~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
正確に言おう。「発足した時から低かった出頭率がその後さらにひどく下がった」だ。
当初の出頭率約40%が、最近は20%近くまで落ち込んだと言えばいいと。
最高裁自身使い分けをしている。実体に近い厳格な説明とマスコミ受けする甘い説明だ。
(控えめにパチパチと) ではお願いします。心静かにお聞きします。
まず、「実体に近い説明」の方から入ろう。これは「裁判員候補者として選定された者のうち実際に出頭した者の割合」を言う。
「裁判員候補者として選定された者」っていうのはどういうことですか。また、誰がどうやって候補者を決めるんですか。
ある地裁がある事件の審理を裁判員裁判として始めるとしよう。その地裁の裁判官たちは、その事件について呼び出す裁判員候補者をリストから選ぶ。リストというのは、あんたの地裁の今年の裁判員候補者は次の人たちだと最高裁が毎年年のはじめに全国の地裁に送ってくるものだ。
話がさかのぼっちゃうかもしれませんが、リストというのは最高裁が各地裁に送ってくるものなんですか。
本来は違う。裁判員法は、裁判員候補者名簿は地裁が調製しなければならないと定めているし(23条)、調製したらその結果を候補者に通知するのも地裁の仕事だと明記している(25条)。
最高裁は「地裁の仕事を手伝っている」などと弁解していますが、まともな説明ではないですね。
最高裁が裁判員法の規定を無視していることは誰の目にも明らかだ。
裁判員法がリスト作成を最高裁の仕事にしなかったのはなぜですか。
裁判員裁判をやるのは地裁、最高裁は地裁の裁判の良し悪しを最終的にチェックする上級審だ。地裁の裁判の裁判員候補者を最高裁が決めてしまうのは建前としてはどうにも不適切という考えがあったのだろう。
だったらリスト作りもリスト記載の通知も地裁がやればいいじゃないっすか。法律を守って。
その作業を実際に地裁にさせたら地裁の事務はパンクする。各地裁がてんでんに外注して混乱したり秘密が漏れたりしたら大問題になる。というような理屈で最高裁が一元管理することにしたんだろう。最高裁だってアウトソーシングと称して民間業者に丸投げ外注しているけどね。
2016年度だけで17億6,800万円の裁判員制度関連予算のうち、いくら使われていることやら。どちらにしても官僚的な統制で裁判所が仕切られているという話ですね。
ところで最高裁の裁判員候補者名簿は市町村選挙管理委員会の選挙人名簿からくじで選ぶんでしたよね。
そうすると、選挙人名簿には有権者の住所・氏名・年齢しか載っていないから、候補者名簿には、国会議員とか、実務法曹とか、裁判所・法務省・警察の職員とか、自衛官とかも除外されずにそのまま載ってしまうと。
そう、70歳以上の人だということはわかっても辞退希望の有無まではわかりません。最高裁からリスト記載を通知された段階で自分の事情や意向を最高裁に回答する人もいますが、みんなきちんと通知書を読んでいる訳ではないし、読んだからといって必ず回答するものでもありません。
裁判員になれない人や1年を通じて辞退が認められる人だとわかれば、最高裁は各地裁にその情報も伝える。
このところ毎年20数万人だ。最高裁は、これを各地裁の推定事件数などを考慮して振り分ける。東京地裁本庁なら毎年2万人ほどになるな。
リスト記載通知の段階で候補者から除外される人って、おおざっぱに言えば、4分の1くらいになりますね。
裁判員になる資格がないと言ってくる人は1%もいませんが、定型的辞退事由があるとされる人は24%くらいになります。定型的辞退事由というのは、重い疾病・傷害があるとか他に任せられない介護・養育に関わっているとかで、裁判員法16条が定めています。
にわか病人、にわかけが人、にわか介護、にわか養育、にわか多忙…。多くは適当な理屈を付けた「かくれ拒絶者」だ。
70歳以上の辞退希望者はある程度いるでしょうが、それ以外の辞退希望者の多くは「かくれ」なんでしょうね。
実際に選任期日に出頭してきた人たちは、制度発足当初「裁判員候補者として選定された者」の40%程度だったのが、最近は20%程度に落ちた。ということは、例えば200人を選定したら50人が除外者になり、残る150人のうち80人くらい出頭していたのが最近は40人くらいしか出頭しなくなった。そういう訳ですね。
出頭状況の概要を把握するには「裁判員候補者として選定された者」を総数(母数)とするのがふさわしそうですね。
2009年が40.3%、10年38.3%、11年33.5%、12年30.6%、13年28.5%、14年26.7%、15年24.5%、そして今年は3月までで22.3%というように推移しています。
見事なくらいの下降曲線。どうしてこれで定着しているとか概ね順調なんて言えるのか。
そう豪語していたのははっきり言って最高裁だけだった。それもさすがに昨年あたりから言わなくなったな。
さて、もう一つの「マスコミ受けする甘い出頭率」の話に移りましょう。
70%を割ったなどと言われている方の「出頭率」はどういう意味なんですか。
これは「選任手続き期日に出頭を求められた者のうちどれだけが実際に出頭したかを%で示したもの」だ。
「選任手続き期日に出頭を求められた者」というのは、まず最高裁のリスト記載通知の段階で申し出られた無資格者・辞退希望者などを除外し、次いで地裁がリスト記載者に出頭要求をかけた段階で本人から申し出られた無資格者・辞退希望者も除外した結果、最終的に「残った人」のことだ。
