トピックス

トップ > トピックス > 『陪審手引』で見る裁判員制度(2)

『陪審手引』で見る裁判員制度(2)

突っ込みどころ満載~権威主義と民主主義のごった煮

インコが手に入れた大日本陪審協会が1931年(昭和6年)8月に発行した『陪審手引』という小冊子。これを見れば、現在の裁判員制度がどのような精神に基づいて作られたかよくわかります。
今回は目次 9陪審対象事件 10辞退と自白 11資格条件 12候補者 13無資格者 14除外者 15除斥者 16辞退できる人 17陪審の手続き をお送りします。陪審手引事件1

9 陪審対象事件
陪審事件には、法定陪審事件と請求陪審事件がある。法定陪審事件は殺人とか放火など、死刑とか無期懲役、無期禁錮などに処せられることのある事件陪審手引事件2
 
これらの事件なら被告人が辞退しない限り原則当然陪審裁判になる。
請求陪審事件は被告人が陪審裁判を請求した場合で、窃盗、詐欺、横領、文書偽造行使など、刑期が3年を超える懲役や禁錮に処せられることのある事件。例をあげる。
刑法第225条 営利、猥褻または結婚の目的をもって人を略取または誘拐した者は1年以上10年以下の懲役。3年より重い懲役に処せられることがある事件だから、当然請求陪審事件になる。
刑法第205条 身体傷害により人を死に致した者は2年以上の有期懲役。有期懲役の最長期は15年なので『2年以上15年以下の懲役』にあたり、これも請求陪審事件。陪審手引事件ならない1
刑法第246条 人を欺瞞して財物を騙取した者は10年以下の懲役。懲役刑の最短期は1か月だから『1か月以上10年以下の懲役』になり、これも請求陪審事件。
請求するのは第1回公判期日まで。第1回公判日の前でも呼び出しを受けた日から10日間を過ぎると陪審の請求は許されなくなる。陪審手引事件ならない2
陪審裁判にかけるのが不適当な事件は、①皇室、皇族に対する危害罪。②内乱、外患、国交に関する罪、騒擾罪。③陸海軍刑法その他軍規に関する罪。④選挙法違反事件。⑤国体の変革、私有財産否認に関する罪。

10  辞退と自白
被告人が陪審裁判を望まなければ、法廷陪審事件でも普通の裁判になる。これを陪審の辞退という。辞退は口頭でも書面でもよい。ただし公判廷で検事が公訴事実を陳述するまでにしなければならない。
請求陪審事件は、被告人の請求で陪審裁判になるが、請求は取り下げてもよい。取り下げは辞退の場合と同様。
被告人が公判準備手続き中か公判の際に犯罪事実を認め自白した場合は、普通の公判で刑を決める。ここでいう自白は、警察や検事の前の自白や予審廷における自白ではない。たとえ検事廷や予審廷で自白していても、公判準備手続き中や公判の場で自白を否認したり翻したりすればやはり陪審裁判にかけられる。また複数の被告人のうちの一部が自白している場合は、自白していない被告人だけが陪審裁判になる

11  資格条件陪審手引き資格
陪審員は次の4要件を備えていなければならない。①日本臣民で年齢30歳以上の男子であること。②引き続き2年以上同一市町村内に居住していること。③引き続き2年以上直接国税3円以上を納めていること。④読み書きができること
① 司法権の運用参加は日本臣民のみの特権。外国人には絶対に許されない。30歳以上としたのは世の中の様々な事柄について相当の経験と一通りの知識を要するから。女子を除いたのは国の現状から女子を陪審員に加えるのはまだ適当でないため。
② 定まった住居もなく各地を渡り歩くような者は陪審員として不都合なため。
③ 少なくとも直接国税3円くらいは納められる財産を持っていたり納税できたりする人でないと大切な職務を行うのには不都合。
④ 法廷で証拠書類を見たり字を書いたりすることがあるから。読み書きの程度は日常生活の用が足りる小学校卒業程度でよい。
陪審資格者は、毎年9月1日現在で、市町村長が名簿を作成する。この名簿を「陪審員資格者名簿」といい、氏名、身分、職業、居住地、生年月日、納税額を載せる。陪審員資格者は全国で170~180万人である。

