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米軍属による殺人 裁判員裁判の東京地裁への移転を求める 

裁判員裁判の公平性が問われている

弁護士 猪野亨

下記は「弁護士 猪野亨のブログ」7月4 日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

    沖縄県うるま市で起きた米軍属による女性に対する殺人事件が那覇地裁に起訴されました。
殺人ですから裁判員裁判になります。
この裁判員裁判に対し、被告人、弁護人が最高裁に対し、東京地裁への移転を求めています。
米軍属、管轄移転求める 「公平な裁判できない」 沖縄の女性会社員殺害裁判」(産経新聞2016年7月4日)
「弁護人の高江洲歳満弁護士が記者会見で明らかにした。シンザト被告が「反基地感情を自分1人で背負えない」とし管轄移転を希望したという。
請求書によると、沖縄で県議会や全市町村議会が抗議決議を可決した点に触れ「県民は悲しみを共有し、心は憎悪で凝り固まっている」と指摘。裁判員に選ばれる県民が「厳罰に処すべきという予断を持ち、公平な裁判をできない恐れがある」とした。

 刑事訴訟法では次のように規定されています。
第17条 検察官は、左の場合には、直近上級の裁判所に管轄移転の請求をしなければならない。
一  管轄裁判所が法律上の理由又は特別の事情により裁判権を行うことができないとき。
二  地方の民心、訴訟の状況その他の事情により裁判の公平を維持することができない虞があるとき。
2 前項各号の場合には、被告人も管轄移転の請求をすることができる。

 沖縄では、この米軍関係者の犯罪に対し、怒りに満ちあふれています。当たり前のことです。
このような沖縄県民から裁判員が選任されたらどのような判決になるのか、そこが問題とされています。
被告人が刑事裁判の中で一番、重要な裁判の公平が害されるのではないかと危惧しているのは当然のことです。
マスコミからは時折、民意を反映するのが裁判員制度などと言われることがありますが、全くのデタラメです。
民意によって裁けなどということが言われ始めたのは、裁判員制度の導入が決まってからです。
裁判員制度の導入を提言した司法制度改革審議会意見書(2001年6月)は、陪審制を主張した中坊氏らと官僚司法制を守るという立場との衝突の中で、突如として出来上がった制度に過ぎず、官僚司法制度は温存し、国民を裁判員という形で統治に組み込むために創設されたものです。
民意の反映とか市民感覚などというのは後からとってつけたマスコミの造語です。
もし市民感覚が大事だというのであれば、沖縄県民の怒りをこの裁判員裁判で遺憾なく発揮してもらえば良いことになります。
これを理由にして管轄を移転するということになれば裁判員制度の自殺行為ともいえます。

 しかし、このまま那覇地裁で裁判員裁判を実施することが本当に公平だと言えますか。
少なくとも被告人がそのように思えないということは無理からぬことであり、それでは裁判の正当性にも疑問符がつきます。

 もっとも東京に移転させたからといって東京の裁判員が担当すれば公平かといえば、それも違うでしょう。
この問題は担当する裁判員によって差が出るということにあります。だからこそ「民意」でも何でもないのです。

 裁判員制度の弊害がもろに表れた事件として、この制度の現実を直視すべきだということです。

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投稿:2016年7月10日