トピックス

トップ > トピックス > 工藤会声かけ事件を徹底分析する

工藤会声かけ事件を徹底分析する

00631100お、親分。てえへんだてえへんだ。

1-e1397901276348何だ、八。落ち着け。何がてえへんなんだ。

00631100く、工藤会の肥おけで、違った声かけで裁判員制度はガラガラっていっちまうんじゃないかってんで、町中大騒ぎでっせ。

1-e1397901276348おまえ、いくらガラッ八だって今日の言葉遣いはちょっとヘン。いや、大きく変、つまりていへんだ。少しこんがらかったな。とにかくちゃんとインコのお山の品位を守って言いなさい。

00631100はい、はじめから言い直します。「せ、先輩。大変です、大変です。工藤会の声かけ事件で制度が終わりになってしまうのではないかと、世論は今沸騰しています」。これでどちらもどっちもようござんすか。

20160418inkoうん、ガラッ八にしては上出来だ。やっと銭形から現代に移ってきたな。それにしても、相手が博徒・侠客のたぐいだからって、てめえが一気に岡っ引きの世界に飛び込んじまうってぇこともあるめえ。いや、やっぱり調子がちょっとおかしいな。

00631100はい、先輩も大変です。後輩に引きずられないように注意して下さい。

001177何をごちゃごちゃ言い合ってるんですか。早く本論に入りましょうよ。

1-e1397901276348そうだそのとおりだ。ヒヨコ君、何があったのかを落ち着いて整理して言ってみなさい。

00631100先輩こそ落ち着いて聞いて下さいね。5月30日の全国紙夕刊が初報です。福岡地裁小倉支部で進んでいた殺人未遂の裁判員裁判。被告人は指定暴力団工藤会系の組幹部(40)。その知人らしい男複数が5月12日の公判終了後、裁判所を出たところで2人の裁判員に「よろしく」と声をかけた。裁判員たちはそのようなことがあったと小倉支部に申し立てた。これが最初の報道です。

HP201642221ちょっと待て。事件発生からマスコミに知られるまでに18日も経っているとな。そりゃニュースとは言えん。知られるまでの間にいったい何があったのか。

006311000公判事件は、昨年1月に被告人が自宅で知人の男性を日本刀で刺して殺害しようとしたとして、昨年11月に起訴されていたものでした。今年5月10日に裁判が始まり、被告人は殺意を否認、12日に審理が終結し、5月16日に判決を言い渡すことになっていた。後は評議を残すだけだったというのです。裁判所は13日に判決期日を取り消し、今後の方針を最高裁と相談して決めることにしました。

001181今後の方針を最高裁と相談するって発表したんですか?

006311000いや、それはボクの想像です。でも、「制度の根幹を揺るがす」事件ですから、地裁の裁判官たちが自分たちだけで方針を決めるなんてあり得んと思います。

1-e1397901276348裁判の独立という大原則があるのだが、そんなのはどこかにすっ飛んでしまっただろうとな。うむ、前例のない事件、正確に言えば表沙汰になった事件としては前例がない。地裁の裁判官は、ていへんだていへんだってんで最高裁に伺いを立てただろうよ。出前講義ていどのことでも、どうしたらいいんでしょなんて最高裁にいちいち伺いを立ててるていたらくだからね。

006311000声かけ事件の余震は続きます。いや、それからが本震と言った方がよいのかも知れません。工藤会は全国唯一の特定危険指定暴力団、暴力団中の暴力団です。翌31日の全国紙は、どうしてこの事件が裁判員裁判になっていたのかに踏み込んでいます。

1-e1397901276348裁判員法3条は、裁判員やその家族などに危害が加えられる恐れがある場合は、裁判官だけで審理することにしなければならない(「審理することにしてもよい」ではない)と定めるが、その条件はかなり厳格で簡単には認定できないことになっている。3条1項を紹介しておこう。

地方裁判所は、前条第一項各号に掲げる事件(=裁判員裁判対象事件のこと)について、被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張若しくは当該団体の他の構成員の言動又は現に裁判員候補者若しくは裁判員に対する加害若しくはその告知が行われたことその他の事情により、裁判員候補者、裁判員若しくは裁判員であった者若しくはその親族若しくはこれに準ずる者の生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員候補者又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない。

