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明けまして中ぐらいおめでとうございます~無罪確定を論ず

1-e1397901276348めでたさも中ぐらいなりだが、一応申し上げよう、明けましておめでとうございます。603908

001178まね0また、ひねくれ新年ご挨拶ですか。

1-e1397901276348インコの立場からすると、裁判員制度が廃止されない限り、めでたさは中ぐらいなのです。

hiyokowarai1先輩はお酒が飲めればいつでもおめでたいのと違いますか。

001178まね0混ぜっかえさないことよ。だいたいインコさんは、この2日間飲みっぱなしで3日に新年のご挨拶なんだから。

1-e1397901276348静かにしなさい。年の初めのためしとて、今日は菊地直子さんのことを論じようぞ。

001177最高裁第1小法廷(池上政幸裁判長、大谷直人、小池裕、木澤克之、山口厚各裁判官)の昨年12月25日付け決定で無罪が確定した元オウム信者の菊地直子ですね。17年間の逃亡生活の後に捕まった例の事件…。

20160517114「裁判員裁判の有罪判決がひっくり返った事件」と言ってほしい。それに人の名前を呼び捨てにするのはやめなさい。新聞もテレビも何に気兼ねしてかルールを無視して依然敬称付けを避けているが、無罪が確定した人に失礼ではないか。

001176そうですね、失礼しました。

1-e13979012763482人で事件と裁判の経過を簡単にまとめてくれるかな。

001177はい、では私から。1995年5月、地下鉄サリン事件の2カ月ほど後です。教団が都知事宛に送った郵便物が爆発し、都の職員が重傷を負いました。そして菊地さんは、殺人に使うと知りながら爆薬原料の薬品を山梨県内の教団施設から都内のアジトまで運んだとして殺人未遂ほう助などの罪名で起訴されたのでした。

hiyokosyoumen1地さんは長い逃亡生活の末、2012年6月に逮捕されましたが、始まった裁判員裁判では「運んだものが人の殺傷に使う薬品だとは知らなかった」と無罪を主張しました。しかし一審の裁判員裁判は「菊池さんは教団の幹部たちが薬品を使って人を殺傷することがあり得ると認識していた」として、14年6月、懲役5年の有罪判決を言い渡しましたね。約2ヶ月の審理。裁判長は杉山愼治氏、陪席の裁判官は江美健一氏と戸塚絢子氏です。

001177も、2審東京高裁は、15年11月、「被告人は教団の意思決定を知る立場になかった」として無罪を言い渡し、菊地さんは直ちに釈放されました。裁判長は大島隆明裁判官。

hiyokosyoumen1検察は上告したのですが、今回の上告棄却の決定で2審判決が是認されました。最高裁は「被告人の認識内容は教団幹部らが薬品を使って何らかの活動をするという程度のもので、殺人未遂ほう助の認識があったという1審の判断には論理の飛躍があって合理性がない」などとしました。裁判官5人全員一致の裁判です。

HP201642221いやいやご苦労さん。説明も簡単ではなかったね。裁判員裁判の有罪判断が高裁でも最高裁でも全面的に否定されたということだ。裁判員の有罪と裁判官の無罪。どこで判断が分かれたのか、もう少し踏み込んで考えてみようか。

hiyoko2-11審裁判員裁判は「劇物などと書かれた薬品を運んでいて薬品で危険な化合物を作ることが容易に想像できた」「被告人は教団が人の殺傷を含む活動をしようとしていると認識していた」としています。だから殺人未遂のほう助が成立すると。

001177一方、2審は「薬品が取扱注意の劇毒物だとしても直ちに毒ガスや爆発物を製造することを思い起こすことは困難」「1審が薬品の危険性の意味を明らかにしないまま被告人にテロの未必的認識があったとまで認定したのは問題」「被告人にはどのような殺害行為に出るのかほとんど想起できなかっただろう」「それで殺害行為をほう助する意思があったと結論づけるにはより説得的な論拠が必要」と、1審判決を全面的に切り崩しました。

hiyoko2-12審は、1審判決が拠り所にした井上嘉浩死刑囚の証言を分析し、井上証言は「不自然に詳細で具体的」だと断じましたね。「詳細で具体的」であることは一般的には信用性を高める要素でしょうが、高裁は、井上証言は「不自然に詳細で具体的」だと言いました。さて、どうであれば自然で、どうであると不自然になるのか、その判断の線引きはとても難しいように思います。

001177裁は、長期間の逃亡の事実をもって殺人未遂ほう助の意思を認定することについても否定しましたね。

HP201642221裁判員制度の導入に先立って「事実認定は素人にもできる、簡単なものだ」と言い切ったのはほかならぬ最高裁長官だった。素人には判断が困難なことがあるなどとは一言も言わなかった。

hiyoko2-1「騙される検事」は伊藤榮樹検事総長ですが、「騙す最高裁長官」は誰ですか。

20160517114町田顕(あきら)という人さ。2005年5月の憲法記念日記者会見の場で、「検察官の主張する事実を認めるに足りる証拠があるのかを常識に照らして判断するということ。そんなに過大なことを求められている訳ではない」と言っていた。15年には亡くなったがね。

001177インコさん、その人はホントに亡くなったんですか。

1-e1397901276348ホントに死んでる。今日は4月1日ではない。

001177井上死刑囚は何事についても饒舌で、裁判所におもねるような供述をやたらくり返しした人だったのでは。

1-e1397901276348裁判官たちはプロとしてたいていそういうことを知っている。他方裁判員たちの多くは知らないだろう。裁判官たちがどのように裁判員たちをリードしたかも問われるところだ。

hiyoko2-1それにしても1審の裁判官や裁判員たちが、末端のメンバーに過ぎない菊地さんなのに「劇物運びは危険な化合物の製造のためと想像できた」とか「教団が人の殺傷をもくろんでいることを認識していた」などと断定できたのはどうしてなんでしょうか。

