トピックス

トップ > トピックス > 『日経』評論は「制度終焉詔勅」の序章か

『日経』評論は「制度終焉詔勅」の序章か

1-e1397901276348かろうじて電気は通じているものの、ネットどころか電話も通じないという辺鄙なところから飛翔帰還、と言いたいところだけど匍匐帰還。インコはこの空を飛べない。だから中島みゆき大好き。関係ないか。ま、言わせてよ、くそ暑い季節だから。悪いけれどそんな思い察してほしい。しまった今度は阿久悠になっちゃった。とにかく新聞が溜まってたんよ。

001178まね0(新聞が溜まってるを言うだけにこれだけの前振り…)

1-e1397901276348その新聞の山を整理していたら、面白い文章を見つけた。7月31日付け『日経新聞』の「内外時評」。筆者は論説副委員長の大島三緒氏。それほど長くない。都合のいいところだけ引いたのではと言われるのは心外なので、思い切って全文をご紹介しよう。タイトルがいいぜ。

裁判員制度はどこへいく 『不参加8割』の危うい現実

»•l‚̂Ђ܂í‚è 7年前の夏を思い出す。2009年8月3日。その日、東京地裁で全国初の裁判員裁判が始まった。
どこにでもいる普通の人たちがプロの裁判官とともに公判に臨み、人を裁くという重大な権力行使に直接たずさわる。同時に、権力をチェックする役割も果たす。そんな画期的な仕組みが動き出したのが、あの夏であった。

 幕開きの裁判はメディアの注目を浴び、熱気に包まれたものだ。法廷に普段着の男女6人が並ぶ光景は時代の変化を印象づけた。見知らぬ市民が論議を重ね、決断を下し、社会正義の実現に力を貸す。多くの人々が、そこに民主主義の新たな可能性を感じ取ったはずである。

 ところがいま、そうして始まった制度が危機に立たされている。裁判員候補者として呼び出されたのに選任手続きに出席しない人が増え、じつに8割近くが「不参加」という現実があるのだ。

 制度否定派が「ほら見たことか」と持ち出しがちな数字だが、この「不都合な真実」こそ直視すべきだろう。それなくしては、裁判員制度の課題は語れない。

 最高裁が公表しているデータをここですこし詳しく見ておこう。

 裁判員制度が始まってから今年5月末までに、候補者に選ばれた人は累計85万人余。うち7万人近くが裁判員・補充裁判員を務めた。「市民法廷」の広がりがわかる。

 しかし一方で、辞退者が増え続けている。年間13万人前後の候補者のうち、当初53%程度だった辞退率は現在は約85%に上昇した。本来なら辞退は特別の場合にしか認められないが、運用はかなり柔軟だといっていい。

 それでは、辞退しなかった人は必ず裁判所に行くのだろうか。残念ながら、これもそうなってはいない。辞退を申し出る機会は裁判所に行くまでに2回あるが、その手順も踏まずに無断欠席する人が相当数にのぼるのだ。

 今年1~5月の統計を見ると、出頭するはずだった約2万人のうち、35%ほどが裁判所に現れなかった。無断欠席は09年には約16%にとどまっていたから倍増である。

 結局、辞退や無断欠席を合わせると、いまや候補者の76%余が裁判員裁判に参加していない。無断欠席には罰則(10万円以下の過料)もあるが、そんな決まりはどこ吹く風といった雰囲気だ。このままでは、裁判員になる人は社会の特定の層に偏ってしまうかもしれない。

 ならばいっそ、裁判員候補者への締め付けを強めたらどうかという声も出よう。

 辞退の条件を徹底的に厳格化する。無断欠席には法律どおり罰則を適用する。そうすれば、人は裁判所にもっと出向いてくれるに違いない。が、制度をそんな堅苦しいものにしてしまっては本末転倒だ。憲法が禁じた「苦役」にあたるという声だって高まりかねない。ここがこの問題の厄介なところである。

 「だから、残念ながら特効薬はないんです」と最高裁事務総局の平木正洋刑事局長は言う。「まず、地道に制度の意義を説き続けること。それと、不参加の要因をきちんと分析する必要がある。審理期間の長期化がどう影響しているのか。非正規労働者の増加と関係はないか。そのあたりを探らないと」

 いささか迂遠(うえん)な話ではあるが、制度設計にたずさわってきた法曹の悩みはそれぞれに深い。國學院大学教授の四宮啓弁護士が強調するのは、裁判員の守秘義務が制度定着の大きな障害になっているという点だ。

