~裁判員制度はいらないインコは裁判員制度の廃止を求めます~
いささか旧聞に属しますが、11月24日、日韓(韓日)弁護士協議会主催のシンポジウムが「刑事司法への国民参加」をテーマに、沖縄・恩納村で開かれました。
韓国では2008年から「国民参与制」という国民参加裁判が実施されています。バネリストの韓国の弁護士は、「世論に左右されないことがこの制度の成否を決める鍵になる」などと指摘し、「証拠調べは着実に行われるようになったが、評決に拘束力を認めなければ結局は職業裁判の隠れ蓑になるだけだ」とも話しました、また日本の弁護士は、「裁判員制度下、反省の態度や示談成立を言っても耳を傾けてくれないケースが増えている」などと指摘したとのこと(『琉球新報』11月25日)。
うーん。どうもようわからん。日本と韓国の国民参加裁判を比較して何を明らかにしようというのだ。世論に左右されてはいかんとか、好ましくない裁判が増えているとか言い合っていることからすると、新しい制度には問題が多いとおっしゃっているようにも思える。それにしては微温的というか、奥歯に物が挟まっているというか…。
ここで、インコの脳みそは鋭く活性化したよ。とは言ってもいつもは眠っているような頭なので、ようやく目が覚めたってとこかなぁ…。韓国の国民参与制は日本の裁判員制度施行の1年4か月前に実施された。インコの頭の片隅に、「隣の国でも市民参加が始まった。次は日本だ」と、わが新制度の宣伝材料の1つに使われたような記憶が残っている。覚えている方もいらっしゃるでしょ(いないか)。
でも、どうやら韓国の参与裁判にも問題がたくさんあるようですねぇ。インコ、韓国在住の知人じゃなかった知鳥の鸚鵡に連絡を取って話を聞いてみた。以下は、そのお話の一部です。この際、ソン スンホンとかイ ミンホとかそれにチャン グンソクもいいと思うけど、韓流新型裁判の近況もちょっと勉強しましたよ。万国の鳥に国境はなくていつでも団結できるとは言え、この世界にも多少はなまりがあるのよ。韓国系鳥語と日本系鳥語のちゃんぽん会話で、意思疎通は少し鳥肉買った、なんちゃってね。不正確なところがあればそのせいです。許して下さい。
国民参与制(参与員制)を簡単に説明すると…。
07年6月公布で08年1月施行。参与員はその地方法院(地方裁判所)の管轄区域に住む20歳以上の大韓民国国民の中から無作為に選ばれる。裁判所が決めた期日に正当な事由なく出席しないと過料が科せられる。呼び出された参与員候補者には約5000円、参与員には約1万円の日当が出る。ここまでは日本とほとんど同じ。当初は殺人や強盗強姦など重大犯罪だけが対象だったけれど、12年7月から全刑事事件が対象になった。
参与員の人数は、法定刑が死刑や無期懲役・禁錮にあたる事件の場合は9人、それ以外は7人、被告人側が公訴事実を認めていたら5人。5人以内の予備参与員を置くことが認められている。公訴事実を被告人が認めているかどうかで数が変わる方式は日本にはない。
参与員の評決が多数決によるのは日本と同じだが、違うのは有罪と無罪の評決数が公表されること。そして、参与員の判断は裁判所に対する勧告の効力しか持たないこと。ただし、裁判所が評決の内容と違う判決をする場合には、参与員の評決結果を被告人に知らせ、参与員の評決によらない理由を言わなければいけない。参与員の判断を尊重するが、あくまでも裁判は裁判官の権限で行うという原則はまげないという訳。
日本との大きな違いは、被告人には参与員裁判を受けるか受けないかの選択権があること。なお、被告人が参与員裁判を選んでも、被害者が拒否した性犯罪事件や参与員の生命・身体に危害の可能性がある事件は参与員裁判にならない。また、「参与員裁判で行うのが適切ではないと認められる場合」には、裁判所が職権で参与員裁判を拒否(排除)できる。適切・不適切の基準をはっきりさせていないこともあって、実際にはこれが非常に多く使われている。参与員裁判を避ける通常裁判ルートが幅広く作られているのですね。
結局どうなっているかというと…。
参与制裁判は今やほとんど行われていない。08年から11年までの4年間で参与員裁判を受けた被告人は合計僅か574人。日本の裁判員裁判では、対象事件が全件の3%という重大事犯に限ったのに、実施事件の数は09年に始まってもう6000件を超えている。韓国では全刑事事件を対象に広げた昨年でも、1万8600件の事件総数の中で参与員裁判の申し出があったのはたった490件余。しかもその半数近くがその後に申し出の撤回や裁判所の排除決定のために通常裁判に移ってしまい、参与員裁判が実際に開かれたのは250件余、全体の1.3%。今や消え入りそうな気配。