001178まね0それは何と言っても17年間に及ぶ「写真入り手配書」の効果でしょう。「菊地直子は殺人未遂のほう助犯人」という手配ビラは日本中の警察、交番、駐在所、市区町村役場に何万枚も貼られました。犯人じゃなければおかしい、いや確実に犯人だ、誰しもそう考えるようになっていったと思います。

hiyoko2-1でもそんな感覚で行われる裁判は理屈抜きのでたらめ裁判ではないでしょうか。裁判の体をなしていないとボクは思います。

001178まね0マスコミにも責任があるでしょう。長年のお尋ね者がやっと捕まった。さぁ、「走る爆弾娘」をおもしろおかしいニュースねたにしようっていう気分だったのでは。

hiyoko2-1確かに。高裁無罪判決の時のマスコミの対応には、そんな気分に冷や水がぶっかけられたような戸惑いが窺われました。

1-e1397901276348最高裁は「被告人が認識したのは井上死刑囚たちが何らかの危険な化合物を製造し、何らかの活動をする意図にとどまる」「いずれも曖昧な内容であり、これで人の殺傷結果を想起できると推認するのは困難」「また、人の殺傷可能性を想起できるだけでは殺人の認識にもならない」と断じた。それは当たり前過ぎるほど当たり前の判断だった。

001181高裁と最高裁が菊地さんの無罪を明確にしたことで辛くも「破滅司法の惨」をさらさずに終われたけれど、裁判員裁判のでたらめはこれ以上ないほど明確になったということでしょうか。

1-e1397901276348まさしくそんなところだ。

hiyokosyoumen1最高裁決定時の報道ぶりも結構異様でしたよ。マスコミの中には、再逆転してあらためて1審判決が支持されるんじゃないかと見ていた人たちも多かったのではないでしょうか。

001181「オウム事件 残る無念」「被害者は風化を懸念」「年月が立証阻んだ」「関係者複雑な思い」…。新聞の見出しを見ると明らかにそんな感じがします。

hiyoko2-1その一方、捜査当局の判断ミスを論じる報道も、裁判員裁判の問題性に触れた報道もほとんどなかったのではないでしょうか。

001178まね0時の経過が真相究明を困難にしたというような論調がやたら多かったように思います。

20160517114それは、菊地さんがもっと早く逮捕されていれば有罪になったはずだとか、菊地さんは立証不能になるまで逃げ通したというように言っているのに近くはないか。

001178まね0そんな気がします。

HP201642221インコは、菊地さんの1審裁判ほど裁判員裁判の危うさを示した裁判はないように思う。こういうことになるから裁判員裁判はやってはいけないし、廃止しなければいけないのだ。

001178まね0裁判員裁判が高裁や最高裁でひっくり返ると、「無力感」に襲われたというような裁判員たちの感想がよく紙面に登場します。裁判員裁判の裁判長は、3審制という裁判構造や高裁や最高裁での破棄の可能性について裁判員に説明しないのでしょうか。

1-e1397901276348裁判員のやる気をかき立て、判決まで彼らをハイな状態に置き続ける必要があるから、気分を減退させるような話はしないし、できないだろう。結果、彼らは後になって幻滅し、2度と裁判員をやりたくないと思うようになる。

001178まね0それも不幸な話ですね。いくら物好き・説教家・日当稼ぎでもそれなりの負担感はあるでしょう。それを補う高揚感で均衡をとっているのでしょうから、自分の「努力」が無駄だったとなると、何をしていたんだと思うかも知れません。

hiyokowarai1今どき裁判員をやってみたいと思う人たちは、自身の判断が否定されることについて人並み以上に反発するヘンなプライドの持ち主かも知れません。実際、菊地さんの事件の審理に参加した裁判員(30代男性)は「明らかな証拠がない中で一生懸命考えた有罪判決。自分たちの判決には今も自信がある」と豪語していました。

001178まね0「明らかな証拠がない中で有罪判決を出した」と自負する神経には恐ろしいものを感じます。

20160517114それもそうだが、無理筋承知で起訴した捜査当局の責任がなんと言っても重大だ。重大犯人として手配し続けたものの、実際には菊地さんの刑事責任は問えそうにないというのが捜査側の常識になっていた事件だ。警察や検察などが誰々が犯人だと言えば、市民の中にはそうなのかと思う人が当然出てくる。当局の判断が間違っていたとなれば、当然その誤判断を謝罪し、責任をとらなければいけない。

001177これは裁判員裁判が言い渡した有罪判決が高裁で逆転無罪になった7件目の事件だそうですね。

hiyokosyoumen1今回のことで警察や検察は被害者にどう謝るのでしょうか。

HP201642221 曖昧にごまかすだけだろう。これで警察や検察はまた国民の信頼を失う。

hiyokoyoko1納得いきませんね。

20160517114裁判員のことには直接結びつかないかも知れないが一言言いたい。17年も逃げ回るのは犯人に違いないという思い込みから卒業する必要があるな。人は自分が犯人と誤解されていると思うだけで長く逃げ続けようとすることがある。そういう話はドラマの中だけではないということだ。

hiyokowarai1ボクは今回のことで今年もまた一段と賢くなれそうです。そのことに気づかせて貰っただけでも新年を寿ぐ意味があります。そうだ、今年は「レ・ミゼラブル」を読もうっと。

001177屠蘇がまだ残っています。遅ればせながらそれではみんなで新年の乾杯といきますか。

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投稿:2018年1月3日