 「現行法では、評議の経過などを語ることは原則禁止で一部の例外が認められているだけ。これを原則自由に転換し、禁止は例外的な事項だけにすべきです」と四宮弁護士は提言する。「守秘義務の重圧のせいで、『やってみてよかった』という声が多い裁判員体験が社会で共有されず、いつまでたっても制度の実像が見えてこない」

 守秘義務の見直しは裁判員制度発足時から指摘され続けているが、手つかずのまま7年がたった。辞退や無断欠席がここまで増えてきた以上、真剣に緩和を考えてはどだろう。この制度を社会の表舞台に引き出す効果は大きいはずである。

 最高裁によれば、辞退や無断欠席が増えても、いまのところ裁判員の職業別属性には偏りはみられないという。しかし、だからといって高をくくっていたら取り返しがつかなくなるかもしれない。

 手を打つなら、いまだ。あの夏の記憶が、あせきらないうちに–。

1-e1397901276348全国紙が裁判員制度の惨憺たる現実をこれだけ正確に書くのは珍しい。正直驚いたね。

hiyoko2-1正確ですか。

1-e1397901276348数字についてはどれも間違いない正確さだ。それにこのままじゃまずいという「危機感」にあふれているところも注目に値する。

001181裁判員制度のことになると、事実なんか棚に上げておべんちゃらを書き連ねるのがメディアの通弊ですものね。制度の破綻がようやくまじめに考えられるようになってきたということでしょうか。

1-e1397901276348裁判員裁判の現場があまりにもひどい状態になったので、見て見ぬふりをしていたら、マスコミも批判されると思うようになったのかも知れないな。「改心」が経済紙で始まったとすれば、何とも皮肉な話だが。

001177先頭で旗を振ってきた『朝日』なんてどうするんでしょうね。

1-e1397901276348A級戦犯の『朝日』だ、誰もついてこなくなっても「国民は裁く」なんて旗を掲げ続けるかも知れない。何十年も経ってから「『朝日』はどこで道を誤ったか」なんてよそ事のような特集組んだりするんだろう。さて、『日経』の文章で気になるところがあれば、話してみないか。

hiyoko2-1ボク、最初のところでちょっと引っかかります。

1-e1397901276348聞こうじゃないか。

hiyoko2-1「重大な権力行使に直接たずさわり、権力をチェックする役割も果たす」とあります。重大な権力行使に直接たずさわるのはそのとおりですが、権力をチェックする役割というのは本当に果たせているんでしょうか。

001181確かに。鮨を食べながらこの店の味はどうとか、この板さんの握りはどうとか評定はできるが、じゃあ板場に上がって、板さんと一緒に魚を捌き鮨を握れるのかということね。

20160517114無理さ。ここにこの制度の根本的なフィクションが潜んでいる。最高裁は「目的は鮨職人の苦労を客に知ってもらうことだ、横にいてくれれば素人感覚が役に立つこともある」と言っただけなのに、メディアや革新政党や日弁連などはこの制度で国民は鮨を本当に握れるという見方をとった。最高裁はこういう連中に対しては「飛んで火に入る夏の虫」と独り言を言ったかも知れん。

001177平木正洋刑事局長は出頭率向上の特効薬はないと言い、地道に制度の意義を説き続け、不参加の要因をきちんと分析し、非正規労働者の増加との関係なども探らないといけないと言ってるそうです。

1-e1397901276348正当な理由のない不出頭者には10万円以下の過料という処罰が科される。厳しい処罰条項が厳に存在する。7年間1人の不正不出頭もなかったとはさすがの平木クンも言うまい。その条項を発動できないところに制度の根本矛盾がある。そのことを横に置いて特効薬があるとかないとか言ってること自体、笑えるくらいおかしい話だ。

001177処罰条項を発動しないし発動できないことが「みんなで無視すれば恐くない」思想を日本中に蔓延させています。強硬策を打たないため安心して多くの人が無視をしていますが、そうされても強硬策を打ったら最後になることがわかっている最高裁としては何の手も打てないってこと。

hiyoko2-1泥棒がやたら増えているのに捕まえず、「泥棒がなくなる特効薬は何か」なんて言ってる警察がいれば確かに笑えます。

001181非正規労働者の増加との関係なども探る必要があると刑事局長は言ってるそうですが。

1-e1397901276348あはは、刑事局長からこの言葉を聞くとはという感じだな。自身の生活が大変になって、他人の犯罪をどうするかなんて考える時間の余裕も心の余裕もなくなっている。不況の荒波に庶民は翻弄されているということが、三宅坂にある奇巌城の奥の奥まで届くようになってきた。刑事局長室の壁には、不出頭の増加率と非正規労働者の増加率の推移表が貼ってあるだろう。その両者の間には高い相関関係があるなんて統計学的分析も始めているに違いない。

hiyoko2-1で、どうすればということになりますか。アベノミクスのウソを暴くのでしょうか。まさかですよね。

1-e1397901276348言うもおろかなり。そんなこと口が裂けても言えん。つまりどうにもこうにも出口のない話になる。局長のこの解説は制度の終焉をよく示す話なのだ。

hiyoko2-1「現行法では、評議の経過などを語ることは原則禁止で一部の例外が認められているだけ。これを原則自由に転換し、禁止は例外的な事項だけにすべきです」と四宮弁護士は提言しているとありますが。