確認させて下さい。最高裁の段階で除外される人は、どのくらいいるんすか。
昨年は、選定候補者13万3000人ほどのうち4万1000人ほどが除外されています。
昨年で言えば、9万2000人ほどが地裁から出頭を命じられ、4万4000人ほどが除外されました。
除外しまくり、されまくりじゃないですか。結局選任手続き期日に残った候補者は4万8000人ほどしかいなかったと。
そのとおりだ。「やりたくなけりゃやらなくてよいと言っているのにどうしてやろうとするのだ」っていうのが現在の最高裁の姿勢だ。辞退承認は文字通り大廉売になっている。
なるほど。で、「選任手続き期日に出頭を求める者」というのは、地裁の選任段階でも無資格だの辞退希望だのと言ってこなかった者ということですか。
そう、「選任手続き期日に出頭を求める者」と言うが、正確に言えば「呼び出し状によって選任期日に出頭するよう一旦命じた相手から本人の申し出などにより除外することにした者を除いた結果残った者」ということだ。
何というわかりにくさ。役人の世界でしか通用しない言い方ですね。
で、70%を割ったとか言われている出頭率というのは、そのなんたらかんたらで最後に残った者のうち実際に選任期日に出頭してきた者の比率ということなんすね。
ということは、これはつまり最高裁からのリスト記載通知に回答せず、地裁からの出頭命令にも何も言ってこなかったから、選任期日当日には恭(うやうや)しく出頭してくるだろうと裁判所から予測された「従順そうな羊」の候補者のうち、本当に「従順な羊」だった者はどれだけいたかというその割合っていうことですね。
おもしろい表現だ。前年11月のリスト記載通知以来、文句も言わずに静かに対応してくれていた候補者のうち裁判所の命令どおり選任期日に出頭してくれた候補者の数を調べて、その比率を「出頭率」と言ってるんだ。
出頭してくれると最高裁に思わせた者の中に期待通り出頭した者がどのくらいいたかということを調べると何に役立つのかしら。
知らん。最高裁がとっている統計には意味目的がよくわからんものがたくさんある。
「最高裁期待達成率」とか「真性羊率」とでも言った方がよさそうですね。
羊羹ではありません。羊率(ひつじりつ)です。でもマスコミのほとんどがこのへんてこ出頭率を使って物を言うのはなぜでしょうか。
そりゃ、マスコミが算出根拠などに関心を寄せないのをいいことに、最高裁は相手を煙に巻くようにその数字を使ってるだけのことさ。
裁判員裁判が始まった2009年が83.9%、それから10年80.6%、11年78.3%、12年76.0%、13年74.0%、14年71.5%、15年67.5%、そして今年3月までで61.0%です。
第1の出頭率は無残な減少状態でしたが、羊率の方もどんどん下がってますね。みんなどんどん「真性羊」から「疑似羊」に、いや違った「ばっくれ羊」になってきた。ボクが考えるに、この%は100から引いた比率を示した方がいいんじゃないでしょうか。
「音無の構えを貫徹し最後までお隠れのままで消えていった者」の数が、09年は16.1%、10年は19.4%、11年は21.7%、12年は24.0%、13年は26.0%、14年は28.5%、15年は32.5%、16年は39.0%に上った。そういうことになりますよね。
「ばっくれてお・し・ま・い」っていう国民がどんどん増えているっていうことはたいへんな話ではないでしょうか。
最高裁を相手に「にわか何とか」を演じるのにも、「ばっくれ」を決め込むのにも大きな決断がいる。その決断をする国民がどんどん増えているということだ。最高裁にとってこれほど「あってはならない状態」はないだろう。
そうですよね。天秤の一方に最高裁の権威に対する思い(畏れ多くもという気持ち)がかかり、もう一方に裁判員裁判に対する嫌悪の思い(避けるためにはウソでも言う気持ち)がかかっている。そして、裁判員への嫌悪感が最高裁の権威に対する評価に圧倒的に打ち勝っているということですから。
でもボクは思います。そのような事態をひきおこした責任は、裁判員制度を強引に押し進めた最高裁・法務省にあり、これに追随したりお先棒を担いだりした日弁連や大マスコミにもある。言ってみれば自業自得です。
みんながよってたかってこの国の司法の信頼を低める努力をしている。ほとんどマンガのような世界が現出しているのだ。
最高裁などは、この制度は司法への信頼をつなぐことを目標にしたものだと言っていたんじゃなかったでしたっけ。
そう言われた制度なんだが、正反対の方向に彼ら自身が進めているというのは何という皮肉だろう。いや皮肉というよりも必然的な帰結というべきだな。無理が通れば道理が引っ込むとか天罰覿面(てきめん)とか言うだろ、昔から。
最後に質問させて下さい。出頭率が議論されていますが、出頭した人はみんな裁判員をやってもいいと決意している人たちなのでしょうか。
いんや、しからず。「従順な羊」の中にも辞退を求める人たちがけっこういる。
昨年のデータでは、選任期日当日に出頭してきた約3万3000人のうち、約9200人、割合にして約28%が当日に辞退を認められています。ということは、選任期日にはこれより多くの人たちが辞めさせてくれと裁判所に迫っているということになりますね。
断るためだけに出頭してくる人もたくさんいる。最高裁などの制度推進勢力は、よくよく国民から見放されているのだ。これを「前門のばっくれ、後門の当日辞退」という。ふっふっふ、おわかりかな。
投稿:2016年5月25日