ。小規模地裁では、大きく騒がれた事件でもなければ、裁判員裁判でもあまり集まらない。それに「群がる傍聴希望者」はリピーターが多い。傍聴マニアなどの常連さんもけっこういる。

001177地方の裁判所でも、裁判員裁判が始まった当時はまずまずいたと言えますね。しかしだんだん傍聴に行かなくなり、今ではたいていの法廷は空いている。最高裁はまずそれを何とかしなければいけないと考えた可能性があります。

006311000不人気裁判員裁判対策ですね。

1-e1397901276348そうだ。それに、傍聴すれば法壇に坐っている裁判員の観察もできる。裁判員裁判を見物させて、次は自分が裁判員になるという気分になってくれればよいと考えたのだろう。

006311000そんなに都合よく進みますか。

1-e1397901276348無理だな。そうは問屋が卸さない。おもしろ裁判を見たいというのと裁判官のようなことをやってみたいというのはイコールでない。近い感覚でもない。裁判物・事件物のテレビドラマを見て、自分の仕事や職業を決める人はまずいないだろ。

006311000最高裁はそういうことがわからないんすか。

001177わかるもわからないも、とことん追い詰められて、「やれることは何でもやれ」「藁でも掴め」という状況にあるのです。

1-e1397901276348東京地裁の開廷一覧表に群がる人たちの姿を見た最高裁刑事局の職員が、長官に「裁判員裁判の開廷予定日案内」の掲載を提案したら、「出前講義の失敗」でうちひしがれていたテラダ君が飛びついた。

0011780(見て来たように言っている)

00631100「群がる人たち」っておもしろ話を探している暇人なんですよね。そんな感覚の人たちを裁判員候補者にさせるのは危なくないんすか。

1-e1397901276348そこだよ。そこ。最高裁はついに禁断の対策に手を出したのだ。「裁判はおもしろいって思う人たちを裁判所に集めよう、そのきっかけは自分で交通費まで払って裁判所に出かけてくる人たちだ。そんな奇特なお方がいることにこれまでどうして気がつかなかったのか。出前講義なんて売り込みをかけなくても進んできてくれる人たちを突破口にしよう」。そう考えた。

006311000それが禁断の対策だというのは。

001177おもしろ話で物を考える人たちによって裁判員裁判を支えさせるのは、ポピュリズムの極致です。さすがに最高裁もこれまで裁判員制度をそういうふうに説明したことはありませんでした。

20160418inko

だが、今や格好をつけてはいられない状態になった。なんと言っても20%は「恐怖の生命線」だ。世間には裁判員体験をおもしろ体験としてしゃべってくれる人もいてくれるし、裁判員を楽しもうなんていう本も出ている。悪魔がテラダ君にささやいたんだな。「こっちにおいで、こっちにおいで」ってね。

006311000なんか、本当らしく思えてきた。今回の裁判員裁判の開廷予定日案内っていうのは、これも裁判員制度の末期現象の一つだってことっすね。

1-e1397901276348そのとおりだ。制度が発足した時に賑々しく開廷予定日案内も始めていればこれほど問題にされなかったのに、7年も経ってから突如最高裁の大号令で一斉に始めたもんだから、そのおかしさが誰の目にもはっきり映ってしまったのだ。

2016051712うまくいかないものはどうやったところでうまくいかないというだけのこと。

 

 

投稿:2016年5月17日