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拝啓  オオタニ新最高裁長官 殿

裁判員制度はいらないインコ花1

このたびは、テラダ最高裁長官の後任として新しい最高裁長官になられたそうで、まことにおめでたいと言ったらいいか何と言ったらいいか、インコとしてはホント五言絶句です。ほら裁判員制度に深く関わったタケサキ長官は病気で途中退官したでしょ、テラダ長官は退官の記者会見もせず、すたこら最高裁の用務員口から消えました。オオタニさんはどうなるのかなぁと。それでも就任の言祝ぎですし、とりあえずインコも毒舌を控えようと、かわいく花を持ってみました。

yjimageL14MIT7Iオオタニさんは2002年から05年まで最高裁事務総局で広報課長をされ、07年までは刑事局長、12年からは事務総長と、そういう訳だ。つまり典型的なエリートコース。そして同時に、裁判員制度とこの15年間悪戦苦闘の日々を送り続けてきた方。その感慨を忖度し、心底同情してます。
投げ出したくても投げ出せない、愚痴弱音はあの要塞建物脇の土手の穴ぼこに叫び続けたことでしょう。s_0_vc8_img-01_vc8_img-01_0_vc8_img-01

02年と言えば、司法制度改革審議会が裁判員制度を政府に答申した翌年です。政府には司法制度改革推進本部ができた。裁判員制度の法律を作らねばならんという大騒ぎの中であなたは広報課長になった。裁判員法の国会成立の時もあなたはずっとその位置にいた。

広報課長なんて普通ならちっとも忙しくないポストだけれど、この時は違いましたね。わが国司法史上最激の逆風に抗して、何が何でも制度の宣伝をしてしてしまくらなければいけなかった。だからオレ国民の司法参加なんて反対だったんだ、って正直思ったでしょ。

今、思い起こしても息が詰まります。テレビや週刊誌を先頭に、「とんでもないこと」って調子で多くのメディアが冷たい態度をとった。

推進本部のパブリックコメント(03年)には制度批判の声が洪水のように押し寄せました。『読売』の世論調査(04年)では「参加したくない」が69%、「適切な判断をする自信がない」が71%。この時期のマスコミ各社の調査結果は似たような数字が並びました。

05年の内閣府調査は極めつき。「参加したい」は僅か4%、「参加したくない」が70%。最高裁は目の色を変えました。このままでは制度の発足はとてもおぼつかない、広告に金を使えばメディアも寄ってこようってことになった。広告ほどメディアにとって弱いところはありません。

ところが裁判所ほど広告に縁のない役所はこれもありません。裁判所のパソコンでコウコクって打てば、出てくるのは「公告」や「抗告」ですもんね。待ってましたとあなたたちの素人判断に電通などが飛びついた。それこそハイエナのように。でも言っときますが、同じ素人でもあなたたちとインコたちは違います。インコたちは詳しいことを知らないために自分が損をするけれど、詳しいことを知らないあなたたちは媒体に食い物にされても自分の損はありません。いい気な人たちっていう訳よ。

あなたが広報課長から刑事局長に昇進した05年は、制度起死回生のZ旗が上がった時でした。最高裁は制度のシンボルマークを発表。でもこれもまともに取り上げてくれるメディアはほとんどなかった。シンボルマークというのは、みんなが話題にしたり使ってくれたりして初めてホントにシンボルになる。注目されなけりゃおしまい。インコが聞いたのは「これは国民を縛る手錠か」というトホホな感想。1s_0_vc7_imgtext2-1_vc7_imgtext202

発表から13年目の今、このマークを見せて何のことか分かるかと聞いたら、100人のうち99人は分からないと答えるでしょうね。無限大をイメージしたって言うんですが、何が無限大なんですかね、オオタニさん。

そうそう、05年10月には女優の長谷川京子さんも登場しました。当時の芸能ニュースはこんな紹介をしてましたよ。

 「09年までに実施される裁判員制度を広く知ってもらうため、最高裁判所は女優の長谷川京子(27)を起用した広告を新聞などで展開していくことを発表した。制度に関しては、国の世論調査で国民の7割が『参加したくない』と回答しており、最高裁では『国民の間で幅広く親しまれている長谷川さんにご協力していただくことで、より多くの皆さんが制度に関心を持っていただくことを期待しています』と説明。今月中旬から来年3月までの間に、長谷川が出演した広告が新聞のほか雑誌、インターネットで掲載される。最高裁によると、裁判員制度の広報活動でタレントを起用したPRは今回が初めてという」b250cfd7

こんな報道もありました。

「『裁判は、あなたに語りはじめます』。10月17日の全国紙の朝刊に、長谷川京子さんが遠くを見つめるカラーの全面広告が掲載された。最高裁事務総局には『ハセキョー』の名を知らない幹部もいたが、担当者は『国民の間では広く親しまれているはず』。最高裁は来年3月にかけて、約6億円をかけて新聞のほか約20の経済誌、インターネットなどに、長谷川さんを起用した広告を展開する。内山理名さんが登場する小冊子も制作中だ。最高裁の大谷直人刑事局長と対談し、裁判員制度の仕組みや疑問を解き明かしていく内容で、30万部刷る。こちらの費用は約970万円。こうした広報戦略には、内部から『上滑りだ』『人気頼みでいいのか』などの批判もある。だが導入まで4年を切っており、最高裁事務総局の戸倉三郎審議官は『まずは国民に振り向いてもらわないと』と話す。」