日本の戦前の陪審制も、被告人がその方式をとるかとらないかを決めることができたため、ほとんどの被告人が陪審制を選択しなくなり、数年で事実上消滅してしまった。ナチスではないけれど「その経験に学んだ」日本の政府・最高裁は、裁判員制度の制定にあたって、絶対に選択制を取り入れないことにした。ここは日韓(韓日)の国民参加の差を考える大事なポイント。
韓国が参与員の評決に法的拘束力を与えていないのは、韓国憲法が「すべての国民は憲法と法律が定めた法官によって法律による裁判を受ける権利を持つ」と定めている(第27条1項)からだ。参与員の判断に拘束力を持たせれば、裁判官の権利を侵害するだけでなく、国民の裁判を受ける権利をも侵害してしまい、どう見ても違憲の可能性が高い。この判断はとても健全。なぜかというと、日本の憲法にもほぼ同じ趣旨のことが書かれているのに、この国の最高裁や法務省は、理屈をねじ曲げて裁判員制度は合憲だと強弁しているから。竹崎博允クン、谷垣禎一クン、素直に韓国最高裁長官のお縄を受けなさい。
性犯罪への国民参加は、被害者の保護と被告人の防御権保護をめぐって韓国でも問題になっている。性犯罪の被告人が参与員裁判での審理を望んだ場合、被害者との利害調整をどうしたらよいのか。日本では公開裁判を認めるかどうかということが重視されるが、韓国には、話を聞いてもらえる参与員裁判の方が被告人の権利保障になるという見方がある。
部下に対する強姦致傷の容疑で起訴された被告人が防御権を保障してほしいと参与裁判を望んだ事件(2012年12月)では、検察は、被害者は事件後急性ストレス障害を患っていて、参与員の前で証言させられないとして、裁判所権限で排除してほしいと要請、結局、裁判所は参与裁判にしないことを決定した。実際、08年から11年の性犯罪の参与員裁判排除率は24.9%と全事件平均の18.4%より明らかに高い。
女性団体関係者は、「一般国民の多くは被害者が性犯罪を誘発したという偏見を持っていて、強く否認する被告人に同調する。これまで反性暴力運動を通じ法曹界の通念を変える努力をしてきたのに、参与裁判は事態を逆行させた」と批判し、一方裁判所内部には性犯罪も参与員裁判で裁くべきだという主張が強いらしい。
「感性裁判」「世論裁判」の批判は韓国でもつきまとうが、全事件を対象にしたことでその問題に一気に火がついた。とりわけ地方では、「理屈はそうでも私たちの村の人間でないのでかばいにくいとか、理屈に合わないが村人は厳しく咎められない」というような意見が出やすいという。
昨年の大統領選挙で朴槿恵候補を誹謗中傷したとされた対立候補文在寅氏の選挙参謀に対する全州と釜山の参与員裁判を見る。文在寅氏の支持率が86%と圧倒的でだった全州の地方裁判所で10月に開かれた参与裁判では、参与員7人が全員一致で無罪判決を出し、裁判長は評決と見解が違うと表明して判決の言い渡しを延期した。同じような事件で釜山地方裁判所の参与員は全員一致で有罪を答申している。
結果、地域の政治傾向によって有罪無罪が分かれる「感性裁判」との批判が巻き起こったという。参与裁判は純粋な刑事事件だけにせよとの世論が強くなった。最高検察庁の関係者は、株価操作や企業犯罪などいわゆるホワイトカラー犯罪も難しいとし、参与員に問題を理解させる判事や検事の負担が過重になっているとも指摘している。
インコの感想を少し
この参与制の背景を探ると裁判を受ける国民の権利という考え方にたどり着く。1980年代の韓国には民主化を求める熾烈な運動があった。この制度にはその実りという側面がきっとあるだろう。それはさらにルーツをたどれば米国の陪審制にたどり着く思想だ。米国や韓国の被告人に陪審(参与員)裁判を受けるか受けないかを決める権利(選択権)があるのは陪審制が被告人のための制度であるという理屈から導かれる反面の結論だ(権利は捨てられるが義務は捨てられない)。「裁判員制度は被告人のための制度ではない」と言う日本の裁判員制度とはそこが根本的に違う。
米国のように陪審制が憲法で認められている国でない限り、国民参加は憲法で根拠づけることはできないという姿勢が韓国にはある。必然的に参与員の答申は参考意見としか言えないことになる。この点でも憲法に忠実な態度をとろうとする国か、憲法をないがしろにしたがる国かの違いが出てくると思う。
大事なのは、その韓国でも国民参加の裁判が進展しないこと。国民が司法に参加する目的は何かということを明確にさせ、その思想が国民に強く支持されない限り、結局消極的な反応が出てきてしまう。支配者英国からの独立のためだとはっきりさせた米国のように立場を明確にしない限り、国民参加という究極の政治手段にはどうしても無理がある。最初に紹介した日韓(韓日)弁護士協議会のパネリストたちの発言も、制度のたそがれを描写し合うものという意味ではなるほどと思わせるものがある。
制度のたそがれとともに、2013年も終わろうとしています。
来年もインコへのご支援よろしく! 来年こそは制度廃止を!!
投稿:2013年12月30日