~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
友人に誘われ、9月30日に東京の大井町で開かれた講演会に参加しました。
興味深いお話しをお聞きし、後日、私の短い感想をこの欄にお送りしたところ、多くの皆さまにご紹介したいので詳しく報告してもらえないかとスタッフの方からお願いを受けました。私は難しいことはよくわからない、間違ったことを書いたら申し訳ないと申し上げたのですが、どうしてもということで、講演のメモに基づいてなんとかまとめてみました。間違いがあったらどなたか訂正していただけるとありがたいと思っています。
講演のタイトルは「裁判員制度は終わりだ、この力で改憲阻止へ」でした。50人近くの方が参加していたでしょうか。年配の方が多いように思いました。
講師は高山俊吉さんという弁護士さんで、裁判員反対の運動の中心になっている有名な方だとお聞きしました。
司会者はこの方のお話はとてもおもしろいですよというようなことをおっしゃり、期待してうかがいました。確かに重大で深刻なことをこの方は不思議におもしろく説明されました。
(強引なお願いにお応えいただいたことに感謝します。
以下、ところどころに小見出しを入れさせていただきました。インコのマネージャー)
裁判員制度の歴史
はじめに制度の歴史を簡単に話されました。
司法制度改革審議会という組織が平成13年に政府に答申したことで裁判員制度を作る方針が確定し、裁判員法を作成する組織が政府に設けられ、法案づくりが進み平成16年に裁判員法が成立した。実施まで5年間をかけた準備が行われ、平成21年に裁判員制度が実際に実施され、今年までに約9000人の被告人に裁判員裁判が行われている。
裁判員裁判の特徴
裁判員裁判の特徴は、 生命に危害を与えた事件を中心に重大な刑法犯罪に絞って審理をすることになっていて、その数は刑事事件全体の約3%しかない、それこそ悪質の上にも悪質とされる凶悪犯罪の審理について国民を参加させることにしたところに特徴があるのだそうです。
審理は3、4日程度で終える超短期裁判が多く、公判が始まる前に公判前整理手続という準備作業を実施し、裁判の争点とか証拠を調べる方針をそこで確定する作業を裁判官と検察官と弁護人が行うのだそうです。裁判員は参加しないらしく、裁判員裁判というのは公判が始まる前に大勢がが決まってしまうのではないかという印象を受けました。高山さんは、重大裁判は短い期間で裁判が終わり、それほど重大ではない裁判は長い期間をかけて審理するという不合理もこの制度は含んでいると指摘されました。
裁判員制度の目的
裁判員制度の目的は「主権者の司法参加」だなどと格好のいい説明がマスコミなどによって言われているが、本当は、国民に対して権力的な司法教育を施し、国民に秩序維持は大事だと思うように1人ひとりの物の考え方を作り直させることにあり、そしてこれを通して「心の改憲」を実現することにあるのだと高山さんは強調されました。そういえば、赤紙というのが戦前あったなとふと思いました。
主権者は司法に自ら参加しているのではなく理不尽にも司法に動員されている。お上の考え方が結局正しいというような上から目線で物を見たり考えたりする人間を育成することに制度の目的があるのだということを強く訴えられました。
ここがこの日のお話しの中心でした。「心の改憲」というのは、憲法何条を変えるとという論議の前にこの国の秩序を守るのは何をおいても大事だとかこの国を敵から守るのは大事なことだとかいう姿勢や気分を国中に広げることで、憲法を変える時期が来ているという気分をこの国の空気にする動きを指すのだろうと私は思いました。
制度の現状の特徴
しかし、実施7年、裁判員制度はもはや破綻しているというのが高山さんのご指摘です。
具体的に言えば、起訴から判決までの期間が当初の約5か月から約10か月と2倍に延びた。審理期間を短くすることが重要な目的だったのに、裁判官裁判時代より長くなった。公判前整理手続期間が実施当初の約3か月から今や約8か月と3倍近くかかっている。取り調べ証人の数も1.6人から3.0人と2倍近くに増えた。無罪率が裁判官裁判時代の83%に下がった。裁判所への出頭率が約40%から約23%に激減し、無断欠席が約16%から約35%に激増した。
そのようなご説明でした。
制度崩壊の兆候
政府や最高裁が予定した短縮の裁判化が思いどおりに進んでいないどころか、彼らの目で見てもすべての局面で制度は破綻している。国を挙げた大宣伝にもかかわらず、あるいは大宣伝のおかげでといった方がいいのかも知れないがと高山さんは会場を笑わせましたが、政府・最高裁は国民を巻き込むことに失敗し、制度に反発する気持ちを国民に固めさせてしまいました。
