~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
弁護士 猪野亨
下記は「弁護士 猪野亨のブログ」6月11 日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。
特定危険指定暴力団の組員による裁判員への声掛け問題は、地裁によって告発されるまでに至りました。
この問題は、起訴された組員を裁く裁判員裁判の裁判員に対し、審理終結後に、声を掛けたというものです。
「裁判員に「よろしく」は裁判員への危害? 裁判員制度の制度設計こそ問題がある」
その後の報道では、「顔を覚えとるけんね」ということも言われていたということで、確かに恐ろしいといえます。
その後、4人の裁判員が「辞任」しています(裁判長による解任)。
暴力団組員であることを誇示しての接触であれば、裁判員ではなくても裁判官であっても問題は残りますが、ただ裁判員だったからこそ声を掛けたのでしょう。裁判官にそのような「声掛け」をしても通用しないのは分かり切っているからです。
とはいえ、この「声掛け」も非常に微妙な問題を含みます。
裁判官の職務については独立が憲法上、規定されていますが、他方で、国民は主権者として裁判を批判する自由があります。特に刑事裁判であれば、無罪の者を罰してはならないということは当然の前提として、国家による弾圧的な事件も未だに続いているわけです(注:すべてが裁判員裁判の対象という趣旨ではありません)。
松川事件がその典型だったわけですが、このような中で、裁判員に接触してはならないなどした場合、裁判所前での抗議活動、ビラ配布すらできないことになりかねません。
朝日新聞が報じたところでは、昨年9月にも傍聴していた男性が裁判員に声を掛けるという事件があったということでした。
「裁判員に声かけ、東京でも 法廷外で「被告かわいそう」」(朝日新聞2016年6月11日)
この時も東京地裁は告発を考えたそうですが、裁判員が事情聴取を受けることに難色を示し、見送ったということですが、これで刑罰を科せられるということになると非常に恐ろしいと言わざるを得ません。
公務員に対する嘆願、請願なども国民の権利ですし、批判する自由も当然の権利なのですが、これが一切、封印されるということです。
裁判所前で抗議のためにハンドマイクで裁判員に呼び掛けたら犯罪、ビラを配布して裁判員が受け取ったら犯罪、ということになりかねないわけです。
しかも、これだけ裁判員による裁判の公正が害されるとするならば、逆に、批判を許さないということで本当にそれが公正なのですか、ということです。
裁判員裁判は、様々な歪みが露呈しています。
裁判員を守れ、では解決されるような問題ではありません。
マスコミの論調はこの問題を放置すればますます裁判員の引き受け手がいなくなるということを危惧しているようですが、それ自体は、その通りですが、現実には、このような事件がなかったとしても裁判員になることへの拒否状況に変化はなく、もはや手遅れです。
「裁判員候補者の無断欠席が増加中 今に始まったことではない」
マスコミであれば、このような裁判員さまさまの問題提起ではなく、司法のあり方が問われているという観点から報じるべきです。
裁判員を守るために裁判の公正さが害される、問題はここにあります。
投稿:2016年6月14日