 12  候補者
地裁所長は毎年、必要な陪審員の数をあらかじめ定め、管内の市町村に案分して割り当てて市町村長に通知する。
市町村長は、陪審員資格者3人以上の立ち会いのもとでくじ引きを行い、くじに当たった人を陪審員候補者として名簿に載せる。この名簿を「陪審員候補者名簿」という。陪審員資格者名簿と同じ事項を記載する。本年度(昭和6年度)の陪審員候補者数は全国で7万8,222人である。多数の資格者の中から陪審員候補者として当選するのは非常に光栄で名誉なことである。

13  無資格者
陪審員になる条件があっても、 ①禁治産者、準禁治産者、②破産者で復権を得ていない者、③聾者、唖者、盲者、④懲役に処せられた者、⑤6年以上の禁錮または旧刑法の重罪の刑もしくは重禁錮刑に処せられた者は陪審員になれない。
いずれもそれぞれ欠けたところがあることから、貴重な裁判手続きに参加し正義公平を旨とすべき陪審員とするには不適当とされる。陪審手引除外者

14  除外者
陪審員となる資格があっても種々の理由から陪審員の職務に就かせない人々である。
①国務大臣、②在職の判事、検事、陸軍法務官、海軍法務官、③在職の行政裁判所長官、行政裁判所評定官、④在職の宮内官吏、⑤現役の陸軍軍人、海軍軍人、⑥在職の庁府県長官(知事)、島司、庁支庁長、⑦在職の警察官吏、⑧在職の刑務官吏、⑨在職の裁判所書記長、裁判所書記、⑩在職の収税官吏、税関官吏、専売官吏、⑪郵便、電信、電話、鉄道及び軌道の現業に従事する者並びに船員、⑫市町村長、⑬弁護士、税理士、⑭公証人、執達吏、代書人、⑮在職の小学校教員、⑯神官、神職、僧侶、諸宗教師、⑰医師、歯科医師、薬剤師、⑱学生、生徒陪審手引除外者2
重い国務に携わっていたり、民衆の利益に密接な関係の職務に就いていたり、裁判所に出頭することは公益上よくないので、陪審員の職務を執らせない

15  除斥者
陪審員となる資格はあるが、特別の事情のため陪審員としての職務から除かれる次の人びとを言う。
①被害者、②私訴の当事者、③被告人、被害者もしくは私訴当事者の親族、④被告人、被害者または私訴当事者の属する家の戸主または家族、⑤被告人、被害者または私訴当事者の法定代理人、後見監督人または補佐人、⑥被告人、被害者または私訴当事者の同居人または雇い人、⑦事件の告発者、⑧事件の保証人または鑑定人、⑨事件の被告人の代理人、弁護人、補佐人または私訴当事者の代理人、⑩事件の判事、検事、司法警察官または陪審員。
陪審の評議に際し公平無私な態度をとることが困難と思われるので、除くことにした。

16  辞退できる人
職務の関係上または心身の状態から陪審員の職務を辞退できる次の人びとである。
 ①60歳以上の者、②在職の官吏、公吏、教員、③貴族院議員、衆議院議員及び法令を持って組織された議会の議員、但し会期中に限る
60歳以上とあるのは、年齢の関係上、中には心身老衰者があるためである。官吏、公吏は陪審員除外者としての官吏、公吏以外の人、教員は官立、公立、私立の各中学校以上の教員その他各種学校の全部。法令を持って組織された議会の議員というのは、府、県、市、町、村会等の議員をいう。議会開会中に限られる。書面や口頭で、裁判所へ申し出ればよい。届け出をせずに呼び出しに応じないと処罰を受ける。