裁判員をやりたくないと答える国民が85%を超え、国民に権力的な司法教育を施す狙いも秩序維持の立場に立つ物の考え方を国民に定着させる目的も破産してしまった。今裁判所に出てくる人たちの多くは政府や最高裁から出頭を望まれている人たちではなくなっている。もともとこの国の秩序を守ることは大事なことだと思っているごく少ない人たちしか裁判所に出かけていかない。
最近のマスコミが裁判員制度の破綻状況を無視できなくなっていることは、福岡地裁小倉支部の「裁判員声かけ事件」で一気に強まったようで、全国紙や地方紙が徐々に裁判員制度の破綻を正直に言うようになってきていると高山さんは紙面を紹介しながら説明されました。みんなが裁判員をやりたくない、やらないという空気がこの国に満ち満ちている。この勢いで制度を終焉に追い込みましょうというのが結びの言葉でした。
制度と改憲・戦争の現実的危機
高山さんは、ここで話題をこの国の改憲の情勢から朝鮮半島をめぐる危機のお話しに進められました。
詳しいご紹介の力はありませんが、少しだけご紹介させていただきます。 韓国国防省が7月、中華人民共和国の反対を押し切って高高度迎撃ミサイルTHAAD(サード)を韓国に配備する決定を発表したことは朝鮮半島に戦争の危機が切迫していることを端的に示すものだと説明されました。サードは米陸軍が開発した射程200キロの弾道弾迎撃ミサイルシステム。習近平中国国家主席は、朴槿恵韓国大統領に、「問題の不適切な処理は地域の戦略的な安定の助けにはならず、矛盾を激化させる」と批判したそうです。
在韓米軍は間もなく部隊をソウル南郊に移動し、ソウル中心部の在韓米軍司令部も近く南に移動することにしたそうで、こういう新態勢は韓国では臨戦態勢に備える新戦力配置と受け止められているとも話されました。
実際、8月には米韓合同演習が実施され、米太平洋軍は、米空軍攻撃軍団の地球規模攻撃軍団の基幹戦力である戦略爆撃機B52、B1、B2の3機種をアジア太平洋地域に同時展開し、3機種はグアム・アンダーセン空軍基地から南アジア~北東アジア上空をデモ飛行したそうです。
また8月下旬には、米韓7万5千人が参加して合同軍事演習が実施され、高水準の対テロ演習として金正恩委員長の斬首を含む「作戦計画5015」が実施されました。金正恩斬首作戦とは驚くほかありません。朝鮮人民軍総参謀部はこの演習は「規模・内容・性質において北朝鮮を対象とする全面的な核戦争演習」以外のものではないと断じ、「演習投入全敵に対し決戦態勢をとり核先制攻撃を仕掛ける」と警告した上、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射して日本の「対空識別圏」に落下させ、9月9日には、今年1月以来5回目の核実験を実施しました。
韓国大統領は、金正恩委員長を殺害するKMPR作戦を公表し、これに対し北朝鮮は、「斬首作戦を展開する兆しが見えたら、核弾頭を搭載したノドンの即時発射命令につながる」と声明。韓国大統領は韓国国防省等に「金正恩委員長自らが脅威を感じる新たな軍事対応の検討」を指示し、閣議では「核ミサイルが1発でも発射されれば、北の政権を終わらせる覚悟で報復態勢を維持せよ」と叱咤したと報道されています。
そして10月中旬、黄海で実施する米韓合同海上訓練に米海軍原子力空母「ロナルド・レーガン」と一緒に戦略爆撃機B1を参加させ、北朝鮮指導部施設の精密攻撃訓練を集中的に行う「大規模制裁・報復」作戦が公表され、これはもう実施されました。
安倍首相が、9月26日、臨時国会の所信表明の中で、スタンディングオベイションを議場に求めたことは広く知られましたが、高山さんは、「今この時も緊張感をもってこの国を守っている海保・警察・自衛隊員に敬意を示す拍手を送ろう」と言った首相の言葉は、スタンディングオベイションを求めたこと以上に、戦争前夜の緊張態勢にあることの自覚を国民に求めたことに注目しなければならないと強調されました。
裁判員制度の危機と改憲・戦争の危機
高山さんは、裁判員制度に反対する力と戦争を止める力はその根のところがつながるひとつの戦いだとおっしゃいました。
この間の戦争法の成立と施行はこの国が朝鮮半島に戦争を仕掛けて出て行く前触れと見なければならず、その貫徹には改憲がやはり欠かせないと彼らは考えている。そしてそのためには裁判員制度の定着が必須の前提だったのに、そのもくろみは打ち破られた。彼らの戦略が一角から崩れつつある。そのことに確信をもって戦争勢力の息の根を止める行動に立ち上がろうとまとめられました。
いつか来た道、戦争再来の危機の時。私たちが肝に銘じなければならないことをこの日の高山さんのお話で確信しました。
11月18日には日比谷公園から最高裁に向けて裁判員制度反対の街頭行動が予定されているそうです。自ら身体を動かして裁判員制度に反対する世論と反戦の国民行動を結びつけ、改憲阻止の大きな流れを作っていきたいと思いました。
以上
投稿:2016年10月17日