オオタニさんは内山理名さんと対談され、裁判員制度の仕組みや疑問を解き明かし、よくわかっていただけたんですかね。それにしてもこの年だけで広報予算は13億円でした。このコスパを今どう評価していますか。国民に広く親しまれている女優さんたちにあやかろうとしたけれど、この制度は国民にとことん疎まれる制度に落ち込んでいきましたね。そして「上滑り批判」を排してこの方針を決裁したのはあなたでした。

今から思えば「遠くを見つめて」というよりは、「遠い目をしている」って感じですね。もうすでに制度の先行きは暗示されていたのかとインコも遠い目(  ̄◇ ̄)

オオタニさんは無類の読書好きだそうですが、裁判員制度に反対するたくさんの書籍をお読みになられたと想像します。反対する本の方が圧倒的に多く、圧倒的に売れていました。あなたとしても感じるところが本当は多くあったことでしょう。

また、思い出してしまいました。あなたの刑事局長時代には裁判員制度をめぐる不祥事が続出したのでした。制度の広報業務をめぐって、05年と06年の2年間に最高裁が電通に発注した「裁判員制度全国フォーラム」企画(最高裁主催)で、ウソの契約日付を記載し、印刷会社発注パンフの作成でも契約日を偽るなど、16件計約22億円の契約で不適切な経理処理をしていたことがバレました。あなたは自身への波及をおそれてか、さっさと人事局長に横滑り転進しましたね。その「裁判員制度全国フォーラム」、07年には、共催の産経新聞や千葉日報が「サクラ」を動員していたことが明らかになりました。「うそつきは最高裁の始まり」という言葉が広がったのはあなたが刑事局長の時からです。

政府の「国民対話」でも、参加者が多いように見せかける「やらせ」や「仕込み」の偽装が多数行われていたことが後に発覚しましたが、最高裁が電通に委託して実施した「司法制度改革タウンミーティング」でも、電通が人材派遣会社を通じてサクラ要員を募集し、計6回の「やらせ」が行われていました。思い出すのもうとましいご経験でしょう。どうにもこうにも嫌われっぱなしの制度、藁をもすがりたい最高裁はプロの広告業者の餌食にされ、国民の血税をだだ漏れさせたのでした。うまくいかないものはどこまで行ってもケチがつくものですね。yjimage

05年秋の長谷川京子に続いて仲間由紀恵が「ともに」と手を差し出した全面広告が各紙に登場したのは06年秋でした。この時期に彼女は携帯電話会社のCMに出ていたので、多くの市民が裁判員制度のこととは思わなかったらしい。ここでも血税は無駄に流されただけだったようです。

まぁ、あなたの事務総局時代というのは悪評のくそ貯めの中で裁判員制度がもがいていた時でした。あなたはその醜状を終始見続けていた生き証人というわけだ。

 制度が始まって9年目に入る今年です。1923年に始まった戦前の陪審制も発足当初から悪評さくさくで、その生命は事実上3年で絶たれた。とりわけ被告人から拒絶されたことが致命傷になりました。

その教訓に学び、裁判員制度は被告人の拒絶を認めず、裁判員も就任拒絶を原則禁止としました。かくして「強制の仕組み」として登場したこの裁判制度は、内実はどうあれ存在だけはし続けることになった。根腐れしても立ち枯れしても存在はし続けている不思議な制度です。でもオオタニさん、そういう仕組みは国民に散散の悪印象を残します。そう、司法不信という印象です。

あなたは、就任に際し「国民の皆さんにトラディション(伝統)だと言ってもらえるような制度s_0_vc8_img-01_vc8_img-01_0_vc8_img-01にしたい」とおっしゃったそうですね。でもこの制度、定着もしないでどうして伝統になり得るでしょう。「むかしむかし最高裁は国民動員を目論んで裁判員制度を始めました。しかし、良識ある国民からそっぽを向かれ、制度はついに頓挫したそうな」。そんな昔話にはなるかもしれませんが。

 ところで、新聞評によれば、前任のテラダさんは「的確なコントロールで変化球を投げるタイプ」で、あなたは「ストレートの豪速球を投げるタイプ」だとか。そういえば、テラダさんは「出前講座」だの「顔写真入り裁判員候補者への呼びかけ」などの変化技の持ち主でした。でも結果は、的確なコントロールどころか相手にもされないフォアボールに終わりました。オオタニさんはどんな速球を投げるのですか。不出頭者に対する処罰強化ですかね。しかし、その球は、裁判員経験者による急性ストレス障害訴訟で「ボーク」です。あなたに残された球種はたった1つ。そうです、「裁判員制度廃止」という直球。それはあなたを間違いなく「歴史の人」とするでしょう。

ではではオオタニさん、定年まで後4年半、病気にならずに良い日々をお過ごし下さいますよう。

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投稿:2018年1月21日