00631100うへーっ、わかりにくいー。

001177工藤会系組員たちの刑事事件が裁判員裁判から外された例は福岡地裁の本庁と小倉支部を合わせてこれまで5件ありました。しかし、今回の事例は「組織性が薄い」という理由で原則どおり裁判員裁判が行われることになったようですね。

00631100「組織性が薄い」ってどういうことなんでしょうね。それに、言うまでもないことですが、裁判員裁判にするかしないかは裁判員候補者を呼び出す前に決めることですよね。その段階で組織性が薄いとか濃いとか、そういうことがどうして裁判所にわかるんでしょうか。

1-e1397901276348公判開始前に裁判所が事件に関して心証をとるのは刑事訴訟の原則に反する。絶対にしてはいけないことだ。中身がわからない段階で仕分けを求める3条は、予断排除の原則との関係でももともとおかしな規定だった。

001177国民参加を不動の大原則にしたいという「原則貫徹論」と、例外を用意した方が制度は長持ちするという「現実妥協論」がせめぎ合い、なにやらかにやらとわかりにくい条件をてんこ盛りにして例外扱いを認めることにした。けれどやっぱり事件は起きてしまったというわけです。

006311000話はさらに発展します。その後、組員たちが裁判員たちにかけた具体的な言葉が報道されました。小倉支部に近いバス停付近などで、「あんたたち、裁判員の人やろ。顔覚えとるけんね」「(被告人は自分の)友だちやけん、よろしく」というような言葉をかけたというのです。

0063110006月9日、小倉支部は、最高裁と協議の上(これもボクの想像です)、元工藤会系組員と被告人の同級生(幼なじみという報道もある)の2人を福岡県警小倉北署に告発し、告発状が受理されました。5月13日に判決期日を取り消したっきり、改めて判決期日を決めるでもなく、裁判官裁判にすると決めるでもなく、1か月近く過ごして、この日やっとこの2人を告発したのでした。

001181でも、小倉支部はどうして告発状を書くことができたんでしょうか。声かけの事実をいつどこで確認したのか。また、声かけした2人はどうして特定できたのでしょう。元工藤会系組員と被告人の同級生の2人ということを裁判所はどうしてわかったのか、そこら辺のことはマスコミは何も報道しません。追跡もしていないのでしょうか。

1-e1397901276348それに関して言えば、告発については、裁判所と検察庁と県警が何度も集まってしっかり相談しているに違いない。裁判官「詳しい経過を教えて下さい」。県警「捜査した結果、2人というのは元工藤会系組員と被告人の同級生ということがわかりました。防犯カメラに写っとりましたし、リストもあります。いろいろ聞き込みもしましたんで」。検察官「検察も確認しています」。裁判官「なるほど、そういうことなんですね。ご苦労様でした」…。ま、そんな感じだろう。

001177告発状が提出されてすぐ受理されたそうですね。

1-e1397901276348それこそ出来レースっていうことさ。よほど意思疎通ができていないと、直ちに受理したりしない。

006311000それも最高裁の指導のもとにでしょうね。想像ですけど…。

1-e1397901276348もちろん、そうだろう。

006311000この間、事態はどんどん深刻化していました。5月30日には新たに2人の裁判員が辞任を申し出た。また、補充裁判員1人が新たに辞任を申し出て、この人たちも次々解任されています(『読売』6月9日によれば、裁判員4人の解任は6月7日付けだという)。

001177補充裁判員の辞任の時期がはっきりしていませんね。

006311000さてここで問題です。もともとは裁判員は6人で補充裁判員は2人です。まず、声かけされた2人の裁判員が辞めたいと言いました。それから裁判員2人と補充の1人が消えました。残ったのは何人でしょう、

1-e1397901276348自分で言え、自分で。

00631100い、裁判員2人と補充員1人ですね。補充員が昇格して正裁判員になっても6人には3人足りません。猿の毛が3本足りないのなら、まぁいいかですみますが、裁判員の3人が不足すると、まぁいいかでではすみません。

