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裁判員裁判の有罪判決を破棄し、高裁判決の無罪判決が確定

不十分な審理は裁判員への遠慮がなかったか

弁護士 猪野亨

下記は「弁護士 猪野亨のブログ」6月1 日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

長野県松本市で2014年4月に起きた事件ですが、祖母と弟を殺害したとして男性が殺人罪で起訴されました。

一審の長野地裁の裁判員裁判では懲役8年としましたが、2人に対する殺人ですから心神耗弱は認めています。
しかし、東京高裁は、「妄想の影響をうかがわせる事情が多数あるのに、適切に考慮しなかった」2016年5月11日、被告人の心神喪失を認め、無罪判決を下しました。
日経新聞の記事ですが、「一審の裁判員裁判では責任能力の有無が争われず、14年12月の一審判決は、精神障害によって心神耗弱だったとして限定的な責任能力を認めた。」(日経新聞2016年5月12日)となっています。
朝日新聞の記事では、「一審では被告が心神喪失状態であったことを弁護側が主張せず」(朝日新聞2016年5月11日)とあります。
むしろ、一審の弁護人が争わなかったということが解せないということになります。

 それはさておき裁判員裁判では、結論(判決)において心神喪失は認めなかったということになります。
しかし、東京高裁の結論は心神喪失を認め、無罪としたものです。
検察側も上告せず、2016年5月26日に無罪判決は確定しました。

 裁判員裁判において、例え弁護人が争わなかったとしても裁判所は本来、被告人に対する後見的な見地からも無罪の被告人を処罰してはならない職責を負っています。
それは三権分立という司法権が行政権を抑制するという根本的な原理から導かれます。公判前整理手続で争点化されていなかったとしても、実際の審理過程で心神喪失の疑いが出てくれば裁判所は公判を中断し、期日間整理に戻すことも必要です。しかし、それはなされていません。
その意味では不十分な審理のまま有罪判決が下され、それが高裁で破棄されたことになります。
この問題は職業裁判官のみであれば、途中で審理を中断したのではないかという見方もできるのではないかと思います。期日間整理をやり直すというのは、あまり例がないようです(ないわけではない)。それは、仮に実行するとなると、裁判員の都合にもよりますが、恐らく一定期間、空けることになりますから解任の上、選任し直しということになるからです。
そうなると裁判長としても決断しにくいということになるのではないでしょうか。
ある意味では裁判員制度に内在する問題とも言えます。
裁判員制度では控訴審の在り方に異議? 裁判員ってそこまで偉いんだろうか

 公判前整理手続が長期化していることも問題とされていますが、根本的にはそこで絞った争点に審理が拘束される、身動きが取れなくなるという問題に帰着しますが、それは何と言っても裁判員を確保するという都合から来たものということは忘れてはなりません。
審理の充実と裁判員の都合が天秤に掛けられた、そのような構図なのです。

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投稿:2016年6月4日