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裁判員が顔を見られないようにするなどできるのだろうか

いびつな刑事裁判

弁護士 猪野亨

下記は「弁護士 猪野亨のブログ」7月7日の記事です。
猪野弁護士のご了解の下、転載しております。

    工藤会による裁判員に対する声掛け事件ですが、大きな波紋を拡げています。
裁判員や補充裁判員の辞任が相次ぎ、判決は延期、そうこうしているうちに地検は裁判員裁判から除外するよう請求をしました。
裁判員裁判の途中で除外請求するのは初めてのことですが、裁判の途中で除外請求など想定外のことです。
裁判所が除外の決定をせず裁判員裁判を続行するのであれば、新たに裁判員を選任し、①審理を最初からやり直す、②録画などをみてもらって、そのまま評議に入る、ということになります。
いずれにしても、最後の判決の段階で裁判員は、再び被告人の前で顔をさらすことになります。
裁判所がどのような決定をするのかということになりますが、もしかすると検察庁に対し、除外請求するよう打診したのかもしれません。

裁判員制度の根幹が揺らいだのが今回の事件です。
最高裁が裁判員を守れと指令を出す 公用車での送迎 後がない裁判員制度

このような事件を受けて、裁判員経験者が本音なのでしょうが、このような意見には少々、驚かずにはいられません。
<裁判員意見交換>「顔が分からないように」要望相次ぐ」(毎日新聞2016年7月6日)
「福岡市で開いた会合には、昨年9月〜今年5月、地裁で裁判員を務めた男女7人が参加。法曹三者だけでなく、記者から質問をする場面もあり、「声かけ事件を受け、どのような感想があるか」などと聞かれた男性(45)は「後で声をかけられないよう、裁判員の前にマジックミラーを置くなど、傍聴席から顔が分からないようにしてほしい」と語った。」

 マジックミラーを置いですか。
最初にこの表題を読んだとき、私は、イスラムテロリストがやっているように頭から袋のようなものをかぶり目だけを出している姿を想像してしまいました。
マジックミラーも似たり寄ったりのものです。
傍聴人も見られないようにですか。
以前から言われていますが、外国人の事件(組織的な密輸絡みの事件など)などでは通訳人が傍聴席から外国語で脅されるなどという話も聞いたことがありますし(小声で外国語で被告人に不利な通訳をしたらわかっているんだろうなという具合)、暴力団関係者の事件以上に怖いかもしれません。
別に暴力団に限られません。

 先般、バレエの講師の指を切断した事件がありましたが、傷害事件では裁判員裁判の対象ではありませんが、このような事件の被告人の事件を担当することだって、考えようによってはこちらの事件の方が怖いかもしれません。
粘着質の被告人であればあるほど、恐ろしいとも言えますし、実際に裁判員に食って掛かった被告人もいました。

 しかし、そこまで守られなければならない裁判員ってどれほどまでに偉いんでしょう。国家のための任務を遂行する選ばれた人たち、というところでしょうか。
随分とお客様扱いをもしていましたし、制度としては、はっきりと歪んでしまいました。

 さて、それでもなお国民の側に裁判員制度を存続させたいという決意はあるのですか。
最初からそのようなものはありません。出頭率の低下が下げ止まらないことが全てを物語っています。
だから「公用車で送迎などと場当たり的なことで対処しようとしているのですから、もういい加減に制度の限界を認めて廃止すべき時期に来たということを関係者には自覚してもらいたいものです。

 このように悪あがきのようなことを言っている人は滑稽ですからあります。
【西日本新聞6/18】現代法学部大出良知教授が、裁判員制度の「除外決定」について見解」(東京経済大学)
「大出教授は、裁判員裁判が対象の事件を裁判官のみで裁く「除外決定」の適用を緩和することについて反対の立場を示し「一度範囲を広げれば、どんどん拡大する可能性がある。国民が裁判を担うという制度の意義が薄れる」

 最後の一兵まで戦えと絶叫している帝国陸軍の醜態と全く同じです。494489

 

 

 

 

投稿:2016年7月10日