1-e1397901276348この大島クンの文章は残念ながら完全に間違いだな。評議の経過を語ることは「原則禁止で一部解除」ではなく「全面禁止」。評議の経過を語れば解任の理由になるし10万円以下の過料に処す理由にもなる。あまりにイロハの話で、四宮クンが本当にそう言ったとすればこの男は何もわかっていないことになる。実際、何もわかっていないのかも知れんが。

001177制度推進派の四宮弁護士は、守秘義務の緩和を訴えています。

1-e1397901276348あほ言ってはいけない。「守秘義務のおかげでこの制度は7年も続いている」のだ。守秘義務がなくなったり大幅に緩和されたりしていたら、この制度はとっくに絶命している。

hiyoko2-1裁判所が主催する意見交換会などの場でも、「見えないレールが敷かれていた」「場の雰囲気に負けた」「空気を読めと言われた」「辞めたかったが何とかやり遂げた」「2度とやりたくない」「自分は裁判員に裁かれたくない」などの声が出ています。そういう話がはるかにリアルな説明付きで飛び出してくることになるのでは。

001181だいたい、守秘義務解除が本当に特効薬になるのなら、最高裁がとっくに処方しているはずです。その方針をとらないどころか、守秘義務は外せないと一貫して言っているのが最高裁です。本当のことを知られるのは困ると最高裁自身が考えていることがこれでもわかるような気がします。

HP201642221四宮クンがそのことにまったく触れないのは、何にも考えず守秘義務解除、守秘義務解除と念仏よろしく唱えているのか、守秘義務は絶対に緩和されないと見通して「みんな本当にやってよかったと思っている」とほらをつき続けているのかのどちらかだ。

hiyoko2-1また、大島さんは、「このままでは、裁判員になる人は社会の特定の層に偏ってしまうかも」と心配されています。

001177「我と来て 裁けや職の ない大人」ばかりになるとかですか。終わりの方でも、「最高裁によれば、いまのところ職業別属性に偏りはみられないけど、このまま高をくくっていたら取り返しが」というようなことを言われている。

1-e1397901276348確かに、データを見る限り、今のところ職業別属性に偏りはないようだ。しかし、8割5分の人がイヤだと言い、拒否をしている中で、それでも人を裁いてみたいと出ていく1割5分というのは、相当に偏った考えの人たちではないか。

001177某書記官によれば、今、出頭してくるのは、お上の呼出が嬉しい人と、お上の呼出に逆らえない人と、そして日当が目当ての人っていう話でしたね。

hiyoko2-1そんな中で、「この制度が社会の表舞台に引き出される」とどうなるのですかね。

1-e1397901276348制度が「日陰の存在」「裏社会のもの」になっているという評価はおもしろい。それは言い換えれば大きな声で話題にしてはいけないテーマ、タブーということだ。重大な刑事裁判の判決について、その判断は正しいかとか不適切ではないかという議論がこれまでは堂々とできた。それが裁判員の登場で、一転踏み込みにくい世界の話になった。なんてったって重大事件の判決は裁判員のご託宣になってしまったのだ。聞いてもいけない、しゃべってもいけない。それが「日陰の存在」で「裏社会のもの」っていう訳だ。

001177なんとも救いのない話になりました。大島さんには「社会正義の実現に力を貸す。多くの人々が、そこに民主主義の新たな可能性を感じ取ったはずである」という7年前のご自身の見方が正しかったかどうかというところに焦点をあててほしかったですね。

1-e1397901276348そのとおりだ。的確な「読み」をウリにする経済紙の論説責任者らしい好論考だったが、この制度がこれほど国民に嫌がられるのはなぜか、社会の表舞台に引き出されたらこの制度はいったいどうなるのかというところまで掘り下げてほしかった。睛(ひとみ)を書き込めば風雲生じて白竜は天に上っただろうに。ま、大島クンのこれからに期待しよう。

読書うさぎ(はい、ひとみが大きくても空を飛べないインコさん、お疲れ様でした。)

 

投稿:2016年8月14日