20160418inkoなんだか全体にうれしそうに言うな、今日のきみは。

006311000これがうれしくなくて何をうれしがりますか。裁判所は残った裁判員たちに「皆さんちょっと待っててね」とお願いして不足の裁判員たちを集め直すか、もはやこれまでとあきらめて裁判官裁判に変更するか決めなきゃなりませんね。

1-e1397901276348そうだ。まっ、今残っている3人だっていつ辞任の申し出をするかわからない。いや、今日あたり辞任届けを出しているかも知れん。

006311000「自分は最後までやります」っていう裁判員や補充裁判員がいたら、どうするんでしょうか、裁判所は。裁判官裁判に変えたくても変えられませんね。

20160201裁判員でも補充員でもやめたくてしょうがない状況だろうから、そんな心配は無用のような気がするが、今時の裁判員には確かに変わり者もいる。皮肉な話だが、裁判所は暴力団の怖さを必死に訴えて裁判員の士気を阻喪させる努力をしなければなるまい。最悪、そこまで偏執的に裁判に関わりたいと思う者は公正な裁判をしない恐れがある者として、首を切るしかないかも知れんな。

006311000さぁ、これからどうなるのかと興味津々で見ていたら、6月17日から18日にかけ、4段抜き見出しの報道が流れました。余震ではありません、しっかり本震です。裁判員に声をかけた男たちが裁判員法違反の疑いで逮捕されたと言うんです。

HP201642221そう来たか。とりあえず、裁判員法106条1項(裁判員等に対する請託罪)と107条1項(裁判員等に対する威迫罪)を紹介しておこう。

106条1項 法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
107条1項 被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

001177請託というのは依頼すること、威迫というのは言語・動作・態度を問わず気勢を示し相手を不安・困惑に陥れることですね。この男たちは、17日に逮捕されました。裁判員法違反の逮捕例はこれまでにありませんでしたから、列島に激震が走りましたね。不出頭の裁判員候補者が逮捕されたのかと思った方もけっこういたようです。

20160418inko「根岸の里のわび住まい、それにつけても制度は不人気」なんてね。裁判員裁判が救いようのないほど不人気なので、どんな報道でも裁判員裁判イヤの気分を高めるきっかけになってしまう。どんなへたくそな短歌でも最後に「それにつけても制度は不人気」をつければ歌として格好がつくことになった。

006311000後追い報道によれば、裁判員たちに声をかけたのは、実は結審の日ではなく第1回公判期日の10日で、2人のうち組員は「あんたら裁判員やろ」「顔は覚えとるけんね」「よろしくね」と言い、同級生は「もうある程度刑は決まっとるやろ」と言ったという話になりました(『読売』6月18日)。

001177逮捕報道で、マスコミは一斉に「裁判員たちの安全確保を」「再発防止策の策定を」の論調で走り始めました。

1-e1397901276348ばかばかしい限りだな。安全を確保し安心して裁判所にきてもらおうって言ったって、どうすれば安全・安心になるのか言ってみろってんだ。裁判は公開されているから席が空いていさえすれば誰でも傍聴席に座れる。飲食店のように「暴力団お断り」のステッカーを法廷の扉に貼ることはできない。そのため裁判員のご面相は完全に公開され、誰でもじろじろ見られることになっている。顔を見られるのを避ける決定的な方法は裁判員にならないことなのだ。

006311000被告人に重罰を課さないでほしいとか、無罪判決を出してほしいという思いを募らせるのは、暴力団員に限りませんよね。昨年、東京地裁では、危険運転致死罪などに問われた事件で、被告人と関係のない傍聴人が被告人に同情して裁判員に声をかけています。つまり、安全確保なんていくら考えたって大丈夫という策はないということじゃないですか。

1-e1397901276348そのとおりだ。

001177最高裁の意識調査の結果でも、47%の市民が逆恨みされ自分の安全が脅かされるのではないとかと不安を訴えています。

1-e1397901276348まだまだ激震が続くだろう。今回の組員や同級生に対する刑事責任追及の裁判が始まれば、これでは請託があったとは言えないとか、威迫にあたる具体的な行動はなかったなどという反論が出てくる可能性も十分ある。

0011772人の裁判員は男たちに声をかけられたことを裁判所に告げ口したのですから、この人たちは顔を覚えている組員や同級生などからその分なお恨まれている可能性もありますよね。