17  陪審員の構成手続き
陪審員の選定
陪審員は1事件について12人。事件の内容が複雑で公判が2日も3日もかかる見込みのときは、ほかに1人~数人の補充陪審員を選定する。12人の正陪審員中で公判中に発病したとかやむを得ない理由で中途で退く場合の予備員である
補充陪審員は正陪審員と同列で参加するが、欠員が生じない限り評議に参加できない
陪審員と補充陪審員は、事件の公判日が決まると地裁所長は1名~数名の裁判所書記の立ち会いのもと、甲の町から何人、乙の村から何人、丙の市から何人というように抽選で36人を選定し、公判の5日以上前に呼出状を発送する。
36人も呼び出すのは、病気の者、辞退する者、除斥される者などが予想されるためである。出頭人数が24人に達しかなかったときは、裁判長は裁判所所在地付近の市町村に居住する陪審候補者の中から必要な人数を抽選で適宜に呼び出す。
陪審員候補者が揃うと、公判廷で非公開で判事、検事、裁判所書記、被告人、弁護人が列席し、裁判長から陪審員候補者の住所、職業、氏名、年齢を記載した書類を検事と被告人に渡して、除斥する者の有無を尋ねる。出頭した陪審員候補者が有資格者か否かを調べるためである。この時、陪審員候補者は自分が参加する裁判の被告人の名前と事件を知る。除斥者、除外者、無資格者などは直ちに退廷してもらう。
忌避とは
次に、検事と被告人が陪審員候補者に対して忌避の手続きを行う。忌避とは、この人は公平な判断を下さないと検事や被告人が思う時に排除すること。例えば検事は、この候補者は被告人と近所同士で平素懇意にしているとか、被告人から特別の恩顧を受けたことがあるから被告人に有利に判断するだろうと考えられるとか。一方被告人は、この候補者は自分の商売敵であるとか、平素から不仲なので自分に対し不利益の判断を下すと考えられる場合など。忌避の理由は述べなくてよい。
忌避というと感じが悪く、誤解されたことがある。東京地裁の陪審裁判で、ある陪審候補者が呼び出しを受け、一家の名誉光栄と喜び勇んで出頭した。ところが法廷で裁判長が自分の名前を読み上げると、検事がヂロリ自分の顔を見て『忌避』と言うと、裁判長から退廷を命じられた。「自分に何の不都合があって排斥するのか、自分は一度も曲がったことをした覚えがない。理由も聞かされず排斥されてどの面(つら)下げて村に戻れるか」と裁判所に食ってかかった。忌避は少しも恥じではないので誤解のないようにしてほしい。
構成手続き
有資格者が決定すると、裁判長はその姓名を厚紙に書き、小さな抽選箱に入れて振り動かす。そして検事と被告人に、11人とか12人忌避できると告げる。検事側と被告人側は、告げられた人数の半数ずつを忌避できる。11人とか13人とか奇数の場合は被告人の方が1名余分に忌避できる。細かい点にまで気を配って被告人を少しでも有利にしてやるように作られている。
裁判長は、抽選箱から陪審員候補者の氏名票を一枚ずつ抽き出して名前を読み上げ、まず検事側が、その陪審員の承認ないし忌避を申し立てる。『忌避』と言われればその候補者は退廷する。続いて被告人側が忌避とか承認とかを述べる。被告人側が忌避すればその人は退廷し、承認すればその人は初めて正陪審員となって法廷に残る。
この手続きを繰り返し、12人の正陪審員と1~2名の補充陪審員を加えた人数だけが法廷に残り、この抽選の順序で陪審員席に着席する。呼び出した陪審員候補者の点呼からこれまでの手続きを陪審員の構成手続きという。

=インコ一言=
30歳以上の日本男子で2年以上直接国税を3円以上納めていて小学校卒業程度の読み書きができる人だから「非常に光栄で名誉なこと」なんですね。そして国の現状から女性が陪審員になるのは適当ではないと…。今は20歳以上で選挙人名簿に名前が載っていて中学校卒業程度の読み書きができることですから「単にくじ引きで選ばれただけだから勘違いするな」なんですけど。平均寿命が延びたから60歳以上から70歳以上に辞退できる年齢も上がりました
  陪審にするに不適当な事件が、皇室、皇族に対する危害罪だったり、内乱、外患、国交に関する罪や陸海軍刑法その他軍規に関する罪や選挙法違反事件や国体の変革、私有財産否認に関する罪というのは、国家の基盤に関わる問題には国民は関与させないってこと。万一、国民の意思がこれらを否定するものだと明らかになったら国体に傷がつくってことなんでしょうね。
  
除外される職業は今より多いなと思ったけど、感心したのは、貴族院議員、衆議院議員なども「除外者」ではなく「会期中に限り辞退できる」だけってこと(それとも議員なんて重い国務でもなければ民衆の利益に密接な関係もなかったってことかな?)。 ところで裁判員法は、国会議員を除外しています。法律を制定した議員が自分たちはこんな大変な制度はやりたくないってことで除外したのか、裁判員に選出された議員が不満に思って制度廃止を言い出さないように法務省や最高裁が除外したのかはインコ知りませんけど。
27日はいよいよ陪審員の選出と裁判です。でも当日に選任して当日に裁判終了って、ちゃんと審理できていたのでしょうか?
陪審手引協会

投稿:2014年4月25日