1-e1397901276348そうだ。また、そういういう具体的な懸念のほかにも考えねばならないことがある。裁判所が裁判員裁判をやり直すことにしたらどうなるか。これから小倉支部から呼び出しを受ける殺人未遂の事件の裁判員候補者は、この事件のやり直しのために自分を呼び出したのだろうとすぐに推測するから出頭率はひどい低さになるだろう。総スカンかも知れん。

006311000裁判官裁判として出直すとしたらどうなるでしょうか。

1-e1397901276348今後は暴力団関係の事件は裁判員裁判にしないというルールが事実上確定するだろう。

006311000それって裁判員制度の自壊ではないでしょうか。

1-e1397901276348完全に自壊だ。推進派はそのことを一番懸念している。6月8日の『読売』社説は、「制度の根幹が揺らぎかねない」のタイトルで、再発防止を徹底しなければ裁判員を敬遠する傾向がさらに強まってしまうと警鐘を鳴らし、6月18日の同紙は、「同様の事態が続けば裁判員制度は立ちゆかない」という最高検幹部の言葉を紹介している。最高裁はいよいよ最後の局面に追い込まれた。

001177裁判員裁判に関わる皆様方にインコさんからひと言お願いします。

1-e1397901276348まず、裁判官に対して言おう。裁判員や補充裁判員には裁判所と自宅の行き帰りに毎日付き添ってあげなさい。裁判官は3人しかいないって? ピストン輸送だ。その間待たせる皆さんには我が国の司法の正統性に関する本なんかを読んでいてもらう。そういう時間も国民教育の貴重な時間と考えて有効活用をするのだ。待てないと言う人たちはどうするのかって? 簡単だ。正当な理由のない待機拒否は処罰すればよい。

1-e1397901276348次に検察官に対して言う。警察を指導して自宅と裁判所の行き帰りを守って上げなさい。裁判官が付きそい、警察検察が運んであげれば裁判員の安全はとりあえず万全だ。パトカーがサイレンを鳴らして先導すると裁判員たちはけっこう喜ぶ。最近はそういう傾向の人たちが裁判員になりがちなのだ。パトカーへの試乗などの企画もオプションでつければなおよいだろう。

1-e1397901276348最後に弁護人や被告人に対して。被告人の関係者が裁判員に請託をしたり威迫したりすることのないようしつこく注意して下さい。被告人もご友人もひたすら裁判員たちのご面相を覚えておけばよいのです。声かけなんかするからやばいことになっちゃうんです。みんなでしっかり裁判員たちを睨む。こういう判決を書けと念力で要求する。そして、草の根分けてもおまえを捜し出すぞってメッセージを目力(めぢから)で送る。それだけで裁判員たちは十分感じます。何をされるかわからない恐怖。それでよいのです。

001181皆さん、そんな面倒なこととてもやってられないっておっしゃってますけど。

1-e1397901276348そうか、本当にそうか。それなら裁判員制度はやめにしよう、と言うだけよ。これこそが一番簡単で究極の市民安全対策なのだから。

006311000潮が引くようにこの制度からみんなが離れてゆく状態の中で、今回の声かけ事件はその勢いを一気に強めそうだということや、その辺りの危険を最高裁がいかに感じているかがわかってきました。やっぱり、ていへんだていへんだってことですね。

001177声かけから40日を過ぎたというのに、小倉支部はまだ今後の審理方針を発表していません。裁判所内部がよほど大論議になっていることを推測させます。この話については、またコメントをすることになりそうですね。皆さん、お・た・の・し・み・に。

 

006311000親分が言うにゃ、どんなへたくそな短歌でも最後に「それにつけても制度は不人気」をつければ歌として格好がつくことになるんなら、名歌の「下の句を 差し替えみれば いかがなる それにつけても制度は不人気」ってんで、百人一首夏の歌をおまけでっせ。

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の それにつけても制度は不人気

夏の夜は まだ宵ながら あけぬるを それにつけても制度は不人気

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば それにつけても制度は不人気

風そよぐ ならの小川の 夕暮れは それにつけても制度は不人気

投稿:2016年6月21日